偽り、その他不正の行為(9)




引き続き、裁判所の判断を検討します。









争点1及び3について




(1)1記載の各証拠の内容に照らすと,原告は,Aに,平成2年分の所得税の納税申告を依頼すれば,正親の納税額に比べて少ない金額である1800万円で済ませることができると言われたことから,正規の納税額との差額については正確な金額を把握してはおらず,また,いかなる方法によるかについても理解してはいなかったものの,自己の納付すべき税額の一部について免れる意図で,Aに平成2年分の所得税の申告及び脱税工作を依頼したものと認めるのが相当である。



(2)これに対し,原告は,Aから本来ならば2300万円余かかるが,法律による節税で所得税が1800万円になると聞かされたことから,Aを信頼して申告を依頼し,現金1800万円を預け,税務代理報酬として5万円を支払ったものであって,原告には脱税の意図はなかったと主張し,これに沿う原告の本人の陳述書(甲20,同21)及び原告本人の供述等がある。



 しかし,これは,前記の取調時における原告自身の供述とも全く反するものであるところ,


〔1〕取調時における原告の供述には,特段,不合理な点も認められず,その供述の内容は,前記のA供述の内容ともおおむね符合するものであること,


〔2〕原告自身の供述によっても,Aが示した1800万円という金額は,全くの概算であることが前提となったものであるところ,


 原告のAに対する依頼の内容が原告主張のとおりであるとすれば,申告期限後において,Aに対しては納税が済んだか否かの確認を原告の妻に電話で尋ねさせたのみで,それ以上の確認をしておらず,実際の納付税額について,1800万円で足りなかったか,あるいは,1800万円では多すぎたのではないかなどの点について,何らの注意を払ったことが認められないことは,不自然かつ不合理であるといわざるを得ないこと,


〔3〕本件メモによれば,Aが原告に対して述べたとされる所得税額2310万円に係る「2310」の記載の右には「正」を丸で囲った記載が付記されているところ,これは,法律に従って算定した場合の納付すべき税額であることを示すために,記載されたものとみるのが自然であること,


〔4〕原告は,東京地方検察庁における取調期間中に行われた,原告の居宅における東京国税局職員の事情聴取に対し,「Aに税金が安くなるともちかけられそれにのり不正な申告をしたことは原告の不徳の致すところである」として,原告自身が不正な申告に関与したことを認める旨答えていることなどの各点からして,法律による節税で所得税が1800万円になると聞かされたものであって,脱税をしようとしたものではない旨の原告の供述等は,これをたやすく信用することができない。



(3)原告は,東京地方検察庁における取調時の供述調書は,原告の供述を歪曲したものであり,原告が取調担当検事に対して訂正を求めても応じなかったものであると主張する。



 しかし,当時,原告は,大学教授の地位にあったものであるところ(乙8)原告に対する取調べは,約2週間余の期間に6,7回行われたもので、1日当たりの取調時間も長いときで3,4時間程度というものであり,身柄を拘束された状態ではなかったことからすれば,原告の主張するように,過酷な取調べが行われたために,虚偽の内容の供述調書に署名,指印をさせられたものとは,容易に認め難く,他にこれを覆すに足る証拠は見出せない。



(4)以上のとおり,原告は,Aに,平成2年分の所得税の申告を委任する際に,同税の納付すべき税額の一部を免れるよう脱税工作を行うことを依頼したものと認められ,その結果,AがBに協力を依頼して,前記のとおりの脱税工作を敢行したものであると認められる。 



(5)そうであるとすれば,原告のこのような行為は,同人の平成2年度の所得税について,通則法68条1項所定の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の隠ぺい又は仮装に当たるいうべきであるから,本件重加算税賦課決定処分が課された限度においては重加算税の課税要件が具備しているというべきであり,かつ,かかる行為は,通則法70条5項に規定する偽りその他不正の行為により税額を免れた行為にも当たるというべきであるから,本件各賦課決定処分が処分の期間制限に違反してされたものともいえない。




3 争点2について

 原告は,平成2年度の原告の所得金額が過少申告となったのは,A及びBが,原告の申告を妨害するなどしたためであり,被告の行政処理や指導に的確性を欠いたためであるから,通則法65条4項に規定する「正当な理由」その他の真にやむを得ない事情がある場合に該当すると主張するが,


 隠ぺい仮装されていない原告の事業所得の申告もれについて,本件の証拠によって,正当な理由があると認めるに足る部分はないから,納付すべき税額から控除すべき金額があるとは認められない。



4 結論

 したがって,本件各賦課決定処分に違法はないから,原告の本訴請求はいずれも理由がない。