トッカン(5)納税保証





 先日の裁判例 争点2から裁判所の判断まで検討します。










(2) 争点2 (原告会社は本件滞納国税について保証したか否か)



     (被告の主張)



  Aが本件滞納国税の担保として原告会社を保証人とする旨及び原告会社が同保証を承諾する旨が記載された原告会社作成に係る本件担保提供書3及び原告会社が本件滞納国税を納税保証する旨が記載された原告会社作成に係る本件納税保証書2の各印影は、いずれも原告会社の平成13年8月31日付け印鑑証明書の印影と同一であるから、これらの書類はいずれも真正に成立したものと推定される。


 なお、本件担保提供書3及び本件納税保証書2は、原告会社の代表取締役であった原告X1が、平成13年10月12日、Cとともに東京国税局に出頭して東京国税局徴収職員と面接した際に作成したものであり、本件担保提供書3の「担保提供者(納税者)」欄及び「担保物件の所有者」欄並びに本件納税保証書2の「保証人」欄の原告会社の住所、会社名等の各記入は、原告X1の指示の下にCが行っており、かつ、原告X1は、自ら押印(契印も含む。)を行い、その内容につき確認を行った上で、これらを東京国税局徴収職員に対して提出している。


 このように、原告会社は、本件滞納国税の換価の猶予を行う際の担保として自らの人的保証を提供することについての承諾をし、これを受けて、東京国税局長は換価の猶予を決定したのであるから、原告会社に係る納税保証は有効である。





     (原告会社の主張)



 本件担保提供書3及び本件納税保証書2に記載された原告会社の住所、会社名、代表取締役の文字は原告X1の筆跡ではなく、それらの書類は原告X1によって作成されたものではない。


  また、本件担保提供書2には、「担保物件」は原告会社であり、この「担保物件」の提供を承諾した原告会社は「担保物件の所有者」と表記されており、本件担保提供書2は意味不明の文書である。


 原告会社が納税保証を承諾する旨の平成13年10月5日付け取締役会議事録は、何者かによって偽造された内容虚偽の文書である。原告X1はこの取締役会に出席していないし、他の取締役も出席していない。









 4 証拠関係



  原告らの文書提出命令の申立ては、証拠調べの必要性がないので、いずれも却下することとする。









 第3 裁判所の判断


  1 前記前提事実に証拠(甲1ないし6(枝番を含む)、乙1ないし13(枝番を含む)、乙15ないし21、証人C(ただし、後記措信しない部分を除く)、同E、同F、原告X1本人(ただし、後記措信しない部分を除く))及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。






(1) 東京国税局長は、Aの本件滞納国税が平成13年10月に8000万円を超えたため、同月4日に多数の職員を動員してAに対し滞納整理を実施することとした。


 平成13年10月4日、東京国税局のG主査(以下「G主査」という。)、H国税徴収官(以下「H徴収官」という。)、I国税徴収官及びF国税徴収官(以下「F徴収官」という。)は、東京都所在のAの本社事務所へ行きAの調査を行い、J国税徴収官(以下「J徴収官」という。)及びE国税徴収官(以下「E徴収官」という。)は、Aの関連会社である福岡県所在の原告会社の本社事務所へ行き原告会社の調査を行った。




 J徴収官及びE徴収官は、原告会社の本社事務所において、原告X1並びにA及び原告会社の取締役であったCから、Aやその関連会社の状況、本件滞納国税の納付計画等について聴取し、換価の猶予(国税徴収法151条)を行うには担保の提供が必要であること、担保の種類は一般的には不動産や保証人による納税保証であること、担保提供については後日、東京国税局に来局して手続を行う必要があること等を説明した。



 そうすると、原告X1が、同人所有の福島県所在の土地を担保として提供し、原告X1及び原告会社を納税保証人とする旨や、平成13年10月12日に東京国税局に赴き担保提供の手続を行う旨申し出たため、J徴収官及びE徴収官は、原告X1に対し、それらの内容を納税誓約書として作成して提出するよう依頼した。



