偽り、その他不正の行為(29)





引き続き裁判所の判断です。






(4)さらに,同検面調書が作成される9日前である平成9年11月21日,控訴人の事務所において,東京国税局課税第一部資料調査第一課の調査官から事情聴取され(渋谷税務署職員立会)た際の聴取書(乙9)には,


「D税理士に税金が安くなるともちかけられ,それにのり不正な申告をしたことは私の不徳の至すところで,非常に申訳なく思っています。」との記載がある。



 しかし,控訴人としては,事情聴取に際し,


「こんな事件に巻き込まれたこと自体不覚で,人間を見る目の甘さは不徳の致すところである」


 旨を述べ,被害者であるが道徳的には修養が足りなかったとの謙虚に謙った趣旨で述べたものであって,自己の脱税行為を認める趣旨の供述と解するには足りない


 (この点,同書面の末尾に「何か追加することか訂正することはありますか」の問いに対し,


 「私としては1800万円渡して後日不足があれば支払うつもりでした。その後なにも話がなかったので申告が終ったと思いました。」


と記載されており,控訴人が故意による脱税を意図していたとすると,これに矛盾する発言をしていることになることからも窺い知ることができる。)。




(5)本件税務事務代理を委任した後,控訴人が1800万円で不足がないかを確認させたのみで,D税理士に対して上記申告書の控えの交付を求めるなど,具体的な結果報告を求めなかった点は,税務代理の委任者としては不注意であったということができるが,


 経験豊かで有能な税理士と信じたD税理士に対する敬意及び遠慮から、ことさら詳細を確認しなかったことを不合理ということはできず,また,平成2年分の所得税については事業所得に係る7100円のみが銀行振替されていることについても,税務知識がない控訴人としては,納税資金をD税理士に交付して税務代理を委ね,同税理士を信頼していた以上,上記銀行振替を奇異に感じなかったことを不合理ということはできない。



 以上によれば,控訴人がD税理士による隠ぺい又は仮装の行為による過少申告を容認し,D税理士との間に意思の連絡があったということはできず,また,その余の事情も,D税理士による隠ぺい行為による譲渡所得の過少申告につき,控訴人の帰責事由を認めるには足りないから,控訴人に対して本件重加算税賦課決定処分をすることはできないものというべきである。