みんぽー要綱仮案(32)



損害賠償の範囲(民法第416条関係)



 民法第416条の規律を次のように改めるものとする。


(1)  債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることを

  その目的とする。(民法第416条第1項と同文)


(2)  特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債

  権者は、その賠償を請求することができる。





 過失相殺(民法第418条関係)



 民法第418条の規律を次のように改めるものとする。


 債務の不履行又はこれによる損害の発生若しくは拡大に関して債権者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の責任及びその額を定める。




 



 売買契約の目的物である不動産の価格が売主の所有権移転義務の履行不能後も騰貴を続けているという特別の事情があり、かつ、履行不能の際に売主がそのような特別の事情の存在することを知つていたかまたはこれを知りえた場合には、買主が右不動産を転売して利益を得るためではなくこれを自己の使用に供するために買い受けたものであるときでも、買主は、売主に対し、右不動産の騰貴した現在の価格を基準として算定した損害額の賠償を請求することができるとした判決例。


 最高裁判所第一小法廷(上告審)、昭和47年 4月20日判決、最高裁判所民事判例集26巻3号520頁




判決理由(一部筆者抜粋)


 論旨は、要するに、原審が、被上告人丸文株式会社と上告人との間に成立した本件土地および建物の売買契約にもとづく右被上告人の所有権移転義務の履行不能による損害賠償額を、原審の口頭弁論終結時における右土地および建物の価値を基準として算定せず、履行不能時におけるその価格を基準として算定した点に、債務の履行不能による損害賠償額の算定の基準時に関する法令の解釈適用を誤つた違法、ないしは、審理不尽、理由不備の違法があるというにある。


 そこで、考えるに、およそ、債務者が債務の目的物を不法に処分したために債務が履行不能となつた後、その目的物の価格が騰貴を続けているという特別の事情があり、


かつ、


 債務者が、債務を履行不能とした際、右のような特別の事情の存在を知つていたかまたはこれを知りえた場合には、


 債権者は、債務者に対し、その目的物の騰貴した現在の価格を基準として算定した損害額の賠償を請求しうるものであることは、


 すでに当裁判所の判例とするところである(当裁判所昭和三六年(オ)第一三五号同三七年一一月一六日第二小法廷判決・民集一六巻一一号二二八〇頁参照。)。




 そして、この理は、本件のごとく、買主がその目的物を他に転売して利益を得るためではなくこれを自己の使用に供する目的でなした不動産の売買契約において、


 売主がその不動産を不法に処分したために売主の買主に対する不動産の所有権移転義務が履行不能となつた場合であつても、


 妥当するものと解すべきである。




 けだし、このような場合であつても、右不動産の買主は、右のような債務不履行がなければ、騰貴した価格のあるその不動産を現に保有しえたはずであるから、右履行不能の結果右買主の受ける損害額は、その不動産の騰貴した現在の価格を基準として算定するのが相当であるからである。




 ところで、上告人は、原審において、上告人が被上告人丸文株式会社から買い受けた本件土地および建物の価格は、右被上告人がその所有権移転義務を履行不能とした後も、騰貴を続けているという特別の事情があり、


かつ、


右被上告人は、不動産業を営む者であつて、右義務を履行不能とした際、右のような特別の事情の存在することを充分に知つていたかまたはこれを知りえたものというべきであるから、



 上告人は、右被上告人に対し、右土地および建物の騰貴した現在の価格を基準として算定した損害額の賠償を請求することができると主張して、右履行不能後の昭和三八年一二月当時における右土地および建物の価格である金六四七万二〇〇〇円に相当する損害額の賠償を請求していたことは、原判文および本件記録に徴して、明らかである。



 しかるに、原審は、単に、上告人に本件土地および建物を自己の住居の用に供するために買い受けたものであつてこれを他に転売する目的で買受けたものではなかつたことが明白であるし、


 本件の所有権移転義務の履行不能はその履行期以後に生じたものであるから、


 右履行不能の結果上告人の受ける損害額は右土地および建物の履行不能時の価格を基準として算定するのが相当であるという第一審判決の判示をそのまま引用するだけで、


 右土地および建物の価格の騰貴について上告人の主張するような特別の事情が存在するか否か、


 また、そのような特別の事情が存在する場合には、被上告人丸文株式会社が、右土地および建物の所有権移転義務を履行不能とした際、その特別の事情の存在を知つていたか否か、


または、


 これを知りえたか否かについては、何らの判断も示すことなく、上告人の右主張を排斥しているのである。




 しかし、これでは、原審は、上告人の右主張を排斥するにあたり、債務の履行不能による損害賠償額の算定の基準時に関する法令の解釈適用を誤り、


ひいては、


 上告人の被上告人丸文株式会社に対する右損害賠償請求に関する判断につき審理不尽、理由不備の違法をおかしたものといわざるをえないから、原判決の右違法を指摘する本論旨は、理由があるというべきである。



 したがつて、原判決中上告人敗訴部分のうち上告人の被上告人丸文株式会社に対する右損害賠償請求、すなわちその予備的請求に関する部分は、上告理由第三点について判断するまでもなく、破棄を免れない。