サクラサイト事件



 本日は東京地方裁判所判決/平成25年(ワ)第19687号 、判決 平成26年11月10日 について検討します。






【判示事項】


 インターネット上で有料メール交換サイトを運営する会社の取締役であった被告らが,組織的にサクラを使用して資金提供等の虚偽のメールを送信して原告に対しサイト利用を誘引してサイト利用料金名目等で多額の金員を詐取したと認め,被告らに対する共同不法行為に基づく損害賠償請求を全部認容した事例 








  主   文


  1 被告らは,原告に対し,連帯して,2234万4300円及びこれに対する平成22年8月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

  2 訴訟費用は被告らの負担とする。

  3 この判決は,仮に執行することができる。








        事実及び理由




 第1 請求

  1 主位的請求

    主文と同旨

  2 予備的請求

    被告らは,原告に対し,連帯して,2234万4300円及びこれに対する平成25年9月9日(被告らのうち最後に訴状が送達された者の訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。





 第2 事案の概要


  1 事案の要旨


    本件は,インターネット上で有料メール交換サイトを運営する訴外株式会社A(以下「訴外会社」という。)が,サクラを使用して,かつ,サクラであることを秘して,原告に対して資金提供やそのための面会等の利益ないし役務の提供をする意思もないのに,あるように装った虚偽のメールを送信させてサイト利用を誘引し,サイト利用料金名目等で多額の金員の入金を求め,原告にそれらが一定程度実現する可能性があると誤信させて多数回にわたりサイト利用を繰り返させて同料金を支払わせる方法で金員を詐取したことについて,原告が,主位的に,訴外会社の代表取締役又は取締役を務めていた被告らが,訴外会社の係る組織的詐欺行為を共謀して行ったと主張して,民法709条,719条の共同不法行為に基づき,連帯して利用料金等相当額2234万4300円(弁護士費用203万1300円を含む。)の損害賠償金及びこれに対する原告の最終振込日である平成22年8月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,予備的に,被告らが,訴外会社の取締役として係る組織的詐欺行為を抑止する任務を懈怠したことにつき故意又は重過失があると主張して,会社法429条1項に基づき,上記同様の損害賠償金及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成25年9月9日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。



  2 前提事実(証拠等の記載のない事実は当事者間に争いのない事実である。)



   (1) 当事者等



    ア 訴外会社は,インターネット上で,複数の有料メール交換サイトを運営する株式会社であり,同社は,「△△」(当初のサイト名は「××」。以下,特に断らない限り「××」のサイト名であった時を区別せず「△△」という。),「◇◇」,「□□」(当初のサイト名は「■■」であり,その後,「◆◆」となり,さらに,「□□」となった。以下,特に断らない限り「■■」及び「◆◆」というサイト名であった時を区別せず,「□□」という。),「◎◎」というサイトを運営していた(以下,これらのサイトをまとめて「本件各サイト」といい,特定のサイトを指すときは,その名称で特定する。)。



    イ 被告ら

     被告Y1は,平成18年7月7日から現在まで訴外会社(商号を変更する前の有限会社A’であった期間を含む。)の代表取締役を,被告Y2及び被告Y3は,平成18年7月7日から平成23年3月31日までの間,訴外会社の取締役をそれぞれ務めており,訴外会社において,被告ら以外に取締役等の役員はいなかった。(甲2)



    ウ 原告

      原告は,平成21年3月8日から平成22年8月26日まで,訴外会社の運営する本件各サイトの利用者であった者である。




   (2) 本件各サイトの内容

     本件各サイトは,いずれも,見知らぬ者同士がインターネットの掲示板や電子メールのやり取りを通じて知り合うことができる「出会い系サイト」であり,その多くは,メール交換等のサービスを利用する度に費用が発生する仕組み(都度課金)になっている。

     本件各サイトにおいても,メールを送信するなどのメール交換等に必要となる操作ごとに一定の利用料金が課せられる旨が規約において定められているところ,いずれのサイトもポイント制(1ポイントを10円とし,メールを送信するのに30ポイントを必要とするなどというもの)で,各操作をする毎にあらかじめ利用者が購入したポイントが引き落とされる仕組みとなっていることから,利用者は本件各サイトの利用を継続するためには,ポイントを購入する必要がある。そして,このポイントを購入するため,利用者は,銀行振込み,クレジットカード,電子マネー決済など訴外会社の用意した各種決済方法から選択して訴外会社に入金することとなっていた。

