米国デラウェア州法に基づいて設立されたリミテッド・パートナーシップ(1)

 




 名古屋地方裁判所判決/平成19年(行ウ)第50号、平成19年(行ウ)第51号、平成19年(行ウ)第52号、平成20年(行ウ)第29号、平成20年(行ウ)第30号、平成20年(行ウ)第77号 、 平成23年12月14日 判決について検討します。






【判示事項】 外国信託銀行を受託者とする信託契約を介して,LPS法人がした米国所在の中古集合住宅の貸付け損益については,原告ら投資家の不動産所得に該当し,所得税法所定の損益通算をした上,総所得金額及び納付すべき税額を算定すべきことになるとして,当該損益通算を認めない税務署長の通知処分を違法であるとして取消した事例 


【掲載誌】  税務訴訟資料261号順号11833 











事案の概要



  1 本件は,原告ら投資家が,外国信託銀行を受託者とする信託契約を介して出資したLPS(米国デラウェア州改正統一リミテッド・パートナーシップ法に準拠して組成されるリミテッド・パートナーシップ)が行った米国所在の中古集合住宅の貸付けに係る所得が,所得税法26条1項所定の不動産所得に該当するとして,その減価償却等による損金と他の所得との損益通算をして所得税の申告又は更正の請求をしたところ,各処分行政庁から,当該所得は不動産所得に該当せず,損益通算を行うことはできないとして,それぞれ,所得税の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分又は更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分を受けたことから,原告らが,前記第1の請求のとおり,本件各処分の取消しを求めている事案である。











前提事実(証拠等の摘示がないものは当事者間に争いがない。以下,書証番号は,特記しない限り枝番を含む。)




  (1) 本件における取引の概要等



  本件における取引の概略図は,別紙図表1(本件LPS(C)について)及び別紙図表2(本件LPS(P)について)記載のとおりであり,その具体的内容は,次のとおりである。





  ア 関連会社等の概要


  (ア) N2証券(N2)


  N2証券は,ドイツ連邦共和国所在のI1銀行を親会社として,日本におけるI1銀行グループの証券業務の中核を担うものとして,昭和61年に設立された。


  本件において,N2証券は,原告ら投資家を含む日本人投資家との間でファイナンシャル・アドバイザリー契約(本件各アドバイザリー契約)を締結し,投資家に対して投資事業プログラム「DOIT」(Dual Ownership Investment Tactics。本件スキーム)の紹介及び提供等をし,その対価としての報酬を受領していた。


  なお,N2証券は,平成15年,本件スキームにおける役務提供を含む資産コンサルティング部門の営業をJ1に営業譲渡した。




  (イ) L1’銀行(L1’)



  L1’銀行は,ルクセンブルク大公国の法律に基づき設立された同国所在の法人である。


  L1’銀行は,本件各信託契約において,受託銀行とされており,また,本件各LPSのリミテッド・パートナーとして,本件各GPとの間で本件各LPS契約を締結した。




  (ウ) M1(M1)



  M1は,英国領ケイマン諸島の法令に基づいて設立された同諸島所在の法人であり,いわゆる不動産ヘッジファンドである。


  M1は,本件LPS(C)のリミテッド・パートナーとしてL1’銀行とともに,本件GP(C)との間で本件LPS契約(C)を締結した。




  (エ) 本件GP(C)(N1)



  本件GP(C)は,米国デラウェア州所在の有限責任会社である。


  本件GP(C)は,本件LPS(C)のジェネラル・パートナーとして,リミテッド・パートナーであるL1’銀行及びM1との間で本件LPS契約(C)を締結した。




  (オ) 本件LPS(C)(O1)



  本件LPS(C)は,州LPS法に基づき,本件GP(C)をジェネラル・パートナー,L1’銀行及びM1をリミテッド・パートナーとして組成された米国のリミテッド・パートナーシップであり,本件建物(C)の購入,取得,開発,保有,賃貸,管理,売却その他の処分の目的のために設立されたものである。


  本件LPS(C)は,Q1との間の本件売買契約(C)並びに本件売買契約,リース及び共同エスクロー指示に関する契約(C)における本件建物(C)の買主であり,また,本件土地賃貸借契約(C)における借主である。



  (カ) Q1(Q1)


