ほ脱犯(1)








 さいたま地方裁判所判決/平成26年(わ)第1322号、判決 平成27年6月26日、 LLI/DB 判例秘書登載を検討します。







 【判示事項】 生活困窮者を対象に,低額宿泊施設を営んでいた被告人が,売上金を他人名義の預金口座に入金する等の方法で所得を隠匿した上,虚偽の所得税確定申告を行って,所得税のほ脱をした所得税法違反の事案。裁判所は,ほ脱所得額,ほ脱税額は,多額で,ほ脱率も99%超と,国の租税債権を害した結果は重く,厳しく非難されるべきであるが,本件ほ脱分の本税,延滞税,重加算税を納付済であること等を考慮し,懲役1年6月,罰金1500万円,懲役刑につき,3年の執行猶予に処した事例 








 

 

 

 

   

主   文

 

 

 


  被告人を懲役1年6月および罰金1500万円に処する。

  未決勾留日数中80日をその懲役刑に算入する。

  その罰金を完納することができないときは,金5万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

  この裁判が確定した日から3年間その懲役刑の執行を猶予する。


        

 

理   由


 

 

(罪となるべき事実)

 

  被告人は,埼玉県戸田市(以下略)等において,生活困窮者を対象とし,同人らから徴収した生活保護費等を資金に充てるなどして低額宿泊施設運営事業等を営んでいたものであるが,自己の所得税を免れようと企て,売上金を多数の他人名義の預金口座に入金するなどの方法により所得を秘匿した上,

 

 

 第1 平成21年分の実際総所得金額が7483万5640円であったにもかかわらず,平成22年3月11日,同県川口市西川口4丁目6番18号所轄西川口税務署において,同税務署長に対し,総所得金額が158万4700円で,これに対する所得税額が4万600円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し,そのまま法定納期限を徒過させ,もって不正の行為により,平成21年分の正規の所得税額2689万7700円と前記申告税額との差額2685万7100円を免れた。

 

 

 

  第2 平成22年分の実際総所得金額が9513万7849円であったにもかかわらず,平成23年3月1日,前記所轄西川口税務署において,同税務署長に対し,総所得金額が158万4696円で,これに対する所得税額が1900円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し,そのまま法定納期限を徒過させ,もって不正の行為により,平成22年分の正規の所得税額3498万2700円と前記申告税額との差額3498万800円を免れた。

 

 

 

 

(証拠の標目)

 

 

 

 括弧内の甲乙を冠した数字は証拠等関係カード記載の検察官請求分甲乙の各証拠番号を,職を冠した数字は同カード記載の職権証拠調べの証拠番号をそれぞれ示す。

 

 

 

 

(証拠の標目)

 

 

 判示事実全部について

 

 

・被告人の当公判廷における供述


・被告人の検察官調書(乙2ないし5,7ないし11)【乙3,5,9および10については不同意部分を除く】


・A(甲24ないし27,29〔抄本〕),

(以下略)の各検察官調書【甲24,32,33,36,41,43および46については不同意部分を除く】

 

 

・財務事務官作成の売上(収入)調査書(甲1,2),

 

その他収入調査書(甲3),

 

運営費調査書(甲4ないし7),

 

営業活動費調査書(甲8),

 

給料調査書(甲9),

 

減価償却費調査書(甲10),

 

地代家賃調査書(甲11),

 

租税公課調査書(甲12),

 

水道光熱費調査書(甲13),

 

旅費交通費調査書(甲14),

 

通信費調査書(甲15),

 

修繕費調査書(甲16),

 

消耗品費調査書(甲17),

 

支払手数料調査書(甲18),

 

雑費調査書(甲19)および固定資産除却損調査書(甲20)【甲1,3および8については不同意部分を除く】

 

 

 

・検察事務官作成の捜査報告書(甲21,72,73)

 

 

判示第1の事実について

 

 

・検察事務官作成の捜査報告書(甲22)

・財務事務官作成の脱税額計算書(職2)



 判示第2の事実について

 

 

・検察事務官作成の捜査報告書(甲23)

・財務事務官作成の脱税額計算書(職3)

 

 

 

 (法令の適用)

  被告人の判示第1の所為は平成22年法律第6号附則146条により同法による改正前の所得税法238条1項に,判示第2の所為は所得税法238条1項にそれぞれ該当するところ,各所定刑中いずれも懲役刑および罰金刑を選択し,以上は刑法45条前段の併合罪であるから,懲役刑については同法47条本文,10条により重い判示第2の罪の刑に法定の加重をし,罰金刑については同法48条2項により判示各罪所定の罰金の多額を合計し,その刑期および金額の範囲内で被告人を懲役1年6月および罰金1500万円に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中80日をその懲役刑に算入し,その罰金を完納することができないときは,同法18条により金5万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置し,情状により同法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から3年間その懲役刑の執行を猶予することとする。

 

 

 

(量刑の理由)

  

 

 ほ脱所得額は合計約1億6680万円,ほ脱税額は約6184万円といずれも多額に上り,各年度のほ脱率もそれぞれ99パーセントを上回っており,国の租税債権を害した結果は重い。

 

 しかも,多数の他人名義の預金口座に所得を入金して秘匿し,別居中の妻に一任していた年金分の確定申告以外の一切の申告をしないで脱税したものであり,厳しく非難されるべきである。

 

 そうすると,直ちに実刑に処するほど悪質とまではいえないものの,相当期間の懲役刑に加え,それなりに高額の罰金刑を併科するのが相当である。

 

 

  その上で,本件各ほ脱分にかかる本税,延滞税,重加算税はいずれも納付済みであるほか,被告人には異種の罰金前科を除き前科がないこと,被告人が事実を争わず,二度と脱税はしない旨述べていること,知人の税理士も被告人からの相談があれば適正に指導する旨誓約していること等も考慮して,主文のとおり量刑することとした。

 

 

 (求刑・懲役1年6月および罰金2000万円)

   平成27年7月1日

     さいたま地方裁判所第2刑事部

         裁判長裁判官  栗原正史

            裁判官  渡邉史朗

            裁判官  舘崎友輔

 




さいたま地方裁判所 平成26年(わ)第1322号 所得税法違反被告事件 平成27年6月26日