    (甲6《枝番を含む。》,10ないし16,46,弁論の全趣旨)




   (3) 原告は,別紙のとおり,平成21年3月8日から平成22年8月26日まで,本件各サイトを利用し,ポイントを購入するため,日付欄記載の日付に振込方法欄記載の方法により,金額欄記載の金額を訴外会社に支払った。その概要は,以下のとおりである。

     すなわち,原告は,訴外会社に対し,①平成21年3月28日から平成22年7月25日までの間,「△△」のサイトでの利用について合計913万5000円を,②平成21年3月18日から平成22年8月26日までの間,「◇◇」のサイトでの利用について合計523万円を,③平成21年3月8日から平成22年3月20日までの間,「□□」のサイトでの利用について合計393万5000円を,④平成21年3月15日から平成21年10月8日までの間,「◎◎」のサイトでの利用について合計201万3000円をそれぞれ支払った。原告が,本件各サイトの利用に関して訴外会社に支払った金額は,合計で2031万3000円である。

     本件各サイトにおいては,いったん購入したポイントは,退会と同時に消失し,返金不可とされている。(甲6《枝番を含む。》,弁論の全趣旨)







  3 争点及び当事者の主張


   (1) 訴外会社による本件各サイトの運営は違法か。



    (原告の主張)

    ア 原告は,本件各サイトにおいて,主として14人の相手方(以下「本件各相手方」という。)とメール交換をした。そして,本件各相手方は,原告に対し,指示に従えば数千万円ないし数百万円という多額の金員が入手可能である等というあり得ない不自然な話を提示して勧誘しながら,メールの送受信に秘密を守るための専用回線を用いる,高速通信を可能にする回線を用いる,メールアドレスや電話番号を添付する必要があるなどとして,通常の送受信以外に多額のポイントを消費させていること,大量のポイント購入を持ちかけていること,金員入手のための手続として,虚偽の暗号入力操作等を命じ,その送受信に多大なポイントが消費されるよう,その手続きの繰返しを要求していること,面会や金員の手渡しを何度も約束しつつ,これをキャンセルしたり,連絡を取れなくしたりして,確認のため,極めて多数のメール送受信を強いていることなど,全く合理性のない,多額のポイントを消費させる行為を指示していることからすれば,訴外会社が作り出した架空の人物,いわゆるサクラ(以下「サクラ」という。)であることは明らかである。



    イ そして,訴外会社は,本件各サイトにおいて,原告を巧みに各サイトに誘導または自動登録し,各サイト内で,サクラを使用して,かつ,サクラであることを秘して,原告に対して資金提供やそのための面会等の利益ないし役務の提供をする意思もないのに,あるように装った虚偽のメールを送信し,サイト利用を誘因し,サイト利用料金名目等で多額の金員の入金を求め,錯誤に陥った原告に本件各サイトを利用してのメールの送受信を繰り返させ,そのために必要なポイントを購入させて多額の金員を支払わせたものである。このように,本件各サイトは,全体として,利用者から金銭を騙し取るための仕組みとして構築されているものであって,これらの利用者の期待等に乗じて本件各サイトのメールを利用させ利用料金等を支払わせるという訴外会社の一連の行為は,原告に対する詐欺を構成する。






    (被告らの主張)


     本件各相手方がサクラであること,訴外会社が金員を詐取したとすることは否認する。本件各相手方と原告とのやりとりについては知らない。








   (2) 被告らが共謀して,訴外会社による詐欺行為を行っていたか(主位的請求)。



    (原告の主張)


     訴外会社による出会い系サイトを利用しての詐欺行為は,サイトへの誘引メールを不特定多数人に送付することにはじまり,自ら運営するサイトへ誘導し,サクラを用いて時間帯を問わず大量のメールを送受信し,様々なパターンを使い分けて虚偽の事実を真実であると信じ込ませ続け,多様な決済方法を要して大量のポイントを購入させるという極めて組織化された詐欺行為であり,訴外会社の取締役である被告らは,訴外会社の機関として,会社の営業方針を決定し,従業員に指導指示を行い,訴外会社による組織的詐欺行為を共同で行ったものである。

