相続税更正処分取消等請求事件

 

 

 

 東京地方裁判所判決/平成25年(行ウ)第186号 、判決 平成27年7月30日 、について検討します。

 

 

 

 

【判示事項】

 

 

 

 相続財産である株式の評価は,原告ら主張の類似業種比準価額によるものではなく,財産評価基本通達に基づき,1株当たりの純資産価額方式によって評価すべきであるとした事例 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主   文

 

  1 原告らの請求をいずれも棄却する。

  2 訴訟費用は原告らの負担とする。

 

        

 

 

 

 

事実及び理由

 

 

 

 

 

第1 請求 

  1 処分行政庁が原告X1に対して平成23年12月26日付けでした,被相続人Eの平成20年12月18日相続開始に係る相続税の更正処分(ただし,平成24年10月9日付けの審査裁決により一部取り消された後のもの)のうち,課税価格12億1980万5000円,納付すべき税額5億7605万8600円を超える部分を取り消す。

  2 処分行政庁が原告X1に対して平成23年4月18日付けでした過少申告加算税賦課決定処分(ただし平成24年10月9日付けの審査裁決により一部取り消された後のもの)を取り消す。

  3 処分行政庁が原告X2に対して平成23年12月26日付けでした,被相続人Eの平成20年12月18日相続開始に係る相続税の更正処分(ただし,平成24年10月9日付けの審査裁決により一部取り消された後のもの)のうち,課税価格12億1980万5000円,納付すべき税額5億7605万8600円を超える部分を取り消す。

  4 処分行政庁が原告X2に対して平成23年4月18日付けでした過少申告加算税賦課決定処分(ただし平成24年10月9日付けの審査裁決により一部取り消された後のもの)を取り消す。

  5 処分行政庁が原告X3に対して平成23年12月26日付けでした,被相続人Eの平成20年12月18日相続開始に係る相続税の更正処分(ただし,平成24年10月9日付けの審査裁決により一部取り消された後のもの)のうち,課税価格12億1980万5000円,納付すべき税額5億7605万8500円を超える部分を取り消す。

  6 処分行政庁が原告X3に対して平成23年4月18日付けでした過少申告加算税賦課決定処分(ただし,平成24年10月9日付けの審査裁決により一部取り消された後のもの)を取り消す。

  7 処分行政庁が原告X4に対して平成23年12月26日付けでした,被相続人Eの平成20年12月18日相続開始に係る相続税の更正処分(ただし,平成24年10月9日付けの審査裁決により一部取り消された後のもの)のうち,課税価格12億1981万円,納付すべき税額5億7606万0900円を超える部分を取り消す。

  8 処分行政庁が原告X4に対して平成23年4月18日付けでした過少申告加算税賦課決定処分(ただし平成24年10月9日付けの審査裁決により一部取り消された後のもの)を取り消す。

 

 

 

 

 

 

 

第2 事案の概要

 

    本件は,平成20年12月18日に死亡したE(以下「亡E」という。)を相続(以下「本件相続」という。)した原告らが,相続財産である株式会社F(以下「本件会社」という。)の株式(以下「本件株式」という。)を類似業種比準価額によって評価して,相続税の申告及びその後の修正申告をしたところ,芝税務署長から,本件株式は,財産評価基本通達(昭和39年4月25日付け直資56・直審(資)17による国税庁長官通達。ただし,平成21年5月13日付け課評2-6による改正前のもの。以下「評価通達」という。)に基づき,1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額。以下同じ。)によって評価すべきであり,上記相続税の修正申告は本件株式の価額を過少に評価しているとして,それぞれ,平成23年4月18日付け更正処分(以下「第一次各更正処分」という。)及び過少申告加算税賦課決定処分(以下「第一次各賦課決定処分」という。)を受け,さらに,同年12月26日付け増額再更正処分(以下「第二次各更正処分」という。)及び過少申告加算税賦課決定処分(以下「第二次各賦課決定処分」という。)を受けたことから,第二次各更正処分のうち申告額を超える部分及び第一次各賦課決定処分(ただし,いずれも平成24年10月9日付け審査裁決により一部取り消された後のもの。以下,併せて「本件各処分」という。)の取消しを求める事案である。なお,亡Eの相続財産の価額については,本件株式を除き,当事者間に争いがない。また,第二次各賦課決定処分については,上記審査裁決によって既に取り消されている。

 

 

  

1 関係法令等の定め  (筆者略)

 

 

 

   

(1) 当事者等

 

    ア G(以下「G」という。)は亡Eの妻であり,原告ら(以下,原告X1を「原告X1」,原告X2を「原告X2」,原告X4を「原告X4」,原告X3を「原告X3」という。)は亡Eの子らである。

    イ 本件会社は,不動産の賃貸借及び管理業務等を目的とする株式会社(昭和31年設立)であり,平成19年4月1日から平成20年3月31日までの事業年度における取引金額は23億2661万1463円で,評価通達178の定める「大会社」に区分される会社であった。

      本件相続の開始当時,本件会社の発行済株式総数は2万1800株であり,本件会社の株式は,上場株式及び気配相場等のある株式ではなく,評価通達168が定める「取引相場のない株式」であった。

   

 

(2) 相続及び遺産分割協議の成立

 

    ア 亡Eは平成20年12月18日に死亡し,G及び原告らが亡Eを相続(本件相続)した。

    イ 亡Eの相続財産及びその評価額は,別表4から8記載のとおりである(別表4記載の各土地は,共有持分の持分割合に応じた面積のみを記載した土地を含む(以下同じ。)。また,別表6(順号1)記載の本件株式の評価額については,当事者間に争いがある。)。

    ウ G及び原告らは,平成22年1月26日,亡Eの相続財産のうち,本件株式(2万1400株)については,Gが1万0700株,原告らが各2675株ずつを取得することなどを内容とする遺産分割協議を成立させた。

   

 

(3) 本件会社の資産等

 

    ア 本件会社は,本件相続の開始当時,別表10記載の各資産を有していた(その評価額については,「土地」,「借地権」及び「3年以内に取得した借地権」に係る評価額を除き,当事者間に争いがない。)。

    イ 本件会社は,本件相続の開始当時,別表11-1(順号1~13,15~33,36,37,39~47)記載の各土地(共有持分の持分割合に応じた面積のみを記載した土地を含む。以下同じ。)を所有していた(以下,同別表順号1ないし40記載の土地等については,同別表中の「本訴における略称」欄のとおり呼称する。)。

    ウ 本件会社は,本件相続の開始当時,別表11-1(順号14,34,35,38,48)記載の各借地権(貸家建付借地権を含む。)及び別表11-2記載の借地権及び貸家建付借地権を有していた。このうち,別表11-1(順号14)記載の本件甲借地権及び同別表(順号38)記載の本件乙借地権は,本件会社が本件相続開始前3年以内に取得した借地権である。

    エ 亡E及び本件会社は,亡Eが所有する別表11-2記載の各土地について,亡Eを賃貸人,本件会社を賃借人として,将来無償で土地を返還する旨の約定により賃貸借契約を締結し,所轄の税務署長に対し,法人税基本通達(昭和44年5月1日付け直審(法)25国税庁長官通達。ただし,平成20年12月26日付け課法2-14ほかによる改正前のもの。以下同じ。)13-1-7に定める届出に係る届出書(以下「無償返還届出書」という。)を提出した(以下,上記各土地を「本件無償返還予定地」という。)。

   

 

(4) 更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分等の経緯

 

    ア 原告らは,本件株式を類似業種比準方式によって評価して,別表AからDまで(以下,併せて「別表A等」という。)の各順号1及び2記載のとおり,芝税務署長に対し,平成22年2月1日,本件相続に係る相続税について申告をし,同年12月27日,修正申告をした(乙1)。

    イ 芝税務署長は,平成23年1月28日,原告らに対し,別表A等の各順号3記載のとおり,過少申告加算税賦課決定処分をした。

    ウ 芝税務署長は,平成23年4月18日,原告らに対し,本件会社は評価通達189(3)が定める「土地保有特定会社」に該当するから,本件株式は純資産価額方式によって評価すべきものであるなどとして,別表A等の各順号4記載のとおり,第一次各更正処分及び第一次各賦課決定処分(以下,併せて「第一次各更正処分等」という。)をした。

    エ 原告らは,平成23年6月17日,芝税務署長に対し,別表A等の各順号5記載のとおり,第一次各更正処分等を不服として異議申立てをした。

    オ 芝税務署長は,平成23年9月16日,原告らの異議申立てをいずれも棄却する旨の決定をした(甲1)。

    カ 原告らは,平成23年10月14日,国税不服審判所長に対し,別表A等の各順号7記載のとおり,第一次各更正処分等を不服として審査請求をした。

    キ 芝税務署長は,平成23年12月26日,原告らに対し,別表A等の各順号8記載のとおり,第二次各更正処分及び第二次各賦課決定処分(以下,併せて「第二次各更正処分等」という。)をした。

    ク 原告らは,平成24年2月3日,芝税務署長に対し,別表A等の各順号9記載のとおり,第二次各更正処分等を不服として異議申立てをした。なお,芝税務署長が,平成24年2月9日,原告らの異議申立書を国税不服審判所長に送付したことにより,第二次各更正処分等については審査請求がされたものとみなされた(国税通則法90条)。

    ケ 国税不服審判所長は,平成24年10月9日,原告らに対し,別表A等の各順号10記載のとおり,第二次各賦課決定処分の全部を取り消すとともに,第二次各更正処分及び第一次各賦課決定処分の一部を取り消す旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をした(甲2)。

   

 

(5) 本件訴えの提起

     原告らは,平成25年4月10日,第二次各更正処分のうち申告額を超える部分及び第一次各賦課決定処分(ただし,いずれも本件裁決により一部取り消された後のもの)の取消しを求めて,本件訴えを提起した(顕著な事実)。

  

 

3 被告の主張する本件各処分の根拠及び適法性

    本件各処分の根拠及び適法性に関する被告の主張は,別紙2のとおりである。なお,後記4の争点以外の点や,争点に関する被告の主張が認められた場合の税額算定過程等については,当事者間に争いがない。

  

 

4 争点

    亡Eの相続財産の評価額は,本件株式の評価額を除き,当事者間に争いがない(原告らは,訴状において,本件相続により相続した土地の一部の価額についても争う旨主張していたが,後にこの主張は撤回した。)。被告は,本件株式について,評価通達189(3),189-4及び185(以下「評価通達189(3)等」という。)にしたがって評価すべきであり,本件会社は土地保有特定会社に該当するから,純資産価額方式によって評価すべきである旨主張する。他方,原告らは,評価通達189(3)等は違法・無効な通達であり,仮にそうでないとしても,本件会社の土地保有割合は70%未満であり,本件会社は土地保有特定会社に該当しないから,本件株式の評価は類似業種比準方式によるべきである旨主張する。

 

    そのため,本件の争点は次のとおりである。

 

   

(1) 評価通達189(3)等の合理性の有無等

   

(2) 本件会社が土地保有特定会社に該当するか否か

  

(3) 本件株式についてとるべき評価方法及び一株当たりの評価額

  

 

 

5 争点に対する当事者の主張の要旨

 

   

(1) 争点(1)(評価通達189(3)等の合理性の有無等)について

 

  (原告らの主張の要旨)

 

    

ア 評価通達189(3)等は,法律の根拠を欠く無効な通達であり,それ自体としても合理性を失っていること

 

    

