トッカン(1)








 平成22年4月27日、東京地方裁判所判決、税務訴訟資料(徴収関係判決)平成22年順号22-22 を検討します。








 事案の概要



  本件は、株式会社の国税の納税義務について保証をした原告が、東京国税局長から納付通知書による告知の処分を受けたのに対し、同通知書には原告が差し入れた保証書には記載されていなかった金額の記載がある、納税義務は既に時効により消滅しているなどとし、それゆえ上記告知処分は違法である旨主張して、上記処分の取消しを求めた事案である。






 



1 法令の定め



(1)納税保証



  ア(ア)国税通則法(以下「通則法」という。)50条6号は、税務署長等(税務署長又は後の(6)に述べるように通則法43条3項の規定により国税局長が国税の徴収を行う場合には国税局長。通則法46条1項参照。以下同じ。)が確実と認める保証人の保証を、国税に関する法律の規定により提供される担保の種類の1つとして定める。



 (イ)平成20年政令第219号による改正前の国税通則法施行令16条3項(同改正後の同条4項)は、通則法50条6号(保証人の保証)に掲げる担保を提供しようとする者は、保証人の保証を証する書面を国税庁長官等(その提供先の国税庁長官、国税局長、税務署長又は税関長をいう。国税通則法施行令16条1項参照)に提出しなければならないと定める。




  イ(ア)通則法52条1項は、税務署長等は、担保の提供されている国税がその納期限(納税の猶予又は徴収若しくは滞納処分に関する猶予に係る期限を含む。)までに完納されないときは、その担保として提供された金銭をその国税に充て、若しくはその提供された金銭以外の財産を滞納処分の例により処分してその国税及び当該財産の処分費に充て、又は保証人にその国税を納付させると定める。



 (イ)a 同条2項前段は、税務署長等は、同条1項の規定により保証人に同項の国税を納付させる場合には、政令で定めるところにより、その者に対し、納付させる金額、納付の期限、納付場所その他必要な事項を記載した納付通知書による告知をしなければならないと定める。



  b 国税通則法施行令19条は、通則法52条2項(納付通知書による告知)に規定する納付通知書に記載すべき納付の期限は、当該通知書を発する日の翌日から起算して一月を経過する日とすると定める。



 (ウ)通則法52条4項は、同条1項の場合において、担保として提供された金銭又は担保として提供された財産の処分の代金を同項の国税及び処分費に充ててなお不足があると認めるときは、税務署長等は、当該担保を提供した者の他の財産について滞納処分を執行し、また、保証人がその納付すべき金額を完納せず、かつ、当該担保を提供した者に対して滞納処分を執行してもなお不足があると認めるときは、保証人に対して滞納処分を執行すると定める。



 (エ)同条5項は、同条4項の規定により保証人に対して滞納処分を執行する場合には、税務署長等は、同項の担保を提供した者の財産を換価に付した後でなければ、その保証人の財産を換価に付することができないと定める。










 (2)差押え




 ア 国税徴収法(以下「徴収法」という。)47条は、次の(ア)又は(イ)に該当するときは、徴収職員は、滞納者の国税につきその財産を差し押えなければならないと定める。



 (ア)滞納者が督促を受け、その督促に係る国税をその督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに完納しないとき。



 (イ)納税者が通則法37条1項各号(督促)に掲げる国税をその納期限(繰上請求がされた国税については、当該請求に係る期限)までに完納しないとき。



 イ 徴収法68条1項は、不動産の差押えは、滞納者に対する差押書の送達により行うと定め、同条2項は、同条1項の差押えの効力は、その差押書が滞納者に送達された時に生ずると定める。また、同条3項は、税務署長は、不動産を差し押えたときは、差押えの登記を関係機関に嘱託しなければならないと定め、同条4項は、同条3項の差押えの登記が差押書の送達前にされた場合には、同条2項の規定にかかわらず、その差押えの登記がされた時に差押えの効力が生ずると定める。











