偽り、その他不正の行為(17)




 引き続き裁判所の判断です。








《乙2》税理士による脱税と控訴人の責任



ア 税理士は,前記のとおり,税務専門家として,独立した公正な立場において申告納税制度の理念にそって,納税義務者の信頼にこたえ,租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする(税理士法1条)。このような公共的な使命を担う税理士は,委任者である納税義務者の援助に当たっては,納税義務者と税務当局のいずれにも偏しない独立した公正な立場で行動すべきもので,《乙2》税理士による前記方法による脱税について,直ちに委任者である控訴人の責任を問うことはできない。被控訴人の主張は,独立して公正な立場で行動すべく法律で定められた税理士の公共的な使命を無視するもので,採用の限りではない。



イ 継続的に多額の収益を得た法人等の納税者が徴税事務に従事した経験を有する税理士に対し,甚だしい場合は脱税を依頼し,そうでない場合においても,徴税事務に対する影響力を期待し,巨額の税を免れようとする事例が明らかとなることがある(公知の事実)が,


そのような場合は格別,


大多数の納税者及び税理士が,法律の許す範囲内において納税額を少なくしようと試みることはあっても,適正な納税をしていると認められる(我が国において,一部を除き,徴税事務に格別の困難を生じていないことも,公知の事実であり,このことから本文のように認めても,我が国の実態を見誤るものではあるまい。)我が国の税理士制度の下においては,税理士による脱税について,委任した納税者は直ちには責任を負わず,重加算税を賦課するには,前記のとおり,納税者による資料の隠匿等の積極的な行為までは必要ではないまでも,納税者が,当初から所得を過少に申告することを意図し,その意図を外部からも窺いうる特段の行動をした上,その意図に基づく過少申告をしたような場合であることを要する。




ウ 本件においては,前記のとおり,控訴人は,税務相談をし,多額の税額が減少することに疑いを抱いたものの,所得税の申告を委任したのにとどまり,《乙2》税理士において,格別の説明をすることもなく,紹介料や草刈費用を計上し,税額を試算して見せ,納税に充てる金員として1800万円を騙し取り,税務署員と共謀し,委任者である控訴人の利益をおよそ無視する方法により脱税したのであり,控訴人が脱税の責めを負うべき理由を見出し難い。






(6)本件の特質


ア 控訴人は,納税のための1800万円もの多額の金員を税理士に騙し取られ,後に納税し,いわば二重の負担を負ったに等しいが,納税の義務を免れることができない以上,その限度では,税理士の選任を誤った負担を負うことは避けられない。


イ 被控訴人は,要旨,税理士による脱税について重加算税を賦課すべきかどうかは,生じた国家的損失を当該税理士を委任した納税者に負担させるのが公平が,国家の損失,すなわち他の正当な申告納付義務の履行者全体の損失に帰するのが公平かという観点から決すべきであると主張する。


しかしながら,この主張は,本件において,税理士が脱税し,納税者から金員を騙し取り,国家と共に納税者にも被害を与えており,これらの被害が税務署員の協力なくしては発生しえなかった事実を無視するものである。


控訴人は,税務署勤務の経験を有する《乙2》税理士に1800万円もの多額の金員を騙し取られた被害者であり,税理士と共謀して課税資料を廃棄し,税理士が納税者から金員を騙し取るのを可能にした税務署員は,共犯にほかならない。


税務当局も,本件においては,脱税をするような明らかに税理士の資質に欠ける元税務署員を税理士にした点は措いても,税理士の脱税及び部内の共犯者の行為に永年気づいておらず,どちらかといえば,加害者と同視されるべき立場にある。



この事実をも踏まえると,控訴人の過少申告に対する重加算税の賦課は,前記のとおり,事実の裏付けを欠いて是認することができないだけでなく,税務署員及び元税務署員の悪行について甘受すべき非難を納税者に転嫁して免れようとするに等しく,課税法規の適正な適用の見地からも大きな疑問がある。



(7)1800万円を超える部分と重加算税(被控訴人の当審における新主張)

 前記の本件の事実関係の下においては,1800万円を超える部分についても,控訴人は,課税標準等を隠ぺいし,又は仮装したと認めることはできない。被控訴人の主張は,その余の点について検討するまでもなく,失当である。