     訴外会社は,本件各サイトの運営のために,①サクラとして相当の人員を雇用していたと考えられること,②メールの送受信や閲覧管理及び支払決裁システムの開発ないし導入のために相応の人的・金銭的コストをかけていると考えられること,③本件各サイトの運営には,大量のサクラが必要であり,その大人数を収容できる施設と,パソコン等の大規模な物的設備が必要であると考えられること,④サクラを雇用し,教育,管理,指導するための人員や,経理を管理したり,システムトラブル等についても対応したりする人員が必要であると考えられること,⑤決済手段の確保のための銀行口座の開設や電子マネー会社との契約は,通常,会社経営社本人による契約が必要であると考えられることから,いわゆるサクラサイトである本件各サイトの運営による詐欺行為は,組織的なものであり,会社経営者である被告らの関与なしに実行できるものではない。





    (被告らの主張)

     決済手段が複数存在していたことは認めるが,その余は否認する。訴外会社がサクラを使っていたということはなく,原告の主張は前提を欠くものである。







   (3) 被告らに,任務懈怠及び悪意又は重過失が認められるか(予備的請求)。


    (原告の主張)

    ア 被告Y1は,訴外会社の代表取締役として,訴外会社の業務を適法かつ適正に遂行し,第三者に対し詐欺等の違法行為を行わないよう注意するべき義務を負っていたにもかかわらず,訴外会社においては組織的違法行為が継続して行われていたのであるから,訴外会社に対する任務を懈怠していたものである。

    イ また,被告Y2及びY3は,訴外会社の取締役として,訴外会社の業務が適法かつ適正に行われるように監視・監督すべき義務を負っていたにもかかわらず,訴外会社に対する任務を懈怠していたものである。

    ウ 訴外会社による出会い系サイトを利用しての詐欺行為は,極めて組織化された詐欺行為であり,このような相応の人的組織・物的設備を要する詐欺行為を行うにあたり,会社の機関である取締役が関与していないことは通常考えられないことから,被告らが訴外会社に対する任務を懈怠するにあたり,悪意であったことは明らかであり,少なくとも重大な過失があった。




    (被告の主張)

     否認ないし争う。





   (4) 原告の損害(主位的請求・予備的請求共通)



    (原告の主張)

     原告は,被告らのサクラを使った詐欺行為により,訴外会社に対し,平成21年3月8日から平成22年8月26日にかけて,サイト利用料金名目等で合計2031万3000円を詐取された。

     そして,原告は,かかる損害を回復するべく,訴訟代理人らを依頼して本訴提起を余儀なくされたことから,被告らの共同不法行為との間に相当因果関係が認められる弁護士費用としては,203万1300円をもって相当とするべきである。



    (被告の主張)

     否認ないし争う。






 第3 当裁判所の判断


  1 認定事実


    証拠(認定事実の末尾に記載する。)及び弁論の全趣旨によると,以下の事実が認められる。

   (1) 原告は,平成22年5月に退職するまで会社員であったが,平成20年5月から自宅に妻と子供を残して大阪府で単身赴任生活をしていた。原告は,日頃から,ヤフーのアドレスを使用して,参加無料の懸賞サイトに登録し,懸賞に応募していたが,そうしたなかで,原告のメールアドレスに,知らない者から「現金をお渡しします。」というタイトルのメールが届くようになった。

     原告は,平成21年3月これらのメールのうちの一つに返信をして,そのメール相手の勧めに応じて,ハンドルネームを「ナイショ」とし,住まいを「大阪」,年齢を「50歳」,性別を「男性」として本件各サイトのうちの一つに登録をした。その後本件各サイトの本件各相手方から原告宛てのメールが大量に送られてきた。(甲9,48,88)



   (2) 原告と本件各相手方とメール交換等のやりとりは,下記アないしエのとおりである。

    ア 「△△」におけるメール交換等



     ① Bとのメール交換等

       原告は,平成21年3月,Bと名乗る者から,自分はファイナンス系会社を経営する社長であり,コンピューターに詳しく,指示に従うなら,金銭(3000万円から1億円)を特別な手段で供与できる旨のメールを受信した。