 (3)換価の猶予


  ア(ア)徴収法151条1項本文は、税務署長は、滞納者が次のa又はbに該当すると認められる場合において、その者が納税について誠実な意思を有すると認められるときは、その納付すべき国税につき滞納処分による財産の換価を猶予することができると定め、同項ただし書は、その猶予の期間は、1年を超えることができないと定める。



 a その財産の換価を直ちにすることによりその事業の継続又はその生活の維持を困難にするおそれがあるとき。



 b その財産の換価を猶予することが、直ちにその換価をすることに比して、滞納に係る国税及び最近において納付すべきこととなる国税の徴収上有利であるとき。



 (イ)同条2項は、税務署長は、同条1項の換価の猶予をする場合において、必要があると認めるときは、差押えにより滞納者の事業の継続又は生活の維持を困難にするおそれがある財産の差押えを猶予し、又は解除することができると定める。



  イ(ア)徴収法152条は、通則法46条4項から7項まで(納税の猶予の場合の分割納付等)の規定は、徴収法151条1項の規定による換価の猶予について準用すると定める。



(イ)通則法46条5項本文は、税務署長等は、同条2項又は3項の規定による納税の猶予をする場合には、その猶予に係る金額に相当する担保を徴さなければならないと定める。











 (4)納付委託



 ア 通則法55条1項(平成18年法律第10号による改正前のもの。以下同じ。)前段は、納税者が次に掲げる国税を納付するため、国税の納付に使用することができる証券以外の有価証券を提供して、その証券の取立てとその取り立てた金銭による当該国税の納付を委託しようとする場合には、税務署の当該職員は、その証券が最近において確実に取り立てることができるものであると認められるときに限り、その委託を受けることができると定める。


 (ア)納税の猶予又は滞納処分に関する猶予に係る国税(同項1号)


 (イ)納付の委託をしようとする有価証券の支払期日以後に納期限の到来する国税(同項2号)


 (ウ)前記(ア)及び(イ)に掲げる国税のほか、滞納に係る国税で、その納付につき納税者が誠実な意思を有し、かつ、その納付の委託を受けることが国税の徴収上有利と認められるもの(同項3号)



 イ 同条2項は、税務署の当該職員は、同条1項の委託を受けたときは、納付受託証書を交付しなければならないと定める。











(5)国税の徴収権の消滅時効



 ア(ア)通則法72条1項は、国税の徴収を目的とする国の権利(以下「国税の徴収権」という。)は、その国税の法定納期限(過怠税については、その納税義務の成立の日とする。)から5年間行使しないことによって、時効により消滅すると定める。



 (イ)通則法72条2項は、国税の徴収権の時効については、その援用を要せず、また、その利益を放棄することができないものとすると定める。



 (ウ)同条3項は、国税の徴収権の時効については、通則法第7章第2節(通則法72条及び73条)に別段の定めがあるものを除き、民法の規定を準用すると定める。



 イ(ア)通則法73条1項3号、4号及び5号は、国税の徴収権の時効は、次のaないしcに掲げる処分に係る部分の国税については、その処分の効力が生じた時に中断し、次のaないしcに掲げる期間を経過した時から更に進行すると定める。



 a 納税に関する告知(同項3号)

   その告知に指定された納付に関する期限までの期間



  b 督促(同項4号)

    督促状又は督促のための納付催告書を発した日から起算して10日を経過した日(同日前に徴収法47条2項(繰上差押え)の規定により差押えがされた場合には、そのされた日)までの期間



  c 交付要求(通則法73条1項5号)

    その交付要求がされている期間(徴収法82条2項(交付要求)の通知がされていない期間があるときは、その期間を除く。)



 (イ)通則法73条4項は、国税の徴収権の時効は、延納、納税の猶予又は徴収若しくは滞納処分に関する猶予に係る部分の国税(当該部分の国税にあわせて納付すべき延滞税及び利子税を含む。)につき、その延納又は猶予がされている期間内は、進行しないと定める。



 (ウ)同条5項は、国税(附帯税、過怠税及び国税の滞納処分費を除く。)についての国税の徴収権の時効が中断し、又は当該国税が納付されたときは、その中断し、又は納付された部分の国税に係る延滞税又は利子税についての国税の徴収権につき、その時効が中断すると定める。











