みんぽー要綱仮案(37)



詐害行為取消権





1 受益者に対する詐害行為取消権の要件(民法第424条第1項関係)


 民法第424条第1項の規律を次のように改めるものとする。


 債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者(以下「受益者」という。)がその行為の時において債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。










2 受益者に対する詐害行為取消権の要件(民法第424条第2項関係)



 民法第424条第2項の規律を次のように改めるものとする。


(1) 1は、財産権を目的としない行為については、適用しない。

(2) 債権者は、その債権が1の行為の前の原因に基づいて生じたものである場合に限り、1の取消しの

 請求をすることができる。

(3) 債権者は、その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは、1の取消しの請

 求をすることができない。







3 相当の対価を得てした財産の処分行為の特則



 相当の対価を得てした財産の処分行為について、次のような規律を設けるものとする。


 債務者が、その有する財産を処分する行為をした場合において、受益者から相当の対価を取得しているときは、債権者は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り、当該行為について、1の取消しの請求をすることができる。


(1) 当該行為が、不動産の金銭への換価その他の当該処分による財産の種類の変更により、債務者にお

 いて隠匿、無償の供与その他の債権者を害することとなる処分(以下この3において「隠匿等の処

 分」という。)をするおそれを現に生じさせるものであること。

(2) 債務者が、当該行為の当時、対価として取得した金銭その他の財産について、隠匿等の処分をする

 意思を有していたこと。

(3) 受益者が、当該行為の当時、債務者が隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこ

 と。







4 特定の債権者に対する担保の供与等の特則



 特定の債権者に対する担保の供与等について、次のような規律を設けるものとする。


(1) 債務者がした既存の債務についての担保の供与又は債務の消滅に関する行為について、債権者は、

 次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り、1の取消しの請求をすることができる。 


ア 当該行為が、債務者が支払不能(債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるも

 のにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態をいう。以下この4において同じ。)の

 時に行われたものであること。

イ 当該行為が、債務者と受益者とが通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたものであるこ

 と。


(2) (1)に定める行為が、債務者の義務に属せず、又はその時期が債務者の義務に属しないものである場

 合において、次に掲げる要件のいずれにも該当するときは、債権者は、(1)にかかわらず、当該行為に

 ついて、1の取消しの請求をすることができる。


ア 当該行為が、債務者が支払不能になる前30日以内に行われたものであること。

イ 当該行為が、債務者と受益者とが通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたものであるこ

 と。







5 過大な代物弁済等の特則



 過大な代物弁済等について、次のような規律を設けるものとする。


 債務者がした債務の消滅に関する行為であって、受益者の受けた給付の価額が当該行為によって消滅した債務の額より過大であるものについて、1の要件に該当するときは、債権者は、4(1)にかかわらず、その消滅した債務の額に相当する部分以外の部分については、1の取消しの請求をすることができる。





6 転得者に対する詐害行為取消権の要件



 転得者に対する詐害行為取消権の要件について、次のような規律を設けるものとする。


 債権者は、受益者に対して1の取消しの請求をすることができる場合において、債務者がした行為によって受益者に移転した財産を転得した者があるときは、当該転得者に対し、次の(1)又は(2)に掲げる区分に応じ、それぞれ当該(1)又は(2)に定める場合に限り、債務者がした行為の取消しを裁判所に請求することができる。


