偽り、その他不正の行為(25)




 引き続き裁判所の判断です。







(8)D税理士は,上記資料や控訴人からの事情聴取から必要事項をメモ用紙にメモして,税額を概算して説明した。

 その際に作成された本件メモの記載内容は,別紙2のとおりであるが,青色でなぞった部分は原本ではボールペンで記載され,黄色でなぞった部分は原本では万年筆等の水性インクで記載され,赤色部分はサインペンで記載され,その余は鉛筆で記載されている。



 鉛筆部分の記載は,上から順に,



〔1〕「平成2年9月19日」「売却 ◎130,000」,「購入 △69,000」との記載に続き,



〔2〕「昭和62年8月」「購入」の字の右に3段にその必要経費に当たる「手数料2,070」,「登記300」,「印紙100」及びこれら3種の数字の右にその合計「△2,470」と記載され,



〔3〕「内紹介料356万・・・・・国際学芸生活文化研究会有限会社」が行線を跨いで,やや異なる筆致で記載され(「3」,「6」の数字は特徴を見いだし難いが,それでも,上記「3」は,〔1〕の「売却 ◎130,000」,〔2〕の「登記300」,後記〔4〕の「手数料3,960」の各「3」がいずれも右斜めに傾いているのに対し,その傾きの度合いが明らかに異なるうえ,「5」に至っては,上の横「-」の位置が後記〔6〕の「差引 54,000」,「25,920」の各「5」とも明らかに異なる。),



〔4〕「売却」の字の右に4段にその必要経費に当たる「手数料3,960」,「草刈600」,「印紙100」,と,前3者の数字の右にその合計として「△4,660」との記載があり(なお,手数料396万円は法研住販に支払った仲介手数料(甲27)である。

),



〔5〕区分線の下に「合計」として,上記〔1〕〔2〕及び〔4〕の各右側に記載した購入代金,購入及び売却の各必要経費の合計額である「76.130」,



〔6〕「差引」として,〔1〕の売却額1億3000万円から〔5〕の必要経費の合計額を控除した5387万円の概数と解される「53,000」の「3」に「4」を上書きした「54,000」並びに次行に「(地方税8% 国税40%)×」,「48%」及び5400万円に税率48%を乗じたて求めた税額2592万円の表示として「25,920」の記載があり,その下に行を替えて,



〔7〕「◎18,00」との記載があるが,

以上の記載における金額は,〔3〕を除き,千円単位で記載されている。




 ボールペン部分の記載は,右上の「事務長 ○○L子」(「L」を「l」と誤記したと認められる跡がある)及び〔4〕の「手数料3,960」の前の「○」,「印紙100」の下の「○(利息11,340)」及び上記の各○を結び,左下に向かう矢印及び左下の部分であるが,左下の部分は,



〔8〕〔4〕の必要経費として〔4〕記載のものに加え「(利息11,340)」をも考慮した場合の算式と解されるものであり,単位が万円であり,〔1〕ないし〔7〕の鉛筆書き部分とは明らかに異なる筆跡である。なお,その計算式としては,「5,4000万(正しくは千)-780万=4620(万)」,「4620×1/2=2310」,さらに上記780万を求める算式「※11340(千)-350(万)=780(万)」との記載がされている。

 赤色サインペン部分は,〔1〕,〔2〕及び〔4〕ないし〔7〕の説明部分を強調するための指示及び



〔9〕右下の四角で囲われた「26」「18」「△8」の記載であるが,この数字は,〔6〕の税額の概数である2600万円から〔7〕の1800万円の差額800万円を示すものと認められる。なお、右上方にも,鉛筆での同様の記載が認められる。



 水性インクによる部分は,



〔10〕〔4〕の「草刈600」の右の「(40万と訂正)」との記載及び〔4〕の「手数料3,960」を囲み,この囲みから上記「(40万と訂正)」及び〔3〕の記載の「内」を結ぶ細線であるが,「万」の筆致は〔3〕の記載と全く異なるものである。 








