先日に引き続き同裁判例の各主張を検討します。
(4)争点(4)(本件滞納国税の納税義務の時効消滅の有無)について
(原告の主張)
ア 原告は、弁護士D及び弁護士E作成に係る訴外会社の債務整理についての平成14年5月22日付け通知書(甲7の1)及び同年10月4日付け報告書(甲8の1)を受領した。
同報告書には、Cが脳内出血により倒れたため成年後見人としてCの実兄であるFが就任したことなどが記載されていた。
なお、Cは、その後死亡した。
通常の場合と異なり、緊急を要する重大局面であったにもかかわらず、東京国税局が上記の債務整理に参加せず放置していたことからすれば、国税の時効が完成したものと推定すべきである。
イ また、その時点においても東京国税局から原告に対して何らの督促もなく、その後も既に6年が経過している。
原告が本件保証書を作成してから11年も経過し、
その間一度の督促もなく、
偶然本件保証書が発見されたとして、突然本件通知書を送付する行為は違法なものである。
ウ 訴外会社は、債務整理の後、平成19年6月8日に東京都江戸川区に本店を移転し、現在も存在しているところ、その後も未決済の本件各小切手に係る債務につき何ら督促行為が行われていないことから、国税の時効が成立している。
(被告の主張)
ア 原告が納税保証した本件滞納国税については、別紙一覧表(2)の「時効中断事由」欄記載のとおり、次の各(ア)ないし(カ)の事由により時効が中断している。
(ア)督促
本件滞納国税を構成する各租税債権について、別紙一覧表(2)の「督促年月日」欄記載のとおり、督促(通則法73条1項4号)がされた。なお、同欄記載の年月日は、督促状を発した日である。
(イ)納付受託
訴外会社は、別紙一覧表(2)の「納付受託による納付」欄記載のとおり、国税の納付委託をしたが(乙44ないし46)、これらの納付委託につき訴外会社は納付委託の申出をし、また、納付を委託された証券の取立てによる納付がされた(通則法72条3項、民法147条3号)。
なお、納付委託の具体的な内容は、次のとおりである。
a 訴外会社は、平成元年11月21日、王子税務署徴収職員に対し、滞納に係る国税の一括納付が困難であるため、昭和63年8月1日から平成元年7月31日期の法人税確定申告分本税(別紙一覧表(2)順号16)の一部である100万円分について、券面額をいずれも20万円とする小切手5通を提供して納付委託をした(乙44、乙52)。
b 訴外会社は、平成2年11月28日、王子税務署徴収職員に対し、滞納に係る国税の一括納付が困難であるため、昭和63年8月1日から平成元年7月31日期の法人税確定申告分本税(別紙一覧表(2)順号16)の一部である360万円分について、券面額をいずれも60万円とする小切手6通を提供して納付委託をした(乙45、乙52)。
c 訴外会社は、平成3年7月29日、王子税務署徴収職員に対し、滞納に係る国税の一括納付が困難であるため、昭和63年8月1日から平成元年7月31日期の法人税確定申告分本税(別紙一覧表(2)順号16)の一部及び昭和63年1月分ないし平成元年12月分源泉所得税告知分(別紙一覧表(2)順号1)の一部である合計360万円分について、券面額をいずれも60万円とする小切手6通を提供して納付委託をした(乙46、乙52)。
(ウ)差押え
a 東京国税局徴収職員は、平成7年5月1日、社団法人G協会に債権差押通知書を交付送達して同社団法人を第三債務者とする訴外会社の弁済業務保証金分担金の返還請求権の差押え(以下「本件差押処分2」という。)をした(乙47)。
b 平成9年4月17日に本件差押処分1がされた。
(エ)交付要求
a 東京国税局長は、平成10年5月7日、浦和地方裁判所熊谷支部平成●●年(○○)第●●号不動産強制競売事件につき、交付要求をした(乙48の1・2)。
b 東京国税局長は、平成15年1月10日、埼玉県行田県税事務所長が滞納処分により差し押さえていた別紙不動産目録2記載の各不動産につき、参加差押えをした(乙49の1及び2)。