       原告は,Bとメール交換を開始したところ,Bは,メールで,クレジットカードチェックと称して,原告の使用するクレジットカードでもって,指定の時間内に指定の金額のポイントを購入すれば,カード会社の機械に誤作動をおこしてショッピングの限度額枠を広げることができること,また,原告がサラ金会社からの借入れと短期間での完済を繰り返すことによりサラ金会社の信用を得た後,支払を遅滞させて一旦信用をなくしてサラ金会社の注意を引いた上でBが全額の返済をすることにより原告の信用が上がって5000万円の振込みが可能になること,さらに,サラ金からできるだけ借金をして,ビットキャッシュ(電子マネー)を大量に購入し,サイトの決済機構の処理速度を超えた決済をしてオーバーフローを起こさせることにより,サイトから多額の金員を入手できることなどを伝えてきた。


       原告は,Bとのメールのやりとりを通じてこれらを信用するようになり,Bからの金銭供与に期待して,Bの指示に従って,平成21年4月13日から同年5月15日までの間に,35回,129万円分のポイントをクレジットカード決済で購入し,また,原告は,同月13日から24日までの間,サラ金からの借入れと,その直後の返済を繰り返し,さらに,上記借入金を原資としてビットキャッシュ(電子マネー)を購入して,同月26日から28日までの間に,「△△」の利用のためにビットキャッシュにより270万円を入金するなどした。

       しかし,結局,原告はBから金員を受け取ることはできなかった。




     ② 「『財務管理事務局』C」とのメール交換等

       原告は,Bとのメール交換を行っているころ,「『財務管理事務局』のC」(以下「C」という。)と名乗る者から,会社で3000万円の利益が出たので極秘で受け取って欲しい旨の申出のメールを受信した。

       原告は,Cとのメール交換を開始し,受け取りのための口座番号をメール送信しようとすると,Cは,このサイトでは口座番号を送ることはできないとして,数字と英文字を組み合わせた暗号を返信するように指示し,原告が返信すると,Cは,次々と異なる暗号を返信するように指示した。Cから指示され返信方法は,メールアドレスと電話番号を添付して返信メールを送るというものであったが,上記のメールアドレス添付等は「△△」の運営規約上,単なるメール送信に付加して大きなポイントを必要とするものであったことから,原告は,Cとのやりとりによって,多大なポイントを消費することとなった。

       しかし,結局,原告は,Cが求めた手続が終了することがなく,「今やめたら,これまでの手続が全て無駄になります。」などといったメールと共に,次々に暗号が送られてくるので,多数回のやりとりをさせられた上に,金員を受け取ることはできなかった。

    (甲4の1,4の2,9,37≪枝番を含む。≫,38≪枝番を含む。≫,39,42≪枝番を含む。≫,48,88,弁論の全趣旨)





    イ 「◇◇」におけるメール交換等



     ① 「セレブな処女姫♪19歳D☆」とのメール交換等

       原告は,平成21年3月,「セレブな処女姫♪19歳D☆」(以下「D」という。)と名乗る者から,同人が大阪市堺区帝塚山に住んでおり,父親が経営するアパレル系会社の社員であって,サイト利用の目的は話し相手を捜すことであり,祖父が裕福なためお小遣いがいくらでももらえるから,話し相手になったり,会ってくれたりすればお礼に数千万をあげる旨の申出のメールを受信した。

       原告は,Dとメール交換を開始し,その申出が一定程度実現可能なものと信用するようになった。Dは,原告とのメールのやりとりの中で,平成22年4月から8月までの間に8回の面会を約束したが,待ち合わせ場所として高槻市内の店や時間を指定してきては,これを変更したり撤回したりするなどの行為を繰り返し,原告はDとの連絡のため等に多数回にわたりメール送受信をし,そのために多大なポイントを消費した。

       しかし,結局,原告は面会することはできず,金員を受け取ることもできなかった。



     ② 「年商100億円・E〔40歳〕」とのメール交換等

       原告は,年商が100億円ある会社の経営者Eと名乗る者から,婚約者(後に夫となった)に不満があり,原告と面会して性交渉をすること及びその対価として高額な現金を支払う旨の申出のメールを受信した。