(ア) 昭和60年以降,いわゆるバブル経済の影響で地価が異常に高騰している一方で,相続時に取得した財産の価額については,評価通達に基づき,土地等が取引価格(実勢価格)の50%ないし60%で評価され,建物等も取得価額の20%ないし30%程度で評価されるという状態であった。そのため,相続直前に借入金又は手持ちの現金で土地等や建物等を取得することにより,相続税における課税価格を意図的に低額にする租税回避事例(行きすぎた相続税の節税策)が出現した。そこで,当時の取引価格と評価通達による土地の評価額の開差を利用した節税行為を規制するため,租税特別措置法69条の4(平成8年法律第17号による改正前のもの。以下「旧措置法69条の4」という。)が定められた。同条は,個人が相続若しくは遺贈により取得した財産又は個人が贈与により取得した財産で相続税法19条の規定の適用を受けるもののうちに,当該相続又は同条の相続の相続開始前3年以内にこれらの相続又は遺贈に係る被相続人が取得又は新築(以下「取得等」という。)をした土地等又は建物等がある場合には,当該個人が取得等をした当該土地等又は建物等については,同法11条の2に規定する相続税の課税価格に算入すべき価額又は同法19条の規定により当該相続税の課税価格に加算される贈与により取得した財産の価額は,同法22条の規定にかかわらず,当該土地等又は建物等に係る取得価額として政令で定めるものの金額とする旨規定しており(1項),要するに「被相続人が相続開始前3年以内に取得した土地等又は建物等についての評価は,通常の評価によらず,取得価額で評価する。」旨を定めたものである。

 

 

       他方,評価通達189(3)等は,平成2年8月に発遣されたものであるところ,旧措置法69条の4と同様,取引価格と評価通達による土地等又は建物等の評価額の開差を利用した節税行為を規制するという趣旨,目的の下に発遣されたものである。この点については,税制調査会も,平成2年10月30日付け「土地税制のあり方についての基本答申」において,「会社がそのオーナーの相続開始前に借入金で土地を取得し,その会社の株式評価額を大幅に圧縮したり,株式保有特定会社を利用し,その評価額を大幅に圧縮する等のいわゆる株式評価を利用した行き過ぎた相続税の節税対策が行われ,課税の公平の観点から問題があった。これについては,本年8月3日相続税財産評価に関する基本通達の一部改正を行うことにより,その是正を図るための評価の適正化が図られ,本年9月1日以後に相続,遺贈又は贈与により取得した財産の評価について適用されているところである。」と報告している。

 

 

 

       そして,評価通達185括弧書きが,「課税時期前3年以内に取得」した「土地等」及び「建物等」については,「当該土地等又は当該家屋等に係る帳簿価額が課税時期における通常の取引価額に相当すると認められる場合には,当該帳簿価額に相当する金額によって評価することができるものとする。」として,相続税法22条の例外を定め,旧措置法69条の4と同様の文言を使っていることに照らすと,評価通達185括弧書きと旧措置法69条の4は,非平常時の制定法及び通達として強い牽連関係を有しているといえる。

 

 

 

       したがって,評価通達189(3)等が旧措置法69条の4に従属する下位規範として発遣された通達であることは明らかである。

 

 

 

     

(イ) もっとも,バブル経済崩壊後,地価は急落し,特に平成3年以降は下落の一途をたどり,旧措置法69条の4については,相続時の実勢価格よりも過大に評価されて相続税が課税されるいわば「財産権の侵奪」が生じ,バブル経済を前提にした土地税制(非平常時における税制)に批判が続出するようになった。そして,大阪地方裁判所が平成7年10月17日に言い渡した判決は,旧措置法69条の4をバブル崩壊後においても適用し続けることは「憲法違反(財産権の侵害)の疑いが極めて強い」との司法判断を下した。これらを受けて,直ちに立法措置が講じられ,平成8年の税制改正において,旧措置法69条の4が廃止されたのである。

       にもかかわらず,同じ趣旨,目的により地価高騰の非平常時(異常事態)における課税のために設けられた評価通達189(3)等のみが残っている。バブル経済が崩壊して久しく,節税の動機ともなり得る急激な地価の異常高騰も起こらない平常時,とりわけサブプライムショックやリーマンショックによって地価が下落しているような本件相続時においては,もはや評価通達189(3)等の発遣時に問題視されたような過度な節税行為を行うような社会状況にはなく,あえてこのような行為を規制する理由はなくなっている。

 

 

 

     

(ウ) 以上のとおり,評価通達189(3)等は,バブル経済の時期に導入された旧措置法69条の4の規定の施行のために発遣されたものであるところ,同規定が違憲の疑いがあるとして廃止されたことに伴い,その根拠法をなくしたにもかかわらず,その後も残っているものであるから,法律の根拠を欠く無効な通達であり,かかる無効な通達によって本件株式を評価することは租税法律主義に違反するというべきである。

 

 

       また,仮に,旧措置法69条の4が評価通達189(3)等の根拠法でないとしても,評価通達189(3)等は,旧措置法69条の4と同じ趣旨,目的により発遣されたものであるから,それ自体,違憲の疑いが強いものであり,合理性を失っているというべきである。

 

   

 

 

イ 評価通達189(3)等は相続税法22条に違反していること

 

     相続税法22条が取得した財産の価額は「当該財産の取得の時(相続等の時点)における時価」と定めているにもかかわらず,評価通達185括弧書きは「当該帳簿価額に相当する金額によって評価することができる」として勝手に評価の時点及びその価額を変更している。

 

      また,評価通達185括弧書きは,「当該土地等又は当該家屋等に係る帳簿価額が課税時期における通常の取引価額に相当すると認められる場合」に「当該帳簿価額に相当する金額によって評価することができる」と定めているが,「課税時期における通常の取引価額」が判明しているのであれば,わざわざ「帳簿価額」を持ち出す必要はなく,日常言語的な論理の破綻である。そうすると,評価通達185括弧書きが「帳簿価額」の使用を認めていることの意義は,「課税時期における通常の取引価額」が判明していない場合でも,「帳簿価額」によって評価できるとする点にある。これは,詭弁を弄して,相続税法22条の定める「当該財産の取得の時(相続等の時点)における時価」を超える課税価格を認める余地を開くものである。

 

      したがって,このような評価通達185括弧書きを含む評価通達189(3)等を用いて財産の評価を行うことは,相続税法22条に違反するものというべきである。

 

    

 

ウ 本件株式の評価は類似業種比準方式によるべきであること

    

(ア) 評価通達189(3)等は,「土地保有特定会社」とされた株式会社の株式につき,純資産価額方式のみによって評価するという取扱いを行っているが,拠出資本としての本件会社の株式は,営利を目的とした継続的な投資であるから,以下に述べるとおり,当該株式の営利性を加味した類似業種比準方式によるべきである。

     

(イ) 昭和53年から昭和55年頃にかけて,相続税制が事業承継を阻害しているという問題が取り上げられ,事業承継税制の導入の必要性が議論された。すなわち,戦後の復興期を終えて経済が発展し,高度成長期に入って地価が上昇する一方,相続税課税においては,特に小会社の取引相場のない株式について,企業の精算価値・資産の処分価値しか念頭にない純資産価額方式による評価が強制されていたことから,相続税負担の増大に繋がり,納税のために事業用財産の一部を処分せざるを得ない事態や,廃業を余儀なくされる事態が生じていた。そこで,昭和55年から政府,与党及び国会等において長期間にわたる議論がされた末,昭和58年に税制改正が行われ,同年4月8日付けの評価通達の一部改正(昭和58年改正)により,事業承継税制の導入が実現し,小会社の株式についても,それまで純資産価額方式だけで評価されていたものが,併用方式による評価も認められこととなり,また,類似業種比準方式も合理的な方法に改善された。取引相場のない株式については,その後もこの事業承継税制を導入した昭和58年改正の内容を基礎とし,この理念を発展する方向で評価通達の改正が行われ,今日に至っている。

 

 

       しかるに,評価通達189(3)等は,審議を経ることなく国税庁長官の発遣する一片の通達ごときによって事業承継税制を変更し,土地保有特定会社について,企業の収益性を加味した評価方式である類似業種比準方式を排除し,純資産価額方式による評価を強制するものであり,事業承継税制の理念に逆行し,租税法律主義を軽視する極めて異質なものというべきである。

 

 

     

 

(ウ) 本件会社は,昭和31年4月23日に始まり,設立以来脈々とビルの賃貸及び管理を行い,本件相続の開始当時,テナントビル8棟及びマンション4棟を有し,従業員も多数おり,堅実に事業運営を行い,売上げも計上していた実体のある事業会社である。そのため,単なる「土地の固まり」,「土地そのもの」とみなされ,清算価値を前提とする純資産価額方式によって株式を評価されることは会社の実態にそぐわないというべきである。また,本件会社は,多数の土地及び建物を保有しているが,そのほとんどが昭和30年代から昭和50年代に取得したものであり,バブル経済とは無関係である上,亡Eが本件会社に対する土地取引を利用して節税を図った事実は一切ない。さらに,本件会社の代表取締役であった亡Eは,本件相続の開始当時,会長職に退いており,原告X1が代表取締役を,原告X2が専務取締役を,原告X4及び原告X3が取締役を務めていたのであるから,本件会社の株式は,まさに事業承継税制がその適用対象として念頭に置いていた株式の典型例であるといえる。

      

 

 したがって,本件会社の株式については,事業承継税制の趣旨に従い,類似業種比準方式によって評価されるべきである。

    

 

 

エ 評価通達189(3)等の形式的な基準に合理性はないこと

 

     評価通達189(3)等は,大会社について土地保有割合が70%以上である場合に,その株式を純資産価額方式によって評価する旨定めているが,このような形式的な基準によって評価方式及び課税価格が大きく変動する可能性がある通達の定めは,かえって租税負担の公平を害するものであり,合理性を有するものではない。

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 

(被告の主張の要旨)

 

 

    

 

ア 評価通達189(3)等は,相続税法22条に関する通達であり,合理性も認められること

    

 

(ア) 旧措置法69条の4の規定は,相続税の課税価格に算入すべき土地等又は建物等の価額について規定したものであり,その内容も,相続税法22条に規定する時価によらず,取得価額によるとする旨を規定したものである。他方,評価通達189(3)等は,相続税法22条に規定する時価は相続開始時における当該財産の客観的交換価値であるところ,この客観的交換価値は必ずしも一義的に確定されるものではないことから,同条に規定する時価を算出するための評価方式を定めたものである。このように,旧措置法69条の4の規定と評価通達189(3)等とは,その趣旨,目的を異にするものである。

 

       また,評価通達185括弧書きの記載からも明らかなとおり,当該括弧書きには,旧措置法69条の4に規定されているように,相続税の課税価格に算入すべき土地等又は建物等の価額について,相続税法22条に規定する時価によらず,取得価額によるものとする旨は定められていないのであり,評価通達185括弧書きの記載と旧措置法69条の4の規定振りは明らかに異なっている。

 

       したがって,旧措置法69条の4が評価通達189(3)等の根拠法であるとはいえない。

     

 

(イ) 評価通達は,評価会社の事業規模に応じて,異なる評価方式を採用しているところ,そのうち類似業種比準方式は,評価通達179の表に掲げる大会社,すなわち,上場会社に匹敵するような事業規模の評価会社の株式について適用される方式である。

 

       しかしながら,上場会社に匹敵するような事業規模の会社の中には,上場会社に比べて,会社の総資産のうちに占める各資産の保有状況が株式や土地などの特定の資産に偏った会社や,開業後間もなく経営状況や財務指標がいまだ安定的ではない会社が見受けられる。このような会社の株式の価額は,その保有する株式や土地等の価値に依存する割合が高いものと考えられ,かかる特定の会社の株式については,一般の評価会社に適用される類似業種比準方式により適正な株価の算定を行うことは期し難いため,類似業種比準方式による評価額と適正な時価との間に開差を生じさせることになり,この開差を利用した租税回避行為の原因になっていた。また,ある種の財産(例えば土地,株式)については,その財産についての評価額と実際の取引価額との間に開差を生じさせることにより,同開差を利用した租税回避行為の原因にもなっていた。そこで,課税の公平の観点から,そのような開差を是正するとともに,より株式取引の実態に適合するように評価の一層の適正化を図る目的で,評価会社の資産の保有状況,営業の状態等が一般の会社と異なる「特定の評価会社の株式」について,特別な評価方法により評価することとし,評価通達の一部改正(平成2年改正)が行われた。