  Q1は,米国カリフォルニア州所在のリミテッド・パートナーシップである。


  Q1は,本件LPS(C)との間の本件売買契約(C)並びに本件売買契約,リース及び共同エスクロー指示に関する契約(C)における本件建物(C)の売主であり,また,本件土地賃貸借契約(C)における貸主である。





  (キ) R1(R1)


  R1は,米国カリフォルニア州所在のリミテッド・パートナーシップである。

  R1は,本件LPS(C)に対し,本件建物(C)の購入資金として241万4900ドルを融資している。




  (ク) S1(S1)


  S1は,米国デラウェア州所在の法人である(乙A全22)。

  S1は,本件LPS(C)に対し,本件建物(C)の購入資金として3285万ドルを融資している。




  (ケ) T1(T1)


  T1は,米国カリフォルニア州所在の法人である。

  T1は,本件LPS(C)との間の本件管理契約(C)による本件不動産(C)の賃貸に係る管理・運営業務を行う管理者である。




  (コ) 本件GP(P)(U1)


  本件GP(P)は,米国デラウェア州所在の有限責任会社である。

  本件GP(P)は,本件LPS(P)のジェネラル・パートナーとして,リミテッド・パートナーであるL1’銀行との間で本件LPS契約(P)を締結した。




  (サ) 本件LPS(P)(V1)


  本件LPS(P)は,州LPS法に基づき,本件GP(P)をジェネラル・パートナー,L1’銀行をリミテッド・パートナーとして組成された米国のリミテッド・パートナーシップであり,本件建物(P)の購入,取得,開発,保有,賃貸,管理,売却その他の処分の目的ために設立されたものである。

  本件LPS(P)は,W1との間の本件売買契約(P)並びに本件売買契約,リース及び共同エスクロー指示に関する契約(P)における本件建物(P)の買主であり,また,本件土地賃貸借契約(P)における借主である。




  (シ) W1(W1)


  W1は,米国デラウェア州所在のリミテッド・パートナーシップである。

  W1は,本件売買契約(P)並びに本件売買契約,リース及び共同エスクロー指示に関する契約(P)における本件建物(P)の売主であり,また,本件土地賃貸借契約(P)における貸主である。




  (ス) Z1(Z1)


  Z1は,米国デラウェア州所在の法人である。

  Z1は,本件LPS(P)に対し,本件建物(P)の購入資金として537万米国ドル(以下,単に「ドル」という。)を融資している。




  (セ) G2(G2)


  G2は,米国コロンビア特別区所在の法人である。

  G2は,本件LPS(P)との間の本件管理契約(P)による本件不動産(P)の賃貸に係る管理・運営業務を行う管理者である。




  (ソ) J1(株式会社J1)


  J1は,平成15年7月17日に成立され,N2証券より,同年末に,その資産コンサルティング部門を営業譲渡された。

  J1は,N2証券から原告ら投資家のファイナンシャル・アドバイザーとしての業務の譲渡を受け,原告ら投資家との間で,新たにファイナンシル・アドバイザリー契約を締結し,それに基づいて,原告ら投資家のファイナンシャル・アドバイザーに就任した。

  なお,J1は,M1の日本における子会社である。




  (タ) I2銀行(I2)


  I2銀行は,米国の法律に基づいて設立された米国西海岸の信託銀行である。

  I2銀行は,L1’銀行から本件各LPSのパートナーシップ持分を譲り受けた,本件各新信託契約における受託者である。











  イ 原告ら投資家(原告X1,亡G1及び原告X2)による不動産投資事業への参加申込み等




  (ア) 原告ら投資家は,N2証券との間で,N2証券をファイナンシャル・アドバイザーとするファイナンシャル・アドバイザリー契約(本件アドバイザリー契約(C)[別紙図表1契約①],本件アドバイザリー契約(P)[別紙図表2契約①])を締結するとともに,原告X1ら(原告X1及び亡G1)は本件建物(C),原告X2は本件建物(P)をそれぞれ対象として,投資金額を1口20万ドルとする海外不動産投資事業に関する「DOITプログラム参加申込書」に投資口数の記載及び署名をして,本件各不動産投資事業に参加を申し込んだ。



  また,原告ら投資家は,本件各不動産投資事業に投資するため,L1’銀行との間で,自己を委託者兼受益者,L1’銀行を受託者とする基本信託契約である「MASTER FIDUCIARY CONTRACT」(本件信託契約(C)[別紙図表1契約②],本件信託契約(P)[別紙図表2契約②])を締結し,本件各信託契約に基づいて,L1’銀行に開設された口座(以下「エスクロー口座」という。)に現金資産を拠出した。