 そのため、原告X1は、原告会社の事務員にパソコンで納税誓約書を作成するよう指示した。そして、原告X1は、平成13年10月から滞納税金の分納額を増額して平成14年9月末までに全額納税することを誓約する旨、原告X1所有の福島県所在の土地を担保として提供する旨、原告X1及び原告会社はAの納税について納税保証書を提出する旨及び平成13年10月12日に東京国税局において具体的手続を行う旨が記載された納税誓約書(乙1、以下「本件誓約書」という。)に、Aの所在地、名称及び代表取締役である原告X1の氏名を記載し、押印については、Aの代表取締役印が原告会社の事務所になかったため、原告X1個人の印鑑を押印した上、本件誓約書をE徴収官らに提出した


(この点につき、原告X1は、本件誓約書は東京国税局担当官が用意したものであり、原告X1が本件誓約書に署名押印した際、書面上部に「納税誓約書」と表題が記載されているだけで、その下の部分は空白になっており、平成14年9月末までに滞納税金を分割して全部納付するなどの本文部分は東京国税局担当官が後に補充したものであるとか、同書面には別紙滞納税金目録が添付されていなかったなどと主張し、原告X1作成の陳述書及び原告X1本人尋問の結果中にはこれに沿う記述部分ないし供述部分があるが、


本件誓約書が、「納税誓約書」という表題のみが記載されその余の相当部分が余白になっているとすると極めて不自然な体裁の書面であること、東京国税局徴収官が本件誓約書に本文部分が何ら記載されていない状態で原告X1に署名押印させ、その後に本文部分を補充しなければならない理由は見当たらないこと、


本件誓約書は、2枚綴りの別紙滞納税金目録が添付された3枚綴りのものであるが、その1枚目の「納税誓約書」という表題が記載された書面に押印された原告X1個人の印影と同じ印影による契印が表題部を含め3箇所にされていることからすれば、


原告X1が、本文部分が空白になっており別紙滞納税金目録も添付されていない納税誓約書に署名押印し、そのような本文部分の記載が欠落し何を誓約したのか内容が不分明である納税誓約書をE徴収官らに提出し、


同徴収官らも原告X1に対し本文部分の記載を指示することなく内容が不分明のままの納税誓約書を受け取ったとは考え難く、原告X1作成の陳述書及び原告X1本人尋問の結果中の上記記述部分ないし供述部分は措信することができない。)。





 (2)ア 原告X1及びCは、平成13年10月12日、東京国税局に赴いたが、その際の担当者は、G主査、H徴収官及びF徴収官であり、本件担保提供書1、本件承諾書、本件担保提供書2、本件納税保証書1、本件担保提供書3及び本件納税保証書2の作成が行われた。



 イ 原告X1は、本件担保提供書1の提供者欄にAの名称及び所在地並びに代表取締役である原告X1の氏名を記載し、その所有者欄に原告X1の氏名及び住所を記載した。

 本件担保提供書1の提供者欄にはAの実印が押印され、所有者欄には原告X1の実印が押印され、Aの実印及び原告X1の実印による契印もされた。



 ウ 原告X1は、本件承諾書の設定者欄に原告X1の氏名及び住所を記載した。


 本件承諾書の設定者欄には原告X1の実印が押印され、契印もされた。



 エ 本件担保提供書2については、Cが、その担保提供者欄にAの名称及び所在地並びに代表取締役である原告X1の氏名を記載し、その担保物件の所有者欄に原告X1の氏名及び住所を記載した。


 本件担保提供書2の担保提供者欄にはAの実印が押印され、担保物件の所有者欄には原告X1の実印が押印され、Aの実印及び原告X1の実印による契印もされた。



 オ 本件納税保証書1については、Cが、その保証人欄に原告X1の氏名及び住所を記載した。その保証人欄には原告X1の実印が押印された。



 カ 本件担保提供書3については、Cが、その担保提供者欄にAの名称及び所在地並びに代表取締役である原告X1の氏名を記載し、その担保物件の所有者欄に原告会社の名称及び所在地並びに代表取締役である原告X1の氏名を記載した。


 本件担保提供書3の担保提供者欄にはAの実印が押印され、その担保物件の所有者欄に原告会社の実印が押印され、Aの実印及び原告会社の実印により契印もされた。



 キ 本件納税保証書2については、Cが、その保証人欄に原告会社の名称及び所在地並びに代表取締役である原告X1の氏名を記載した。その保証人欄には原告会社の実印が押印され、契印もされた。