(6)国税の徴収の所轄庁等



  通則法43条1項本文は、国税の徴収は、その徴収に係る処分の際におけるその国税の納税地を所轄する税務署長が行うと定め、同条3項は、国税局長は、必要があると認めるときは、その管轄区域内の地域を所轄する税務署長からその徴収する国税について徴収の引継ぎを受けることができると定める。














 2 前提事実(争いのない事実、各項末尾に掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実並びに当裁判所に顕著な事実)






 (1)原告の納税保証




  ア 東京国税局長は、平成9年4月17日、B株式会社(当時の商号。平成12年3月10日にA株式会社に商号変更。以下「訴外会社」という。)の別紙租税債権目録(1)記載の国税(以下「本件滞納国税」という。ただし、同目録の順号18の加算税の内訳は、重加算税122万5000円、過少申告加算税67万円である。)の滞納処分として、別紙不動産目録1記載1の不動産(以下「本件不動産」という。)の差押え(以下「本件差押処分1」という。)をし、平成9年4月21日にその旨の登記がされた。(乙1の1・2)




  また、東京国税局長は、同月25日、訴外会社の本件滞納国税の滞納処分として、別紙不動産目録1記載2ないし4の各不動産の差押えをし、同月30日及び同年5月1日にその旨の登記がされた。




  イ(ア)同月20日、訴外会社の代表取締役であったC(以下「C」という。)及び原告は、東京国税局を訪れ、東京国税局所部係官(以下、単に「所部係官」という。)に対し、換価の猶予に係る本件滞納国税の納税担保としてC及び原告の納税保証を提供する旨及びこれを訴外会社が承諾する旨が記載された同日付け担保提供書(乙3)を提出するとともに、


 C及び原告が訴外会社の「猶予税額」を両名で連帯して納税保証する旨を記載した同日付け納税保証書(甲1、乙4。以下「本件保証書」という。)等を提出した。



 本件保証書に添付された別紙「滞納金目録」(以下「本件滞納金目録」という。)においては、上記の「猶予税額」の内訳として、「年度」、「税目」、「納期限」、「本税」、「加算税」、「延滞税」、「法定納期限等」及び「備考」欄の記載をもって、本件滞納国税が特定されていた。(乙3ないし7)





 (イ)また、訴外会社は、同日、所部係官に対し、換価の猶予に係る本件滞納国税を納付するため、先日付小切手12通(以下「本件各小切手」という。)を提供して納付委託(以下「本件納付委託」という。)をし、所部係官は、訴外会社に対して納付受託証書を交付した。(乙8の1・2)




 ウ 東京国税局長は、同月23日、徴収法151条1項1号に基づき、C及び原告を保証人とする保証等を本件滞納国税の担保として徴することとして、猶予期間を同日から平成10年5月22日までの12か月間として、本件滞納国税の滞納処分による財産の換価の猶予をすることを決定した。(乙9。以下、これまでに述べた経過により原告との間で締結された保証契約を「本件保証契約」という。)




 そして、東京国税局長は、平成9年5月23日付けで、前記の別紙不動産目録1記載2ないし4の各不動産の差押えを解除した。








 (2)原告に対する納税の告知等



  ア 訴外会社は、平成10年5月22日までに本件滞納国税を完納しなかった。



  イ 東京国税局長は、平成19年12月11日付けで、本件差押処分1に係る本件不動産を公売した。(乙1の2)



  ウ 東京国税局長は、通則法52条2項に基づき、原告に対し、平成20年5月13日付け納付通知書(甲2。以下「本件通知書」という。)を送付して、本件滞納国税に係る同日現在の残高である別紙租税債権目録(2)記載の国税(ただし、同目録の順号18の加算税の内訳は、重加算税122万5000円、過少申告加算税67万円である。)について、原告が保証人として納付しなければならないことを告知する処分(以下「本件処分」という。)をした。



  エ 原告は、同年6月24日付けで、東京国税局長に対し、本件処分について異議申立てをした。(乙12)東京国税局長は、同年9月12日付けで、上記異議申立てを棄却する旨の決定をした。(乙13)



