偽り、その他不正の行為(30)




本日は争点(3)について裁判所の判断です。







(1)争点(3)は平成2年分所得税の事業所得の金額に係るものであるが,すでに説示したとおり,重加算税を賦課するための通則法68条1項所定の加重事由は認められない場合でも,同法65条所定の過少申告加算税の賦課要件の存在が認められる場合には,上記賦課決定のうち過少申告加算税額に相当する額を超える部分のみを取り消すことができると解するべきであるから,以下では,譲渡所得に係る過少申告加算税を含めて,同条4項に規定する「正当な理由」の有無を検討する。



(2)控訴人は,平成2年分の所得税の申告が過少となったのは,D税理士及びE税務署員による妨害のためであって,被控訴人の行政処理や指導が的確を欠いたためであり,上記正当な理由,その他真にやむを得ない事情がある旨主張する。


 しかしながら,D税理士の行為は控訴人との委任契約の履行上の問題として解決すべきものであり,本件事実関係の下において,控訴人の過少申告は,D税理士による事業所得の申告もれあるいはD税理士による譲渡所得の隠ぺいという違法行為に基づくものであり,それが被控訴人の行政処理の盲点を利用したものであったとしても,違法行為に基づく過少申告について正当な理由があることにはならず,他に被控訴人の指導上の落ち度によるものということはできない(被控訴人の落ち度をいう論旨は,D税理士との委任契約上の問題を被控訴人にすり替えるものというべきである。),他に本件証拠によっては正当な理由があるとは認められない。



 また,控訴人は,検察官による苛酷な取調べが終了した直後の平成9年12月初旬,税務署職員の調査を受け,同月12日,いわれるまま,同職員が下書きした書面を写すことにより,本件修正申告をしたが,当時,未だ心身の疲労から脱却されない諸症状に継続的に悩まされ,税務署職員による調査結果を十分理解できないまま,いわれるとおり修正申告をしたのであって,「不当若しくは酷になる場合」であり,上記正当な理由がある旨主張する。


 しかしながら,上記認定の事実によれば,当時,控訴人が69歳で高血圧の持病があって精神的,肉体的に疲労し体調を崩していたこと,税務署職員にしょうようされて本件修正申告に至ったことが認められるが,検察官による取調べが苛酷であったといえないことは既に説示したとおりであり,控訴人は,自分が委任したD税理士において本件土地の譲渡に係る譲渡所得税の申告も納税もしていなかった事実を確認したうえで,本件土地の購入及び売却時の手持ち資料に基づいて本件修正申告をしていたものであり,本件修正申告時点で控訴人が税務署職員による調査結果を十分理解できないまま,本件修正申告に及んだとまでは認められず,本件事案に現れた諸般の事情を考慮しても,上記正当な理由が存在するとは認められない。

 したがって,本件過少申告加算税賦課決定処分に違法は認められない。



(3)以上によれば,本件事実関係の下においては,控訴人の平成2年度所得税について,事業所得及び譲渡所得の過少申告分につき,過少申告加算税の賦課要件が存するというべきである。

 そして,以下の計算のとおり,事業所得に係る本件過少申告加算税賦課決定に違法はなく,譲渡所得に係る本件重加算税賦課決定処分のうち過少申告加算税額370万2000円に相当する額を超えない部分には違法がないこととなる。



ア 上記事業所得に係る過少申告加算税を含めた控訴人の過少申告加算税に相当する額は,次の(ア)と(イ)の合計額371万3000円である。


(ア)通則法65条1項の規定に基づき,本件修正申告書の提出により控訴人が新たに納付すべきこととなった税額2528万円(本件修正申告書における納付すべき税額2529万3600円から平成2年分の所得税の確定申告で控訴人が既に納付済みの7100円を控除した後の金額である2528万6500円で,同法118条3項の規定により1万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に,100分の10の割合を乗じて算出した金額である252万8000円。


(イ)通則法65条2項の規定に基づき,新たに納付すべき税額2528万6500円(本件修正申告書における納付すべき税額2529万3600円から上記既に納付済みの7100円を控除した後の金額)のうち,


〈1〉期限内申告税額158万3734円(平成2年分の所得税の確定申告における控訴人の納付すべき税額7100円に,予定納税額23万4200円と源泉徴収税額134万2434円を加算した税額)と,


〈2〉50万円とのいずれか多い方の金額である〈1〉の158万3734円を超える部分に相当する税額2370万円(ただし,同法118条3項の規定により1万円未満の端数を切り捨てた後のもの)に,100分の5の割合を乗じて算出した金額である118万5000円。



イ 上記371万3000円から本件過少申告加算税賦課決定処分に係る税額1万1000円を控除すると370万2000円となる。



6 よって,原判決を一部変更することとして,主文のとおり判決する。



東京高等裁判所第11民事部

裁判長裁判官 富越和厚 裁判官 桐ヶ谷敬三 裁判官 佐藤道明