ほ脱犯(2)






 静岡地方裁判所判決/平成27年(わ)第67号、判決 平成27年5月18日 、LLI/DB 判例秘書登載について検討します。







【判示事項】 被告人A会社及び同B会社の各代表取締役C(被告人)は,法人税を免れようと企て,架空の純仕入高を計上し(A会社)あるいは架空の当期原材料仕入れ高を計上する(B会社)などの方法により所得を秘匿した上,虚偽の確定申告をし,不正の行為により法人税を免れたとする法人税法違反被告事件。裁判所は事実を認め,被告人両会社のほ脱率が高く,ほ脱の方法も計画性が高く巧妙で,多数の関係者を巻き込んだ上に身勝手かつ中心的な動機から犯行に及んでおり被告人らの刑責は重いが,被告人Cは各被告人会社について修正申告を行った上で本税を完納するなどし,前科前歴もないなどから,被告人A会社に罰金3500万円,被告人B会社に罰金380万円,被告人Cに懲役2年,執行猶予4年を言い渡した事例 















 






主   文



  被告人A株式会社を罰金3500万円に処する。

  被告人B株式会社を罰金380万円に処する。

  被告人Cを懲役2年に処する。

  被告人Cに対し,この裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予する。


       







理   由


  【罪となるべき事実】




 第1 被告人A株式会社(以下「被告会社A」という。)は,静岡県富士市(以下略)に本店を置き,自動車の販売等を目的とする資本金3000万円の株式会社であり,被告人C(以下「被告人C」という。)は,被告会社Aの代表取締役としてその業務全般を統括していたものであるが,被告人Cにおいて,被告会社Aの業務に関し,法人税を免れようと企て,架空の純仕入高を計上するなどの方法により所得を秘匿した上



  1 平成22年1月1日から同年12月31日までの事業年度における実際所得金額が1億8700万1476円(別紙1-1の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず,平成23年2月26日,静岡県富士市本市場(もといちば)297番地の1所轄富士税務署において,同税務署長に対し,財務省令で定める電子情報処理組織を使用して行う方法により,所得金額が1571万6749円で,これに対する法人税額が373万9400円である旨の虚偽の法人税確定申告をし,そのまま法定納期限を徒過させ,もって不正の行為により,同事業年度における正規の法人税額5512万4900円と前記申告税額との差額5138万5500円(別紙2のほ脱税額計算書参照)を免れ



 2 平成23年1月1日から同年12月31日までの事業年度における実際所得金額が1億3855万7088円(別紙1-2の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず,平成24年2月26日,前記富士税務署において,同税務署長に対し,前記電子情報処理組織を使用して行う方法により,所得金額が2125万3489円で,これに対する法人税額が540万5600円である旨の虚偽の法人税確定申告をし,そのまま法定納期限を徒過させ,もって不正の行為により,同事業年度における正規の法人税額4059万6800円と前記申告税額との差額3519万1200円(別紙2のほ脱税額計算書参照)を免れ



 3 平成24年1月1日から同年12月31日までの事業年度における実際所得金額が2億250万561円(別紙1-3の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず,平成25年2月26日,前記富士税務署において,同税務署長に対し,前記電子情報処理組織を使用して行う方法により,所得金額が2912万9930円で,これに対する法人税額が777万2300円である旨の虚偽の法人税確定申告をし,そのまま法定納期限を徒過させ,もって不正の行為により,同事業年度における正規の法人税額5978万3600円と前記申告税額との差額5201万1300円(別紙2のほ脱税額計算書参照)を免れ





第2 被告人B株式会社(以下「被告会社B」という。)は,静岡県富士市(以下略)に本店を置き,自動車の修理等を目的とする資本金3040万円の株式会社であり,被告人Cは,被告会社Bの代表取締役としてその業務全般を統括していたものであるが,被告人Cにおいて,被告会社Bの業務に関し,法人税を免れようと企て,架空の当期原材料仕入高を計上するなどの方法により所得を秘匿した上



  1 平成22年1月1日から同年12月31日までの事業年度における実際所得金額が748万5330円(別紙3-1の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず,平成23年2月26日,前記富士税務署において,同税務署長に対し,前記電子情報処理組織を使用して行う方法により,所得金額が零円で,納付すべき法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告をし,そのまま法定納期限を徒過させ,もって不正の行為により,同事業年度における正規の法人税額134万7300円(別紙4のほ脱税額計算書参照)を免れ



 2 平成23年1月1日から同年12月31日までの事業年度における実際所得金額が2448万6368円(別紙3-2の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず,平成24年2月26日,前記富士税務署において,同税務署長に対し,前記電子情報処理組織を使用して行う方法により,所得金額が369万7176円で,これに対する法人税額が66万4900円である旨の虚偽の法人税確定申告をし,そのまま法定納期限を徒過させ,もって不正の行為により,同事業年度における正規の法人税額638万5300円と前記申告税額との差額572万400円(別紙4のほ脱税額計算書参照)を免れ



 3 平成24年1月1日から同年12月31日までの事業年度における実際所得金額が3522万2254円(別紙3-3の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず,平成25年2月26日,前記富士税務署において,同税務署長に対し,前記電子情報処理組織を使用して行う方法により,所得金額が806万2534円で,これに対する法人税額が145万8000円である旨の虚偽の法人税確定申告をし,そのまま法定納期限を徒過させ,もって不正の行為により,同事業年度における正規の法人税額960万6000円と前記申告税額との差額814万8000円(別紙4のほ脱税額計算書参照)を免れ