(1) 当該転得者が受益者から転得した者である場合

 当該転得者が、その転得の当時、債務者がした行為について債権者を害することを知っていたとき。

(2) 当該転得者が他の転得者から転得した者である場合

 当該転得者及びその前に転得した全ての転得者が、それぞれの転得の当時、債務者がした行為について債権者を害することを知っていたとき。







7 詐害行為取消権の行使の方法



 詐害行為取消権の行使の方法について、次のような規律を設けるものとする。


(1) 債権者は、1の請求において、債務者がした行為の取消しとともに、当該行為によって受益者に移

 転した財産の返還を請求することができる。受益者が当該財産の返還をすることが困難であるとき

 は、債権者は、価額の償還を請求することができる。

(2) 債権者は、6の請求において、債務者がした行為の取消しとともに、転得者が転得した財産の返還

 を請求することができる。転得者が当該財産の返還をすることが困難であるときは、債権者は、価額

 の償還を請求することができる。

(3) 1の請求に係る訴えについては、受益者を被告とし、6の請求に係る訴えについては、当該請求の

 相手方である転得者を被告とする。

(4) 債権者は、1又は6の請求に係る訴えを提起したときは、遅滞なく、債務者に対し、訴訟告知をし

 なければならない。






8 詐害行為の取消しの範囲



 詐害行為の取消しの範囲について、次のような規律を設けるものとする。


(1) 債権者は、1又は6の取消しの請求をする場合において、債務者がした行為の目的が可分であると

 きは、自己の債権の額の限度においてのみ、当該行為の取消しを請求することができる。

(2) 債権者が7(1)後段又は(2)後段により価額の償還を請求する場合についても、(1)と同様とする。






9 直接の引渡し等



 直接の引渡し等について、次のような規律を設けるものとする。


(1) 債権者は、7(1)前段又は(2)前段により財産の返還を請求する場合において、その返還の請求が金

 銭の支払又は動産の引渡しを求めるものであるときは、受益者又は転得者に対し、その支払又は引渡

 しを自己に対してすることを求めることができる。この場合において、受益者又は転得者は、債権者

 に対してその支払又は引渡しをしたときは、債務者に対してその支払又は引渡しをする義務を免れ

 る。

(2) 債権者が7(1)後段又は(2)後段により価額の償還を請求する場合についても、(1)と同様とする。






10 詐害行為の取消しの効果(民法第425条関係)



 民法第425条の規律を次のように改めるものとする。


 1又は6の取消しの請求を認容する確定判決は、債務者及びその全ての債権者に対してもその効力を有する。






11 受益者の反対給付



 受益者の反対給付について、次のような規律を設けるものとする。


 債務者がした財産の処分に関する行為(債務の消滅に関する行為を除く。)が取り消されたときは、受益者は、債務者に対し、当該財産を取得するためにした反対給付の返還を請求することができる。債務者が当該反対給付の返還をすることが困難であるときは、受益者は、価額の償還を請求することができる。






12 受益者の債権



 受益者の債権について、次のような規律を設けるものとする。


 債務者がした債務の消滅に関する行為が取り消された場合(5による取消しの場合を除く。)において、受益者が債務者から受けた給付を返還し又はその価額を償還したときは、受益者の債務者に対する債権は、これによって原状に復する。






13 転得者の反対給付及び債権



 転得者の反対給付及び債権について、次のような規律を設けるものとする。


(1) 債務者がした行為が転得者に対する詐害行為取消権の行使によって取り消されたときは、当該転得

 者は、次のア又はイに掲げる区分に応じ、それぞれ当該ア又はイに定める権利を行使することができ

 る。


ア 11に定める行為が取り消された場合

 当該行為が受益者に対する詐害行為取消権の行使によって取り消されたとすれば11によって生ずべ

 き受益者の債務者に対する反対給付の返還請求権又はその価額の償還請求権

イ 12に定める行為が取り消された場合(5による取消しの場合を除く。)

 当該行為が受益者に対する詐害行為取消権の行使によって取り消されたとすれば12によって回復す

 べき受益者の債務者に対する債権


(2) (1)による転得者の債務者に対する権利行使は、当該転得者がその前者から財産を取得するためにし

 た反対給付の価額又はその前者から財産を取得することによって消滅した債権の価額を限度とする。






14 詐害行為取消権の期間の制限(民法第426条関係)



 民法第426条の規律を次のように改めるものとする。


 1又は6の取消しの請求に係る訴えは、債務者が債権者を害することを知って行為をしたことを債権者が知った時から2年を経過したときは、提起することができない。行為の時から10年を経過したときも、同様とする。