偽り、その他不正の行為(10)




 先日の控訴審、平成14年 1月23日判決、税務訴訟資料252号順号9050について検討します。(控訴人勝訴)





事案の概要


1 本件は,税理士が,税務署員と共謀して控訴人の課税資料を廃棄させ,控訴人の平成2年分所得税中,土地についての譲渡所得税を申告も,納税もせず,納税のために預かった1800万円を領得し,事実の発覚後にされた過少申告加算税賦課決定(税額1万1000円)及び重加算税賦課決定(税額880万9500円)(本件各処分。内容は,別紙参照)につき,取消しが求められた事案である。


 原審は,控訴人が,通則法(国税通則法)68条1項に規定する隠ぺい又は仮装の行為をし,同法70条5項に規定する偽りその他不正の行為により税額を免れており,本件各処分は同法70条4項所定の期間後にされているが,適法であり,隠ぺい又は仮装されていない控訴人の事業所得の申告もれについても同法65条4項に規定する正当な理由が認められないと判断し,控訴人の請求をいずれも棄却した。


 当裁判所は,控訴人が,同法68条1項に規定する隠ぺい又は仮装の行為をしたこと及び同法70条5項に規定する偽りその他不正の行為により税額を免れた行為をしたことのいずれも認めることができず,本件各処分は同法70条4項の期間経過後にされた違法なもので,取り消すべきものと判断した。








前提事実(証拠を掲げないものは,争いがない。)



(1)控訴人の平成2年分の所得税の申告の経緯等


ア 控訴人は,昭和62年10月株式会社湘南開発から代金6836万5000円で買受けた川崎市多摩区南生田所在の土地(本件土地)を,平成2年9月,株式会社東光に代金1億3000万円で譲渡した(乙8)。


イ 控訴人は,《乙2》税理士に対し,平成2年分の所得税の確定申告手続を委任し,平成3年3月6日,1800万円及び税務代理報酬5万円を支払い,各金員につき,預り証及び領収証を受領した(甲1から3まで,乙4,5,7)。


ウ 《乙2》税理士は,平成3年3月15日,控訴人の平成2年分の所得税につき,総合課税の所得金額999万3048円,納付すべき税額7100円とする確定申告書を提出し,本件土地に係る譲渡所得税を申告も,納税もせず,支払を受けた1800万円を領得した(乙8,弁論の全趣旨)。


エ 控訴人は,平成9年12月12日,被控訴人に対し,平成2年分所得税について,本件土地の譲渡に係る所得を加えた別紙内容の修正申告をし,納付すべき税額2528万6500円のうち,平成8年分所得税の還付金により充当された21万9300円を除く2506万7200円につき,同月24日160万円,平成10年1月23日400万円,同年2月5日400万円,同月6日1546万7200円をそれぞれ納付した(甲8,10の1から4まで,甲12,13,乙10)。


オ 控訴人は,平成9年12月19日,本件各処分を受け,同10年2月12日,被控訴人に対し,異議申し出(同年5月22日,棄却)をし,同年6月19日,国税不服審判所長に対し,審査請求(平成12年3月16日,棄却)した。





(2)不動産譲渡所得税の課税の仕組みと《乙2》税理士による脱税


ア 不動産譲渡に係る所得税は,税務署において作成される事績書等の課税資料,譲渡所得を生じた納税義務者の氏名等を登載した譲渡者名簿等に基づき,納税義務者に申告書用紙等を郵送して確定申告を促して徴税が図られていたところ,事績書等の課税資料は,納税義務者の転居先の所轄税務署に送付されるが,その授受を確認する手続はとられておらず,課税資料の送付を受けた税務署において,これに基づいて譲渡者名簿が作成される前に課税資料が隠匿され,又は廃棄されると、譲渡所得の発生が事実上把握されず,納税義務者は,譲渡所得の申告をしないことにより,譲渡所得税の納税を免れることができた(乙3から7まで)。



イ 《乙2》税理士は,昭和44,5年ころから,受任した納税義務者について虚偽の転居通知をし,送付を受けた税務署の署員に課税資料を廃棄させ,当該納税義務者の譲渡所得税を申告しない方法による脱税を実行しており,同49年ころからは,《乙3》税務署員の協力を得ていたところ,平成3年2月中旬ころから3月上旬ころにかけて,虚偽の転居通知をして荻窪税務署に控訴人他6名の平成2年分の譲渡所得に係る課税資料を送付させ,同署に勤務していた《乙3》税務署員に廃棄させ,控訴人らの譲渡所得を申告しないで譲渡所得税を免れることが発覚しないよう取り計らった(乙1,3から7まで,弁論の全趣旨)。 



ウ 《乙3》税務署員は,謝礼として,《乙2》税理士から合計850万円の支払を受け,平成10年7月3日,加重収賄の罪により懲役3年の有罪判決を受け,《乙2》税理士は,同月21日,平成6年から8年にかけて行った脱税(所得税法違反)及び贈賄につき,懲役4年6月,罰金7000万円の実刑判決を受けた(乙1,2)。




3 争点



〔1〕控訴人による隠ぺい又は仮装の行為(通則法68条1項)

〔2〕控訴人による偽りその他不正の行為(同法70条5項)

〔3〕過少申告についての正当な理由(同法65条4項)