偽り、その他不正の行為(7)

 


引き続き原告の反論を検討します。





(原告の主張)



(1)原告は,Aに対し,平成2年分の所得税の申告及び納付を委任するとともに,現金1800万円を預けたが,Aは,Bと結託して,共謀の上,原告の住所地を荻窪税務署の管轄する杉並区とする旨の偽造の転入届を作成し,Aの作成した原告の平成2年分の所得税の申告書を渋谷税務署から荻窪税務署に転送させこれをBが税金申告書綴りから抜き取って廃棄することにより,原告の所得税申告を,原告が不知のうちに妨害し,原告から預かった1800万円を横領したものである。


 原告は,A及びBの不法行為に巻き込まれ,濡れ衣を着せられたものであって,原告には,脱税をする違法の意思や脱税のための積極的な行為はない。



 したがって,原告が通則法70条5項に規定する「偽りその他不正の行為によりその全部又は一部の税額を免れた」事実はないから,同条4項に基づき,納群義務の成立の日から5年を経過した平成8年3月16日以後においては,原告の平成2年分の所得税に係る加算税の賦課決定を行うことは許されない。



(2)そして,原告は,重加算税の課税要件である課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺい、仮装したりした事実はないから,この点からも,本件重加算税賦課決定処分は違法である。



 また,申告が過少となったのは,前記のとおり,A及びBが原告の申告を妨害したためであって,そのことには,被告の行政処理や指導に的確性を欠くことに起因する点があったものであり,納税者のみにその責を帰することは酷であり,このような事情は,通則法65条4項に規定する「正当な理由」その他の真にやむを得ない事情がある場合に該当するというべきであるから,原告に対して過少申告加算税を課すことも許されないというべきである。