  (イ) 本件各信託契約の内容は,要旨,別紙4「契約②の内容の要旨」記載のとおりである(乙A全3,36,弁論の全趣旨)。












  ウ リミテッド・パートナーシップ組成に係る契約等




  (ア) L1’銀行は,M1と共に,本件GP(C)との間で,2000年(平成12年)12月19日付けで,本件GP(C)をジェネラル・パートナー,L1’銀行及びM1をリミテッド・パートナーとするパートナーシップ契約である「□□」(本件LPS契約(C)[別紙図表1契約③])を締結し,米国のリミテッド・パートナーシップであるO1(本件LPS(C))を組成した。



  同様に,L1’銀行は,本件GP(P)との間で,2002年(平成14年)3月28日付けで,本件GP(P)をジェネラル・パートナー,L1’銀行をリミテッド・パートナーとするパートナーシップ契約である「△△」(本件LPS契約(P)[別紙図表2契約③])を締結し,米国のリミテッド・パートナーシップであるV1(本件LPS(P))を組成した。



  そして,L1’銀行は,本件LPS契約(C)に基づき,原告X1らが拠出した現金資産を本件LPS(C)に拠出して,本件LPS(C)のパートナーシップの持分を得,同様に,本件LPS契約(P)に基づき,原告X2が拠出した現金資産を本件LPS(P)に拠出して,本件LPS(P)のパートナーシップの持分を得た。





  なお,パートナーシップとは,




米国各州の立法で認められている2名以上の者により組成される事業活動や投資活動を営むための組織形態であり,




パートナーシップ債務に対して無限責任を負い当該事業活動を代理する権利を有する2名以上のジェネラル・パートナー(GP)のみによって構成されるジェネラル・パートナーシップ(GPS)と,




パートナーシップ債務に対して無限責任を負い当該事業活動を代理する権利を有する1名以上のジェネラル・パートナー(GP)とパートナーシップ債務に対して,原則として出資額を限度とする有限責任を負い,当該事業活動に対する限定的な経営参加権を有する1名以上のリミテッド・パートナー(LP)によって構成されるリミテッド・パートナーシップ(LPS)の2種類がある。









  (イ) 本件各LPS契約の内容は,要旨,別紙5「契約③の内容の要旨」記載のとおりである(乙A全4,37,弁論の全趣旨)。










  エ 本件不動産(C)に係る契約等




  本件LPS(C)は,Q1との間において,2000年(平成12年)12月22日付けで,本件不動産(C)に係る契約当事者の権利と責務に関する「BUY-SELL AGREEMENT」(本件売買契約(C)[別紙図表1契約④]),本件土地(C)の本件LPS(C)への賃貸借に関する「GROUND LEASE」(本件土地賃貸借契約(C)[別紙図表1契約⑤])を締結するとともに,同月19日付けで,本件建物(C)の本件LPS(C)への売却等本件不動産賃貸事業(C)に関する「PURCHASE AND SALE AGREEMENT,AGREEMENT TO LEASE AND JOINT ESCROW INSTRUCTIONS」(本件売買契約,リース及び共同エスクロー指示に関する契約(C)[別紙図表1契約⑥])を締結し,本件建物(C)を購入するとともに,本件土地(C)を賃借した上,本件建物(C)を第三者に対して賃貸する事業(本件不動産賃貸事業(C))を行った。






  なお,本件不動産賃貸事業(C)に関して,本件LPS(C)は,R1及びS1から,本件建物(C)購入等に係る資金を借り入れ,これらの資金及び前記L1’銀行からの拠出金を本件不動産賃貸事業(C)の資金とした。



  また,本件LPS(C)は,本件不動産(C)の賃貸に係る管理・運営業務について,T1との間で,同月22日付けで,本件LPS(C)を委託者,T1を受託者とする管理委託契約である「MANAGEMENT CONTRACT」(本件管理契約(C)[別紙図表1契約⑦])を締結した。











