チワワ事件




 本日は 大阪地方裁判所判決/平成26年(レ)第476号、平成26年(レ)第544号 、判決 平成27年2月6日 について検討します。




【判示事項】


 1審原告らがペットのチワワの散歩中に1審被告経営の店舗から大型犬のシェパードが逃げ出し突進して接触したためチワワが死亡したとして,民法718条による損害賠償を求めた事案において,原審と同じく1審被告の責任を認め,損害額として原審の認めた慰謝料合計18万円及び葬儀費用のほか,原審より2万円を増額した弁護士相談費用の支払を命じた事例 








 事実及び理由



 第1 当事者の求めた裁判


  1 控訴の趣旨


  (1) 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

  (2) 被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

  (3) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。



  2 附帯控訴の趣旨

  (1) 原判決を次のとおり変更する。

  (2) 控訴人は,被控訴人らに対し,それぞれ28万9350円及びこれに対する平成26年2月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

  (3) 訴訟費用は,第1,2審とも控訴人の負担とする。





 第2 事案の概要(以下に記載の月日は,特段の記載のない限り,いずれも平成26年である。)


  1 本件は,被控訴人らが,チワワ(以下「被控訴人ら小型犬」という。)の散歩中,控訴人が経営する店舗(以下「控訴人店舗」という。)前において,控訴人の不十分な管理により逃げ出したシェパード(以下「控訴人大型犬」という。)が被控訴人ら小型犬に突進して接触したため,被控訴人ら小型犬が死亡したとして,民法718条による損害賠償請求に基づき,各28万9350円(被控訴人ら小型犬の購入額25万円,葬儀費用2万3700円及び弁護士相談費用5000円の各半額並びに慰謝料各15万円)及び被控訴人ら小型犬が死亡した日である2月7日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金を求めた。控訴人は,控訴人大型犬を厳重に管理していたと主張して争っている。



  原審は,控訴人の控訴人大型犬に対する管理が不十分であったとして,民法718条1項の責任を認め,葬儀費用,弁護士相談費用及び慰謝料(各9万円の範囲に限る。)は損害として認められるが,被控訴人ら小型犬の購入額については損害に当たらないとして,損害額各10万4350円及びそれに対する遅延損害金の範囲で被控訴人らの請求を一部認容した。



  そこで,これを不服とする控訴人は,被控訴人ら小型犬が控訴人大型犬に遭遇したこと自体立証できていないこと等を主張して控訴した。他方,被控訴人らは附帯控訴して,弁護士相談費用2万円を損害に追加した。




  2 争点及びこれに関する当事者の主張


  (1) 控訴人の民法718条1項の責任及び因果関係の有無


  (被控訴人らの主張)

  控訴人大型犬の鎖が外れていたため,控訴人大型犬が被控訴人ら小型犬に突進して接触し,そのショックで被控訴人ら小型犬は死亡した。控訴人には,控訴人大型犬が外部に逃げ出さないように管理する注意義務があるのに,これを怠り,被控訴人ら小型犬を死亡させた。



  (控訴人の主張)

  上記被控訴人らの主張を争う。

  控訴人は日頃から控訴人大型犬を鎖につないで厳重に管理しており,控訴人大型犬は2月7日に逃げ出していない。そもそも被控訴人らの陳述書の内容は信用することができず,被控訴人ら小型犬が,2月7日に控訴人大型犬と遭遇したこと自体立証されていない。






  (2) 損害の有無及びその額


  (被控訴人らの主張)

  被控訴人らに生じた損害は,被控訴人ら小型犬の購入額25万円,葬儀費用2万3700円,弁護士相談費用2万5000円,慰謝料各15万円であり,被控訴人らの損害は合計で各29万9350円である。被控訴人らは,その内金として各28万9350円を請求する。



  (控訴人の主張)

  上記被控訴人らの主張を争う。








 第3 当裁判所の判断



  1 証拠(甲1,甲2,甲4,甲5,甲10,甲11,甲12,乙2,乙5,乙6,乙10)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。


  (1) 被控訴人らは夫婦であり,平成10年11月9日生まれの国際公認血統証明書付きの被控訴人ら小型犬を飼育していた(甲1,弁論の全趣旨)。


  控訴人は,控訴人店舗の横にある駐車場内で,控訴人大型犬を鎖につないで飼育している(乙5,乙10)。



  (2) 被控訴人X1は,2月7日午前7時頃,散歩のため,被控訴人ら小型犬を連れて,控訴人店舗前を通った(甲10)。



  (3) C獣医師は,2月7日早朝の診察の結果,被控訴人ら小型犬の死因は急激な興奮による心不全と考えられると診断した(甲5)。




  (4) 2月7日午前7時30分頃,控訴人大型犬の首輪にかかっているスナップと鎖部分をつなぐリングキャッチのねじが外れていた(乙2,乙6,弁論の全趣旨)。



  (5) 被控訴人らは,上記(3)の後,2月7日午前8時30分頃に,控訴人店舗を訪れ,被控訴人ら小型犬が死亡したことについての控訴人の責任を追及した(甲10,乙5)。



