トッカン(4)






 本日は平成21年12月21日、東京地方裁判所判決、抵当権設定登記抹消等請求事件他、税務訴訟資料(徴収関係判決)平成21年順号21-55 について検討します。










 




第1 請求




  1 甲事件


    甲事件被告(乙事件被告、以下「被告」という。)は、別紙物件目録記載の各土地について、平成13年10月19日福島地方法務局相馬支局受付第●●号抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。





  2 乙事件


    乙事件原告(以下「原告会社」という。)が東京国税局長に差し入れた平成13年10月12日付け納税保証書に基づく株式会社Aの換価の猶予に係る滞納税金を主債務とする原告会社の納税保証債務が存在しないことを確認する。




 第2 事案の概要




  1 甲事件は、別紙物件目録記載の各土地(以下「本件各土地」という。)を所有する甲事件原告(以下「原告X1」という。)が、株式会社A(以下「A」という。)の納税債務を被担保債権とし、財務省を抵当権者とする本件各土地の抵当権設定登記について、原告Xによる本件各土地の担保提供は不存在ないし無効である旨主張して、被告に対し、所有権に基づき、同抵当権設定登記の抹消登記手続を求める事案であり、乙事件は、原告会社が、Aの上記納税債務を主債務とする原告会社の保証債務が存在しないことの確認を求める事案である。





  2 前提事実(当事者間に争いがないか、証拠等により容易に認められる事実)




 (1) 原告X1は、平成13年10月当時、A及び原告会社(当時の商号は株式会社B)の代表取締役であった者である。


 原告X1は、平成12年1月11日に本件各土地の所有権を代物弁済を原因として取得して以降、本件各土地を所有している。




(2) Aは、平成13年10月当時、平成11年度から平成13年度源泉所得税、平成9年度から平成13年度法人税、平成8年度から平成9年度消費税並びに平成9年度から平成13年度消費税及び地方消費税(いずれも延滞税を含む。)を滞納していた(以下「本件滞納国税」という。)。




(3) 本件各土地には、いずれも債権者を財務省(取扱庁東京国税局)、債務者をA、債権額を1億1183万1円とする別紙登記目録記載の抵当権設定登記(以下「本件抵当権設定登記」という。)がされている。




(4) 平成13年10月12日、Aの本件滞納国税について以下の書類が作成された。



ア Aが本件各土地を本件滞納国税の担保として提供し、本件各土地の所有者である原告X1がその担保提供に同意する旨記載されたA及び原告X1作成名義の平成13年10月12日付け担保提供書(乙2、以下「本件担保提供書1」という。)


イ 原告X1が本件各土地にAの本件滞納国税を被担保債権とする抵当権を設定することを承諾する旨記載された原告X1作成名義の平成13年1O月12日付け抵当権設定登記承諾書(乙3、以下「本件承諾書」という。)


ウ Aが本件滞納国税の人的担保として原告X1を提供し、原告X1は保証人となることを承諾する旨記載されたA及び原告X1作成名義の平成13年10月12日付け担保提供書(乙5、以下「本件担保提供書2」という。)


エ 原告X1がAの本件滞納国税を保証する旨記載された原告X1作成名義の平成13年10月12日付け納税保証書(乙6、以下「本件納税保証書1」という。)


オ Aが本件滞納国税の人的担保として原告会社を提供し、原告会社は保証 人となることを承諾する旨記載されたA及び原告会社作成名義の平成13年10月12日付け担保提供書(乙8、以下「本件担保提供書3」という。)


カ 原告会社がAの本件滞納国税を保証する旨記載された原告会社作成名義の平成13年10月12日付け納税保証書(乙9、以下「本件納税保証書2」という。)





(5) 東京国税局長は、平成13年10月12日、本件滞納国税に関し、本件各土地を担保とし、原告会社を納税保証人とし、猶予期間を同日から平成14年3月31日までの6か月間として、滞納処分による財産の換価を猶予することを決定し(国税徴収法151条、152条、国税通則法46条5項)、被告は、平成13年10月19日、本件各土地について本件抵当権設定登記を経由した。