  オ 本件不動産(P)に係る契約等



  本件LPS(P)は,W1との間において,2002年(平成14年)3月28日付けで,本件不動産(P)に係る契約当事者の権利と責務に関する「BUY-SELL AGREEMENT」(本件売買契約(P)[別紙図表2契約④]),本件土地(P)の本件LPS(P)への賃貸借に関する「GROUND LEASE」(本件土地賃貸借契約(P)[別紙図表2契約⑤])を締結するととともに,同年12月19日付けで,本件建物(P)の本件LPS(P)への売却等本件不動産賃貸事業(P)に関する「PURCHASE AND SALE AGREEMENT,AGREEMENT TO LEASE AND JOINT ESCROW INSTRUCTIONS」(本件売買契約,リース及び共同エスクロー指示に関する契約(P)[別紙図表2契約⑥])を締結し,本件建物(P)を購入するとともに,本件土地(P)を賃借した上,本件建物(P)を第三者に対して賃貸する事業(本件不動産賃貸事業(P))を行った。



  なお,本件不動産賃貸事業(P)に関して,本件LPS(P)は,Z1から,本件建物(P)購入等に係る資金を借り入れ,この資金及び前記L1’銀行からの拠出金を本件不動産賃貸事業(P)の資金とした。

  また,本件LPS(P)は,本件不動産(P)の賃貸に係る管理・運営業務について,G2との間で,同年3月28日付けで,本件LPS(P)を委託者,G2を受託者とする管理委託契約である「MANAGEMENT AGREEMENT」(本件管理契約(P)[別紙図表2契約⑦])を締結した。










  カ ファイナンシャル・アドバイザリー業務の譲渡に係る契約等



  (ア) N2証券のアドバイザリー業務がJ1に譲渡されることに伴い,原告ら投資家は,N2証券の依頼に従い,L1’銀行に対し,原告X1らにつき「Re,Master Fiduciary Contract - ××」と題する書面,原告X2につき「Re,Master Fiduciary Contract - ◇◇」と題する書面により,本件各信託契約を解約する旨を通知し,他方,N2証券は,原告ら投資家に対し,「DOITプログラム・ファイナンシャル・アドバイザー業務の譲渡について」と題する書面によって,原告ら投資家のファイナンシャル・アドバイザーとしての業務をJ1に譲渡する旨を通知した。




  (イ) 上記(ア)に伴い,原告ら投資家は,J1との間で,新たにファイナンシャル・アドバイザリー契約(本件新アドバイザリー契約(C)[別紙図表1契約⑧],本件新アドバイザリー契約(P)[別紙図表2契約⑧])を締結し,また,I2銀行との間で,それぞれ,新たに本件各新信託契約(本件新信託契約(C)[別紙図表1契約⑨],本件新信託契約(P)[別紙図表2契約⑨])を締結した。



  (ウ) 本件各新信託契約の内容は,要旨,別紙6「契約⑨の内容の要旨」記載のとおりである(乙A全12,45,弁論の全趣旨)。




  (エ) L1’銀行及びI2銀行は,原告ら投資家の指示に基づき,平成15年11月28日付けで,本件各LPSのパートナーシップ持分の譲渡に関する契約(別紙図表1及び2の契約⑩)を締結し,原告ら投資家に係る本件各LPSのパートナーシップ持分をL1’銀行からI2銀行に譲渡した。




  (オ) 本件各LPSのパートナーシップ持分の譲渡に関する契約の内容は,要旨,別紙7「契約⑩の内容の要旨」記載のとおりである(乙A全13,弁論の全趣旨)。









  キ 本件スキームの概要(乙A全16)




  本件各信託契約は,N2証券が企画した本件スキームに基づいて,一体的に実行されることが企図された複合契約の一部である。



  N2証券は,本件各LPSを利用して本件各建物を賃貸することやその投資効果など本件スキームの内容を説明した「“DOIT” Dual Ownership Investment Tactics海外不動産投資事業プログラムのご案内(基本コンセプト)」(以下「本件説明書(基本コンセプト)」という。),「海外不動産投資事業プログラムのご案内(ハイライト)」(以下「本件説明書(ハイライト)」という。)及び「City Heights Apartments-予想投資損益の概略-」(以下,「本件予想投資損益説明書」といい,本件説明書(基本コンセプト)及び本件説明書(ハイライト)と併せて「本件各説明書」という。)といった各パンフレットを作成し,一般個人投資家を対象に本件各不動産投資事業への参加を勧誘し,これに応じて原告ら投資家を含む一般の個人投資家が参加した。






