みんぽー要綱仮案(26)



債権の目的(法定利率を除く。)



  特定物の引渡しの場合の注意義務(民法第400条関係)



 民法第400条の規律を次のように改めるものとする。


 債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、契約その他の当該債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。







 自動車の盗難事故が自動車の使用借人の善管注意義務違反によるものであるとして貸主の使用借人に対する損害賠償請求が認められた事例、東京高等裁判所(控訴審)、平成16年 3月25日判決、判例時報1862号158頁






事案の概要


 控訴人は、被控訴人所有自動車のチューンナップを請け負い、その作業期間中の代車として第三者に売却予定の自動車を貸し渡したところ、この自動車が、被控訴人自宅前駐車場に駐車中に盗難に遭い、その後、ほぼ全損の状態で発見された。

 本件は、控訴人が、上記盗難事故は、被控訴人が上記代車の保管者として負う善良なる管理者の注意義務を怠った結果であると主張し、債務不履行に基づく損害賠償として314万6550円及びこれに対する訴状送達の日の翌日以降の遅延損害金の支払を請求した事案である。

 原審は、被控訴人が上記注意義務を怠ったとは認められないと判断し、控訴人の請求を棄却したため、控訴人がこれを不服として控訴をした。





当裁判所の判断



1 上記第2の2の前提となる事実に加え、〈証拠略〉及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実を認めることができる。


(1)控訴人は、「ガレージブラザーズ」という名称で、自動車の販売のほか、チューンナップ等を業とする者であるところ、平成12年11月ころ、被控訴人に対し、中古のスポーツカー(マツダ・RX―7)を約60万円で売却し、これを納車した。


(2)平成14年1月28日ころ、被控訴人は、控訴人に対し、上記(1)のスポーツカーのチューンナップについて相談し、最終的に、控訴人の外注先である有限会社エリートレーシングコーポレーションにチューンナップ作業を発注する形にして180万円のローンを組み、作業期間を概ね2か月と見込んで、上記スポーツカーのチューンナップ作業が被控訴人から控訴人に発注された。

 上記発注に際し、被控訴人は、控訴人に対し、代車の提供を強く要請したため、控訴人は、やむなく、商品である自動車を1台(三菱ディアマンテ)、被控訴人に代車として提供した。


(3)その後、上記(2)の代車をチューンナップする予定が入ったため、控訴人は、被控訴人から同代車の返還を受けた。しかし、被控訴人が、別の代車の提供を求めたため、控訴人は、取引先から借り受けた自動車(ホンダシビック)を被控訴人に代車として提供した。

 ところが、上記代車(ホンダシビック)について、控訴人が取引先から返還を求められたことから、控訴人は、同代車を被控訴人から返還してもらう代わりに、上記(2)の代車(三菱ディアマンテ)の作業を中断してこれを被控訴人に代車として提供した。


(4)やがて、被控訴人が発注したチューンナップ作業があと2週間ほどで終了する見込みがついたことから、控訴人は、被控訴人に対し、上記(3)の代車(三菱ディアマンテ)の返還を求め、被控訴人は、これに応じて平成14年3月30日に同代車を控訴人に返還した。

 ところが、被控訴人は、控訴人に対し、上記代車の返還に際し、更に別の代車の提供を強く求め、控訴人は、やむなく、本件自動車(トヨタマーク2)を被控訴人に代車として提供することとした。


(5)本件自動車は、控訴人が顧客の求めに応じて車両を購入し、その顧客の注文に応じて種々のチューンナップ作業を行っていたもので、ほどなく代金284万6650円で同顧客に売却し、引き渡すこととなっていた。

 本件自動車は、平成2年に初年度登録された自動車であるが、リモコンによる鍵の開閉ができる機能が装備されていたほか、最新のナビゲーションシステム、カーステレオ、アルミホイール等を装着し、相当のチューンナップ作業が施されていた。また、キーシリンダーにキーを差し込むか、キーシリンダーを破壊しなければ解除することのできないハンドルロック機能も備わっていた。


(6)控訴人は、被控訴人に本件自動車を代車として提供するにあたり、これが売却予定の商品であり、保管や運転には十分注意するよう伝え、被控訴人も、これを了承した。

 そして、被控訴人は、本件自動車を引き渡された平成14年3月30日、これを運転して頭書肩書住所地の自宅に戻り、自宅前の駐車場(以下「本件駐車場」という。)にこれを駐車した。