 

 

     

 

(ウ) そして,平成2年改正により,「特定の評価会社の株式」のうち土地保有特定会社の株式については,純資産価額方式により評価する旨定められたところ(評価通達189-4),土地保有特定会社の株式について評価通達が当該方式を採用した趣旨は,土地保有特定会社の保有する資産の大部分が土地であることから,当該会社の資産性に着目し,その保有する土地等の価値を株価に反映させることにある。すなわち,会社の総資産のうちに占める各資産の保有状況が,類似業種比準方式における標本会社である上場会社に比べて著しく土地等に偏った会社(土地保有特定会社)の株式については,一般の評価会社に適用される類似業種比準方式(標本会社である上場会社に匹敵するような会社の株式について適用される評価方法)を適用すべき前提条件を欠き,同方式によっては適正な評価を期し難いことから,当該会社の資産価値をより良く反映させて適正な評価を行うために,純資産価額方式により評価することとされたものである。したがって,評価通達189(3)等は,租税回避行為を防止することのみを目的として定められたものではない。

 

 

       このように,評価通達は,評価会社の規模,性格,株主の実態等に応じて別の評価方法を定めており,評価会社の個別事情もその評価額に反映し得る合理的なものであるということができ,また,保有する資産の大部分が土地である会社を土地保有特定会社として純資産価額方式により評価することも,相続税法22条の定める時価を求めるための合理的な評価方法であるといえる。

    

 

 

 

イ 評価通達189(3)等は相続税法22条に違反しないこと

 

     評価通達185括弧書きは,評価会社が課税時期前3年以内に取得した土地等及び家屋等に係る帳簿価額が課税時期における通常の取引価額に相当すると認められる場合に限って,当該帳簿価額に相当する金額によって評価することができる旨定めているのであるから,その文言そのものからも,帳簿価額が課税時期における通常の取引価額(時価)を超えている場合にまで,帳簿価額に相当する金額によって評価することを定めたものではないことは明らかである。

 

      この点,財産の「時価」(通常の取引価額)は,通常,一義的に定まるものではなく,評価の主体,目的等により種々異なり得る一定の幅がある概念であるところ,評価通達185括弧書き後段は,財産の取得時期が課税時期に近接する場合や取引の態様(利害関係のない第三者間における取引と認められる場合)等の諸事情を踏まえて,「帳簿価額」が「時価」(通常の取引価額)と認められる一定の幅の内の金額であると判断される場合については,課税実務上の簡便性に配慮し,あえて「通常の取引価額」の具体的金額を算定することまではせず,「帳簿価額」が「通常の取引価額」に相当するとして「帳簿価額」により簡便に評価することができることとしたものと解される。これは,評価会社が土地等及び家屋等を課税時期の直前に取得(新築)したなど,帳簿価額によって容易に通常の取引価額(時価)を把握できる場合もあることから,実務上の簡便性に配慮し,かかる評価方法が定められたものである。

 

      以上のとおり,評価会社が課税時期前3年以内に取得した土地等及び家屋等の価額は,常に課税時期における通常の取引価額(時価)に相当する金額によって評価されるから,当該評価会社の株式の評価額が相続税法22条所定の課税時期における時価を超えることはない。

 

      したがって,評価通達189(3)等は,相続税法22条に違反しない。

    

 

 

ウ 本件株式の評価が類似業種比準方式によるべきであるとはいえないこと

    

(ア) 相続税法22条に定める時価の算出に当たっては,課税実務上,評価通達に定められた画一的な評価方式によって相続財産を評価することとされている。仮に,相続財産の客観的な交換価格を個別に評価する方法をとると,その評価方式,基礎資料の選択の仕方等により異なった評価額が生じることを避け難く,また,課税庁の事務負担が重くなり,課税事務の迅速な処理が困難となるおそれがあること等から,評価通達にあらかじめ定められた評価方式によりこれを画一的に評価する方が,納税者間の公平,納税者の便宜及び徴税費用の節減という見地から見て合理的なものであるといえる。

 

       したがって,本件株式についても,評価通達189(3)等に従い,純資産価額方式によって評価すべきであり,類似業種比準方式によって評価すべきであるとはいえない。

 

     

 

(イ) 原告らが主張する昭和58年改正の理念がいかなるものであるか,必ずしも明確ではないが,上記アで述べたとおり,評価通達189(3)等が定められたのは,株式取引の実態に適合するように評価の一層の適正化を図る目的で行われた平成2年改正において,会社の総資産のうちに占める各資産の保有状況が,類似業種比準方式における標本会社である上場会社に比べて著しく土地等に偏った土地保有特定会社の株式については,一般の評価会社に適用される類似業種比準方式を適用すべき前提条件を欠き,同方式によっては適正な評価が期し難いことから,当該会社の資産価値をより良く反映させた適正な評価を行うためである。

 

 

       このように,土地保有特定会社の株式については,そもそも類似業種比準方式を適用すべき前提条件を欠くのであり,より適正な評価が可能となるように純資産価額方式によって評価すべきことが定められたのであるから,昭和58年改正によって,全ての評価会社に純資産価額方式の適用が強制されなくなり,類似業種比準方式が適用されるようになったとしても,そのことを理由に,純資産価額方式のみによって株式を評価すべき旨を定める評価通達189(3)等の定めが不合理であるとはいえない。

 

 

       また,平成2年改正の目的は合理的なものであるところ,同改正による土地保有特定会社の評価においては,小会社については土地保有特定会社の対象から除外され,かつ土地保有特定会社の判定基準である土地保有割合については,中会社は大会社の判定基準(70%以上)より一層高い90%以上とするなど,昭和58年改正の経緯や趣旨を踏まえつつ,中小企業の事業承継に対し十分配慮した合理的な内容となっている。

     

 

(ウ) なお,評価通達189(3)等は,個人が所有する株式(特定の評価会社である土地保有特定会社の株式)に係る相続税法22条に規定する時価(客観的交換価値)を算出するための評価方式を定めたものである。そして,評価通達に定められた評価方式が合理的なものである限り,これが形式的に全ての納税者に適用されることが租税平等主義にかなうものであって,本件株式の評価に際して適用される評価通達の定めは合理性を有するものであるから,評価通達189(3)等の定めによって算定された本件株式の評価額は,相続税法22条に規定する時価として相当なものである。したがって,評価通達189(3)等によって本件株式を評価することは租税法律主義に反するものではない。

   

 

 

 

 

 

 

 

(2) 争点(2)(本件会社が土地保有特定会社に該当するか否か)について

  

 

 

(被告の主張の要旨)

    

 

ア 大会社の場合,土地保有割合が70%以上であれば,土地保有特定会社に該当するところ(評価通達189(3)),本件相続開始時点における本件会社の総資産価額(相続税評価額)は176億2630万7000円(別表10の①の価額)であり,本件会社が所有する土地等の価額(相続税評価額)の合計額は133億3297万2000円(別表10の(ハ)の価額)であるから,本件会社の土地保有割合は75.64%となる。したがって,本件会社は土地保有特定会社に該当するため,本件株式は純資産価額方式によって評価されることとなる。

 

      本件会社が所有する土地等の価額の内訳は,下記イからカまでのとおりであり,その土地等の明細は,別表11-1記載のとおりであるところ,これらはいずれも評価通達にしたがって評価したものである。なお,上記各土地等の評価額は,合理的であると認められる不動産鑑定評価額に基づいて算定された評価額(別表12参照)を下回っていることからすると,適正な時価を上回るものでないことは明らかである。

    

 

 

イ 土地 114億6275万5000円

      上記価額は,別表11-1記載の土地(順号1~13,15~33,36,37,39~47)の評価額を合計したもの(ただし,1000円未満を切り捨てたもの。)であり,いずれも評価通達に基づき算出したものである。

    

 

 

ウ 借地権 1億4801万6000円

      上記価額は,別表11-1(順号34及び35)記載の貸家建付借地権及び借地権の評価額を合計したものであり,いずれも評価通達に基づき算出したものである。

    

 

エ 借地権(本件会社が本件相続開始前3年以内に取得したもの) 6億5176万7000円

      上記価額は,本件会社が本件相続開始前3年以内に取得した別表11-1(順号14及び38)記載の借地権(本件甲借地権及び本件乙借地権)の評価額を合計したものである。

      本件甲借地権の目的となっている本件甲底地に関するH不動産鑑定士による鑑定評価額(乙第12号証。以下「H鑑定」という。),本件乙借地権の目的となっている本件G3土地に関するI不動産鑑定士による鑑定評価額(乙第18号証。以下「I鑑定」という。)は,いずれも本件相続開始時点における当該各土地の適正な時価であり,H鑑定及びI鑑定を前提として算出した本件甲借地権及び本件乙借地権の評価額は,評価通達185括弧書きにおける「課税時期における通常の取引価額に相当する金額」であると認められる。

    

 

 

オ 賃借権 1058万3000円

      上記価額は,別表11-1(順号48)記載の賃借権の評価額であり,評価通達に基づき算出したものである。

    

 

カ 借地権(本件会社が「土地の無償返還に関する届出書」を提出して使用していた土地に関するもの) 10億5985万1000円

 

 

      上記価額は,本件無償返還予定地(別表11-2記載の各土地)に関する借地権又は貸家建付借地権の評価額(自用地として評価した価額の20%に相当する金額)を合計したものである。

 

 

      この点,昭和60年6月5日付け直資2-58ほか「相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱いについて」(ただし,平成17年5月31日付け課資2-4ほかにより改正されたもの。以下「相当地代通達」という。)8は,被相続人が同族関係者となっている会社(同族会社)に対し被相続人所有の土地を貸し付け,当該貸付けに当たり無償返還届出書が提出されている場合には,昭和43年10月28日付け直資3-22ほか「相当の地代を収受している貸宅地の評価について」(以下「相当地代貸宅地通達」という。)の適用がある旨定めている。この相当地代貸宅地通達は,被相続人が同族関係者となっている同族会社に被相続人所有の土地を貸し付け,当該貸付けに当たり無償返還届出書が提出されている場合には,当該同族会社の株式の評価上,当該土地の自用地としての価額の20%に相当する金額を同社の純資産価額に算入する旨定めている。そうすると,本件会社が無償返還届出書を提出して使用していた土地の借地権又は貸家建付借地権の価額(10億5985万1000円)は,土地保有割合の計算上,評価通達189(3)の「土地等の価額」に加算されることとなる。なお,相当地代通達8により読み替えられた相当地代貸宅地通達が適用されるため,相当地代通達5によって借地権の価額が零と取り扱われるものではない。

 

 

    

 

 

キ 原告ら主張の土地等の評価額について

 

 

     原告らは,別表11-1記載の各土地等について,一部を除き,J不動産鑑定士による不動産鑑定評価(以下「J鑑定」という。)に基づいて評価をしている。

 

 

      しかしながら,租税平等主義という観点からして,評価通達に定める評価方法が合理的なものである限り,これが形式的に全ての納税者に適用されることによって租税負担の実質的な公平をも実現することができるものと解されるから,特定の納税者あるいは特定の相続財産についてのみ同通達に定める方式以外の方法によってその評価を行うことは,たとえその方法による評価額がそれ自体としては相続税法22条の定める時価として許容できる範囲内のものであったとしても,納税者間の実質的負担の公平を欠くことになり,許されないものというべきである。