  (ア) 本件予想投資損益説明書の記載(なお,以下では,本件不動産(C)に関するものとして記載するが,本件不動産(P)に関しても,その仕組み自体は基本的に同じである。)




  a 本件スキームに係る出資金額


  1口当たり2000万円




  b 本件不動産賃貸事業(C)に係る受取キャッシュ


 本件土地(C)に係る地代他支払後の出資金2000万円(1口)当たりの受取キャッシュは,投資期間は6ないし7年とし(2006年10月販売活動開始),7年経過後の本件建物(C)の売却価格が購入価格から上昇しないことを前提とした場合,


  2001年10月において 7000円

  2002年10月において 9000円

  2003年10月において 1万2000円

  2004年10月において 41万3000円

  2005年10月において 73万9000円

  2006年10月において 105万0000円

  2007年10月において 137万3000円



であると見込まれており,その合計60万3000円が,7年間に投資者が受領する受取キャッシュの総額であると想定されている(乙A全16の4枚目)。






  c 本件不動産賃貸事業(C)に係る不動産所得



  前記bと同様の条件を前提とした場合,本件不動産賃貸事業(C)に係る出資金2000万円(1口)当たりの不動産所得(前記bの受取キャッシュから減価償却費を差し引いた金額)は,



  2001年10月において ▲2102万2000円(損金)

  2002年10月において ▲2102万1000円(損金)

  2003年10月において ▲2101万8000円(損金)

  2004年10月において ▲2061万6000円(損金)

  2005年10月において ▲ 393万4000円(損金)

  2006年10月において 105万0000円(益金)

  2007年10月において 137万3000円(益金)



と見込まれており,その合計▲8518万8000円(損金)が,7年間における投資家の不動産所得になると想定されている(乙A全16の4枚目)。







  d 7年後の本件建物(C)売却時の受取キャッシュ


 本件建物(C)の売却価格が購入価格から上昇しないことを前提とした場合,本件建物(C)売却予定時である2007年10月における出資金2000万円(1口)当たりの本件建物(C)売却に係る受取キャッシュは541万8000円であると想定されている(乙A全16の4枚目)。







  e 投資効果


  出資金額に対する「税務効果(節税額)」(下記(a))及び「税引き後受取金額」(下記(b)))の7年間通算の合計額(手数料等支払後)が約3258万2000円であり,「投資効果(7年間総合)」は約163%であると想定されている(乙A全16の4枚目)。






  (a) 「税務効果(節税額)」



  「税務効果(節税額)」とは,本件予想投資損益説明書4枚目の表「⑤納税想定額」欄の合計額2350万5000円のことであり,7年間における「還付金」の合計額から「支払」の合計額を差し引いた金額である。

  この税務効果は,7年間その他の損益通算をする所得があり,かつ,還付金以上の税額を支払うべき所得があることを前提としている。


  なお,「還付金」とは,本件不動産投資事業(C)に係る損失を不動産所得の損失として他の所得と損益通算をした結果,我が国において原告X1らを含む投資家が負担すべき所得税額及び住民税額の合計額と,当該損失がなかったとした場合に投資家が負担すべき合計額との差額のことであり,「支払」とは,本件不動産投資事業(C)に係る不動産所得の金額と本件建物(C)売却による譲渡所得の金額に対して投資家が負担すべき所得税額及び住民税額の合計額のことである。


  各年ごとの出資金2000万円(1口)当たりの納税想定額は以下のとおり想定されている。



  2001年10月において 777万9000円(還付金)

  2002年10月において 1051万0000円(還付金)

  2003年10月において 1050万9000円(還付金)

  2004年10月において 1030万8000円(還付金)

  2005年10月において 413万5000円(還付金)

  2006年10月において 51万1000円(還付金)

               38万9000円(支払)

  2007年10月において 1985万7000円(支払)






  (b) 税引き後受取金額


  「税引き後受取金額」とは,7年間の投資期間における,本件不動産賃貸事業(C)からの受取キャッシュ(前記b)及び7年後の本件建物(C)売却に伴う受取キャッシュ(前記d)の合計額である。