 たものである。






  【証拠の標目】

 括弧内の甲乙を付した数字は,証拠等関係カードにおける検察官請求証拠番号を示す。

 判示事実全部について

 ・ 被告人Cの公判供述

・ 被告人Cの検察官調書(乙4ないし6,10)

・ D(甲27,36),E(甲39),F(甲48),G(甲49,50),H(甲51),I(甲55),J(甲61,62),K(甲63),L(甲64,65),M(甲66)の各検察官調書

・ 捜査報告書(甲1)

 判示第1の事実全部について

 ・ 被告人Cの検察官調書(乙7,8)

・ D(甲28ないし34),E(甲40),N(甲42,43),O(甲45),P(甲46),Q(甲47),R(甲60)の各検察官調書

・ 捜査報告書(甲5)

・ 査察官調査書(甲6ないし17)

・ 履歴事項全部証明書(乙16)

 判示第1の1の事実について

 ・ 証明書(甲2)

 判示第1の2の事実について

 ・ 証明書(甲3)

 判示第1の3の事実について

 ・ 証明書(甲4)

 判示第2の事実全部について

 ・ 被告人Cの検察官調書(乙9)

・ D(甲35),S(甲52),T(甲53),U(甲54)の各検察官調書

・ 捜査報告書(甲21)

・ 査察官調査書(甲22ないし26)

・ 履歴事項全部証明書(乙17)

 判示第2の1の事実について

 ・ 証明書(甲18)

 判示第2の2の事実について

 ・ 証明書(甲19)

 判示第2の3の事実について

 ・ 証明書(甲20)









  【法令の適用】

 1 被告会社Aについて

  罰条

    判示第1の1の事実 平成23年法律第82号による改正前の法人税法163条1項,法人税法159条1項,同条2項(情状による)

    判示第1の2および第1の3の各事実

              法人税法163条1項,159条1項,同条2項(情状による)

    併合罪の処理    刑法45条前段,48条2項

 2 被告会社Bについて

  罰条

    判示第2の1の事実 平成23年法律第82号による改正前の法人税法163条1項,法人税法159条1項

    判示第2の2および第2の3の各事実

              法人税法163条1項,159条1項

    併合罪の処理    刑法45条前段,48条2項

 3 被告人Cについて

  罰条

    判示第1の1ないし3および第2の1ないし3の各行為

              法人税法159条1項

    刑種の選択     いずれも懲役刑

    併合罪の処理    刑法45条前段,47条本文,10条(犯情の最も重い判示第1の3の罪の刑に法定の加重)

    刑の執行猶予    刑法25条1項





  【量刑の理由】

  本件は,被告人Cが,代表取締役を務める自動車の販売等又は自動車の修理等を目的とする被告両会社において,それぞれ3事業年度にわたり,架空仕入や在庫除外等の方法により所得を秘匿し,虚偽の過少申告を行って法人税をほ脱した事案である。


  まず,被告両会社における3事業年度のほ脱額およびほ脱率についてみるに,被告会社Aについては,ほ脱額合計約1億3858万円,ほ脱率約89パーセントと高額,高率であり,



被告会社Bについては,ほ脱額は約1521万円とこの種事案としてはさほど高くないものの,ほ脱率は約87パーセントと高く,各犯行の結果は重い。





  また,ほ脱の方法についてみても,被告人Cが,実体のない会社を知人から購入したり新たに設立させたりして,多数のダミー法人を用意するなどした上,架空仕入,在庫除外および売上除外等の様々な手段を用いて被告両会社の所得を過少に装ったもので,計画性が高く巧妙である。



 さらに,被告人Cは,業界内での優位な立場を利用して取引先等の関係者に粉飾の協力を求め,被告両会社の従業員に粉飾を指示するなどして多数の関係者を巻き込んでおり,これら一連の犯行態様は悪質である。




  そして,被告人Cは,会社の利益から多額の税金を支払いたくないと考え,脱税により得た金を運転資金に充てて会社の利益を図るという目的のみならず,自分の自由になる金を得る目的で各犯行に及んでおり,このような身勝手かつ自己中心的な動機に酌むべき余地はない。



 これらの犯情事実,とりわけ犯行態様の悪質さや結果の重さからすると,被告人らの刑責は重い。



  もっとも,被告人Cは,被告両会社について修正申告を行った上で本税を完納し,重加算税および延滞税についても全額分を予納済みであること,被告会社Bについては県税等も完納していること,被告会社Aの監査役には親族以外の者が新たに選任され,会社の経理体制の改善が図られていること,被告人Cは素直に反省して更生を誓っていること,同被告人には前科前歴もないこと等の被告人らのために酌むべき事情も認められる。


  そこで,以上の諸事情を総合考慮し,被告人Cについては,社会内での更生の機会を与え,被告両会社については,主文掲記の各罰金刑に処するのが相当と判断した。


 (求刑 被告会社Aにつき罰金4200万円,被告会社Bにつき罰金460万円,被告人Cにつき懲役2年)

   平成27年5月18日

     静岡地方裁判所刑事第1部

         裁判長裁判官  佐藤正信

            裁判官  大村陽一

            裁判官  小澤明日香