  オ 原告は、同月29日付けで、国税不服審判所長に対し、本件処分について審査請求をした。(甲11)国税不服審判所長は、平成21年4月23日付けで、上記審査請求を棄却する旨の裁決をした。(甲16)








 (3)本件訴えの提起


   原告は、平成21年4月28日、当裁判所に対し、本件訴えを提起した。















 3 争点


  本件における中心の争点は、本件処分の適法性であるが、原告が本件処分が違法である根拠として挙げ、被告がこれを争っている具体的な事項は、次の点に係るものである。





   (1)本件保証契約における原告の保証の範囲

   (2)原告が履行すべき保証債務の数額

   (3)本件納付委託による本件滞納国税の納税義務の消滅の有無

   (4)本件滞納国税の納税義務の時効消滅の有無

   (5)原告が被告の本件保証契約に基づく請求を拒み得るその他の事由の有無


















4 争点に対する当事者の主張




   (1)争点(1)(本件保証契約における原告の保証の範囲)について



  (被告の主張)


  ア(ア)本件保証書には、保証文言として「換価の猶予に係る下記納税者の猶予税額を私ども保証人連帯で納税保証をします。」と記載されており、また、本件保証書添付の本件滞納金目録の「本税」欄及び「加算税」欄には、それぞれ滞納金額が記載されており、「延滞税」欄には、金額が確定しているものについては金額が、本税が完納されていないことから具体的な延滞税額が確定していないものについては「要す」との文言がそれぞれ記載されている。



  そもそも、原告が、本件保証書に署名押印し、その別紙として添付された2枚の本件滞納金目録との間にもそれぞれ契印し、かつ、3枚目の末尾の余白を示す斜線にも押印していることのほか、上記の本件保証書の体裁及び記載内容からすれば、原告は、本件滞納金目録の各欄記載の訴外会社に係る本税、加算税及び延滞税の納税保証をすることを理解した上で、本件保証書を作成したものと認められる。




  (イ)原告は、当初本件保証書には金額等の記載がなく、かつ、原告がその内容を理解しないまま署名押印したかのような主張をするが、原告は、税理士であるから、金額欄白紙の納税証明書に署名押印し、又は納税保証書の意味内容を理解しないままこれに署名押印することは、考えられない。



  イ(ア)本件滞納国税に係る延滞税を通則法60条、61条及び62条並びに118条3項及び119条4項の規定に基づき計算すると、別紙一覧表(1)記載のとおりとなる(乙17ないし43(枝番を含む。))。

    


 なお、別紙一覧表(1)の「延滞税計算」欄中の「金額」欄における「除算」の記載は、該当する期間が通則法61条の規定に基づいて延滞税の計算の基礎となる期間から控除される期間であることを意味しており、具体的には、順号1の課税期間が昭和63年1月ないし平成元年2月に係る延滞税、順号2の課税期間が昭和63年7月、平成元年7月及び平成2年7月に係る延滞税並びに順号5の課税期間が平成3年6月ないし11月に係る延滞税については同条2項1号、順号17に係る延滞税については同条1項1号が、それぞれ法的根拠である。



  このように、本件通知書に記載された延滞税の金額は、通則法の規定に基づいて計算されたものである。






 (イ)a 乙17ないし43(枝番を含む。)は、国税収納金整理資金に関する法律施行令24条により国税収納命令官(その指定官職は、国税収納金整理資金事務取扱規則4条に規定されており、本件の場合は、税務署長がこれに該当する。)が備えることとされている「国税収納金整理資金徴収簿」として作成される「一件別徴収カード」である(電子情報処理組織に記録されたものをプリントアウトしたものである。)。



  これは、租税債権の債権管理台帳として、税目等の別により一件ごとに作成され、徴収決定済額、収納済額、不能欠損額等の登記がされ(国税収納金整理資金に関する法律施行令24条)、完納その他の理由により租税債権が完結するに至るまで使用されるものである。