(9)本件メモの上記記載内容によれば,筆跡,金額単位の使用法において少なくとも3名の者が,本件メモの記載に関わっているものと認められるところ,その内容に照らし,〔1〕,〔2〕及び〔4〕ないし〔7〕はD税理士が控訴人の提出資料及び説明に基づいて記載したものであり,〔9〕のサインペン及び鉛筆の記載は,書き慣れた筆致からみて,D税理士の記載と推認され,〔1〕,〔2〕及び〔4〕ないし〔7〕による概算結果を100万円単位にして,約2600万円の税額が1800万円で納まるとの趣旨を強調したものと認められる。


 また,ボールペン書きの数字部分は,その筆跡,金額の単位を誤っていることに照らし,D税理士の記載とは認められず,約2600万円の税額が1800万円で納まる旨のD税理士の計算過程に含まれない計算であること,そして,D税理士事務所の事務長の名を同税理士が誤記することは考えにくいことからすると,ボールペン書き部分は,D税理士から約2600万円の税額が1800万円で納まるとの説明を受けた後,控訴人が,経費に算入されなかった借入利息を算入した場合の説明を受け,また,連絡等の便宜のため,事務長の名を聞いて,記入したものと解することが合理的である。



 そして,〔3〕の「内紹介料356万・・・・・国際学芸生活文化研究会有限会社」との記載は,数字の記載,単位の取り方において,以上に検討した部分とは異なる上,行に跨って記載されていることからすると,上記各記載の後に記載されたものと認められ,また,〔10〕の水性インク部分との記載を照合すると,〔3〕の記載は裏付資料の存在する〔4〕の「手数料3,960」の「内」金として計上され,その場合には,〔4〕の金額396万円が,これと〔3〕の金額356万円との差額40万円になる旨が水性インクで記載されたものと認められる。そうする,D税理士の税額の概算のためには裏付けのある〔4〕の「手数料3,960」で十分であり,その一部を裏付けのない経費に置き換えることは税額の概算に影響しない上,過大経費の計上にも役立たないから,〔3〕の記載部分はD税理士の税額概算過程で考慮されたものではないと認められる。すなわち,〔3〕の部分は,D税理士の税額算定における経費として取上げる意味のない記載というほかなく,税額の計算とは無縁な記載と解することが合理的である。



 この点に関する甲38,39及び当審証人Gの証言は,法研住販に仲介手数料を支払ったのであれば,法研住販を控訴人に紹介した訴外会社(Gが代表取締役をしている身体障害者らで設立した会社)にも紹介料を払って欲しいと言った際の記載であるとする。この記載が譲渡所得に係る税額に関連したものであるとすると,上記のとおり意味不明の記載というほかないが,上記のとおり,税額算定過程と無縁な記載であることからすれば,譲渡所得の税額に関する話題から,法研住販へ支払った手数料との対比において,Gが控訴人の譲渡利益からGの事業への協力を依頼した際のメモと解することが可能であり,いずれにしても,この記載がD税理士の税額概算に利用されたものと認めることはできず,この点において,〔3〕の部分がD税理士に述べられた架空経費である旨の差戻前控訴審判決の認定は採用できない。





(10)控訴人は,D税理士に相談した当日には直ちに依頼することなく,東京大学の研究室に在籍時以来の知人で当時都知事の秘書であったMがかつて都の主税局に勤務していたと聞いていたことから,同人にD会計事務所について確認したところ,D税理士が資格のある税理士であり,ちゃんとした事務所であるとの確認を得たうえで,数日後,D税理士に対し,委任する意向を電話で告げた。

 控訴人は,平成3年3月6日,D税理士から手数料は取り敢えず5万円と言われて,D税理士に対し,税務代理報酬5万円を支払い,東京税理士会会員用の領収書用紙による税務代理報酬5万円の領収書(甲3)を受領し,また,納税資金として(乙8・36頁)1800万円を交付して,コクヨの便せんに記載された預り證(甲1)を受領し,さらに,D税理士に対する同月3日付け委任状(甲2)を作成交付した。その後,控訴人は,税務申告のため必要な資料である本件土地の譲渡に関する書類,給与所得に関する書類等をD税理士に送付した。

 控訴人は,D税理士に依頼する際,D税理士から1800万円で納税資金が不足する場合は,また請求すると言われており,控訴人も不足する場合には追加して支払う旨を伝えていた(当審控訴人,乙9)。