本日は 第82節 自由の優先権の諸根拠 から
秩序だった社会にあっては、〈対等な市民としての暮らし〉という地位を全員に付与することが公共
的に確約されることを通じて、自尊が確保される。
つまり、物質的な手段・資力の分配は、秩序だった社会の自立的な作用に委ねられるが、正義にかな
った後ろ盾となる制度によって統制される〈純粋な手続き上の正義〉に従うものである以上、申し訳の
たつ嫉みが生じない範囲にまで不平等は削減される。
封建制度やカースト制度の中におかれた各個人は、世の定めの中に割り当てられた地位を見出すもの
と考えられる。
暮らし向きに関する各人の比較はおそらく、それぞれが属している地位やカースト内部に制限され
る。
実際にはそうした諸階層は、人的な支配から独立に創設され、宗教や神学によって是認される、〈相
互の比較が問題にならない多数の集団〉となる。
人びとはたとえ疑問がわいたとしても、自らの身分に仕方なく身をまかせる。
また、全員が自分たちには使命が割り振られていると見なすため、誰もが平等に運命づけられ、神意
の見地からすれば平等に高貴な身分に属すると考えられる。
こうした社会観は、社会正義の問題を生じさせる情況を思想面で除去することによって、正義の問題
を解決する。
基礎構造はすでに決定されており、人間が影響を与えうる対象ではないと断言される。
このような見解にあっては、人びとが平等者として合意すると考えられる原理に社会秩序を合致させ
るべきだなどと仮定することは、この世におかれた人間の分際を誤解することに等しい。