 

 

 

      また,J鑑定は,不動産取引市場全体の実態を反映しない偏った取引事例を収集・選択して取引事例比較法を適用し,試算価格(比準価格)を算出し,各試算価格の調整をして鑑定評価額を決定したものであり,適正な鑑定評価額から著しく逸脱したものであるから,相続税法22条の定める時価(客観的交換価値)であるとは認められない。

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

(原告らの主張の要旨)

 

 

   

 

 ア 仮に,評価通達189(3)等の適用を前提として本件会社の土地保有割合を計算したとしても,別表13記載のとおり,本件会社の総資産価額は168億9096万8000円であり,土地等の価額の合計額は115億3778万2000円であるから,土地保有割合は68.3%となる。したがって,本件会社は土地保有特定会社に該当しないため,本件株式は類似業種比準方式によって評価されることになる。

 

      本件会社が所有する土地等の価額の内訳は,下記イからオまでのとおりであり(なお,下記カは,後に述べるとおり,本件会社の総資産価額に算入されるが,土地等の価額の合計額には算入されない。),各土地等の明細は,別表14記載のとおりである。

    

 

 

イ 土地 108億7105万0000円

      上記金額は,別表14記載の土地(順号1~13,15~33,36,37,39~47)の評価額を合計したものである(ただし,1000円未満を切り捨てたもの)。別表14記載の土地のうち,順号28,29,41から47までの土地の評価額については,被告主張の評価額を認める。その余の土地の評価額は,順号15記載の本件甲底地を除き,J鑑定による更地評価額を前提に算出したものである(その計算明細は別表15記載のとおりである。)。

    

 

 

ウ 借地権 1億4512万6000円

      上記金額は,別表14(順号34及び35)記載の借地権及び貸家建付借地権の評価額を合計したものであり,J鑑定による更地評価額を前提に算出したものである(その計算明細は別表15(順号34及び35)記載のとおりである。)。

    

 

 

エ 借地権(本件会社が本件相続開始前3年以内に取得したもの) 5億1102万3000円

      上記金額は,別表14(順号14及び38)記載の本件甲借地権及び本件乙借地権の評価額を合計したものであり,J鑑定による更地評価額を前提に算出したものである(その計算明細は別表15(順号14及び38)記載のとおりである。)。

      なお,被告主張の評価額は,国税不服審判所が認定した価額をも上回っており,不当かつ不合理である。

    

 

 

オ 賃借権 1058万3000円

      被告主張の評価額を認める。

    

 

 

カ 借地権(本件会社が「土地の無償返還に関する届出書」を提出して使用していた土地に関するもの) 10億5985万1000円

 

 

 

      被告主張の評価額を認める。ただし,上記評価額は,土地保有割合の計算上,分母に算入されるが,分子には算入されない。すなわち,相当地代通達5は,借地権が設定されている土地について,無償返還届出書が提出されている場合の当該土地に係る借地権の価額は,零として取り扱う旨定めているから,土地保有割合の計算上,分子(評価通達189(3)の「土地等の価額の合計額」)には算入されない。他方,土地の無償返還届出書が提出されている場合の貸宅地の評価について定める相当地代通達8の規定に基づき,同規定が引用する相当地代貸宅地通達を読み替えて適用すれば,同通達は,課税時期における被相続人所有の貸宅地は,自用地としての価額から,その価額の20%に相当する金額(借地権の価額)を控除した金額により評価することとし,この借地権の価額は,被相続人所有の株式会社の株式評価上,同社の純資産価額に算入する旨定めているから,この借地権の価額は,土地保有割合の計算上,分母(評価通達189(3)の「その有する各資産をこの通達に定めるところにより評価した価額の合計額」)には算入されることになる。

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 

(3) 争点(3)(本件株式についてとるべき評価方法及び一株当たりの評価額)

 

 

 

    

 

 

(被告の主張の要旨)

 

 

     本件株式は,評価通達189(3)に定める土地保有特定会社の株式に該当し,評価通達189-4及び185の定めに基づき,純資産価額方式によって評価することとなるところ,その評価額は,別表10の⑪欄記載のとおり,1株当たり55万3193円となる。

 

 

 

   

 

 

 

(原告らの主張の要旨)

 

 

     本件株式は,類似業種比準方式によって評価すべきであり,類似業種の株価を基礎として,類似業種と本件会社の1株当たりの配当金額,年利益金額及び純資産価額を所定の方法で比較し,類似業種の株価に比準して算出した価額に0.7を乗じると,その評価額は1株当たり10万3335円となる。

 

 

 

 

 

 

 第3 当裁判所の判断

 

 

 

  1 争点(1)(評価通達189(3)等の合理性の有無等)について

 

 

  (1) 相続税法22条は,相続等により取得した財産の価額を当該財産の取得の時における時価による旨定めているが,ここにいう時価とは当該財産の客観的な交換価値をいうものと解される。

     もっとも,相続財産の客観的交換価値といっても,必ずしも一義的に確定されるものではないことから,課税実務においては,相続財産評価の一般的基準が評価通達によって定められ,これに定められた画一的な評価方式によって相続財産の時価,すなわち客観的交換価値を評価するものとしている。これは,相続財産の客観的な交換価値を個別に評価する方法を採ると,その評価方式,基礎資料の選択の仕方等により異なった評価額が生じることを避け難く,また,課税庁の事務負担が重くなり,回帰的かつ大量に発生する課税事務の迅速な処理が困難となるおそれがあることなどからして,あらかじめ定められた評価方式によりこれを画一的に評価する方が,納税者間の公平,納税者の便宜,徴税費用の節減という見地から見て合理的であるという理由に基づくものである。

     したがって,相続財産の価額は,評価通達により定められたその評価方法が合理的なものである場合,それによって評価するとかえって実質的な租税負担の公平を著しく害することが明らかであったり,その評価方法によっては時価を適切に算定することができず,これを超える結果となることが明らかであるなど,評価通達によって評価することが相当ではないと認められる特段の事情がない限り,評価通達に規定された評価方法によって評価するのが相当であり,その評価の結果をもって適切な時価と推認することができるものというべきである。

     そこで,以下,本件に関係する評価通達の改正経緯及び内容等をみた上で,評価通達189(3)等に定める評価方法が合理的か否か,本件株式を評価通達189(3)等によって評価することが相当でないと認められる特段の事情があるか否かについて検討する。

 

 

 

 

   

 

 

(2) 評価通達の改正経緯及び内容等

 

 

   

 

 

 

 

 ア 昭和39年から昭和58年改正前までの評価通達

      評価通達は,昭和39年4月25日付けで定められたものであるところ,昭和58年改正の前は,取引相場のない株式について,評価会社を資本金の額,総資産価額及び取引金額の要素を用いて大会社,中会社又は小会社に区分し,その区分に応じて次のとおり評価する旨定めていた。すなわち,①大会社の株式の価額については,類似業種比準方式によって評価し,②中会社の株式の価額については,併用方式(ただし,Lの割合は,大会社に近いものは0.75,中間のものは0.5,小会社に近いものは0.25とされていた。)によって評価し,③小会社の株式の価額については,純資産価額方式により評価するものとしていた。ただし,大会社及び中会社の株式の評価において,類似業種比準価額が1株当たりの純資産価額を超える場合には,納税義務者の選択により,純資産価額に相当する金額を類似業種比準価額とすることが認められていた。(甲14,乙38)

 

 

    

 

イ 昭和58年改正の経緯及び内容等

      日本経済の高度成長に伴う土地価額の上昇や,中小企業の創業者の高齢化に伴う世代交代が生じるようになった状況を背景として,昭和40年代後半頃から,中小企業関係の団体等が,相続税の問題を事業承継という観点から検討するようになり,特に純資産価額方式による株式の評価において,土地の高騰等を反映して評価額が異常に高くなり,相続税の負担が増大し,納税のために事業用財産の一部を処分せざるを得ないケースが生じるなど,事業承継の円滑化が阻害される結果となっているとして,取引相場のない株式の評価方法などについて,制度改善を求める要望がされるようになった(甲10)。

      そして,当時の通商産業省(中小企業庁)は,中小企業経営者の各種団体からの要望や中小企業承継税制問題研究会の「中小企業事業承継税制に関する報告書」(昭和56年3月)を受けて,昭和57年の税制改正に際し,取引相場のない株式について,収益還元方式を織り込んだ評価方式の導入と個人の事業用土地及び居住用土地の評価の軽減について改正意見を提出した。そして,税制調査会も,このような事情を背景として,中小企業経営者の相続税問題を取り上げ,「昭和57年度の税制改正に関する答申」(昭和56年12月)において,「専門家の意見を徴する等により幅広く検討を加えるべきものと考える。」旨答申した。(甲10,11,14,乙39)

      そして,税制調査会は,昭和57年6月,中小企業株式評価問題小委員会を設置し,相続税における取引相場のない株式の評価の問題について審議を開始し,国税庁の実施した実態調査の結果も踏まえて,「昭和58年度の税制改正に関する答申」(昭和57年12月)において,「相続税については,最近,中小企業の事業の円滑な承継の観点から,各種の議論が行われているが,中小企業経営者の相続税の課税の実態等からみても過度の負担を求めているとは認められず,税制上特別の措置を講ずることは適当でない。ただ,小規模な会社の株式は,現在,いわゆる純資産価額方式のみにより評価されていることから,株式価格の形成要素の一つである収益性についても評価上配慮する余地があるのではないかとする意見があること,大・中規模の会社の株式に適用されるいわゆる類似業種比準方式においては既に収益性が織り込まれていること等に留意すれば,現行の株式の評価体系の枠組みの中で収益性を加味することとするのが適当である。また,いわゆる類似業種比準方式についても類似業種のとり方等その合理化を図るべきである。」旨答申した。(甲12,14,乙39)

      昭和58年4月8日付けの評価通達の一部改正(昭和58年改正)は,かかる税制調査会における審議及び答申に沿って行われたものであり,①小会社の株式については,従来,純資産価額方式のみによって評価していたが,納税義務者の選択により,併用方式(Lの割合は0.5)によって評価することを認めることとし,②中会社の株式についても,従来,小会社に近い規模のものに適用していたLの割合を0.25から0.5に変更し,③大会社及び中会社の株式について,納税義務者の選択により,純資産価額方式によって評価することができる旨定め(昭和58年改正前の評価通達180ただし書の定めを改め,小会社の株式の評価の定め方と平仄を合わせたもの。),④類似業種比準方式について,類似業種の採り方を弾力化し,類似業種の適用株価として,前年の平均株価を選択できることとするなどの見直しをした(甲14,16,乙38,39)。

    

 

 

ウ 昭和63年の税制改正(旧措置法69条の4の制定経緯)

      税制調査会は,「税制改革についての中間答申」(昭和63年4月)において,「不動産の実勢価額と相続税評価額とに開きがあることに着目して,借入金により不動産取得を行うという形での相続税の税負担回避行為が横行していると指摘されている。こうした状況にかんがみ,(中略),負担の公平を確保する観点から,こうした税負担回避行為に対する歯止め措置を講ずるこそが必要であると考える。」旨答申した(甲4)。

      これを受けて,昭和63年法律第109号により,旧措置法69条の4が制定され,個人が相続若しくは遺贈により取得した財産又は個人が贈与により取得した財産で相続税法19条の規定の適用を受けるもののうちに,当該相続又は同条の相続の相続開始前3年以内にこれらの相続又は遺贈に係る被相続人が取得等をした土地等又は建物等がある場合には,当該個人が取得等をした当該土地等又は建物等については,同法11条の2に規定する相続税の課税価格に算入すべき価額又は同法19条の規定により当該相続税の課税価格に加算される贈与により取得した財産の価額は,同法22条の規定にかかわらず,当該土地等又は建物等に係る取得価額として政令で定めるものの金額とする旨定められた(1項)。

