偽り、その他不正の行為(14)




 高裁の判断を検討します。







1 事実経過




 本件の事実経過につき,前提事実の他,以下の事実を認めることができる。




(1)控訴人は,従前,大学教授として得る収入等について税理士に委任することなく所得税を申告し,平成2年3月,平成元年分の所得税の申告の際,銀行口座から引き落として納税するための手続をとったが,本件土地の売却に伴う譲渡所得を得た平成2年分については申告を税理士に委任することとし,平成3年2月ころ,妻が所有するマンションの賃貸借の仲介をしていた縁で知った《B》から《乙2》税理士の紹介を受けた(甲12,14,18から20まで,乙12)。



(2)《乙2》税理士は,昭和42年麹町税務署を最後に税務署を退職し,以来,税理士を開業しており,平成3年2月末ころ,控訴人から,本件土地の譲渡所得税について相談を受け,裏付け資料等を示されることもなく,事情を聴取しながら,メモ用紙に,上から順に,「売却130,000」,「購入△69,000」,「購入」の字の右に3段に「手数料2,070」,「登記300」,「印紙100」,「売却」の字の右に4段に,「手数料3,960」,「草刈600」,「印紙100」,この3種の数字の右に「△2,470」,下に「(利息1,340)」,「手数料3,960」の直上に「内紹介料356万・・・国際学芸生活文化研究会有限会社」,税額を試算したと推認される計算式,四角で囲んだ「25,920」,「23,100」,「18,000」等と記載(「手数料3,960」,「紹介料356万」及び「草刈600」の項目は,控訴人が,問われるまま,妻の関係する上記有限会社の名を告げたものの,出費した事実を告げていないにもかかわらず,《乙2》税理士が記載した。)し,これを控訴人に示し,税額約2600万円が経費を控除して2310万円となるところ,全部で1800万円で済ませることができ,800万円得すると説明したが,


 控訴人は,留学生に草刈りを手伝わせて謝礼を支払ったものの,裏付けとなる領収書はなく,紹介料356万円を支払った事実はなかった(甲12,14,19,乙4,8)。



(3)《乙2》税理士は,前提事実記載のとおり,永年にわたり,税務署員と共謀して脱税し,この方法によれば納税に使用する必要がないため,依頼者から預かった納税資金全額を領得し,共犯である税務署員に報酬金を支払っていた(乙3,4)。



(4)控訴人は,相談当日直ちに依頼することなく,大学の研究室に在籍時以来の知人《A》から,資格のある税理士であることについて確認を得た上,数日後,《乙2》税理士に対し,委任する意向を電話で告げ,平成3年3月6日,税務代理報酬5万円を支払って領収書を受領し,1800万円を交付して「預り證」を受領し,本件土地の譲渡に関する書類,給与所得に関する書類等税務申告の資料を送付した(甲4,12,14,18,19,乙4,8)。



(5)《乙2》税理士は,前提事実記載のとおり,平成3年3月15日,被控訴人に対し,控訴人の平成2年の所得税申告書を提出したが,本件土地の譲渡所得については申告も,納税もせず,控訴人から預かった1800万円を領得した(乙4)。



(6)控訴人は,後日,《乙2》税理士に対し,申告手続の履行について妻を通じて確認し,申告が終了したとの返答を得たが,申告書の控えめ交付を受けることもなく,平成2年分の所得税7100円が銀行振替され,以後,平成9年まで,所得税の申告手続を同税理士に委任してきた(甲18,19,乙8,弁論の全趣旨)。



(7)控訴人は,平成9年11月13日,所得税法違反の被疑事実について東京地方検察庁において取調べを受け,検察官から,本件土地の譲渡所得税について申告も,納税もされていないことを知らされ,控訴人の所得税法違反については公訴時効が完成しているものの,脱税に当たるとして追及を受け,修正申告を勧められるなどし,嫌疑を晴らすため,前記メモを含め,本件土地の売買契約書,購入代金の領収書,所有権移転登記手続費用の領収書,印紙代領収書,登記簿謄本,《乙2》税理士に対する委任状,1800万円の預り證,5万円の税務代理報酬領収書等,自ら保管し,又は《乙2》税理士から受領した本件土地の譲渡所得税の申告に関係する書類をファイルごと検察官に提出し,《乙2》税理士に委任した経緯を説明し,供述録取書の作成に応じた(甲12,18,19,乙8)。