       原告は,これに期待してEとメール交換を開始し,同人の申出を信じるようになったところ,Eは,直前にサイト内メールで面会の希望日時,約束場所を指定してきたが,もともと原告が仕事で面会が無理な時間帯を指定したり,約束しても突然反故にされたりした。原告は,Eとの連絡のため等に多数回にわたりメール送受信をし,そのために多大なポイントを消費した。

       しかし,結局,原告は面会することはできず,金員を受け取ることもできなかった。



     ③ 「精子バンク医療科学研究所 F[33歳]」とのメール交換等

       原告は,精子バンク医療科学研究所の職員であるFと名乗る者から,研究所の業務上,男子の精子が必要で原告の年齢から研究条件に合致するので採取の必要があるとして,採取対象者として原告を指定し,精子取得の対価を支払う旨の申出のメールを受信した。

       原告はFとメール交換をしてこの指定に応じることとしたが,原告は,精子取得の対価等の連絡や,Fが3回にわたり面会約束をしたものの,当日になって面会を断ったり,理由を付けて反故にしたりしたために,原告は,Fとの連絡等のために多数回にわたりメール送受信をし,そのために多大なポイントを消費した。

       しかし,結局,原告は面会することはできず,金員を受け取ることもできなかった。



      ④ 「グローバル投資銀行頭取婦人〔34歳〕」とのメール交換等

        原告は,平成22年1月ころ,グローバル投資銀行の頭取婦人を名乗る者から,支援金9000万円を受け取るつもりがあるかとの申出のメールを受信した。

        原告は,前記申出に期待してメールのやり取りを開始したところ,頭取婦人は,原告の住所近くのレンタルビデオ店,病院,ホテルの部屋などを待ち合わせ場所に指定しながら,場所を突然変更したり,待ち合わせ場所に来ているとしながら実際には現れなかったりした。原告は頭取夫人と少なくとも7回面会の約束をし,原告は,頭取夫人との連絡等のために多数回にわたりメール送受信をし,そのために多大なポイントを消費した。

        しかし,結局,原告は面会することはできず,金員を受け取ることもできなかった。

    (甲4の1,4の3,9,40≪枝番を含む。≫,48,88,弁論の全趣旨)





    ウ 「□□」におけるメール交換等


     ① 「IT企業取締役○○」とのメール交換等

       原告は,平成21年3月,「IT企業取締役○○」と名乗る女性から,会社経営についての相談相手になってくれれば3000万円を渡す旨の申出のメールを受信した。

       原告がメール交換を始めたところ,「IT企業取締役○○」は,JR高槻駅を待ち合わせ場所として指定してきたが,何回待ち合わせをしても同人は現れることはなく,原告はメール交換のために多大なポイントを消費した。



     ② 「固定資産管財人○○」とのメール交換等

       原告は,同月16日,「固定資産管財人○○」と名乗る者から,会社の固定資産を管理して生じた2000万円の剰余金を受け取って欲しい,ついては税務署にばれないための特殊な振込システムを利用する必要がある,そのためには原告において暗号を送信する必要がある旨の申出のメールを受信した。

       原告は,その指示に従って数字とアルファベットの組合せの暗号を数十回にわたり送信したが,いつまで経っても作業指示が終わらず,原告は多数のメールの送受信をし,そのために多大なポイントを消費した。

       しかし,結局,原告は,金員を受け取ることはできなかった。



     ③ 「外科医○○」とのメール交換等

       原告は,同年5月10日,「外科医○○」と名乗る者から,話し相手や相談相手になってくれれば600万円を会って手渡す旨の申出のメールを受信した。

       原告は,メール交換を繰り返し,指示に従ってJR新大阪や高槻駅等に行き同人を待ち続けたが,同人は一度も現れなかった。原告は,連絡等のために多数回にわたりメール送受信をし,そのために多大なポイントを消費した。

       しかし,結局,原告は面会することはできず,金員を受け取ることもできなかった。



     ④ 「SE G/個人情報開示可」とのメール交換等

       原告は,同年8月初め頃,SE Gと名乗る者から,同人が「●●」(「□□」の前身のサイト)のSEとして勤務しており,社長から税金対策として1600万円の会社の金を処分するようにいわれているので受け取って欲しい旨の申出のメールを受信した。