  すなわち、税務署長は、納税者から申告書等を受理した場合など、徴収すべき租税債権が発生すると、一件別徴収カードを作成し、そこに徴収決定額、収納済額及び不能欠損額等の所要事項を登記する。そして、税務署長は、当該申告書等に係る税額が完結するに至るまで、税務署に、一件別徴収カードを備え置き、随時、税額に関する異動記録等の登記を行う。



  b 本件滞納国税に係る申告書等の提出等がされた当時、王子税務署長は、一件別徴収カードを手作業により作成していた。





 東京国税局長は、平成5年9月24日、通則法43条3項に基づき本件滞納国税に関する徴収の引継ぎを受けたが、その際には、国税庁長官が定めた事務処理手順に則って、引継ぎ時の収納未済額のみを管理することとなっていたことから、延滞税を含めた本件滞納国税に関する引継ぎの時点における収納未済額について、当時、特整システムと名付けられた国税収納金整理資金徴収簿に登記する事項等を登録する電子情報処理組織に必要事項を入力して、一件別徴収カードを作成し管理した。



 この入力に当たっては、誤入力が生じないよう、複数の職員により引継ぎに係る収納未済額一件ごとの内容及び金額について入力されたデータとの照合作業を行うことで、引継ぎに係る作業が正確に行われたことを確認する措置がとられたものである。



  その後、東京国税局に、KSKシステム(国税総合管理システム)が導入され、一件別徴収カードの作成等が電算化されることになったことから、国税庁長官が定めた事務処理手順に則って国税庁が作成した移行システムにより、特整システムのデータをKSKシステムに移行し、以降、KSKシステムにより、一件別徴収カードの作成や各種データの管理を行い、もって、登記に必要な事項を電子情報処理組織に記録する方法により一件徴収カードの作成を行っているものである(電子情報処理組織を使用して処理する場合における国税等の徴収関係事務等の取扱いの特例に関する省令2条1項)。




  なお、KSKシステムは、全国の国税局・沖縄国税事務所と税務署をネットワークで結び、申告・納税の事績や各種の情報を入力することにより、国税債権などを一元的に管理するとともに、これらを分析して税務調査や滞納整理に活用するなど、地域や税目を越えた情報の一元的な管理により、税務行政の根幹となる各種事務処理の高度化・効率化を図るために、国税庁が導入したコンピュータシステムであり、




 平成7年以降、順次導入を進め、平成13年からは、全国での運用を開始している。この導入に当たって、従前の電子情報処理組織等に記録されていた国税等に関しては、延滞税等を含めた導入時の収納未済額及び異動記録がKSKシステム上に記録されたところ、この記録に当たっては、収納未納額の合計について、従前の電子情報処理組織等に記録されたデータと移行後のKSKシステム上に記録されたデータとが一致していることを確認することにより、移行作業が正確に行われたことを確認するとの措置がとられたものである。



  したがって、乙17ないし43(枝番を含む。)の一件別徴収カードに印字された記録は、KSKシステム導入時の本件滞納国税に関する延滞税を含めた徴収未済額に関する正確な記録に基づくものである。


 以上のほか、原告は、税理士であり、本件滞納国税の未収額が正確なものであることを分かった上で、本件保証書を作成したことは明らかであるところ、本件保証書作成時の本件滞納国税の本税分の未収額がKSKシステム導入時点における本件滞納国税の本税分の未収額を上回ることからも、同時点における乙17ないし43(枝番を含む。)の未収額の記録の正確性が補強されている。





 (ウ)a 租税の滞納者に対しては、一件別徴収カードのほかに、「滞納処分票」が作成される。




   これは、納期限までに納付しない納税者(いわゆる滞納者)について作成されるもので、滞納者の住所・氏名並びに滞納国税の発生、納期限及び債権額等を特定する滞納整理の基礎となる帳票をいい、滞納額の発生、処理額及び残高の経過を記録し、完結に至るまで一貫して使用するものであり、国税収納金整理資金徴収薄(一件別徴収カード)の管理方式が変更されても、発生時のものを継続して使用することとなっているため、滞納額の発生時からのすべての納付事績等が記載されている。