(7)本件駐車場は東側が公道に面しており、その公道からの出入りにあたって障害となる塀、柵、扉等のものはなく、容易に公道から出入りすることができる構造となっている。また、上記公道を南に50m弱進むと主要地方道館林・藤岡線に達する。本件駐車場には、上記公道に向かって普通自動車3台が並列に駐車することができる程度のスペースがあり、最も北側の部分にのみ片持ち屋根が設置されている。

 被控訴人は、本件駐車場に本件自動車を駐車するにあたり、屋根が設置されている部分に駐車し、サイドブレーキを掛け、キーシリンダーからキーを抜き、窓を閉め、ドアをロックしていた。しかし、本件自動車にシートをかけることはせず、また、上記公道からの出入口部分に人や車の出入りを妨げる移動柵、チェーン等の障害物を置くこともなかった。なお、被控訴人方では犬を飼っていた。


(8)被控訴人は、平成14年4月3日に勤務先から本件自動車で帰宅して以降、上記(7)の状態でこれを本件駐車場に駐車していたところ、同月8日午前1時30分ころ、本件自動車が盗難に遭った。その際、被控訴人方で飼っている犬は吠えなかった。被控訴人は、盗難の事実を認識すると直ちに同居している母を通じて警察に連絡し、被害届を提出した。

 警察は、当初、被控訴人が上記盗難に関与していることを疑ったが、被控訴人は、自己が保管している本件自動車のマスターキー及びスペアキーを示して自分が無関係であることを説明した。


(9)平成14年4月16日午前5時55分ころ、本件自動車が川崎市川崎区内の路上で発見されたが、ナビゲーションシステム、カーステレオ、アルミホイール等脱着が可能なものについてはすべて取り外され、廃車に等しい状態であった。しかし、キーシリンダーは無傷であった。







2 上記1認定の事実によれば、控訴人と被控訴人との間では、本件自動車につき、被控訴人がチューンナップ作業を依頼した自動車の代車として、同作業が終了し同自動車が被控訴人に引き渡されるまでの間、無償でこれを被控訴人に使用させる旨の使用貸借契約が締結されたと認められ、これにより、被控訴人は、控訴人に対し、本件自動車を善良なる管理者の注意をもって保管する義務を負った(民法400条)と認められる。


 ところが、被控訴人は、本件自動車を公道からの出入りにあたって障害となる塀、柵、扉等のない本件駐車場に駐車するにあたり、屋根が設置されている部分に駐車し、サイドブレーキを掛け、キーシリンダーからキーを抜き、窓を閉め、ドアをロックしていたものの、本件自動車にシートをかけることはせず、また、本件駐車場が面する公道からの出入口部分に人や車の出入りを妨げる移動柵、チェーン等の障害物を置くこともなかったのであり、上記認定の措置のほかに何らかの盗難防止措置をとったことの主張立証はない。


 被控訴人が本件自動車を自宅前とはいえ公道から自由に出入りすることのできる本件駐車場に駐車するにあたり、上記認定の措置をとったからといって、当然に上記善良な管理者の注意義務を尽くしたということはできず、犬を飼っていたこともこの判断を左右するものではない。


 そして、本件駐車場が公道に面しており、その公道は50m弱で主要地方道に通じていること,被控訴人は、本件自動車が上記公道に出るための障害物も特に置かず、家人に気付かれずにエンジンを掛けることができれば、後は容易に盗取することができる状態に本件自動車を置いたといえること、本件自動車には最新のナビゲーションシステム、カーステレオ、アルミホイール等が装着され、相当のチューンナップ作業も施されていたのであるから、日中ある程度近くで見れば一見して相当の価値があると認識し得るものであったと認められるところ、


 被控訴人は、本件自動車にシートをかけることもなく丸4日以上も本件駐車場にこれを駐車していたことなど上記1認定の事実を総合すれば、被控訴人は、上記善良な管理者の注意義務を尽くさずに本件自動車を保管しており、この義務違反と本件自動車の盗難との間には相当因果関係があると認めるのが相当である。




3 上記1認定の事実に加え、〈証拠略〉及び弁論の全趣旨によれば、控訴人は、被控訴人の上記注意義務違反により本件自動車が盗難に遭い、これが廃車に近い状態となってしまったことによって、本件自動車の時価相当額である284万6550円及び本件自動車の売却予定先の顧客に債務不履行を理由として支払った賠償金30万円の合計314万6550円の損害を被ったと認めることができる。 




4 以上によれば、控訴人の請求は理由があり、これと異なる原判決は失当であって、本件控訴は理由がある。

 よって、本件控訴に基づき原判決を取消し、控訴人の請求を認容する。