偽り、その他不正の行為(20)



 引き続き最高裁の判断です。







結論



 以上によれば,原判決は破棄を免れない。そして,被上告人とA税理士との間に前記の意思の連絡があったと認められるかどうかなどについて,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すのが相当である。


 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官滝井繁男の補足意見がある。





 裁判官滝井繁男の補足意見は,次のとおりである。



 私は,法廷意見に賛成するものであるが,本件の事案の特殊性にかんがみ,次のとおり補足して意見を述べておきたい。



 本件は,納税者から申告手続の委任を受けた税理士が税務署員をして譲渡所得に係る課税資料を廃棄させた上,納税者から受領していた納税資金を領得して,譲渡所得についての申告をしなかったという特殊な事案であり,納税者と税理士との間にどの範囲の事実の隠ぺい・仮装について意思の連絡があったかは,差戻し審において審理し,確定される必要がある。



 重加算税は,高率の加算税を課すことによって,隠ぺい・仮装による納税義務違反行為を防止し,徴税の実を挙げようとする趣旨に出た行政上の一種の制裁措置である。



 納税者から申告手続の委任を受けた税理士等の第三者が隠ぺい・仮装行為をした場合において,納税者は,自らその行為をしていないというだけの理由でこの制裁を免れるわけではない。しかし,事実の隠ぺい・仮装についてその一部に意思の連絡があるからといって,必ずしも過少申告となった税額全体について納税者に対して重加算税を賦課することができるわけではないとする考え方が十分あり得るのであり,重加算税を賦課することができる範囲は,重加算税制度の趣旨,目的等から見て,慎重な検討を要する問題である。


 差戻し審においては,前記の事実を確定した上で,上記の問題について十分検討すべきである。



(裁判長裁判官 滝井繁男 裁判官 福田博 裁判官 北川弘治 裁判官 梶谷玄 裁判官 津野修)