    

 

 

エ 平成2年改正の経緯及び内容等

      税制調査会は,平成2年,土地税制小委員会を設置し,土地税制の見直しについて審議を開始し,同小委員会は,同年4月から6月まで13回にわたって審議を重ね,その間の同年5月29日,「土地税制見直しの基本課題」を発表した(甲7)。

      かかる状況を受けて,平成2年8月3日付けで評価通達の一部改正(平成2年改正)が行われ,評価会社の資産の保有状況,営業の状態等が一般の会社と異なる「株式保有特定会社」,「土地保有特定会社」,「開業後3年未満の会社等」,「開業前又は休業中の会社」及び「清算中の会社」の各株式については,「特定の評価会社の株式」として特別な評価方法により評価することとされ(評価通達178ただし書,189(1)~(5)),その具体的な評価方法については評価通達189-2ないし189-5において定められた(なお,これらの項はいずれも改正時のものであり,その後の評価通達の一部改正により,特定の評価会社として評価通達189(1)の「比準要素1の会社」が加えられたことを受けて,評価通達189(2)から(6)に項が繰り下げられ,評価通達189-2から5も現在の評価通達189-3から6に項が繰り下げられている。)。そして,評価通達189(2)(現在の評価通達189(3))は,土地保有割合が70%以上(中会社については90%以上)である評価会社(小会社を除く。)を「土地保有特定会社」と定め,評価通達189-3(現在の評価通達189-4)は,土地保有特定会社の株式については,純資産価額方式によって評価するものとした。また,評価通達185括弧書きは,課税時期前3年以内に取得又は新築した土地等又は家屋等の価額については,課税時期における通常の取引価額に相当する金額(帳簿価額がこれに相当すると認められる場合には,当該帳簿価額に相当する金額)によって評価するものとした。(甲6,乙5)

      なお,税制調査会は,「土地税制のあり方についての基本答申」(平成2年10月)において,「会社がそのオーナーの相続開始前に借入金で土地を取得し,その会社の株式評価額(純資産価額方式による。)を大幅に圧縮したり,株式保有特定会社を利用し,その評価額を大幅に圧縮する等のいわゆる株式評価を利用した行き過ぎた相続税の節税策が行われ,課税の公平の観点から問題があった。これについては,本年8月3日相続税財産評価に関する基本通達の一部改正を行うことにより,その是正を図るための評価の適正化が図られ,本年9月1日以後に相続,遺贈又は贈与により取得した財産の評価について適用されているところである。今後とも,いわゆる相続税の節税策については,課税の公平を確保する観点から厳正な対応が必要である。」旨答申している(甲8)。

    

 

 

オ 平成8年度の税制改正(旧措置法69条の4の削除経緯)

      税制調査会は,「平成8年度の税制改正に関する答申」(平成7年12月)において,「相続税には,相続開始前3年以内に取得等をした土地等についてのいわゆる取得価額課税の特例がある。昭和60年代当時,土地等の実勢価額と相続税評価額との開きに着目して相続開始直前に土地等を取得することにより相続税の負担の軽減を図る事例が多く見受けられた。この特例は,このような事態に対処するため,昭和63年の抜本改革で設けられたものである。この特例を直接地価動向と結び付けて議論することは適当ではないが,最近では,相続開始前に土地等を取得して相続税の負担軽減を図ろうとする行為は見受けられなくなってきていることから,この特例は,廃止の方向で検討することが適当である。」旨答申した(甲9)。

      これを受けて,旧措置法69条の4は,平成8年法律第17号による改正により削除された。

   

 

 

 

 

(3) 評価通達189(3)等の合理性

     上記(2)でみた評価通達の改正経緯及び内容等を踏まえると,取引相場のない株式の評価に関する評価通達の定めは,合理性を有するものというべきである。その理由は以下に述べるとおりである。

     すなわち,取引相場のない株式とは,上場株式及び気配相場等のある株式以外の株式であるところ(評価通達168),評価会社の規模は,上場会社に匹敵するような大規模な会社から,個人企業と変わらない小規模な会社まで様々であることから,取引相場のない株式のすべてを画一的な方法によって評価することは適当でない。そのため,評価通達は,評価会社の実態に適合した評価ができるように,事業規模に応じて評価会社を大会社,中会社及び小会社に区分し,それぞれの区分に応じて評価方式を定めている。

     このうち,大会社は,上場株式や気配相場等のある株式の発行会社に匹敵するような規模の会社であり,その株式が正常な状態において取引されるとすれば,上場株式等の取引価格に準じた価額が付されるものと想定されることから,大会社の株式については,類似業種比準方式によって評価することを原則としている(ただし,納税義務者の選択により,純資産価額方式によって評価することを認めている。)。他方,小会社は,その事業規模及び経営実態等からみて,個人企業とほとんど変わらないものが多く,このような株式の実態は,株式を通じた会社財産の完全支配であると認められ,会社財産に対する持分的な性格が強いことから,評価会社の正味財産に着目して,純資産価額方式によって評価することを原則としている(ただし,納税義務者の選択により,Lの割合を0.5とする併用方式によって評価することを認めている。)。そして,中会社は,大会社と小会社との中間的な規模の会社であり,大会社の規模に次ぐ会社から,小会社の規模に近い会社までを含んでいることから,中会社の株式については,事業規模の大きさに応じてLの割合を異なるものとして定め,併用方式によって評価することを原則としている(ただし,納税義務者の選択により,純資産価額方式によって評価することを認めている。)。(甲14,乙38)

 

 

     他方で,評価会社の中には,会社の総資産のうちに占める各資産の保有状況が,類似業種比準方式における標本会社である上場会社に比して著しく株式等や土地等に偏っているものが見受けられるほか,標本会社である上場会社と同様に正常な営業活動を行っておらず又は事業活動自体を行っていないものが見受けられ,このような評価会社の株式については,類似業種比準方式を適用すべき前提条件を欠き,同方式又は同方式による評価額が考慮される併用方式によっては適正な株価の算定を行うことが期し難く,また,これらの原則的な評価方式による評価額と適正な時価との間に開差が生ずることとなり,かかる開差を利用したいわゆる租税回避行為の原因ともなっていたことから,課税の公平の観点から,株式の評価方法を適正化するとともに,租税回避行為に対処することを目的として,評価会社の資産の保有状況,営業の状態等が一般の会社と異なる「特定の評価会社の株式」,すなわち,「比準要素数1の会社」,「株式保有特定会社」,「土地保有特定会社」,「開業後3年未満の会社等」,「開業前又は休業中の会社」及び「清算中の会社」の各株式に区分し,それぞれ,その特殊性に応じた特別な評価方法を行うものとしている(乙36)。

     このうち,評価通達189(3)が定める土地保有特定会社の株式については,純資産価額方式によって評価するものとされている(評価通達189-4)。これは,①会社の総資産のうちに占める土地等の保有状況が類似業種比準方式における標本会社である上場会社と比して著しく土地等に偏っており,類似業種比準方式を適用すべき前提条件を欠くものと認められ,同方式によって適正な株価の算定を行うことを期し難いこと,②土地保有割合が極めて高い評価会社については,その株式の取引価格の決定に際しても,会社の資産内容に着目した取引がなされると考えられるので,株式の評価においても,土地等の保有状況に着目し,その資産価値を良く反映し得る純資産価額方式により評価することが適切であること,③個人所有の土地を現物出資して会社を設立し,その会社の株式の評価を土地保有特定会社が営む業種に類似する類似業種比準方式を適用することにより,その評価額を大幅に引き下げる(土地保有特定会社が利益もなく配当もなければ株式の評価額は持っている土地の価額に比べ非常に低いものとなる。)ことによる節税策に対処することを理由とするものである。そして,土地保有特定会社の判定基準について,大会社の土地保有割合を70%以上としているのに対し,中会社の土地保有割合を90%と一層高くし,小会社を適用対象外としているのは,中小企業の事業承継等に配慮したものである。(甲24,乙35,36)

 

 

     また,評価通達185括弧書きは,課税時期前3年以内に取得又は新築した土地等又は家屋等の価額については,課税時期における通常の取引価額に相当する金額(帳簿価額がこれに相当すると認められる場合には,当該帳簿価額に相当する金額)によって評価するものとしている。これは,①純資産価額の計算において,評価会社が所有する土地等の時価を算定する場合に,個人が所有する土地等の評価を行うことを念頭に置いた路線価等によって洗い替え(評価替え)をすることが唯一の方法であるとは限らないものと考えられ,適正な株式評価の見地からは,むしろ通常の取引価額によって評価すべきものであるとも考えられること(なお,平成2年改正当時の法人税基本通達9-1-15においても,株式の評価に当たり,評価基本通達を援用して純資産価額の計算を行う場合にも,土地等と上場株式に限って「時価」(市場価額)によって評価するものとしている。),また,②課税時期の直前に取得し,時価が明らかになっている土地等についても,わざわざ,その時価を相当に下回る路線価等の相続税評価額によって洗い替えを行うことは,時価の算定上,適切ではないと考えられることに加え,③土地等の相続税評価額が実際の取引価額に比し低いことを利用し,会社がそのオーナーの相続開始直前に借入金で土地を取得し,その会社の株式評価額(純資産価額方式による。)を大幅に引き下げることによる節税策に対処するため,個人事業者等に適用される旧措置法69条の4との権衡をも考慮して,平成2年改正において,定められたものである。(乙6,35)

 

     以上に鑑みると,土地保有特定会社の株式について,純資産価額方式によって評価することなどを定める評価通達189(3)等は,合理性を有するものというべきである。

 

 

   

 

 

(4) 原告らの主張について

 

   ア 原告らは,評価通達189(3)等は,バブル経済の時期に導入された旧措置法69条の4の規定の施行のために発遣されたものであるところ,同規定が違憲の疑いがあるとして廃止されたことに伴い,その根拠法をなくしたにもかかわらず,その後も残っているものであるから,法律の根拠を欠く無効な通達であり,かかる無効な通達によって本件株式を評価することは租税法律主義に違反する旨主張する。

 

      しかしながら,上記(2)においてみたとおり,そもそも,評価通達189(3)及び189-4は,大会社又は中会社の株式について,純資産価額方式による評価と類似業種比準方式による評価との開差を利用した節税策に対処するとともに,土地等の保有状況に着目し,その資産価値を良く反映し得る評価方法を採るため,土地保有特定会社の株式について純資産価額方式によって評価する旨を定めているものであり,不動産の実勢価格と相続税評価額との開差を利用した節税策に対処しようとした旧措置法69条の4とは直接関係しないというべきであって,節税策に対処するという抽象的な目的において一部共通する点があるにすぎない。この点は,取引相場のない株式を純資産価額方式で評価するだけでは,不動産の実勢価格と相続税評価額との開差を利用した節税策に対処することができないことからも明らかである。

 

      また,旧措置法69条の4は,被相続人が相続開始前3年以内に取得等をした土地等又は建物等の価額につき,取得価額によるものとして,相続財産の時価評価を定める相続税法22条の適用を排除する特例を定めたものであるのに対し,評価通達185括弧書きは,その文言に照らすと,飽くまで,同条の定めに従った上で,取引相場のない株式について時価評価をするに際し,1株当たりの純資産価額を算定する前提として,評価会社が保有する資産の評価方法を定めたものにすぎず,相続財産としての土地等又は建物等の評価方法を定めたものではないし,同条の適用を排除する特例を定めたものでもない。したがって,旧措置法69条の4と評価通達185括弧書きが,不動産の実勢価格と相続税評価額との開差を利用した節税策に対処するという抽象的な目的において一部共通する点があるとしても,これをもって,旧措置法69条の4が評価通達185括弧書きの根拠法であるとみることはできない。なお,旧措置法69条の4と評価通達185括弧書きの規定の定め方が異なることは,後に述べるとおりである。

