東京地方裁判所判決/平成27年(特わ)第617号 、判決 平成27年7月17日、 LLI/DB 判例秘書登載について検討します。
【判示事項】
家庭用浄水機の販売業を営んでいた被告人が,虚偽の所得税確定申告書を提出した虚偽過少申告ほ脱及び浄水機の仕入れを他社名義でしたように装って所得を秘匿した上,所得税確定申告提出期限を徒過した虚偽不申告ほ脱の所得税法違反の事案。裁判所は,ほ脱所得額は1億6538万円余,ほ脱税額は6032万円余と高額であり,ほ脱率も99%を超える高率で,納税に対する規範意識の低さは強く非難すべきとし,懲役1年,罰金1300万円,懲役刑につき執行猶予3年に処した事例
主 文
被告人を懲役1年及び罰金1300万円に処する。
その罰金を完納することができないときは,金13万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判確定の日から3年間その懲役刑の執行を猶予する。
理 由
(罪となるべき事実)
被告人は,家庭用浄水機の販売業等を営んでいたものであるが,
第1 平成23年分の実際総所得金額が5068万2876円であったにもかかわらず(別紙1所得金額総括表及び修正損益計算書参照),平成24年3月8日,東京都港区芝5丁目8番1号所轄芝税務署において,同税務署長に対し,総所得金額が201万3203円で,これに対する所得税額が5万8400円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し,そのまま法定納期限を徒過させ,もって不正の行為により,平成23年分の正規の所得税額1688万9600円(別紙2ほ脱税額計算書参照)と上記申告税額との差額1683万1200円を免れ,
第2 浄水機の仕入れ等をA株式会社名義で行って自己が行った取引の一部をあたかも同社が行った取引であるかのように装うなどの方法により所得を秘匿した上,平成24年分の実際総所得金額が1億1671万3863円であったにもかかわらず(別紙3所得金額総括表及び修正損益計算書参照),所得税の納期限である平成25年3月15日までに,前記所轄芝税務署長に対し,所得税確定申告書を提出しないで同期限を徒過させ,もって不正の行為により,平成24年分の所得税額4349万5200円(別紙4ほ脱税額計算書参照)を免れた。
(証拠の標目)
以下,括弧内の番号は証拠等関係カード記載の検察官請求番号を示す。
判示全事実について
・被告人の公判廷供述
・被告人の検察官調書(乙5ないし12,14)
・Bの検察官調書(甲27)
・Cの検察官調書(甲28,29,31,いずれも謄本)
・Dの検察官調書(甲32,謄本)
・捜査報告書(甲1,26)
・調査書(甲2ないし16,18,20,22)
判示第1の事実について
・捜査報告書(甲24)
・調査書(甲17,19)
判示第2の事実について
・調査書(甲21)
(法令の適用)
罰条 いずれも所得税法238条1項
刑種選択 いずれも懲役刑及び罰金刑
併合罪加重 刑法45条前段,懲役刑につき同法47条本文,10条(犯情の重い判示第2の罪の刑に加
重),罰金刑につき同法48条2項(多額を合計)
労役場留置 刑法18条
執行猶予 懲役刑につき刑法25条1項
(量刑の理由)
本件は,所得税の虚偽過少申告ほ脱犯(判示第1)及び虚偽不申告ほ脱犯(判示第2)の事案である。
判示第1の犯行は,所得秘匿工作を伴わないいわゆるつまみ申告であり,
判示第2の犯行は,被告人が営む事業に係る取引の一部につき取引の名義を偽るなどの所得秘匿工作をした上で,つまみ申告を意図していたところ,確定申告をしないうちに法定納期限を過ぎてしまったというものである。
ほ脱所得額は合計1億6538万円余り,
ほ脱税額は合計6032万円余りと高額であり,
ほ脱率も99パーセントを超える高率である。
国民の多くが真面目に納税している中で,被告人は,自分の稼いだお金を自分の思うように使いたいとの思いから,安易に犯行に及んでおり,納税に対する規範意識の低さは強く非難されるべきものである。
以上の犯情からは,被告人に対しては,一定期間の懲役刑を科すと共に,不法利益の取得を目的とする犯罪行為が経済的に引き合わないことを感銘させるため罰金刑を併科すべきであるが,懲役刑については,犯情のみから直ちに実刑を科すのが相当とはいえない。
そして,一般情状として,被告人が本税及び延滞税を納付しており,加算税についても今後納付していく旨述べていること,事実を認め,反省の情を述べていること,前科のないことを考慮すると,主文の刑が相当である。
(求刑,懲役1年及び罰金1800万円)
平成27年8月4日
東京地方裁判所刑事第8部
裁判官 野澤晃一