       原告は,これに期待してメール交換を開始したが,SE Gから,原告の本名と電話番号が必要で,これをサイト内メールで送るためには,多数回これらを添付したメールを送信し,サーバーに負担を掛けて文字化けせずに送れるようにする必要があり,これを行えば原告口座に1600万円を振り込むことができると言われた。またその過程で高速回線を購入するよう指示されたり,口座番号等の1文字を5回ずつ,メールアドレスや電話番号添付のメールで送信するよう指示された。

       原告は,SE Gからのこれらの指示に従い多数回にわたりメールの送受信をしたが,上記のメールアドレス添付等は「□□」の運営規約上,単なるメール送信に付加して大きなポイントを必要とするものであったこともあり,そのために多大なポイントを消費した。

       しかし,結局,原告は金員を受け取ることはできなかった。



     ⑤ 「銀行員H」とのメール交換等

       原告は,同年12月ころ,銀行員Hと名乗る者から,勤務している銀行で余剰金が出たので300万円を振込み又は直接手渡しをしたい旨の申出のメールを受信した。

       原告は,金員が貰えるものと期待してメール交換を開始したが,銀行員Hは,原告の会員レベルを昇格する必要がある,文字化け対策として,専用回路の開設をする必要があるなどとして,その費用としてビットキャッシュ20万円を負担させた。

       しかし,結局,原告は金員を受け取ることはできなかった。

    (甲4の1,4の4,9,41≪枝番を含む。≫,48,88,弁論の全趣旨)

    エ 「◎◎」における「I」,「主治医○○」及び「振込依頼人○○」とのメール交換等




      原告は,平成21年3月,不治の病で入院しているという「I」という患者とその「主治医○○」を名乗る者から,Iの両親の遺産を受け取って欲しい,ついては,サイトへの登録をし,現実の振込みを担当する「振込依頼人○○」の指示に従うよう求めるメールを受信した。

      原告は,「振込依頼人○○」から数字や記号を送る際,メール添付やアドレス添付にチェックを入れて送信する必要がある,指示どおりの暗号を送信すること,途中で止めないことを誓うこと,高額のポイントが必要なので,まとまったポイントを用意して貰う必要があると告げられた。

      原告は,その指示のままに多数回のメールの送受信をし,そのために多大なポイントを消費した。

      しかし,結局,原告は金員を受け取ることはできなかった。

     (甲4の1,4の5,9,48,88,弁論の全趣旨)



    オ なお,以上のアないしエの本件各相手方のほかに,本件各サイト内でメール交換した者は2,3人いるが,それらの者からのメールも,暗号を入れると金銭を贈与するなどと申し出るものであった(以下,本件各相手方を含めて「本件各相手方等」という。)。(甲9,48,88)




   (3) 訴外会社は,平成22年頃,勤務形態を24時間シフト制として,パソコンのメールオペレーターの募集をしていた。(甲44の1・2)



   (4) 原告代理人らは,平成24年10月,「◇◇」に,地域及びハンドルネーム等を変えて女性名で3件の登録をしたところ,その3件のアドレス宛に数分後から大量のメールが届いた。そのメールは,3件とも「愛を知らない男(代表取締役)」など同一名の相手方からのものであり,その内容も財産の譲渡を示唆する全く同一の文言であった。原告代理人がそれらに返信をすると,次々とサイト運営会社への入金を促す個別のメールが繰り返された。これらのメールは,3件とも同一名で,同一時刻に送られることが多く,その内容も同一文であるが,登録地域に応じて待ち合わせ場所や送信者のプロフィール(出身地)などは変えられていた。(甲53,甲54)



   (5) 原告は,本件各相手方等がいずれも本件各サイトの一般の会員であり,その申出の内容(面会や金銭の供与等)が一定程度は実現できる可能性があるものと信じて,メール交換を続け,本件各サイトのポイントを購入したのであり,本件各サイトを利用していた期間(約1年6か月)の訴外会社への入金の態様は,銀行振込みによる方法が404回,電子マネー(ビットキャッシュ)を購入する方法が158回,クレジットカードを利用する方法が123回という多数回に及ぶものであった。原告は,本件各相手方等がサクラであり,その申出がおよそ実現できないものであることを知っていれば,ポイントを購入してメール交換をすることはなかった。(甲4《枝番を含む》,9,48,88)



