協議による時効の完成猶予
ア 当事者間で権利に関する協議を行う旨の書面による合意があったときは、次に掲げる時のいずれか
早い時までの間は、時効は、完成しない。
(ア) 上記合意があった時から1年を経過した時
(イ) 上記合意において当事者が協議を行う期間(1年に満たないものに限る。)を定めたときは、
その期間を経過した時
(ウ) 当事者の一方が相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の書面による通知をした時から6箇月
を経過した時
イ アの合意又は通知がその内容を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によ
っては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供さ
れるものをいう。以下同じ。)によってされたときは、その合意又は通知は、書面によってされたも
のとみなす。
ウ 当事者は、アの規定によって時効の完成が猶予されている間に、改めてアの合意をすることができ
る。ただし、アの規定によって時効の完成が猶予されなかったとすれば時効期間が満了すべき時から
通じて5年を超えることができない。
エ 催告によって時効の完成が猶予されている間に行われたアの合意は、時効の完成猶予の効力を有し
ない。アの規定によって時効の完成が猶予されている間に行われた催告についても、同様とする。
1. 消滅時効完成後に債務の承認をした場合において、そのことだけから、右承認はその時効が完成し
たことを知つてしたものであると推定することは許されないと解すべきである。
2. 債務者が、消滅時効完成後に債権者に対し当該債務の承認をした場合には、時効完成の事実を知ら
なかつたときでも、その後その時効の援用をすることは許されないと解すべきである。
とされた判決例、最高裁判所大法廷、昭和41年 4月20日判決、最高裁判所民事判例集20巻4号702頁
判決理由(一部筆者引用)
案ずるに、債務者は、消滅時効が完成したのちに債務の承認をする場合には、その時効完成の事実を知つているのはむしろ異例で、知らないのが通常であるといえるから、債務者が商人の場合でも、消滅時効完成後に当該債務の承認をした事実から右承認は時効が完成したことを知つてされたものであると推定することは許されないものと解するのが相当である。したがつて、右と見解を異にする当裁判所の判例(昭和三五年六月二三日言渡第一小法廷判決、民集一四巻八号一四九八頁参照)は、これを変更すべきものと認める。しからば、原判決が、上告人は商人であり、本件債務について時効が完成したのちその承認をした事実を確定したうえ、これを前提として、上告人は本件債務について時効の完成したことを知りながら右承認をし、右債務について時効の利益を放棄したものと推定したのは、経験則に反する推定をしたものというべきである。しかしながら、債務者が、自己の負担する債務について時効が完成したのちに、債権者に対し債務の承認をした以上、時効完成の事実を知らなかつたときでも、爾後その債務についてその完成した消滅時効の援用をすることは許されないものと解するのが相当である。けだし、時効の完成後、債務者が債務の承認をすることは、時効による債務消滅の主張と相容れない行為であり、相手方においても債務者はもはや時効の援用をしない趣旨であると考えるであろうから、その後においては債務者に時効の援用を認めないものと解するのが、信義則に照らし,相当であるからである。また、かく解しても、永続した社会秩序の維持を目的とする時効制度の存在理由に反するものでもない。そして、この見地に立てば、前記のように、上告人は本件債務について時効が完成したのちこれを承認したというのであるから、もはや右債務について右時効の援用をすることは許されないといわざるをえない。