偽り、その他不正の行為(24)



本件の事実経過について



 証拠(甲1ないし4,7,8,10の1~4,12ないし14,18ないし20,26ないし28,29ないし34の各1・2,35ないし39,乙1ないし10,12,14,15,当審証人G,当審控訴人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。






(1)控訴人(西暦1928年9月生)は,国立台湾師範大学卒業後,早稲田大学教育学部を卒業し,東京大学大学院教育学研究科教育社会学修士課程・同博士課程を修了し,東京大学から教育学博士を授与され,日本国内の6大学の教授又は講師を歴任しており,主要担当科目は教育社会学である(甲7)。控訴人は,昭和40年2月にGと婚姻し,平成2年当時は文化女子大学文学部の教授をしていたほか,早稲田大学,国士舘大学,筑波大学及び川村学園女子大学で非常勤講師をしていた(乙15)。妻のGは,元国士舘大学文学部初等教育学科の非常勤講師等をする傍ら,身体障害者らと設立した訴外会社の代表取締役に就任していた(甲39)。



(2)控訴人は,細かい金銭の計算や納税申告などの事務を不得手としていたため,平成2年までは,大学教授として得る収入について,勤務先で秘書的業務をしていた事務員に申告書の作成を依頼し,同年3月に平成元年分の所得税の申告の際は,銀行口座から引き落として納税するための手続をとっていた。



(3)控訴人は,友人のI(以下「I」という。)の紹介により,昭和62年10月に本件土地を6836万5000円で購入し,その資金は,株式会社住友銀行から5000万円の融資を受け,台湾在住の父J及び姪から合計1480万円の借入れをしたほかは自己資金によった。

 なお,控訴人は,当時,Iに対して約300万円の貸金債権があったが,同人に対する仲介手数料の弁済とする趣旨で,この債権を免除した(当審控訴人24頁,32頁。


 なお,後記のとおり,控訴人の供述を厳密な意味で法的に解釈することは相当でなく,控訴人が「相殺」とする供述も,上記購入額の概数6900万円の3%相当額である207万円を明確な報酬と定めた上で,相殺の意思表示をしたものと解することはできない。)。


 この点につき,被控訴人は,本件検面調書(乙8・15頁)で控訴人がIに対して謝礼として金銭を渡したことがない旨供述していること等から,仲介手数料207万円は架空経費であるとするが,控訴人は上記のとおり,差引勘定(世俗的意味で相殺)で処理したと供述しているのであり,実際に現金の支払(授受)がないことと矛盾しない。


 また,控訴人は,本件土地取得後,平成2年9月に売却するまでの3年間,留学生に年3回の草刈りと年1回の土留作業(本件土地の横を流れている小川の水流によって沿岸が崩れないようにするための作業)を依頼し,1回に4,5人の留学生が作業に従事していた。


 控訴人は,アルバイト代として1人に1万円を支給していたほか,食事等も提供しており,これら草刈に際して合計約60万円を負担していた(甲36,当審控訴人)。


 この点につき,被控訴人は,本件検面調書では,控訴人が草刈費用を支払った事実はないから架空経費であると主張するが,控訴人は,本件検面調書において,本件土地を売却するために敢えて草刈りをしたことはない,このような費用は払っていないと供述しているのであって,ここでの供述の趣旨は「本件土地を売却するために敢えて」草刈りをしたか否かに対してである。


 控訴人は,当初居住予定地として本件土地を購入し,その後通勤に不便と思われたことから学生寮の建築等を検討していたものであり,その間の土地の管理として草刈等を行い,アルバイト代等の費用を支払っていた旨を供述しているのであるから,本件検面調書の記載は上記認定の妨げになるものではない。




(4)控訴人は,平成2年9月5日,法研住販の仲介で本件土地を1億3000万円で株式会社東光に譲渡し(甲26),同月19日には代金決済のうえ移転登記を了し(乙8),同年12月30日には法研住販に仲介手数料396万円を支払った(甲27)。


 なお,控訴人は,上記住友銀行からの融資については昭和62年10月23日から平成2年9月19日までの利息として756万7466円を支払い(乙8),また,親族2名からの借入金1480万円については昭和62年10月1日から平成2年10月1日までの利息として合計377万4000円を支払い(甲29ないし34の各1・2),支払った借入利息は合計1134万1466円になる。




(5)控訴人は,多額の譲渡所得を得たことから,平成2年分の所得税に係る確定申告については,事務員に委ねることは無理であり,税務知識の不足から過大な税金を払うことがないよう税務の専門家である税理士に委任することとし,平成3年2月ころ,妻が所有するマンションの賃貸借契約を仲介していた縁で知ったKからD税理士を紹介された。




(6)D税理士(昭和3年9月生)は,昭和42年麹町税務署を最後に税務署を退職し,以来,20年余にわたり税理士を開業していた者である。


 ところで,不動産譲渡に係る所得税の課税の仕組みとしては,税務署において作成される事績書等の課税資料,譲渡所得を生じた納税義務者の氏名等を登載した譲渡者名簿等に基づき,納税義務者に申告書用紙等を郵送して確定申告を促して徴税が図られていた。そして,事績書等の課税資料は,納税義務者が転居したときは,転居先の所轄税務署に送付されるが,その授受を確認する手続はとられておらず,課税資料の送付を受けた税務署において,これに基づいて譲渡者名簿が作成される前に課税資料が隠匿され,又は廃棄されると,譲渡所得の発生が事実上把握されず,納税義務者は,譲渡所得の申告をしないことにより譲渡所得税の納税を免れることができた。


 そこで,D税理士は,昭和44年ないし45年ころから永年にわたり,受任した納税義務者について虚偽の転居通知をし,送付を受けた税務署の署員に課税資料を廃棄させ,当該納税義務者の譲渡所得税を申告しない方法による脱税を実行し,昭和49年ころからはE税務署員と共謀して脱税をし,依頼者から預かった納税資金等を納税に使用することなく,その全額を領得し,共犯であるE税務署員に報酬金を支払っていた(乙3,4)。



(7)D税理士は,平成3年2月下旬ころ,控訴人から本件土地の譲渡所得税の申告について相談を受け,代々木に所在する控訴人のアジア文化総合研究所の事務所に赴き,控訴人から本件土地の売買契約書,借入資金に係る利息額等の資料をもとに控訴人から,事情を聴取した(乙4・20頁,当審控訴人)。なお,控訴人において裏付け資料等を示さなかった旨の差戻前控訴審判決の認定は採用できない。


 控訴人は,必要経費としては,本件土地購入に関しては,Iへの仲介手数料207万円,銀行借入等の利息があり,また,本件土地の維持管理に要した費用としては,何度か留学生に頼んで草刈り等を実施しアルバイト代を支払っており,領収書等は徴求していなかったものの,草刈費用が60万円位あること,本件土地の譲渡費用としては法研住販に仲介手数料396万円を支払ったこと等を説明した(乙15,甲36)。