  (6) 控訴人は,2月7日の数日前に,近所の者から,控訴人大型犬が路上にいたので警察に通報した旨を知らされたことがある(弁論の全趣旨)。



  (7) 被控訴人らは,2月27日,A動物霊園に対し,葬儀費用として2万3700円を支払った(甲2)。



  (8) 被控訴人らは,B弁護士に対し,法律相談料として,2月13日に5000円,7月1日に1万円,11月6日に1万円を支払った(甲4,甲11,甲12)。







  2 控訴人の民法718条1項の責任及び因果関係の有無について


 (1) 被控訴人X1は,2月7日午前7時頃,被控訴人ら小型犬を連れて,控訴人店舗前を通りかかったところ,控訴人大型犬が被控訴人ら小型犬に突進し接触したことで,被控訴人ら小型犬が痙攣し,心不全により死亡したと供述する(甲10)。



  上記1(1)から(6)までの認定事実によれば,



① 控訴人大型犬は,2月7日午前7時頃,鎖が外れた状態であったと推認され,控訴人店舗付近の路上に出ることが可能であったこと,


② 被控訴人らは,被控訴人ら小型犬を控訴人店舗前で散歩させた直後に,C獣医師の診察により被控訴人ら小型犬の死亡を確認すると,控訴人店舗を訪れて控訴人の責任を追及しており,被控訴人らの行動は,他者の犬により飼育していた犬が死亡した場合の買い主の行動として合理的であること,


③ 被控訴人ら小型犬は,控訴人店舗付近の散歩の直後に急激な興奮による心不全により死亡しており,死亡直前に大きなショックを受けたと推認できること,


④ 被控訴人ら小型犬は15歳であり,犬としては高齢と考えられ,大きなショックにより死亡することも考えられること,


⑤ 被控訴人ら小型犬はチワワであるのに対して,控訴人大型犬はシェパードであり,両者には著しい体格差があったため,被控訴人ら小型犬とって,控訴人大型犬が突進してくることは脅威であると考えられることからすると,被控訴人X1の供述は,これらの事実関係に整合し,信用に値するものと考えられる。



  そうすると,被控訴人ら小型犬が死亡したのは,被控訴人X1の供述のとおり,控訴人大型犬が突進して接触したためであると認められ,その当時に控訴人大型犬の首輪にかかっているスナップと鎖部分をつなぐリングキャッチのねじが外れていたこと(上記1(4))との間に因果関係が認められる。


  (2) 上記1(4)及び(6)の認定事実によれば,2月7日の数日前にも控訴人大型犬が逃げ出したことがあったにもかかわらず,同日も控訴人大型犬が逃げ出せる状態にあったことから,控訴人の控訴人大型犬に対する管理が不十分であったといえ,控訴人は民法718条1項の責任を負う。






  3 損害の有無及びその額について


 上記1(7)及び(8)の認定事実によれば,被控訴人らの損害として,葬儀費用2万3700円及び弁護士相談費用2万5000円が認められる。なお,ペットが死亡した場合に,業者に依頼してこれを弔うことは,相当程度普及していると考えられることから,その葬儀費用は相当因果関係のある損害と認められ,上記金額には相当性がある。また,被控訴人らは,本件訴訟を追行するために必要な法的アドバイスを得るために,B弁護士に相談したと推認でき,上記金額には相当性がある。


  被控訴人らの慰謝料については,チワワの購入額が7万8000円から38万2000円までと幅があること(甲3,乙4),被控訴人ら小型犬が国際公認血統証明書付きであったこと(甲1),被控訴人ら小型犬が約15年間被控訴人らの家族の一員として飼育されてきたこと(甲6,甲7,甲10)に照らすと,原審のとおり,合計18万円とするのが相当である。


  他方,被控訴人ら小型犬の購入額については,被控訴人ら小型犬の死亡により支出したものではないから,損害として認められない。


  4 そうすると,控訴人は,民法718条1項に基づき,被控訴人ら小型犬が死亡したことにより生じた損害を賠償すべき義務を負い,被控訴人らに対し,それぞれ11万4350円(2万3700円+2万5000円+18万円を等分した額)及びこれらに対する被控訴人ら小型犬が死亡した日である2月7日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払う義務を負うことになる。


  5 以上によれば,被控訴人らの請求は上記の限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないからこれを棄却し,これと異なる原判決を変更することとし,主文のとおり判決する。


     大阪地方裁判所第19民事部

         裁判長裁判官  川畑正文

            裁判官  泉 薫

            裁判官  金好まや