みんぽー要綱仮案(12)



代理行為の瑕疵-例外(民法第101条第2項関係)


民法第101条第2項の規律を次のように改めるものとする。


 特定の法律行為をすることを委託された代理人がその行為をしたときは、本人は、自ら知っていた事情について代理人が知らなかったことを主張することができない。本人が過失によって知らなかった事情についても、同様とする。








 納税者の委任を受けて税理士が作成した納税申告書に錯誤があるか否かは、代理人である税理士について決せられるべきであり、納税者と受任者である税理士が意思の疎通を欠き、納税申告に錯誤を生じた場合、納税者の利益を著しく害すると認められる特段の事情があるとはいえないとした事例。 


 東京地方裁判所(第一審)、平成25年 5月30日判決、判例時報2208号6頁



事案の概要


 第1事件は,原告Y1が,平成14年ないし平成17年の各年分の所得税について,西川口税務署長から,所得税法(平成18年法律第10号による改正前のもの。以下同じ。)2条1項3号所定の居住者(以下「日本の居住者」という。)に該当することなどを理由として,〔1〕所得税の確定申告をしていなかった平成14年,平成16年及び平成17年の各年分については所得税の各決定処分(以下「本件各所得税決定処分」という。)及び無申告加算税の各賦課決定処分を,〔2〕確定申告をしていた平成15年分については所得税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分を受けたことに対し,上記各年(以下「本件各課税年」という。)において原告Y1は同項5号所定の非居住者(以下「日本の非居住者」という。)であったし,仮に日本の居住者であったとしても,同項4号所定の非永住者(以下「日本の非永住者」という。)であったから,原告Y1が日本の居住者で,かつ,日本の非永住者に当たらないことを前提にされた上記各課税処分(以下「本件各所得税課税処分」という。)はいずれも違法である上,原告Y1の所得の算定にも誤りがあるなどと主張し,西川口税務署長が所属する国を被告として,本件各所得税課税処分の取消しを求めている事案である。


 第2事件は,原告会社が,平成14年1月から同年12月まで及び平成16年1月から平成18年3月までの間に原告Y1に対して支払った役員報酬や配当等につき源泉所得税の徴収及び納付をしたところ,西川口税務署長から,原告会社がした上記の各源泉徴収には原告Y1を日本の非居住者としてされた誤りがあるとして源泉所得税の各納税告知処分及び不納付加算税の各賦課決定処分(これらの処分を,以下「本件各源泉所得税課税処分」という。)を受けたことに対し,原告Y1は本件各課税年において日本の非居住者であったから,原告Y1が日本の非居住者に当たらないことを前提としてされた本件各源泉所得税課税処分はいずれも違法であるなどと主張し,西川口税務署長が所属する国を被告として,本件各源泉所得税課税処分の取消しを求めている事案である。


 第3事件は,原告Y1が,川口市長から,平成15年度分ないし平成18年度分の市民税及び県民税(以下「住民税」という。)の各賦課決定処分(以下「本件各住民税賦課決定処分」という。)及び各督促処分(以下「本件各住民税督促処分」といい,本件各住民税賦課決定処分と併せて,以下「本件各住民税関係処分」という。)を受けたことに対し,原告Y1は米国の居住者であり住民税の納付義務を負っていないから,本件各住民税関係処分は違法であるなどと主張し,川口市長が所属する川口市を被告として,本件各住民税関係処分の取消しを求めている事案である。




裁判所の判断(一部筆者抜粋)




 原告Y1は,平成15年分確定申告は錯誤に基づいてされたものであり,更正の請求をしていないことにも錯誤があるから,更正の請求の手続を経ることなく本件更正処分の取消しの訴えを提起することを許容する特段の事情がある旨の主張をし,


 その根拠として,


〔1〕平成15年分確定申告には原告Y1の意思と確定申告の担当者であるY21税理士のした表示との間に齟齬があること,


〔2〕原告Y1は,Y21税理士と共に川口市役所を訪問し,被告川口市の担当者に対して原告Y1が日本の居住者に該当しない旨を説明したところ,上記担当者が納得して課税処分を取消したことから,所得税についても日本の非居住者として処理されることになると考えたことなどを挙げる。



 しかし,上記〔1〕の点については,証拠(乙43,44)によれば,平成15年分確定申告書は,原告Y1の委任を受けたY21税理士が税理士法2条の税理士業務として作成したものであることが認められるから,


 平成15年分確定申告につき錯誤があるか否かは,


 民法101条の規定に基づき,代理人であるY21税理士について決せられるべきであるということになる。


 したがって,代理人であるY21税理士が平成15年分確定申告書の中でした表示と本人である原告Y1の真意との間に齟齬があるとしても,


 Y21税理士自身がした表示行為(代理行為)に錯誤があるとはいえないから,


 平成15年分確定申告にはそもそも錯誤があるとはいえない。


 また,この点をおくとしても,平成15年分確定申告は税務申告の専門家であるY21税理士が代理人として関与していたのであるから,


 原告Y1としては,Y21税理士と十分な意思の疎通を図ることにより自らの意思を的確に反映させた申告をすることが可能であったということができる。


 そうすると,仮に原告Y1が主張するような錯誤が平成15年分確定申告に存したとしても,そのような錯誤が生じた原因は,原告Y1とY21税理士との間で十分な意思の疎通を欠いたことにあるというべきであるから,


 平成15年分確定申告の是正を許さなければ納税義務者である原告Y1の利益を著しく害すると認められるといった特段の事情があるとはいえない。


 以上によれば,原告Y1の上記〔1〕の主張は採用することができない。