遺産分割の錯誤(7)





引き続き裁判所の判断です。







 第1次遺産分割のうち本件会社の株式の配分に係る部分が課税負担の前提事項の錯誤により無効であることを前提として,第1次遺産分割に基づく相続税の申告をした原告らが,法定申告期限後,更正請求期間内に,処分行政庁に対し,更正の請求において当該遺産分割の一部の無効を主張することの可否について検討する。



(1)我が国の租税法制は,相続税に関し,その課税標準等の決定については,最も相続関係の事情に通じている納税義務者自身の申告に基づくものとする観点から,相続税法において申告納税制度を採用するとともに,相続税額の減額更正については,租税法律関係の早期安定等の観点から,法定申告期限後は法律が特に認めた手続である更正の請求による場合に限るものとし,国税通則法及び相続税法において更正の請求の事由を限定列挙した上でその請求を所定の期間内に限定している。


 したがって,納税義務の発生の原因となる遺産分割の効果を前提として相続税の申告がされた後,法定申告期限後に,当該遺産分割の要素の錯誤による無効を主張して相続税額の減額更正をするには,法定の更正の請求の事由のいずれかに該当することを要するところ,


 例えば分割内容自体の錯誤が要素の錯誤に該当することにより当該遺産分割が無効とされる場合には,課税の根拠となる相続財産の取得を欠くことになるから,


 国税通則法23条1項1号にいう「当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従つていなかつたこと」との事由に該当することとなり,


その結果,


「当該申告書の提出により納付すべき税額(中略)が過大であるとき」に該当するときは,同号の規定による更正の請求をすることができるものと解される。



 なお,遺産分割による財産の移転を課税の根拠とする場合において,


 国税通則法23条1項1号にいう「当該計算に誤りがあつたこと」とは,


 当該遺産分割の効果を前提とした数額の計算に誤りがあることをいうものであるので,


 遺産分割の錯誤無効の場合はこれには当たらないものと解され,


 また,国税通則法23条2項3号及び同法施行令6条1項2号の規定による更正の請求は,


 当該法律行為が有効に成立した後に後発的事由によってその効力の喪失その他の法律関係の変動が生じた場合に,


 課税の内容をその変動後の法律関係に適合させるための更正の手続であるところ,


 遺産分割の錯誤無効は,後発的事由ではなく,原始的事由であるから,国税通則法23条2項3号及び同法施行令6条1項2号に掲げる事由には当たらないものと解される。