 ク このとき、原告X1及びCは、G主査らに対し、原告X1の平成13年9月4日付け印鑑登録証明書2通、原告会社の同年8月31日付け印鑑証明書及び同年10月5日に開催された原告会社の取締役会においてAの本件滞納国税を原告会社が納税保証すると決議された旨が記載された取締役会議事録を提出した。










  2 争点1(原告X1は本件滞納国税の担保として本件各土地に抵当権を設定することを承諾したか否か)について



(1) 前記前提事実(4)ア、イのとおり、本件担保提供書1には、Aが本件各土地を本件滞納国税の担保として提供し、本件各土地の所有者である原告X1がその担保提供に同意する旨記載され、本件承諾書には、原告X1が本件各土地にAの本件滞納国税を被担保債権とする抵当権を設定することを承諾する旨記載されているところ、本件担保提供書1の所有者欄の原告X1の署名及び本件承諾書の設定者欄の原告X1の署名はいずれも原告X1が自ら署名したものであることは当事者間に争いがなく、また、前記認定事実(2)イ、ウのとおり、本件担保提供書1の所有者欄の原告X1の印影及び本件承諾書の設定者欄の原告X1の印影は原告X1の実印により顕出されたものであることからすれば、本件担保提供書1及び本件承諾書は、いずれも真正に成立したものと推定される。



(2) これに対し、原告X1は、東京国税局担当官との間で、原告X1が本件各土地に抵当権を設定するには原告X1自身が東京国税局担当官の面前で作成文書の内容を正確に認識した上で署名押印する旨合意していたところ、東京国税局担当官は、本件担保提供書1及び本件承諾書が作成された際、原告X1と面接せず、原告X1の面前でそれらの書類を作成しなかったし、また、それらの書類には別紙の物件目録が添付されていない状態であったから、本件各土地の担保提供は存在しないか無効である旨主張し、原告X1作成の陳述書及び原告X1本人尋問の結果中にはこれに沿う記述部分ないし供述部分がある。


 しかしながら、東京国税局徴収職員が原告X1が東京国税局に出頭していることを認識していながら原告X1と直接面接しないとか、原告X1が自ら東京国税局に出頭していたにもかかわらず自身の実印をCに貸すということ自体不自然であるし、東京国税局徴収職員があえて原告X1と直接面接しない理由も見当たらない。


 また、証人Cは、Aに本件滞納国税が発生していて本件滞納国税の支払を分割払いにしてもらうこと等を原告X1に伝えると分割払いの話がまとまらなくなるため、平成13年10月12日に東京国税局徴収職員と面接した際も原告X1を同職員と直接面接させなかった旨供述する一方、原告X1は本件各土地を担保提供することを目的として東京国税局に出頭していたとも供述しており、そうすると、原告X1は、本件各土地を担保提供する際の被担保債権としてAの本件滞納国税が発生していることを当然認識していたものと認められ、証人Cにおいて、Aに本件滞納国税が発生していてAの本件滞納国税を分割払いにしてもらうこと等を原告X1に伝えることができない理由は見当たらないというべきである。


 したがって、原告X1が東京国税局徴収職員と面接しなかった旨の原告X1作成の陳述書及び原告X1本人尋問の結果並びに証人Cの供述中の上記記述部分ないし供述部分は、いずれも惜信することができない。



 そして、証拠(乙16、証人F)によれば、原告X1は本件担保提供書1の提供者欄及び所有者欄並びに本件承諾書の設定者欄にそれぞれ署名押印したものと認められ、前記認定事実(2)イ、ウのとおり、本件担保提供書1及び本件承諾書に添付されている別紙不動産目録には原告X1の実印による契印がされていることからすれば、本件担保提供書1及び本件承諾書に別紙不動産目録が添付されておらず原告X1が別紙不動産目録の存在を認識していなかったと認めることもできない。



     したがって、原告X1の上記主張は採用できない。



(3) 以上によれば、本件担保提供書1及び本件承諾書はいずれも真正に成立したものと認められ、この本件担保提供書1等によれば、原告X1は、本件滞納国税の担保として本件各土地に抵当権を設定することを承諾したものと優に認定できるというべきである。










