みんぽー要綱仮案(16)



無効及び取消し



  法律行為が無効である場合又は取り消された場合の効果



法律行為が無効である場合又は取り消された場合の効果について、次のような規律を設けるものとする。



(1) 無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、相手方を原状に復させる義務を負う。


(2) (1)にかかわらず、無効な無償行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、給付を受けた当時

 その行為が無効であること(給付を受けた後に民法第121条本文の規定により初めから無効であっ

 たものとみなされた行為にあっては、給付を受けた当時その行為が取り消すことができるものである

 こと)を知らなかったときは、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を

 負う。


(3) (1)にかかわらず、行為の時に意思能力を有しなかった者は、その行為によって現に利益を受けてい

 る限度において、返還の義務を負う。







 被相続人が提起し、相続人がその地位を承継した所得税更正処分等取消請求事件において同処分等を取り消す旨の判決が確定したことから還付された過納金について、


 前記過納金の還付請求権は相続開始後に発生した権利であるから相続財産を構成しないとしてした相続税更正処分の取消請求につき、


 取消訴訟の確定判決によって取り消された行政処分の効果は、特段の規定のない限り、遡及して否定され、その行政処分は当初からなかった状態に回復されるとした上、


 この点は訴訟係属中に相続があった場合でも同様であり、また、所得税更正処分の取消判決の遡及効を制限する特段の規定も存在しないから、前記所得税の更正処分は取消判決が確定したことにより、


 当初からなかったこととなるから、前記過納金の還付請求権は、納付時から遡って発生していることとなり、被相続人が死亡時に有していた財産に含まれるとして、前記相続税更正処分の取消請求を棄却した事例


最高裁判所第二小法廷(上告審)、平成22年10月15日判決、裁判所時報1517号6頁






理   由


 上告代理人鳥飼重和ほかの上告受理申立て理由について


1 本件は、上告人が,その母の死亡により相続した財産に係る相続税の申告をしたところ,同人が生前に提起して上告人が承継していた所得税更正処分等の取消訴訟において同処分等の取消判決が確定したことから,上記母が同処分等に基づき納付していた所得税等に係る過納金が上告人に還付され,所轄税務署長から上記過納金の還付請求権は相続財産を構成するとして上記相続税の更正処分を受けたため,上告人において,同還付請求権は相続開始後に発生した権利であるから相続財産を構成しないと主張して,同処分の一部の取消しを求めている事案である。


2 所得税更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分の取消判決が確定した場合には,上記各処分は,処分時にさかのぼってその効力を失うから,上記各処分に基づいて納付された所得税,過少申告加算税及び延滞税は,納付の時点から法律上の原因を欠いていたこととなり,上記所得税等に係る過納金の還付請求権は,納付の時点において既に発生していたこととなる。このことからすると,被相続人が所得税更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分に基づき所得税,過少申告加算税及び延滞税を納付するとともに上記各処分の取消訴訟を提起していたところ,その係属中に被相続人が死亡したため相続人が同訴訟を承継し,上記各処分の取消判決が確定するに至ったときは,上記所得税等に係る過納金の還付請求権は,被相続人の相続財産を構成し,相続税の課税財産となると解するのが相当である。 


 以上と同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく,論旨は採用することができない。