   (6) 独立行政法人国民生活センターは,平成23年12月1日,出会い系サイトで,ここ数年,資金援助を持ちかけてメール交換をさせ,利用者が高額の利用料の支払をする被害が発生しているとして注意を呼びかけ,また,平成24年4月19日には,サイト業者に雇われたサクラが,異性,タレント,社長,弁護士,占い師などのキャラクターになりすまして,消費者の様々な気持ちを利用し,サイトに誘導し,メール交換等の有料サービスを利用させ,その度に支払を続けさせるという「サクラサイト」商法による詐欺に注意するよう呼びかけていた。(甲12,13)






  2 争点(1)(訴外会社による本件各サイトの運営の違法性)について

  (1) 前記第2の2及び前記1で認定した事実によれば,本件各相手方等からの申出は,いずれも,見ず知らずの原告に対し,指示に従えば数百万円ないし数千方(ママ)円という多額の金員を供与する,面会し,あるいは採取対象となってくれれば相当の対価を支払う等,通常ではあり得ない不自然な話で,そのいずれについても全く実現していないのであって,これらのことからすれば,本件各相手方等がその申出にかかる内容を実現する意思や能力を有していないことは優に認められるところである。


   (2) 次に,本件各相手方が架空の人物,すなわちサクラであったと認められるかについて検討する。

    ア 前記第2の2及び前記1で認定した事実によれば,本件各相手方は,原告に対し,資金提供の申出をしつつ,原告が資金を得られるようにするために必要であるとして,①多額のビットキャッシュの購入を指示してこれを購入させ(B),②専用回線が必要である,メール返信には規約上,多くのポイントを必要とするメールアドレス,電話番号を添付する必要があるなどと指示をして,通常のメール送受信以外にも多大なポイントを消費させ(C,SE G,銀行員H),③暗号や,口座番号の入力操作等を命じ,さらに,入力すべき暗号を何度も変更して送信するよう指示をして多大なポイントを消費させ(C,固定資産管財人○○,SE G,振込依頼人○○),④面会や金員の手渡しを約束して待ち合わせ場所を指示するものの,これをキャンセルすることを繰り返し,連絡等のために多数回のメール送受信をさせて多大なポイントを消費させ(D,E,F,頭取婦人,IT企業取締役○○,外科医○○)ているところ,これらの指示には何らの合理性は見いだし難い。むしろ,上記指示の目的は,いずれも原告にできるだけ多くのポイントを消費させるように仕向け,本件各サイトを利用させるためにポイントを購入させて,訴外会社に高額の金員を支払わせることにあると認められる。

      そして,本件各相手方が,原告と同様のサイトの一般の会員であるとすれば,本件各サイトの運営規約上,本件各相手方にも利用料金の負担義務が生じることになるはずであるが,そのような負担をしてまで本件各相手方が本件各サイトの利用を継続して前記のような申出をする合理的な理由は見いだし難いというべきところ,それにもかかわらず,本件各相手方がそのような利用を継続した上,原告に利用料金を支払わせようとしている事実は,本件各相手方には利用料金の負担義務が課せられておらず,原告が利用料金等を支払うことにより訴外会社に利益を得ること意図して行動しているということを推認させるものである。

      以上は,本件各相手方と同様の特徴を有していた前記1(2)オの本件各相手方以外の2ないし3人の者にも当てはまるというべきである。



    イ また,前記1(2)のとおり,原告との関係だけでも14人もの別々の人物を名乗る者が頻回にメールの送受信をしていること,前記1(4)のとおり原告訴訟代理人らが得た体験でも,サイトにアクセスすると財産の譲渡を示唆する同一内容のメールが送信され,これに返信をすると次々とサイト運営会社への入金を促す個別のメールの送信が繰り返されていることが認められ,こうしたメール交換等の態様からすれば,本件各サイトにおいては,訴外会社の利益を図るために会員とのメール交換等を担当する者が存することがうかがわれるところであり,前記1(3)のとおり,訴外会社においてメールオペレーターを募集していたことを併せると,本件各サイトにおいては,メール送信を専属的に担当する者から会員宛にメールが送信されている事実が推認される。