 3 争点2(原告会社は本件滞納国税について保証したか否か)について



(1) 前記前提事実(4)オ、カのとおり、本件担保提供書3には、Aが本件滞納国税の人的担保として原告会社を提供し、原告会社は保証人となることを承諾する旨記載され、本件納税保証書2には、原告会社がAの本件滞納国税を保証する旨記載されているところ、前記認定事実(2)カ、キのとおり、本件担保提供書3及び本件納税保証書2の原告会社の印影は原告会社の実印によるものであることからすれば、本件担保提供書3及び本件納税保証書2は、いずれも真正に成立したものと推定される。



(2) これに対し、原告会社は、本件担保提供書3及び本件納税保証書2に記載された原告会社の住所、会社名、代表取締役の文字は代表取締役である原告X1の筆跡ではなく、それらの書類は原告会社の業務の執行として作成されたものではない旨主張し、原告X1作成の陳述書、原告X1本人尋問の結果及び証人Cの供述中にはこれに沿う部分がある。


 この点、確かに、前記認定事実(2)カ、キのとおり、本件担保提供書3及び本件納税保証書2の原告会社の名称及び所在地並びに代表取締役である原告X1の氏名は、いずれもCが記載したものであって、原告会社の代表取締役である原告X1自身が記載したものではない。



 しかしながら、前記認定事実(1)のとおり、原告X1は、平成13年10月4日には、原告X1及び原告会社はAの納税について納税保証書を提出する旨の本件誓約書を作成したこと、前示のとおり、平成13年10月12日に東京国税局職員と面接した際に原告X1は同職員と直接面接しなかった旨の原告X1作成の陳述書の記述部分及び原告X1本人尋問の結果中の供述部分並びに証人Cの供述部分は、いずれも措信することができず、かえって、証拠(乙16、証人F)によれば、原告X1はCとともに東京国税局職員と面接しており、原告X1が本件担保提供書3及び本件納税保証書2に原告会社の実印を押印したものと認められ、このことからすれば、本件担保提供書3及び本件納税保証書2が原告会社の代表取締役であった原告X1の意思に基づかずに作成されたものと認めることはできない。



     したがって、原告会社の上記主張は採用できない。





(3) 以上によれば、本件担保提供書3及び本件納税保証書2はいずれも真正に成立したものと認められ、この本件担保提供書3等によれば、原告会社は、本件滞納国税について保証したものと認められる。



(4) なお、原告会社は、原告会社が納税保証を承諾する旨の平成13年10月5日付け取締役会議事録は、何者かによって偽造された内容虚偽の文書であるとして、本件滞納国税を保証する旨の原告会社の取締役会決議が存在しない旨主張する。



 しかしながら、代表取締役が取締役会の決議を経てすることを要する対外的な個々的取引行為を取締役会の決議を経ないでした場合でも、その取引行為は内部的意思決定を欠くに止まるから、原則として有効であり、ただ、取引の相手方が取締役会の決議を経ていないことを知り又は知り得べかりしときに限って無効であると解するのが相当であるところ(最高裁判所昭和40年9月22日第三小法廷判決・民集19巻6号1656頁参照)、


 本件において、本件滞納国税を保証する旨の原告会社の取締役会決議が存在しなかったとしても、東京国税局徴収職員がそのことについて知り又は知り得べかりし事情があったとは認められないから、原告会社の上記主張は理由がない。




 第4 結論



 よって、原告X1及び原告会社の本訴請求は、いずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法61条、65条1項ただし書を適用して、主文のとおり判決する。


     東京地方裁判所民事第7部

         裁判長裁判官  山崎 勉

            裁判官  遠藤真澄

            裁判官  岩田真吾





 主   文


  1 甲事件原告及び乙事件原告の請求をいずれも棄却する。

  2 訴訟費用は、甲事件原告に生じた費用と甲事件被告・乙事件被告に生じた費用の2分の1との合計を甲事件原告の負担とし、乙事件原告に生じた費用と甲事件被告・乙事件被告に生じた費用の2分の1との合計を乙事件原告の負担とする。