みんぽー要綱仮案(2)




 第1審で負けたお肉屋さん(被告)は、控訴するのですが、自身(控訴人)が食品衛生法による営業許可を受けておらず、「前示取引は被控訴人と、控訴人がその代表取締役であつた訴外鈴木増産加工株式会社との間に成立したものであつて、控訴人個人が右取引の当事者であることを認めた原審における自白は、真実に反し且つ錯誤にもとずきなされたものであるから、これを取消す旨主張」しました。







 主文 控訴棄却。



東京高等裁判所(控訴審)、昭和32年10月30日判決、最高裁判所民事判例集14巻4号487頁









判決理由は以下の通りでした。





 次の事実を認めることができる。即ち


(一)、訴外鈴木増産加工株式会社は昭和二十五年十二月に設立せられ、控訴人及びその父鈴木亀太郎がその代表取締役となり、食品衛生法による許可を受けて食肉の販売を営んでいたものであるが、被控訴会社とは昭和二十七年頃から精肉の売買取引があつた。


(二)ところが同訴外会社では被控訴会社からの買掛代金の支払を怠り勝ちで、昭和二十九年十二月末現在で残債務金二十三万円に達したので、昭和三十年二月二十二日右両者間で債務承認弁済契約の公正証書(甲第二号証)を作成し、被控訴会社は右訴外会社をして前示買掛債務につき昭和三十年二月から毎月金四千円宛を割賦弁済すべき旨約せしめ、取引は一時中絶の形となつていた。


(三)昭和三十年六月頃控訴人は被控訴会社に対し、今度自衛隊に食肉を納入するにつき是非取引を再開して貰いたい旨を懇請したところ、


 前示訴外会社はなお買掛債務が残つており支払能力も危惧されるから、同会社と取引を再開することは困るといつて(事実同会社はその後間もなく昭和三十年八月十八日解散した)被控訴人から拒絶されるや、


 控訴人は自己所有の自動車を担保に供し,且つ控訴人個人として食肉を買受けたい旨を申入れ更に懇請したので、被控訴会社の方でもこれを承諾し、右自動車につき根抵当権の設定登録を受けた上、結局控訴人と被控訴人との間に、


 被控訴人主張のような約旨の下に本件精肉の売買契約成立し、


 その残代金債務が金二十九万千六百五十二円に達したという経緯を認めることができる。



 当審における控訴人本人尋問の結果中、前示認定に反する部分は措信し難く、その他控訴人の提出援用の全証拠によつても、前示認定に反し本件取引が前記訴外会社と被控訴人との間に成立したものであるという事実を肯認するに足らない。


 尤も本件取引当時食品衛生法による営業許可を受けて食肉の販売を営み、また自衛隊に対し精肉の納入をしたのは、前示訴外会社であつて、控訴人個人でないことは、前顕引用の証拠によつてこれを窺知し得るけれども、



 このことはあえて本件取引の当事者が控訴人であるとの前示認定を妨げるものでなく、またたとえ控訴人が右営業許可を受けていないにしても、単なる行政取締規定に過ぎない前示食品衛生法による許可の有無は、控訴人を当事者とする本件売買契約の私法上の効力に何等の消長を及ぼすものではない。


 

 してみると控訴人の前示自白は何等真実に反し錯誤に出たものということはできないから、これを取消すことは許されず、前示被控訴人主張の請求原因に基く本訴請求は正当としてこれを認容すべき