本日は 第76節 相対的安定性の問題 から
〈公正としての正義〉に対応している正義感覚は、その他の〔正義〕構想によって植えつけられる類
似した情操よりも強力であることを、いくつかのことがらが示唆している。
第一に、私たちの善に対する他の人びとや制度からの無条件的な気遣いは、契約説においてはるかに
強力になる。
正義の原理に含まれている制約は、すべての人に平等な自由を保証し、私たちの権利要求はより大き
な便益の総和のために無視されたり、躁躍されたりすることがない。
〈公正としての正義〉のこうした側面の効果は、互恵性(助け合い)原理の作用を増大させる。
私たちの善に対するより無条件的な世話・心砕きや、偶然性や偶発事の悪用を他者がきっぱりと拒絶
することを通じて、私たちの自己肯定感が強められるに相違ない。
またこうしたより大きな善は、次に同じ仕方で応答するという経路を通じて、人びとや制度とのより
親密な提携をもたらす。
正義感覚や道徳感情といった能力は、人間が自然の中で占めている居場所への適応である。
動物行動学者が主張するところによれば、種の行動パターンとその習得の心理機制は、その種の身体
的構造の特徴とまったく同様に、当該の種の特性をなしている。
そしてこうした行動パターンは、器官や骨格とまったく同様にある進化を経る。
安定的な社会集団の中で生活している特定の種の構成員にとっては、公正な協働の制度枠組みに従う
能力や、そうした制度枠組みを支持するために必要とされる情操を発達させる能力は、きわめて有利な
ものとなる。
とりわけ、個体の寿命が長く、互いに依存している場合にあっては、特に有利なものとなることは明らかであるように思われる。
こうした条件が、首尾一貫して固守される相互的な正義はすべての関係者に便益をもたらす無数の好
機を保障してくれる。