教唆犯(1)



 本日から、教唆犯について事例を検討します。






 (教唆) 


刑法 第六十一条   人を教唆して犯罪を実行させた者には、正犯の刑を科する。 


2   教唆者を教唆した者についても、前項と同様とする。 








 刑集60巻9号809項から引用します。平成16年1月14日東京地方裁判所判決 










(罪となるべき事実)


 被告人株式会社K-1(平成15年8月19日以前の商号は「株式会社ケイ・ワン」。以下「被告会社」という)は,スポーツイベントの企画及び興行等を目的とする株式会社であり,被告人石井和義(以下「被告人」という)は,被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括していたものであるが,被告人は,



第1 被告会社の代理人として同会社の法人税確定申告手続に関与していた税理士である分離前の相被告人寺窪鎭史,並びに,後記架空仕入等の計上に際して当該取引の相手方となった株式会社デジタル・ウェイブ,株式会社インターメディア及び有限会社ミナト総合研究所の代表取締役ないし実質的経営者としてこれら3社の業務全般を統括していた分離前の相被告人佐藤猛と共謀の上,被告会社の業務に関して法人税を免れようと企て,架空仕入を計上するなどの方法により,所得を秘匿した上,



1 平成8年10月1日から平成9年9月30日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が1億3927万1437円であった(別紙1の修正損益計算書参照)にもかかわらず,確定申告書提出期限の延長処分による申告書提出

期限内である平成10年1月5日,東京都渋谷区宇田川町1番10号所轄渋谷税務署において,同税務署長に対し,所得金額が7155万9804円で,これに対する法人税額が2115万8600円である旨の虚偽の法人税確定申告55万0600円と上記申告税額との差額2539万2000円(別紙5のほ脱税額計算書参照)を免れ



2 平成9年10月1日から平成10年9月30日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が1億8061万6218円であった(別紙2の修正損益計算書参照)にもかかわらず,確定申告書提出期限の延長処分による申告書提

出期限内である同年12A28日,上記所轄渋谷税務署において,同税務署長に対し,所得金額が8849万5607円で,これに対する法人税額が2877万9100円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の2)を提出し,そのまま法定納期限を徒過させ,もって不正の行為により,被告会社の同事業年度における正規の法人税額6332万4500円と上記申告税額との差額3454万5400円(別紙5のほ脱税額計算書参照)を免れ



3 平成10年10月1日から平成11年9月30日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が4億7684万8312円であった(別紙3の修正損益計算書参照)にもかかわらず,確定申告書提出期限の延長処分による申告書

提出期限内である平成12年1月4日,前記所轄渋谷税務署において,同税務署長に対し,所得金額が9682万8388円で,これに対する法人税額が1988万5800円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の3)を提出し,そのまま法定納期限を徒過させ,もって不正の行為により,被告会社の同事業年度における正規の法人税額1億5099万2700円と上記申告税額との差額1億3110万6900円(別紙6のほ脱税額計算書参照)を免れ4平成11年10.月1日から平成12年9.月30日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が5億9018万7707円であった(別紙4の修正損益計算書参照)にもかかわらず,確定申告書提出期限の延長処分による申告書提出期限内である同年12月28日,上記所轄渋谷税務署において,同税務署長に対し,所得金額が2億2054万7231円で,これに対する法人税額が5601万7800円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の4)を提出し,そのまま法定納期限を徒過させ,もって不正の行為により,被告会社の同事業年度における正規の法人税額1億6690万9800円と上記申告税額

との差額1億1089万2000円(別紙6のほ脱税額計算書参照)を免れ第2東京国税局査察部の国税犯則調査を受けている被告会社の法人税法違反事件につき,平成11年9月期及び平成12年9月期の法人税に係る簿外経費をね

っ造するため,平成13年11月上旬ころ,東京都港区虎ノ門2丁目5番20号みやびビル所在みやび法律事務所において,伊藤寿永光及びモハメド・サリムことモハメッド・セーリムに対し,被告会社主催のK一ユ大会へのマイク・