イ 前記アの各時効中断事由を本件滞納国税について具体的に述べると、次のとおりである。
(ア)別紙一覧表(2)の順号1ないし6、12ないし15及び17ないし23について
各法定納期限(順号1ないし5については、最も古い法定納期限)から5年を経過する前に督促したことにより、時効が中断し、
督促状を発した日から起算して10日を経過した日から新たに時効期間が進行することとなるところ、
督促状を発した日から5年を経過する前に本件差押処分2をしたことにより、時効が中断し、
その後、本件差押処分1をし、その効力は本件差押処分1に係る本件不動産の公売が終了した平成19年12月11日まで及んでいるから、国税徴収権の消滅時効は完成していない。
(イ)別紙一覧表(2)の順号7ないし11及び24ないし27について
各法定納期限から5年を経過する前に督促したことにより、時効が中断し、
督促状を発した日から起算して10日を経過した日から新たに時効期間が進行することとなるところ、
督促状を発した日から5年を経過する前に本件差押処分1をし、
その効力は本件差押処分1に係る本件不動産の公売が終了した平成19年12月11日まで及んでいるから、国税徴収権の消滅時効は完成していない。
(ウ)別紙一覧表(2)の順号16について
法定納期限から5年を経過する前に督促したことにより、時効が中断し、
督促状を発した日から起算して10日を経過した日から新たに時効期間が進行することとなるところ、
督促状を発した日から5年を経過する前に、訴外会社から、数度にわたり、納付委託を受け、
その納付委託に基づき租税債権の一部の納付がされたことにより、
それぞれの時点において、時効が中断した。
そのそれぞれの日の翌日から新たに時効期間が進行することとなるところ、
その後5年を経過する前に本件差押処分2をしたことにより、時効が中断し、
その後、本件差押処分1をし、その効力は本件差押処分1に係る本件不動産の公売が終了した平成19年12月11日まで及んでいるから、国税徴収権の消滅時効は完成していない。
ウ(ア)時効中断事由のうち、督促については、一件別徴収カードにより、督促状又は督促のための納付催告書を発した日が確認できる。
督促状等は、郵便又は信書便によって送達される書類であるから、
通則法12条3項により、税務署長その他の行政機関の長において、その送達を受けるべき者の氏名、あて先及び発送の年月日を確認するに足りる記録を作成することが義務付けられており、
督促状の記録については、一件別徴収カードにも記録することになっている(一件別徴収カードは、国税収納金整理資金事務取扱細則7条1項により国税庁長官が定めた様式であり、その記載項目として督促の事績が定められている。)。
具体的には、一件別徴収カードの「督促等決議年月日」欄に記載された日付が督促状を発した日となる。
(イ)乙17ないし43(枝番を含む。)の各一件別徴収カードの「督促返戻(取消)区分」欄には何ら表示がなく返戻事績がないため、各督促状は通常到達すべきであった時に送達されたものと推定される(通則法12条2項)ことから、督促の効力が生じている。
送達されたと推定される時期は、その時々の郵便事情や地理的事情その他の関係を考慮して合理的に判断すべきであるが、王子税務署の所在地である東京都北区王子3丁目22番15号の郵便番号は114-0002であり、かつ、訴外会社の所在地であった同区の郵便番号は であるところ、H株式会社の発表によれば、両郵便番号を管轄する王子支店管内における郵便物の郵送に要する日数は、おおむね1日であるとされる(乙51)。
したがって、王子税務署長が訴外会社にあてて発した督促状は、いずれも発した日のおおむね翌日には訴外会社へ送達されたと推定される。
エ そして、消滅時効の時効中断の効力は、保証人である原告にも及ぶから、原告の保証債務も時効消滅していない。