  この滞納処分票により、東京国税局長が徴収の引継ぎを受ける前の本件滞納国税の税額異動状況を確認することができる(乙54)。



 ウ なお、本件保証書の別紙である本件滞納金目録の「延滞税」欄では「要す」と記載されていたものについて、本件通知書に添付された別紙滞納税金目録では、一部、確定延滞税を記載している。



















 (原告の主張)




  ア 次の事情からすれば、本件保証書に記入された保証金額は、限定的なものと考えるべきである。


 (ア)平成9年5月19日午後10時過ぎに、Cが原告宅を訪れ、原告に対し、当時売出し中の建売住宅の敷地の土地が東京国税局により差し押えられたところ、売却ができなくなれば訴外会社が倒産するため、東京国税局に行って差押えの解除をしてほしい旨を依頼した。



  (イ)同月20日、原告は、Cとともに東京国税局に赴いた。


   当時の担当者と約2時間にわたり交渉を続けた際、Cが異常な興奮状態となり、


   担当者を刃物で刺すような行動をとったため、



   原告は、刃傷事件になっては大変であると考えて、


   担当者に対し、差押えを解除するよい方策を上司と相談するよう申し入れた。




 その後、担当者が、原告が納税保証書を書いてくれればいいと言ったことから、原告は、本件保証書を作成した。この際、本件保証書についての説明は一切なく、担当者は、後日数字を書き入れるとだけ述べた。






 イ 本件通知書に係る別紙租税債権目録(2)記載の滞納国税のうち、


 ①順号5の平成5年1月25日を納期限とする源泉所得税の延滞税額403万9000円、

 ②順号12及び14の平成4年6月22日を納期限とする法人税の延滞税額54万5200円及び56万1600円、

 ③順号23ないし27の平成6年9月30日から平成8年9月30日を納期限とする消費税の延滞税額の合計額205万7100円は、いずれも本件保証書には記載されていない。






 したがって、上記の各延滞税額は、本件保証契約の保証の範囲に含まれないというべきである(なお、原告は、上記のほか、別紙租税債権目録(2)の


 順号22の平成4年9月30日を納期限とする消費税の延滞税額27万6100円についても、本件保証書には記載がないと指摘するものの、特にその点を自らの主張と関連付けて明確には問題としていない。)。













(3)争点(3)(本件納付委託による本件滞納国税の納税義務の消滅の有無)について






 (原告の主張)



 ア 原告は、訴外会社の未納税金の保証をしたところ、



 訴外会社は、未納税金につき、本件各小切手を提供した。



 なお、本件各小切手については、12通のうち11通については額面が200万円とされ、


 残りの1枚の額面は白地とされて、当局においてその1枚に残額を記入した上、翌年に当該残額についてまた均等額の先日付小切手が提供されるという方法がとられていた。


 本件各小切手については、額面200万円の小切手につき合計約800万円が取り立てられ納付されたが、


 月200万円では資金繰りが困難であったため、原告が東京国税局に赴き額面を50万円とするよう依頼し、その後、約6回にわたり、合計約300万円が取り立てられて納付された後、



 最後の額面白地の小切手に残額が記入されてその年の12月ころに銀行に取立てに回されそうになったところを何とか回避したという経緯がある。



 その後、額面を20万円として、合計約200万円程度が納付されている。




 イ 先日付小切手の取得は、未納税金の回収行為である。一般の商取引からすれば、未払債務は受取小切手に係る債務であり、上記取得の時点で受取小切手に係る債務が成立し、未納税金に係る納税義務は消滅している。


 原告は、未納税金に係る納税義務を保証したのみで、小切手債務まで保証したものではない。







 (被告の主張)



 納付委託は、単なる納付の手段にすぎず、納付委託によって直ちに納税義務が消滅するのではなく、有価証券を現金化してその現金を納付した時に初めて納税義務が消滅するものであるから、


 本件納付委託がされたことだけで本件滞納国税の納税義務が消滅することはない。なお、本件滞納国税は、本件各小切手の一部が取り立てられて納付されているものの、一部が取り戻されて納付されておらず、本件処分の時点でも本件滞納国税は完納されていない。