タイソン出場に係る違約金条項を含む被告会社とモハメッド・セーリムとの間の内容虚偽の契約書を作成するよう依頼し,伊藤寿永光及びモハメッド・セーリムをしてその旨決意させ,よって,これら両名をして,共謀の上,そのころから同月下旬ころまでの間,東京都千代田区内幸町1丁目1番1号帝国ホテル客室等において,モハメッド・セーリムがマイク・タイソンを前記大会に出場させること,被告会社はモハメッド・セーリムに対し,マイク・タイソンのファイトマネー1000万ドルのうち500万ドルを前払いすること及び契約不履行をした当事者は違約金500万ドルを支払うこと等を合意した旨の被告会社とモハメッド・セーリムとの間の内容虚偽の契約書である平成11年6月24日付け「DEED OF AGREEMENT」と題する書面及び同年10月11日付「SUPPLEMENTARY DEED OF AGREEMENT」と題する書面を各作成の上,モハメッド・セーリムにおいてこれら書面に署名するなどに至らせ,もって伊藤寿永光及びモハメッド・セーリムによる前記被告会社の法人税法違反事件に関する証拠偽造を教唆したものである。













(証拠偽造教唆に関する事実認定の補足説明)



1 弁護人は,判示第2の内容虚偽の契約書の作成につき,被告人からの働き掛けにより伊藤寿永光(以下「伊藤」という)の犯罪意思が形成されたとする証拠はないから,被告人に証拠偽造教唆の刑責を問えるか疑問がある,と主張するので,以下検討する。




2 前掲の被告人及び伊藤の各検察官調書等の関係証拠によれば,本件証拠偽造に至る経緯等として,次の各事実を認めることができる。



(1)平成13年9月3日被告会社に国税局の査察調査が入り,その翌日ころから,被告人は,伊藤に対応を相談していた。伊藤は,被告人に対し,逮捕及び実刑判決を免れるためには,脱税額を少なくする必要があり,架空でもいいから簿外経費を作って,それを国税局に認めてもらうしかないなどと助言した。



(2)そこで,被告人は,プロモー一一ターに対し選手育成費を支払ったことにするという案を考えて伊藤に話し,脱税の共犯者である佐藤猛の協力を得るなどして,プロモーター4名との間で,被告会社が選手育成費名目で合計約1億3000万円を支出した旨の架空経費作出についての口裏合わせを行った。




(3)それに加えて,被告人は,有名プロポクサーであるマイク・タイソンを日本のK-1大会に出場させるという計画に絡めて,被告会社が金員を支払ったことにして架空経費を作るのはどうか,と伊藤に話した。また,被告人は,架空経費の作出につき,知人の外国人モハメッド・セーリム(以下「セーリム」という)に協力してもらおうと考え,自ら,セーリムに連絡して,その旨を依頼し同人の承諾を取り付けた。




(4)その後,被告人は,伊藤から,マイク・クイソン関係の架空経費については,契約不履行に基づく違約金が経費として認められることを利用して,違約金条項を盛り込んだ契約書を作ればよいと教えられ,良い方法だと思い,その方法をセーリムにも説明してほしいと伊藤に依頼した。




(5)こうして,同年11月上旬ころ,みやび法律事務所において,被告人,伊藤及びセーリムの三者による会合が持たれ,伊藤からセーリムに対し上記方法の説明がなされ,セーリムもそれを了解して,虚偽の契約書を作成する話がまとまった。被告人は,契約書の作成方法がよく分からず,また,国税局が査察調査を行っている中で直接セーリムと連絡を取り合うのはまずいと思い,伊藤とセーリムの2人で契約書を作成してもらおうと考え,両名に対してその旨を依頼し各承諾を得た。その後,伊藤とセーリムが連絡を取り合うなどして,虚偽の契約書が作成されるに至った。





3 以上のとおり,被告人は,相談相手の伊藤から架空経費の作出を教示されて,その名目を自ら発案し,プロモーターに対する選手育成費の支払に関しては経費作出の実行を主導したこと,マイク・タイソンの招聰に関しても,経費支払の相手役としてセーリムを選定し,同人の承諾を取り付けたこと,虚偽契約書の作成という方法を伊藤から教示されて,三者会合を持ち,その場で,上記方法による本件証拠偽造の実行方を伊藤及びセーリムに依頼し,両名の承諾を得たことといった一連の経過を認めることができるのであり,これに照らすと,前記会合の席で,被告人から伊藤及びセーリムに対し本件証拠偽造を実行するよう働き掛けがなされ,これに応じて,セーリムはもとより伊藤も,その実行方を決意したものと認めることができる。弁護人は,伊藤においてそれ以前に既に本件証拠偽造に関する犯罪意思を形成していた旨主張するが,伊藤は,被告人の相談相手として本件証拠偽造の方法を考案しこれを被告人に教示してはいたものの,それを自らが正犯として実行しようとの意思は,被告人の上記働き掛けによって初めて生じさせられたものと認めることができる。




4 したがって,被告人が伊藤及びセーリムに対し本件証拠偽造を教唆した事実を優に認めることができるから,前記1の弁護人の主張は採用できない。