  本件スキームにおいては,1口2000万円の出資に対し,我が国において投資家が本来負担すべき所得税額及び住民税額が合計2350万5000円軽減されるとともに,




7年間における本件不動産賃貸事業(C)による現金収入360万3000円及び7年後の本件建物(C)売却による現金収入541万8000円が得られることにより,合計約3258万2000円(ただし,上記金額の合計額は,3252万6000円である。)の利益及び税負担の軽減という税効果があるものと想定されている。






  f 本件建物(C)の売却予想額


  本件建物(C)の売却予想額としては,当初購入価格及びその150%の額がそれぞれ想定されている。





  (イ) 本件説明書(基本コンセプト)の記載内容


  本件スキームは,出資1口(2000万円)当たり,各年の不動産所得につき約2100万円の損失を4年間生じさせることにより,各年につき税額を約1050万円減少させ,4年間で合計4200万円の税額を減少させるものと想定されている。



  ただし,このような税務効果が生じるのは,個人の適用限界税率50%(所得税37%,住民税13%)で,損益通算をすることができる所得がおよそ3600万円以上ある場合とされている。










  (ウ) 本件説明書(ハイライト)の記載内容


  本件スキームにおける税務効果コンセプトとして,「節税額単年度約1050万円,4年間累積約4200万円」との記載がある。








  (2) 本件各LPSの米国租税法上の取扱い




 ア チェック・ザ・ボックス規則(Check-the-box regulation)



  米国では,1997年に財務省規則(米国のTreasury regulations.)において,チェック・ザ・ボックス規則と称される規定が定められ,ある一定の事業体は,連邦課税上,コーポレーション(corporation)としての課税を受けるか,



又はパートナーシップ(partnership)としての課税を受けるかを選択できるものとされている。





すなわち,財務省規則は,信託(トラスト)に区分されるもの又は内国歳入法(Internal Revenue Code)において別段特別の取扱いがされるもの以外の事業体を「ビジネス・エンティティ(business entity)」とした上(財務省規則301.7701-2(a)),



このうち,



①適格事業体(eligible entity。具体的には,連邦又は州等の制定法によりインコーポレイティド[incorporated],コーポレーション[corporation],ボディ・コーポレイト[body corporate]又は政治団体[body politic]と規定されている事業体や保険会社など一定のコーポレーション[財務省規則301.7701-2(b)(1)及び(3)~(8)において「corporation」として規定されている事業体]に区分されるもの以外のビジネス・エンティティをいう。)であり,かつ,





②2人以上の構成員を有するものは,連邦課税上,コーポレーションとしての課税又はパートナーシップとしての課税のいずれかを選択することができるとしている(財務省規則301.7701-3(a))。







  なお,2人以上の構成員を有する米国の適格事業体において上記の選択がない場合には,デフォルト・ルール(権利不行使による原則形態へのみなし原則)として,パートナーシップとしての課税を選択したものとみなされる(財務省規則301.7701-3(b)(1)(i))。




  適格事業体がパートナーシップとしての課税を選択した場合又は上記デフォルト・ルールによりパートナーシップとしての課税を選択したものとみなされる場合には,当該事業体は納税義務者とならず(内国歳入法701条),当該事業体の構成員が納税義務者となる(以上につき,甲A全92ないし94)。







  イ 本件各LPSに対する課税


  本件各LPSは,州LPS法に基づくLPSであり,信託(トラスト)に区分されるもの又は米国法の定めに従って特別の取扱いがされるもの以外のビジネス・エンティティである。また,本件各LPSは,



①財務省規則301.7701-2(b)(1)及び(3)~(8)において「corporation」として規定されている事業体にも該当せず,



②2人以上の構成員を有するため,連邦課税上,コーポレーションとしての課税又はパートナーシップとしての課税のいずれかを選択することができる適格事業体である。そして,本件各LPSにおいては特に明示的な選択が行われていないことから,デフォルト・ルールにより,本件各LPSは,連邦課税上,パートナーシップとしての課税を選択したものとみなされている。






  本件各LPSにおいては,フォーム1065(連邦パートナーシップ情報申告書。甲A全95)及びその別表であるスケジュールK1(本件各LPSのパートナーである本件各受託銀行を通じて不動産賃貸事業を営む各原告ごとのパートナー持分に関するもの。甲A全78)が作成されている。




  以上のとおり,本件各LPSは,連邦課税上,パートナーシップとしての課税を選択したものとみなされていることから,米国租税法上の納税義務者となっておらず,各構成員である原告ら投資家が納税義務者となった(以上につき,甲A全81,95,弁論の全趣旨)。