遺産分割の錯誤(4)




争点及び争点に関する当事者の主張の要旨について検討します。







 本件の争点は,


 当初の遺産分割に基づく株式の配分を前提とする相続税の申告がされ,


 法定申告期限後,


 課税価格の前提となる株式の評価方法の誤信を原因とする当該遺産分割の錯誤による無効を理由として,


 株式の配分を変更する新たな遺産分割がされた場合に,


 当該申告をした者は,課税庁に対し,更正請求期間内に更正の請求をすることにより,当初の遺産分割の無効を主張して新たな遺産分割に基づく株式の配分を前提とする相続税額の減額更正を求めることができるか否かであり,この点に関する当事者の主張の要旨は,以下のとおりである。 







(1)原告らの主張の要旨


ア 更正の請求は,納税者が自らの申告により確定させた税額が過大であることを法定申告期限後に気付いた場合に,納税者の側からその変更・是正を求めることができるとする,納税者の権利を救済することを目的とする制度である。



 本件のように錯誤による無効の場合はもちろん,仮に法定申告期限後の全員の合意による解除であるとしても,更正の請求が更正請求期間内に行われており,国税通則法23条1項1号所定の更正の事由に該当する以上,処分行政庁は減額更正を認めるべき法的義務がある。




イ 更正の請求においては,通常の錯誤と課税負担の錯誤を区別することなく,その無効を主張することができ,更正請求期間内であるにもかかわらず,錯誤を主張することができないとは到底考えられない。


 特に,本件は,法定申告期限の5か月後,更正請求期間内に自発的に誤りに気付いて更正の請求をしている事例であり,原告らは,課税当局から調査を受け,誤りの指摘を受けてから更正の請求をしたものではないのであって,当然に更正が認められるべき事例である。




ウ 本件では,第1次遺産分割が錯誤により無効であることを前提として,更正請求期間内に第2次遺産分割及びこれに基づく株式名簿の名義書換えを経た上で更正の請求をしているので,遺産の未分割の状態で更正の請求をしたものではないから,相続税法55条の適用を受ける事例ではなく,国税通則法23条1項1号に基づく更正の請求が可能である。



エ 処分行政庁から増額更正処分と更正の請求に対する更正すべき理由がない旨の通知処分がされた場合,税額等を争う納税者は,増額更正処分の取消訴訟を提起すれば足りる。


 増額更正処分の内容は,更正をすべき理由がない旨の通知処分の内容を包摂する関係にあり,更正処分と別個に通知処分を争う利益はない。


 増額更正処分に対する取消訴訟の中で,通知処分における減額更正をしない旨の判断に存する違法を主張して,申告税額等を下回る額にまで増額更正処分の取消しを求めることができ,


 更正の請求の理由の有無についても,更正処分の取消訴訟において実質的に審理すべきである。