偽り、その他不正の行為(28)





引き続き裁判所の判断です。







(3)また,本件検面調書(乙8)には,


「D税理士に依頼して正規に納めるべき税金より安く済むようにしてもらい,所得税を脱税しました。」,


「D税理士は支払ってもいない嘘の費用を計算に入れて税額を計算した上,その税額よりも更に800万円も安く済ませてあげると言っているのですから,税務署にばれないようにうまく嘘の費用を計算に盛り込むなどして嘘の内容の申告を行い,不正に税金を安く済ませるのだということは私にもよく分かりました。」,


「私自身も税金を安く済ませてもらえるようにD税理士に依頼して全てを任せたわけですので,私自身も大変悪いことをしたと深く反省しています。」との記載がある。



 ところで,本件検面調書の作成のための取調べは,身柄拘束のない状態(在宅)で,約2週間余の期間に6,7回行われたものであり,1日当たりの取調時間は長いときで3,4時間程度というものであり(乙15),


 当時,控訴人が69歳で高血圧の持病があって精神的,肉体的に疲労し体調を崩していたことが窺われる点を考慮しても,過酷な取調が行われたものとは認められない。


 なお,D税理士の脱税方法の大胆さと継続期間のみならず,控訴人が譲渡所得に係る税額の支払を免れ,控訴人がD税理士に渡した1800万円を考慮しても多額の利益を得た結果となることから,検察官が,取調に当たり,控訴人自身にも脱税の意図があったとの嫌疑を抱いていたことを不当ということはできず,


 また,次に説示する本件記録中に見られる控訴人の対応からは,在宅取調べという記憶の喚起,確認が可能な状況下にありながら,控訴人の当時の応答は,上記嫌疑を晴らすには至らなかったものと推認されることからすれば,本件検面調書及びその作成までの取調に控訴人の意に添わない点があったとしても,控訴人が主張するような違法な取調べや任意性を疑わせるような事情があったと認めることはできない。


 しかし,本件記録中から認められる控訴人の従前の供述及び立証は,自己が潔白であったとの結論を主張することに急であり,控訴人の性格の善性を示すための社会的地位,活動に関する資料の提出は多いが,


 D税理士との相談内容,本件メモの個別的記載事項の意味など,事案解明の上で重要な事項についての供述は極めてあいまいで,ときに不正確であり,この不正確さは控訴人の主張の変遷にも現れているところである。


 また,本件検面調書には,従前の確定申告は全て控訴人自身が行っていた旨の供述のように,税理士に委任していなかったという点では真実であるが,控訴人自身が申告書を記載していたと誤解させる部分や,D税理士との面談においては,購入又は売却に関する支払関係の書類を用意していなかった旨の供述のように,Iに対する購入手数料や草刈料のように裏付資料がなかったものがあったことは真実であるが,


 手元の資料を示したことはDの検面調書にも記載されているのであって,その供述内容は不正確なものとなっている。


 したがって,本件検面調書の任意性は肯定できるが,その供述内容の信用性は低いといわざるを得ないから,


 本件事実関係は,控訴人の供述に関する証拠よりも他の関係証拠を客観的に検討した結果を基礎に検討すべきものである。


 この観点からすると,本件検面調書中,架空経費の計上による脱税を図った旨の供述は本件メモに関する前記認定に反するものであり,架空経費の計上を前提にする虚偽申告の認識があった旨の供述も採用することはできず,「所得税を脱税しました。」との供述は,控訴人の検察官への供述結果を整理した上での法的評価を要約したものと理解できるが,その供述結果の信用性は弱く,既に説示した事実関係を前提とすれば,この法的評価の要約をもって,D税理士の行うであろう隠ぺい又は仮装の行為による過少申告を容認し,又はD税理士との間に意思の連絡があったとするには足りない。