 

 

      そして,評価通達189(3)等が,土地保有特定会社の株式の課税時期における評価方法を定めていることは,その文言からして明らかであり,相続税法22条に基づく時価評価の方法の解釈基準を示すものにほかならないから,これによって本件株式を評価することが租税法律主義に違反するとはいえない。

      したがって,この点に関する原告らの主張を採用することはできない。

 

 

 

    

 

イ 原告らは,仮に,旧措置法69条の4が評価通達189(3)等の根拠法でないとしても,評価通達189(3)等は,旧措置法69条の4と同じ趣旨,目的により発遣されたものであるから,それ自体,違憲の疑いが強いものであり,合理性を失っている旨主張する。これは,相続によって取得した取引相場のない株式につき,評価会社の保有する土地等又は建物等を評価通達185括弧書きによって評価すると,上記株式が相続税法22条の定める時価よりも過大に評価され,相続税の課税において,いわば「財産権の侵奪」が生じる旨の主張であると解される。

 

 

      しかしながら,先に述べたとおり,評価通達185括弧書きは,そもそも,取引相場のない株式について,相続税法22条の定めにしたがって時価評価をするに際し,1株当たりの純資産価額を算定する前提として,評価会社が保有する資産の評価方法を定めたものにすぎず,相続財産としての土地等又は建物等の評価方法を定めたものではなく,同条の適用を排除する特例を定めたものでもない。そして,評価通達185括弧書きは,評価会社が課税時期前3年以内に取得又は新築した土地等又は家屋等の価額は,課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価するものとし,帳簿価額に相当する金額によって評価する場合も,当該帳簿価額が課税時期における通常の取引価額に相当すると認められる場合に限定しているのであるから,旧措置法69条の4のように,取得価額をもって財産の価額とみなすことを定めたものではない。このように,評価通達185括弧書きは,帳簿価額による評価を強制するものではなく,地価下落時の評価においても,実勢価額との逆転現象を生じさせるものではなく,これを許容するものでもないから,相続税法22条の定める時価よりも過大に評価され,相続税の課税において,原告らがいうような「財産権の侵奪」が生じるものであるとはいえない。

      したがって,この点に関する原告らの主張を採用することはできない。

    

 

 

 

ウ 原告らは,評価通達185括弧書きの定めは,相続税法22条の定める評価の時点及びその評価額を変更している上,「課税時期における通常の取引価額」が判明しているのであれば,「帳簿価額」を持ち出す必要はなく,「帳簿価額」の使用を認めていることの意義は,「課税時期における通常の取引価額」が判明していない場合でも,「帳簿価額」によって評価できるとする点にあり,相続税法22条の定める「当該財産の取得の時(相続等の時点)における時価」を超える課税価格を認める余地を開くものであるから,このような評価通達185括弧書きを含む評価通達189(3)等を用いて財産の評価を行うことは,相続税法22条に違反する旨主張する。

      しかしながら,既に述べたところによれば,評価通達185括弧書きが,相続税法22条の定める評価の時点及びその評価額を変更しているとはいえない。また,評価通達185括弧書きが帳簿価額に相当する金額によって所定の資産を評価することを定めた理由は,前記(3)において述べたとおりであり,課税時期の直前に取得した土地等又は家屋等については,帳簿価額によって,通常の取引価額の範囲内にあることを容易に判断できる場合もあることから,実務上の簡便性にも配慮し,かかる評価方法を定めたものである。そのため,評価通達185括弧書きが,相続税法22条の定める「当該財産の取得の時における時価」を超える課税価格を認める余地を開くものではない。

 

      したがって,この点に関する原告らの主張を採用することはできない。

 

 

    

 

 

エ 原告らは,評価通達189(3)等は,審議を経ることなく国税庁長官の発遣する一片の通達ごときによって事業承継税制を変更し,土地保有特定会社について,企業の収益性を加味した評価方式である類似業種比準方式を排除し,純資産価額方式による評価を強制するものであり,事業承継税制の理念に逆行し,租税法律主義を軽視する極めて異質なものであり,本件会社の株式が,まさに事業承継税制がその適用対象として念頭に置いていた株式の典型例であることからすれば,事業承継税制の趣旨に従い,当該株式の営利性を加味した類似業種比準方式によって評価されるべきである旨主張する。

 

      しかしながら,前記(2)においてみたとおり,税制調査会は,「昭和58年度の税制改正に関する答申」(昭和57年12月)において,「相続税については,最近,中小企業の事業の円滑な承継の観点から,各種の議論が行われているが,中小企業経営者の相続税の課税の実態等からみても過度の負担を求めているとは認められず,税制上特別の措置を講ずることは適当でない。」旨答申しており,小会社の株式を純資産価額方式によって評価する従来の評価方法を不合理なものであるとはしていない。

 

      一方,税制調査会は,「小規模な会社の株式は,現在,いわゆる純資産価額方式のみにより評価されていることから,株式価格の形成要素の一つである収益性についても評価上配慮する余地があるのではないかとする意見があること,大・中規模の会社の株式に適用されるいわゆる類似業種比準方式においては既に収益性が織り込まれていること等に留意すれば,現行の株式の評価体系の枠組みの中で収益性を加味することとするのが適当である。」旨答申している。昭和58年改正も,これに沿って,小会社の株式については,従来,純資産価額方式のみによって評価していたところを,納税義務者の選択により,Lの割合を0.5とする併用方式によって評価することを認めることとしたものであり,類似業種比準方式による評価額が考慮され得るものの,これをそのまま採用したものではない。そして,昭和58年改正においても,小会社の株式の評価は,飽くまで,純資産価額方式によって評価することを原則としているのであって,純資産価額方式を一律に不合理なものとして排除しているわけではない。なお,昭和58年改正は,大会社及び中会社の株式についても,納税義務者の選択により,純資産価額方式によって評価することができるものとしている(昭和58年改正前の評価通達180ただし書の定めを改め,小会社の株式の評価の定め方と平仄を合わせたもの。)。

 

 

      このように,昭和58年改正は,中小企業の事業承継に配慮し,小会社の株式について,納税義務者の選択により,併用方式によって評価することを認めたものであるが,他方で,すべての会社について,純資産価額方式によって株式を評価することをも許容しているのであり,取引相場のない株式の評価について,純資産価額方式が一定の合理性を有することを前提としているものということができる。

 

 

      そして,平成2年改正は,評価通達189(3)が定める土地保有特定会社の株式については,純資産価額方式によって評価するものとしたものであるが(評価通達189-4),前記(3)において述べたとおり,これは,

 

 

 

①会社の総資産のうちに占める土地等の保有状況が類似業種比準方式における標本会社である上場会社と比して著しく土地等に偏っており,類似業種比準方式を適用すべき前提条件を欠くものと認められ,同方式によって適正な株価の算定を行うことを期し難いこと,

 

②土地保有割合が極めて高い評価会社については,その株式の取引価格の決定に際しても,会社の資産内容に着目した取引がなされると考えられるので,株式の評価においても,土地等の保有状況に着目し,その資産価値を良く反映し得る純資産価額方式により評価することが適切であること,

 

③個人所有の土地を現物出資して会社を設立し,その会社の株式の評価を土地保有特定会社が営む業種に類似する類似業種比準方式を適用することにより,その評価額を大幅に引き下げる(土地保有特定会社が利益もなく配当もなければ株式の評価額は持っている土地の価額に比べ非常に低いものとなる。)ことによる節税策に対処することを理由とするものである。また,土地保有特定会社の判定基準について,中会社の土地保有割合を90%と一層高くし,小会社を適用対象外とするなど,中小企業の事業承継等にも配慮がされている。

 

 

      以上に述べたところに鑑みると,土地保有特定会社の株式について純資産価額方式によって評価することには,合理性があるといえる上,昭和58年改正の趣旨に反するものではないというべきである。

      また,原告らが主張するとおり,本件会社が営利活動を継続しており,亡Eが本件会社に対する土地取引を利用して節税を図った事実がないとしても,土地保有特定会社の株式について純資産価額方式によるものとした上記①及び②の理由に鑑みると,上記事実をもって本件株式を同方式によって評価することが不合理であるとみるべき特段の事情ということはできない。

 

      したがって,この点に関する原告らの主張を採用することはできない。

 

 

    

 

 

オ 原告らは,評価通達189(3)等は,大会社について土地保有割合が70%以上である場合に,その株式を純資産価額方式によって評価する旨定めているが,このような形式的な基準によって評価方式及び課税価格が大きく変動する可能性がある通達の定めは,かえって租税負担の公平を害するものであり,合理性を有するものではない旨主張する。

 

      しかしながら,先に述べたとおり,平成2年改正において,評価通達189(2)(現在の評価通達189(3))が,土地保有割合が70%以上である大会社を土地保有特定会社としたのは,その資産構成が類似業種比準方式における標本会社の土地保有割合に比して著しく土地等に偏っており,類似業種比準方式によっては適正な株価の算定を行うことが期し難いことを理由とするものであるから,大会社についてこのような一律の基準を設けることは,前記(1)において述べた相続財産の画一的評価という観点に照らしても,合理性を有するものというべきである。したがって,この点に関する原告らの主張を採用することはできない。

   

 

 

(5) 以上のとおり,評価通達189(3)は合理性を有するものであり,本件株式をこれにしたがって評価することが相当でないと認められる特段の事情があるとは認められない。

  

 

 

 

 

 

2 争点(2)(本件会社が土地保有特定会社に該当するか否か)について

  

 

 

(1) 既に述べたとおり,土地保有特定会社とは,大会社については,土地保有割合が70%以上である会社をいうところ(評価通達189(3)),本件会社の土地保有割合が70%を超えるか否かについて,当事者間に争いがある。

     この点,前記前提事実のとおり,本件会社は,本件相続の開始当時,別表10記載の各資産を有していた。そして,その評価額については,「土地」,「借地権」及び「3年以内に取得した借地権」に係る評価額を除き,当事者間に争いがない。

     そこで,以下,「土地」,「借地権」及び「3年以内に取得した借地権」に係る評価額について検討するとともに,当事者間に争いがある土地保有割合の計算方法,すなわち,借地権(本件会社が「土地の無償返還に関する届出書」を提出して使用していた土地に関するもの)の評価額を土地保有割合の計算上,評価通達189(3)の「土地等の価額」に加算することができるか否かについて検討することとする。

   

 

(2) 土地保有割合を算定する場合における各資産の評価方法について

    評価通達189(3)は,土地保有割合を算定するに当たり,評価会社が有する各資産を評価通達の定めるところによって評価する旨定めているところ,評価会社が有する各資産の価額は,評価通達により定められたその評価方法が合理的なものである場合,それによって評価するとかえって実質的な租税負担の公平を著しく害することが明らかであったり,その評価方法によっては時価を適切に算定することができず,これを超える結果となることが明らかであるなど,評価通達によって評価することが相当ではないと認められる特段の事情がない限り,評価通達に規定された評価方法によって評価するのが相当である。

   

 

(3) 土地の評価額について

  

 

