偽り、その他不正の行為(6)

 

 

引き続き課税庁の主張を検討します。

 

 

 





(被告の主張)



(1)本件各賦課決定処分の根拠


 本件において,原告は,Aが原告の所得税をほ脱させることを認容した上で,Aにその具体的方法を委ね,その脱税報酬を含めてあるいはその全額がAの報酬に充てられても異存はないとの意思の下に,同人の要求に従って,合計1805万円を供与し,Aが本件土地の譲渡所得金額の記載のない原告の平成2年分の所得税の確定申告書を提出したものであって,原告は,当初から所得を過少に申告することを意図した上で,その意図を外部からも窺い得る特段の行動をしたものというべきであるから,原告は,「隠ぺい又は仮装」の行為によって,本件土地の譲渡に係る所得税を免れたものというべきである。



 そうすると,原告は,通則法68条1項に定める「国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし,又は仮装し,その隠ぺいし,又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していた」ものとして,同条項の規定に基づき,重加算税が賦課されることとなる。

 また,原告は,平成2年分の所得税の確定申告において,事業所得の金額の計算上,収入を過少に申告するとともに必要経費を過大に計上することにより事業所得の金額を過少に申告していたものであり,通則法68条1項に規定する事実を隠ぺいし,又は仮装したところに基づき事業所得を過少に申告していたとまではいえないものの,事業所得の金額が過少申告となったことについて通則法65条4項に規定する正当な理由があるとは認められないから,通則法65条1項の規定により過少申告加算税が賦課されることとなる。





(2)本件各賦課決定処分の適法性



ア 本件修正申告書の提出により,原告に対し賦課される加算税の額は次のa及びbのとおりとなる。



a 過少申告加算税の額 1万1000円


 本件修正申告書の提出により納付すべきこととなった税額のうち,隠ぺいし又は仮装されていない事実として認められる事業所得の申告もれの事実に基づく税額については,過少申告加算税が賦課されることとなるところ,隠ぺいし又は仮装されていない事実として認められる事業所得の申告もれの事実のみに基づいて修正申告書の提出があったものとした場合において,その申告に基づき通則法35条2項の規定により納付すべきこととなる税額(過少申告加算税の額の計算の基礎となる税額)を計算すると11万1800円(別表の〔4〕の金額)となり,本件修正申告書の提出により納付すべきこととなった税額2528万6500円(別表の〔1〕-〔3〕の金額)のうち11万1800円については,同法65条1項の規定により,その金額(ただし,同法118条3項の規定により1万円未満の端数を切り捨てた後の金額)に100分の10の割合を乗じて計算した金額である1万1000円の過少申告加算税が賦課される。



b 重加算税の額 880万9500円


 本件修正申告書の提出により納付すべきこととなった税額のうち,aの過少申告加算税の額の計算の基礎となる税額11万1800円を控除した税額については,重加算税が賦課されることになるところ,重加算税の額は,本件修正申告書の提出により納付すべきこととなった税額2528万6500円(別表の〔1〕-〔3〕の金額)から過少申告加算税の額の計算の基礎となる税額11万1800円(別表の〔4〕の金額)を控除した金額である2517万4700円(別表の〔5〕の金額,ただし,通則法118条3項の規定により1万円未満の端数を切り捨てた後の金額)に100分の35の割合を乗じて計算した金額である880万9500円となる。



イ したがって,a及びbの金額と同額の加算税を賦課決定した本件各賦課決定処分は適法である。




(3)加算税の賦課決定の期間制限違反のないことについて

 通則法70条5項は,偽りその他不正の行為によりその全部又は一部の税額を免れた国税に係る加算税の賦課決定はその納税義務の成立の日から7年を経過する日まですることができる旨規定しているところ,本件は同条項が適用される場合に当たるというべきである。


 すなわち,本件においては,原告は,Aが原告の所得税をほ脱させることを認容した上で,Aにその具体的方法を委ね,その脱税報酬を含めてあるいはその全額がAの報酬に充てられても異存はないとの意思の下に,同人の要求に従って,合計1805万円を供与し,Aが本件土地の譲渡所得金額の記載のない原告の平成2年分の所得税の確定申告書を提出することにより本件土地の譲渡に係る所得税を免れたものであり,原告は,当初から所得を過少に申告することを意図した上で,その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたものというべきである。


 そして,原告から平成2年分の所得税の確定申告の依頼を受けたAは,Bの協力の下,不正行為を行って原告の所得税を免れさせたものであるから,原告が「偽りその他不正の行為」によって本件土地の譲渡に係る税額を免れたことは明白である。


 したがって,原告の平成2年分所得税の加算税の賦課決定は,加算税の納税義務成立の日である法定申告期限の経過の時(通則法15条2項15号)から7年を経過する日まですることができるから,それ以前になされた本件各賦課決定処分は適法である。