 3 争点及びこれに関する当事者の主張



    本件の主たる争点は、①原告X1は本件滞納国税の担保として本件各土地に抵当権を設定することを承諾したか否か、②原告会社は本件滞納国税について保証したか否かであり、各争点に関する当事者の主張は、以下のとおりである。




(1) 争点1 (原告X1は本件滞納国税の担保として本件各土地に抵当権を設定することを承諾したか否か)





    (被告の主張)




ア 原告X1及びAと原告会社の取締役であったC(以下「C」という。)は、平成13年10月12日、東京国税局に出頭し、東京国税局徴収職員と面接したが、


 その際、原告X1は、A及び原告会社の各代表取締役並びに原告X1本人として、同徴収職員に対し、それぞれ、本件各土地に係る抵当権設定について本件担保提供書1、本件承諾書及び原告X1の平成13年9月4日付け印鑑登録証明書を、



 また、原告X1に係る人的保証について本件担保提供書2、



 本件納税保証書1及び原告X1の平成13年9月4日付け印鑑登録証明書2通を、



 さらに原告会社に係る人的保証について本件担保提供書3、



 本件納税保証書2、



 原告会社代表取締役の平成13年8月1日付け印鑑証明書及び原告会社が本件滞納国税を納税保証することについて承諾する旨が記載された平成13年10月5日付け原告会社取締役会議事録を提出した。





イ 本件担保提供書1の所有者欄の署名の筆跡及び本件承諾書の署名の筆跡は、いずれも、原告X1の筆跡であると自認する納税誓約書(乙1)と同一であると認められ、また、本件担保提供書1の所有者欄の押印の印影及び本件承諾書の押印の印影は、いずれも原告X1の印鑑登録証明書の印影と同一であると認められる。




 そうすると、本件担保提供書1及び本件承諾書は、いずれも、真正に成立したものと推定される。




 このように、原告X1から東京国税局長に対し、本件各土地を本件滞納国税の換価の猶予を行う際の担保として提供して抵当権設定の登記をすることについての承諾がされ、これを受けて、東京国税局長が換価の猶予を決定し、その結果、本件各土地について本件抵当権設定登記がされた。








    (原告X1の主張)




ア 原告X1は、平成13年10月12日、CとAの社員であるD(以下「D」という。)とともに東京国税局に出頭した。



 原告X1らが東京国税局の待合室で待機していると、同月4日に原告X1の自宅を訪れた担当官が現れ、同担当官は原告X1を残してCとDを別室に呼び入れた。



 程なく、Cが別室から出てきて、原告X1に対し、本件担保提供書1及び本件承諾書を示し、原告X1の住所、氏名等を記載するよう求めた上、「ちょっと印鑑を貸してください。」と原告X1に申し向けて原告X1から同人の実印を預かり別室に戻っていった。




 原告X1は、改めて呼出しがあるものと考え、その場で待機していたが、2、3分後にCとDが別室から出てきて、原告X1に対し、「終了です。」と告げて実印を返却し、原告X1は、これで終わりならばと考えてそのまま帰路についた。





イ 原告X1は、平成13年10月4日、Aの代表取締役として、東京国税局担当官の求めるところに従って納税誓約書(乙1)を差し入れたが、



 その際、原告X1は、東京国税局担当官と、本件各土地に抵当権を設定するには、原告X1自身が東京国税局担当官の面前で、作成文書の内容を正確に認識した上で署名押印することを合意していた。



 ところが、平成13年1O月12日に本件担保提供書1及び本件承諾書が作成された際、原告X1は東京国税局職員と面接していないし、同職員の面前で書類作成を行ってもいない。



 また、原告X1は、本件担保提供書1及び本件承諾書に別紙の物件目録が添付されていない状態で、Cから住所、氏名等の記入を求められた。




 したがって、上記担保提供手続には重大な瑕疵があり、原告X1による本件各土地の担保提供は存在しないか又は無効である。