    ウ さらに,前記1(6)のとおり,本件とほぼ同じ時期において,国民生活センターが,出会い系サイトで資金援助を持ちかけて利用者にメール交換をさせ,高額の利用料を負担させる被害が発生しており,その手口として,サクラを使用してメール交換等をさせるものがある旨の注意喚起をしているところ,認定事実に現れた本件各相手方と原告とのやりとりは,上記注意喚起に現れたものとその手口において類似しているものである。



    エ 以上を総合すると,原告が本件各サイトにおいてメール交換した本件各相手方等は,実在する一般の会員ではなく,架空の人物,すなわち,サクラであり,そうした架空の人物は,訴外会社の利益を図るために会員とのメール交換等を担当する者によって演じられているのであって,そうした者から原告宛にメールが送信されていたことが認められる。




   (3) 以上によれば,訴外会社は,メール交換の相手方がサクラであることを秘して,資金提供やそのための面会等の利益や役務をする意思もないのに,それがあるように訴外会社の利益のためにメール送信を担当する者に虚偽のメールを送信させて,それらが一定程度実現する可能性があると原告を誤信させ,原告に役務ないし利益の取得のために,メールの送受信等を多数回繰り返させ,また,前記資金提供等の目的達成のためには暗号送信等の手続が必要であるとの虚偽の事実を申し向けてその旨原告を誤信させ,利用料金等の名目で多額の金員を支払わせたといえ,本件は訴外会社が組織的に行った詐欺行為であって,違法であるというべきである。

     したがって,訴外会社は,原告に対する不法行為責任を負う。





  3 争点(2)(被告らが共謀して,訴外会社による詐欺行為を行っていたか)について


   前記2の認定に係る違法な本件各サイト運営の態様からすれば,訴外会社は,本件各サイトを利用しての詐欺行為を行うために,メールの送受信や閲覧管理及び支払決裁の管理に必要な人的・金銭的コストをかけていることが窺われ,実際にも訴外会社は,平成22年にはメールオペレーターを募集していたところである。そして,被告らは訴外会社の取締役であり,その他に役員はいないこと,訴外会社は,本件各サイトの運営以外の事業を行っている形跡は認められないことに加えて,被告らは,本件訴訟の遂行を弁護士に委任して防御を行っており,被告らが訴外会社による詐欺行為に関与していないのであれば容易に反論することができるのにもかかわらず実質的な反論をしていないこと,被告らは適式な呼出しを受けたにもかかわらず,尋問の機会に出頭せず,代表取締役ないし取締役としての訴外会社の業務への具体的な関与態様を明らかにしないこと等の事実を総合して考えると,代表取締役である被告Y1はもちろん,取締役である被告Y2及び被告Y3においても,訴外会社が本件各サイトを利用者への詐欺の道具として用いていることを認識し,訴外会社による詐欺行為を共謀のうえ共同で行っていたものと認められ,この認定を覆すに足る証拠はない。



  4 争点(4)(原告の損害)について

   原告が本件各サイトにおいてメール交換をした相手(本件各相手方等)は,前記のとおりすべてサクラであるから,原告の損害は,本件各サイトの利用料金等として支払った金員の全額である合計2031万3000円であると認められる。


    また,原告は,本訴の提起,遂行に訴訟代理人らを委任して訴訟行為に当たらせたことが認められるところ,本件事件の難易,訴訟代理人らの訴訟行為,前記損害認容額その他一切の事情を考慮すれば,前記損害の1割に相当する弁護士費用203万1300円も本件不法行為と相当因果関係を有する損害であると認められる。




  5 以上のとおり,原告の主位的請求は理由があるから,予備的請求の可否(争点(3))については判断を要しない。



 第4 結論


    以上のとおりであるから,原告の本件主位的請求は理由があるからこれを認容することとして,主文のとおり判決する。


     東京地方裁判所民事第42部

         裁判長裁判官  木納敏和

            裁判官  佐々木健二

            裁判官  小泉敬祐