 ア 評価通達11から26までは,宅地の評価について定めており,その概要は,次のとおりである(乙5,6)。すなわち,市街地的形態を形成する地域にある宅地については,路線価方式(その宅地の面する路線に付された路線価に基づき,所定の方法により計算した金額)によって評価するものとし,それ以外の宅地は,倍率方式(固定資産税評価額に一定の地域ごとにその地域の実情に即するように定める倍率を乗じて計算した金額)によって評価するものとされている。このうち,路線価方式における路線価とは,売買実例価額,公示価格,鑑定評価額及び精通者意見価格等に基づいて評定された1平方メートル当たりの価額であり,評価上の安全性に配慮して,公示価格の8割程度の水準を目途として定められている。また,路線価方式による評価額の算出に当たっては,上記路線価を基にして,例えば,宅地の奥行距離に応じた奥行価格補正,複数の路線に接する場合の加算,不整形地の価格補正など,評価対象地の状況,形状等に応じた様々な補正等を行うことにより,当該土地の個別の事情をその評価額に反映させることとしている。

 

 

      評価通達が定める宅地の評価方法は,相続又は贈与における財産評価手法として一般的に合理性を有し,課税実務上も定着しているものであり,本件において,かかる評価通達によって評価することが相当ではない特段の事情を認めるに足りる証拠はない。

 

 

      したがって,本件会社が所有する土地の評価は,評価通達に規定された評価方法によって評価するのが相当である。

 

 

    

 

イ 前記前提事実のとおり,本件会社は,本件相続の開始当時,別表11-1(順号1~13,15~33,36,37,39~47)記載の各土地(以下「本件会社所有地」という。)を所有していた。

      そして,本件会社所有地を評価通達に基づいて評価すると,別表11-1の各土地に対応する「被告主張額」欄記載のとおりの金額になる(なお,同別表順号28,29,39~47の土地の評価額は当事者間に争いがない。)(甲1,2,弁論の全趣旨)。

      したがって,本件会社所有地の価額は,合計114億6275万5000円である。

    

 

ウ 原告らの主張について

     原告らは,本件会社所有地の評価額は,別表14記載の各土地に対応する「原告主張額」欄記載のとおりであり,争いのある土地の評価額は,本件甲底地(同別表順号15)を除き,J鑑定による更地評価額によって算出すべきである旨主張する。

 

      しかしながら,先に述べたとおり,本件会社所有地の価額は,評価通達に規定された評価方法によって評価するのが相当である。また,J鑑定は,不動産取引市場全体の実態よりも低額のものに偏した取引事例を収集・選択するなどして取引事例比較法を適用し,試算価格(比準価格)を算出し,各試算価格の調整をして鑑定評価額を決定しており,適正な鑑定評価額であるとは認められない(甲2,17~22,乙40~43(枝番を含む。),弁論の全趣旨)。したがって,この点に関する原告らの主張を採用することはできない。

 

 

 

   

 

 

(4) 借地権の評価額について

   

ア 評価通達27は,借地権の価額は,その借地権の目的となっている宅地の自用地としての価額(評価通達25(1)が定める「自用地としての価額」をいう。)に,当該価額に対する借地権の売買実例価額,精通者意見価格,地代の額等を基として評定した借地権の価額の割合が概ね同一と認められる地域ごとに国税局長の定める割合を乗じて計算した金額によって評価する旨定めている。また,評価通達28は,貸家の敷地の用に供されている借地権の価額は,所定の算式(借家権割合及び家屋に係る賃貸割合を考慮して借地権の価額を減価するもの)により計算した価額によって評価する旨定めている。(乙5)

 

      評価通達が定める借地権及び貸家建付借地権の評価方法は,相続又は贈与における財産評価手法として一般的に合理性を有し,課税実務上も定着しているものであり,本件において,かかる評価通達によって評価することが相当ではない特段の事情を認めるに足りる証拠はない。

 

      したがって,本件会社が有する借地権及び貸家建付借地権の評価は,評価通達に規定された評価方法によって評価するのが相当である。

 

 

    

 

イ 前記前提事実のとおり,本件会社は,本件相続の開始当時,別表11-1(順号34及び35)記載の借地権(貸家建付借地権である。以下「本件貸家建付借地権」という。)を有していた(甲2,弁論の全趣旨)。

 

      そして,本件貸家建付借地権を評価通達に基づいて評価すると,別表11-1(順号34及び35)記載の借地権に対応する「被告主張額」欄記載のとおりの金額になる(甲2,弁論の全趣旨)。

      したがって,本件貸家建付借地権の評価額は,1億4801万6000円である。

    

 

ウ なお,原告らは,別表14(順号34)記載の借地権及び同別表(順号35)記載の貸家建付借地権の評価額は,これらに対応する「原告主張額」欄記載のとおりであり,J鑑定による更地評価額を前提として算出すべきである旨主張する。

 

      しかしながら,先に述べたとおり,本件貸家建付借地権の価額は,評価通達に規定された評価方法によって評価するのが相当である。また,J鑑定は,適正な鑑定評価額であるとは認められない。したがって,この点に関する原告らの主張を採用することはできない。

 

   

 

 

 

(5) 借地権(本件会社が本件相続開始前3年以内に取得したもの)の評価額について

   

 

ア 評価通達185括弧書きは,「各資産を評価通達に定めるところにより評価した価額」に関し,課税時期前3年以内に取得又は新築した土地等又は家屋等の価額については,課税時期における通常の取引価額に相当する金額(帳簿価額がこれに相当すると認められる場合には,当該帳簿価額に相当する金額)によって評価するものとし,「以下同じ。」と定めている。そのため,評価通達189(3)が規定する「各資産を評価通達の定めるところにより評価した価額」についても,評価通達185括弧書きの定めと同様に評価することになる。そして,評価通達185括弧書きが合理性を有することは,既に述べたとおりである。

      したがって,本件会社が有する借地権(本件会社が本件相続開始前3年以内に取得したもの)の評価は,評価通達185括弧書きが規定する「課税時期における通常の取引価額に相当する金額」(帳簿価額がこれに相当すると認められる場合には,当該帳簿価額に相当する金額)によって評価するのが相当である。

   

 

 イ 前記前提事実のとおり,本件会社は,本件相続の開始当時,本件相続開始前3年以内に取得した借地権として,別表11-1(順号14)記載の本件甲借地権及び同別表(順号38)記載の本件乙借地権を有していた。

      そこで,本件甲借地権及び本件乙借地権の「課税時期における通常の取引価額に相当する金額」について,以下,検討する。

    

 

ウ 被告の主張について

 

     被告は,本件甲借地権及び本件乙借地権の通常の取引価額は,別表11-1(順号14及び38)記載の借地権に対応する「被告主張額」欄記載のとおりの金額であり,本件甲借地権の目的となっている本件甲底地に関するH鑑定及び本件乙借地権の目的となっている本件G3土地に関するI鑑定を前提として算出すべきである旨主張する。

 

      しかしながら,H鑑定は,特定価格(市場性を有する不動産について,法令等による社会的要請を背景とする評価目的の下で,正常価格の前提となる諸条件を満たさない場合における不動産の経済価値を適正に表示する価格)を求める不動産鑑定評価に基づいて取引価格が決められた取引事例や,取引価格が当該取引の当事者間においてのみ経済的合理性が認められる価格の取引事例を採用するものである上,公示価格から算定した基準価格と約15%の価額の乖離が生じていることに鑑みると,合理性を欠くものといわざるを得ない(甲2,乙12)。

 

      また,I鑑定は,地域の標準的な画地である公示地より,間口距離に比して奥行距離が長大な土地の取引事例を補正することなく採用し,建築基準法56条所定の道路斜線制限があるにもかかわらず,地上10階建ての建築物を想定して収益価格を算定している上,公示価格から算定した基準価格と約8%の価額の乖離が生じていることに鑑みると,合理性を欠くものといわざるを得ない(甲2,乙18)。

 

      なお,被告は,H鑑定及びI鑑定がいずれも合理性を有することの証拠として,H鑑定及びI鑑定の評価額を上回る評価額を述べる不動産鑑定評価書,すなわち,本件甲底地に関するM不動産鑑定士による不動産鑑定評価書(乙20)及び本件G3土地に関するN不動産鑑定士による不動産鑑定評価書(乙21)を提出している。しかしながら,上記各不動産鑑定評価書は,公示価格から算定した基準価格との乖離がH鑑定及びI鑑定よりも更に生じるものであり,その原因についての合理的な説明も見出し難いことからすると,これらをそのまま採用することはできない。

 

      したがって,この点に関する被告の主張を採用することはできない。

 

 

 

    

 

 

エ 原告らの主張について

     原告らは,別表14(順号14)記載の本件甲借地権及び同別表(順号38)記載の本件乙借地権の評価額は,これらに対応する「原告主張額」欄記載のとおりであり,J鑑定による更地評価額を前提として算出すべきである旨主張する。

      しかしながら,先に述べたとおり,J鑑定は,適正な鑑定評価額であるとは認められないから,この点に関する原告らの主張を採用することはできない。

    

 

オ 検討

 

      本件裁決は,本件甲借地権及び本件乙借地権の評価額について,H鑑定,I鑑定及びJ鑑定を不合理なものとして採用せず,①本件甲借地権の目的となっている本件甲底地が存する地域と状況が類似する地域に存する国土利用計画法施行令9条所定の基準地の標準価格に基づき,評価通達27を適用して,別紙3記載のとおり,本件甲借地権の価額を3億9836万8000円と算定し,②本件乙借地権の目的となっている本件G3土地が存する地域と状況が類似する地域に存する地価公示法2条所定の標準地(公示地)の正常な価格(公示価格)に基づき,評価通達27を適用して,別紙4記載のとおり,本件乙借地権の価額を2億0164万8330円と算定した。

 

      この点,上記基準地の標準価格及び上記標準地の正常な価格は,いずれも,土地について,自由な取引が行われるとした場合におけるその取引において通常成立すると認められる価格であることからすれば(国土利用計画法施行令9条2項,地価公示法2条2項),土地の客観的な交換価値を示すものということができる。

 

      したがって,本件裁決が算定した本件甲借地権及び本件乙借地権の上記各価額は,合理的な評価額として,採用することができる。

 

   

 

 

(6) 借地権(本件会社が「土地の無償返還に関する届出書」を提出して使用していた土地に関するもの)について

   

 

ア 前記前提事実のとおり,本件相続の開始当時,本件会社は,本件無償返還予定地(別表11-2記載の各土地)を目的とする借地権及び貸家建付借地権(価額合計10億5985万1000円)を有し,無償返還届出書を提出して使用していた。なお,本件無償返還予定地は,亡Eが所有していたものである(別表4参照)。

      この点,原告らは,相当地代通達5は,借地権が設定されている土地について,無償返還届出書が提出されている場合の当該土地に係る借地権の価額は,零として取り扱う旨定めているから,土地保有割合の計算上,本件無償返還予定地の借地権の価額は,分子(評価通達189(3)の「土地等の価額の合計額」)には算入されない旨主張する。

      しかしながら,かかる原告らの主張を採用することはできない。その理由は,以下に述べるとおりである。

    

 

イ 相当地代通達5は,借地権が設定されている土地について,無償返還届出書が提出されている場合の当該土地に係る借地権の価額は,零として扱う旨定めている。これは,土地所有者と借地人との間に将来無償で土地を返還する旨の合意がある場合には,借地権の価額を零として扱うことが当事者間の取引の実態にかなうと考えられることによると解される。(乙5,23)

 

      他方,相当地代通達8は,被相続人が同族関係者となっている同族会社に対し土地を貸し付け,当該土地について無償返還届出書が提出されている場合には,相当地代貸宅地通達の適用がある旨定めている。そして,相当地代貸宅地通達は,この場合には,当該同族会社の株式の評価上,当該土地の自用地としての価額の20%に相当する金額(借地権の価額)を同社の純資産価額に算入する旨定めている。これは,

 

