偽り、その他不正の行為(5)



 本日からは東京地方裁判所(第一審)、 平成13年 2月27日判決、税務訴訟資料250号順号8847 について検討します。







前提となる事実(各項末尾掲記の証拠等によって認定した。)



(1)原告の平成2年分の所得税の申告の経緯等


ア 原告は,昭和62年10月1日に,株式会社湘南開発から,川崎市多摩区南生田所在の土地(以下「本件土地」という。)を代金6836万5000円で買受け,平成2年9月5日,これを株式会社東光に対し,代金1億3000万円で譲渡する旨の売買契約を締結し,同月19日,譲渡代金を受領して本件土地を引き渡した。

(乙8)




イ 原告は,平成3年3月3日,税理士A(以下「A」という。)に,原告の平成2年分の所得税の確定申告手続を委任し,同年3月6日,Aに対し,現金1805万円を支払った。

(甲1ないし同3,乙5,同7)




ウ 原告の平成2年分の所得税の確定申告書は,平成3年3月16日,被告に提出された。

 同申告書によれば,総合課税の所得金額は999万3048円,納付すべき税額7100円とされていたが,本件土地に係る譲渡所得については記載がなかった。

(乙8,弁論の全趣旨)




エ 渋谷税務署の係官が,平成9年12月12日,原告に対し,平成2年分の所得税の修正申告のしょうようをしたところ,原告は,同日,総合課税の所得金額1036万5148円,分離課税の短期譲渡所得金額4882万2934円とする修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)を提出した。

 本件修正申告書には,当初申告においては申告されていなかった本件土地の譲渡に係る所得などが加えられた。

 そして,原告は,本件修正申告書の提出により,新たに納付すべき税額2528万6500円のうち,原告の平成8年分所得税の還付金により充当された21万9300円を除く2506万7200円については,平成9年12月24日に160万円,平成10年1月23日に400万円,同年2月5日に400万円,同月6日に1546万7200円と,4回に分けてこれを納付した。

(甲8,同10の1ないし4,同12,同13,乙10)





(2)





a 譲渡所得のうち,不動産譲渡に係る所得については,各税務署の資産税担当者があらかじめ事績書等の課税資料を作成し,さらに,譲渡者名簿に譲渡所得を生じた納税義務者の氏名等を登載し,同名簿に基づき各納税義務者に申告書用紙等を郵送して確定申告を促して徴税を図っているところ,納税義務者が所轄税務署の管外に転居すると,それに伴って事績書等の課税資料も,東京国税局内部の集配送システム等を利用して転居先の所轄税務署に送付されることになるが,その際,両税務署間で課税資料の受領の有無を確認する手続はとられていなかった。




b そのため,脱税に協力する税務署の職員を確保した上で,納税義務者がこの脱税協力者の勤務する税務署の管内に転居した旨の虚偽の連絡を,当該納税義務者の所轄税務署に行い,納税義務者の課税資料を所轄税務署から脱税協力者の勤務先税務署に送付させ,同資料に基づき納税義務者が「譲渡者名簿」に登載される前に,脱税協力者に同資料を抜き取って隠匿,廃棄させ,譲渡所得の存在を税務署が把握することを事実上不可能にし,無申告のまま譲渡所得に係る所得税の納税を免れるという方法で脱税を図ることが可能となる(以下,上記の方法による脱税工作を「本件脱税工作」という。)。

(乙3,同6)



イ Aは,昭和44年,45年ころから,顧客の依頼を受けて,上記の方法による譲渡所得に係る所得税の脱税行為を繰り返していたが,昭和49年ころから,B(以下「B」という。)に上記の脱税協力行為を依頼するようになった。

(乙3,同5)



ウ Bは,平成2年7月10日から平成3年7月9日までは,荻窪税務署の資産税担当特別国税調査官の職務に従事していた。

(乙1)



(3)



ア Bは,平成3年2月中旬ころから同年3月上旬ころにかけて,前後7回にわたり,荻窪税務署において,各所轄税務署から転送されてきた中城孝司ほか6名の平成2年分の譲渡所得に係る課税資料をそれぞれ抜き取って隠匿,廃棄し,上記の者らが譲渡所得を税務署長に申告せず,これに係る所得税を免れることが発覚しないよう取り計らい,一連の課税資料の隠匿,廃棄の謝礼として供与されるものであることを知りながら,平成3年3月4日ころから同年5月8日ころまでの間,前後5回にわたり,Aから,現金合計850万円を賄賂として収受し,もって,職務上不正な行為をしたことに関して賄賂を収受したとして,平成10年7月3日,加重収賄の罪により懲役3年の有罪判決を受けたが,Bが課税資料を抜き取った7名の中には原告に係る課税資料が含まれていた。

(乙1,同3,弁論の全趣旨)




イ Aは,上記アの事実について,起訴されてはいないものであるが,この一連の事実が発覚した時点ではこれに関する贈賄罪及び所得税法違反については公訴時効が完成していた。

(弁論の全趣旨)