①被相続人が同族関係者となっている同族会社に対し土地を貸し付けている場合には,当該被相続人が自ら当該土地を利用している場合と実質的に変わりがないにもかかわらず,前者の場合は,相続税の計算上,自用地としての価額の80%に相当する金額で評価される一方で,後者の場合には,相続税の計算上,自用地としての価額の100%に相当する金額で評価されるという課税上の不公平が生じるため,当該土地の価額を個人と法人を通じて100%顕在させることが課税の公平上適当であると考えられること,

 

②無償返還届出書の提出があるとしても,借地借家法によって保護される借地権の存在が否定されるものでないことから,当該同族会社の株式の評価上,当該土地の自用地としての価額の20%に相当する金額を,借地権の価額として,同社の純資産価額に算入することとしたものであると解される。(乙5,23)

 

      以上に鑑みると,上記各通達の定めは合理性を有するというべきであり,相当地代通達8及び相当地代貸宅地通達の適用がある場合には,相当地代通達5の適用はないと解するのが相当である。

 

      したがって,本件無償返還予定地の自用地としての価額の20%に相当する金額,すなわち,借地権及び貸家建付借地権の価額合計10億5985万1000円は,本件会社の土地保有割合の計算上,分母及び分子のいずれにも算入されるべきものである。

 

 

   

 

(7) 以上に述べたところによれば,本件相続の開始時点における本件会社の総資産価額(相続税評価額)は175億7455万6000円(別表16の①の価額)であり,本件会社が所有する土地等の価額(相続税評価額)の合計額は132億8122万1000円(別表16の(ハ)の価額)であるから,本件会社の土地保有割合は75.57%となる。

     したがって,本件会社は土地保有特定会社に該当する。

  

 

 

3 争点(3)(本件株式についてとるべき評価方法及び一株当たりの評価額)について

   先に検討したとおり,本件会社は土地保有特定会社に該当するから,本件株式は純資産価額方式によって評価すべきであるところ,その評価額は,別表16の⑪欄記載のとおり,1株当たり55万1817円となる。

  

 

4 本件各処分の適法性について

  

 

(1) 第二次各更正処分の適法性

     これまでに述べたところからすれば,原告らの本件相続に係る課税価格及び納付すべき税額は,別表19の「課税価格」欄及び「納付すべき相続税額」欄各記載のとおりであり(その計算根拠は,別表17から別表19までに記載するとおりである。),当該金額は,第二次各更正処分(ただし,本件裁決により一部取り消された後のもの。以下同じ。)に係る課税価格及び納付すべき税額と同額であるから,第二次各更正処分は適法である。

   

 

(2) 本件賦課決定処分の適法性

     原告らに係る過少申告加算税の金額は,別表3(順号10)記載のとおりであり,第一次各賦課決定処分(ただし,本件裁決により一部取り消された後のもの。以下同じ。)の金額と同額であるから,第一次各賦課決定処分は適法というべきである。

 

 

 

第4 結論

 

 

    以上によれば,原告らの請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし,主文のとおり判決する。

     東京地方裁判所民事第51部

         裁判長裁判官  小林宏司

            裁判官  堀内元城

            裁判官  武見敬太郎

 

 

 

(別紙2)

        本件各処分の根拠及び適法性

  1 第二次各更正処分の根拠及び適法性

   (1) 第二次各更正処分の根拠

     原告らの相続税に係る課税価格及び納付すべき相続税額は,別表1「課税価格等の計算明細表」記載のとおりであり,その詳細は,次のとおりである。

    ア 課税価格の合計額(別表1順号10の「合計額」欄の金額) 204億1596万1000円

      上記金額は,本件相続に係る相続人である原告ら及び他の相続人がそれぞれ相続により取得した次の(ア)の財産の価額(別表1順号6の各人の金額)から,次の(イ)の相続人らがそれぞれ負担する債務等の金額(別表1順号7の各人の金額)を控除してそれぞれ算出した純資産価額に,次の(ウ)の他の相続人の純資産価額に加算される相続開始前3年以内の贈与財産価額(別表1順号9の他の相続人に係る金額)を加算した後の,以下の各人の課税価格(ただし,国税通則法(平成21年法律第13号による改正前のもの)118条1項の規定により,相続人ら各人ごとに1000円未満の端数金額を切り捨てた後の金額。別表1順号10の相続人らの各課税価格)を合計した金額である。

      原告X1   25億9446万6000円

      原告X2   25億9446万6000円

      原告X4   25億9447万1000円

      原告X3   25億9446万6000円

      他の相続人 100億3809万2000円

     (ア) 相続により取得した財産の価額(別表1順号6の「合計額」欄の金額) 204億9908万0925円

       上記金額は,相続人らが本件相続により取得した財産の総額であり,その内訳は次のとおりである。

      a 土地等の価額(別表4順号13の「価額」欄の金額) 70億6679万2779円

        上記金額の内訳は,別表4「土地等の明細」記載のとおりである。

      b 家屋の価額(別表5順号3の「価額」欄の金額) 1138万7615円

        上記金額の内訳は,別表5「家屋の明細」記載のとおりである。

      c 有価証券の価額(別表6順号8の「価額」欄の金額) 123億4478万7480円

        上記金額の内訳は,別表6「有価証券の明細」記載のとおりである。

      d 現金預貯金等の価額(別表7順号15の「価額」欄の金額) 6億7378万9021円

        上記金額の内訳は,別表7「現金預貯金等の明細」記載のとおりである。

      e その他の財産の価額(別表8順号9の「価額」欄の金額) 4億0232万4030円

        上記金額の内訳は,別表8「その他の財産の明細」記載のとおりである。

     (イ) 債務等の金額(別表9順号10の「金額」欄の金額) 1億0311万7253円

       上記金額の内訳は,別表9「債務等の明細」記載のとおりである。

     (ウ) 相続開始前3年以内の贈与加算額 2000万円

       上記金額は,相続税法(平成21年法律第13号による改正前のもの。以下同じ。)19条1項の規定により,他の相続人が,本件相続の開始前3年以内に被相続人から贈与により財産を取得したことにより相続税の課税価格に加算される金額である。

    イ 納付すべき相続税額

      本件相続に係る原告らの納付すべき相続税額は,相続税法15条ないし17条の各規定に基づき,次のとおり算定したものである。

     (ア) 課税遺産総額(別表2順号3の金額) 203億1596万1000円

       上記金額は,上記アの課税価格の合計額から,相続税法15条の規定により,5000万円と1000万円に本件相続に係る相続人の数である5を乗じた金額5000万円との合計額1億円を控除した後の金額である。

     (イ) 法定相続分に応ずる取得金額(別表2順号5の各欄の金額)

      a 原告X1(法定相続分8分の1)   25億3949万5000円

      b 原告X2(法定相続分8分の1)   25億3949万5000円

      c 原告X4(法定相続分8分の1)   25億3949万5000円

      d 原告X3(法定相続分8分の1)   25億3949万5000円

      e 他の相続人(法定相続分2分の1)  101億5798万円

        上記各金額は,相続税法16条の規定により,相続人らが上記(ア)の金額を民法900条の規定による相続分(別表2順号4の各欄の割合)に応じて取得したものとした場合の各人の取得金額(ただし,昭和34年1月28日付け直資10による国税庁長官通達「相続税法基本通達の全部改正について」(平成21年6月17日付け課資2-5ほかによる改正前のもの。)16-3の取扱いにより,各相続人ごとに1000円未満の端数金額を切り捨てた後の金額)である。

     (ウ) 相続税の総額(別表1順号11及び別表2順号7の金額) 99億2298万円

       上記金額は,上記(イ)aないしeの各金額に,それぞれ相続税法16条に定める税率を乗じて算出した金額の合計額である。

     (エ) 原告X1の納付すべき相続税額(別表1順号15の「原告X1」欄の金額) 12億6101万5000円

       上記金額は,相続税法17条の規定により,上記(ウ)の金額に,上記アの課税価格の合計額204億1596万1000円(別表1順号10の「合計額」欄及び別表2順号1の金額)のうち原告X1に係る課税価格25億9446万6000円(別表1順号10の「原告X1」欄の金額)の占める割合を乗じて算出した金額(ただし,国税通則法119条1項の規定により100円未満の端数金額を切り捨てた後のもの。)である。

     (オ) 原告X2の納付すべき相続税額(別表1順号15の「原告X2」欄の金額) 12億6101万5000円

       上記金額は,相続税法17条の規定により,上記(ウ)の金額に,上記アの課税価格の合計額204億1596万1000円(別表1順号10の「合計額」欄及び別表2順号1の金額)のうち原告X2に係る課税価格25億9446万6000円(別表1順号10の「原告X2」欄の金額)の占める割合を乗じて算出した金額(ただし,国税通則法119条1項の規定により100円未満の端数金額を切り捨てた後のもの。)である。

     (カ) 原告X4の納付すべき相続税額(別表1順号15の「原告X4」欄の金額) 12億6101万7400円

       上記金額は,相続税法17条の規定により,上記(ウ)の金額に,上記アの課税価格の合計額204億1596万1000円(別表1順号10の「合計額」欄及び別表2順号1の金額)のうち原告X4に係る課税価格25億9447万1000円(別表1順号10の「原告X4」欄の金額)の占める割合を乗じて算出した金額(ただし,国税通則法119条1項の規定により100円未満の端数金額を切り捨てた後のもの。)である。

     (キ) 原告X3の納付すべき相続税額(別表1順号15の「原告X3」欄の金額) 12億6101万5000円

       上記金額は,相続税法17条の規定により,上記(ウ)の金額に,上記アの課税価格の合計額204億1596万1000円(別表1順号10の「合計額」欄及び別表2順号1の金額)のうち原告X3に係る課税価格25億9446万6000円(別表1順号10の「原告X3」欄の金額)の占める割合を乗じて算出した金額(ただし,国税通則法119条1項の規定により100円未満の端数金額を切り捨てた後のもの。)である。

   (2) 第二次各更正処分の適法性

     本件相続に係る原告らの納付すべき相続税額は,それぞれ上記(1)イ(エ)ないし(キ)のとおりであるところ,第二次各更正処分(ただし,本件裁決により一部取り消された後のもの。以下同じ。)における原告らの納付すべき相続税額は,いずれも上記(1)イ(エ)ないし(キ)の各被告主張額の範囲内であるから,第二次各更正処分は適法である。

  2 第一次各賦課決定処分の根拠及び適法性

   (1) 第一次各賦課決定処分の根拠

     上記1(2)のとおり,第二次各更正処分は適法であるところ,原告らは,相続税を過少に申告していたものであるから,同人らに対しては,第二次各更正処分により新たに納付すべきこととなった税額につき,国税通則法65条1項及び2項に基づき過少申告加算税が賦課されることとなる。

     原告らに課される過少申告加算税の金額は,次の各金額のとおりであり,その計算根拠は,別表3に記載のとおりである。

    ア 原告X1に係る過少申告加算税の額  7384万1000円

    イ 原告X2に係る過少申告加算税の額  7384万1000円

    ウ 原告X4に係る過少申告加算税の額  7384万1000円

    エ 原告X3に係る過少申告加算税の額  7384万1000円

   (2) 第一次各賦課決定処分の適法性

     上記(1)アないしエのとおり,原告らに課される過少申告加算税の額は,いずれも7384万1000円となるところ,第一次各賦課決定処分(ただし,本件裁決により一部取り消された後のもの。以下同じ。)における原告らの過少申告加算税の金額は,いずれもこれと同額であるから,第一次各賦課決定処分は適法である。

                         以上

 

 

 

 

東京地方裁判所 平成25年(行ウ)第186号 相続税更正処分取消等請求事件 平成27年7月30日