偽り、その他不正の行為(4)


 


先日に引き続き裁判所の判断を検討します。







(三) ところが、請求原因一項記載のように,原告は昭和三八年五月三〇日、訴外鈴鹿税務署長(当時の管轄税務署長)に対し、原告の昭和三七年分所得税につき、総所得金額として金二一四万三、三〇〇円(内訳給与所得金二一四万三、三〇〇円)のみを納税申告し前記五〇〇万円については申告していないのである。


 そればかりでなく、成立について争いのない甲第一号証、乙第五、第七、第八号証および証人平野己之助、同増田勇の各証言、原告本人尋問の結果ならびに弁論の全趣旨によれば、右申告された給与額のうちには愛知ヤクルトからの給与額として金七〇万円位が計上されていること(その他の給与額は、原告が当時勤務していた株式会社ヤクルト三重処理工場等よりの給与所得と認められる)、愛知ヤクルトに対する調査の結果前記五〇〇万円のことを知つて昭和四一年五月頃調査に来た税務署員増田勇の質問に対し、原告は愛知ヤクルトおよび訴外平野己之助から受領した前記金五〇〇万円につき、当初は隠したが、まず愛知ヤクルトからの三〇〇万円を借受金として認め、ついで平野からの二〇〇万円をも認め、結局五〇〇万円全額を借受金であるとして認め、かつ右五〇〇万円は愛知ヤクルトから受取るべき月額七万円の顧問料で月々返済するものであり、愛知ヤクルトより源泉徴収票を送つてきているので、前記七〇万円の給与所得の申告もしたのだと弁解したこと、その後、審査請求の段階で原告は精神的補償であり非課税のものであると主張していることなどが認められ、右認定に反する証拠はない。


 ところで、原告が右のような所為に出る以前において、原告と愛知ヤクルト等との間で、原告が愛知ヤクルトから受領する金三〇〇万円は同社の経理上、貸付金とすること、そして同社が原告に支給する月々金七万円の顧問料との相殺の形式で右金三〇〇万円の返済を受ける形式をとることなどの合意がなされており、かつ同社が右合意のような経理上の処理方法を採つたことは、前記(一)の67記載のとおりである。 



(四) そこで原告が五〇〇万円の一時所得につき右(三)記載の各行為をしたことが法第七〇条二項四号所定の「偽りその他不正の行為」に該当するか否かについて考えるに、



 右にいう「偽りその他不正の行為」とは脱税を可能ならしめる行為であつて、社会通念上不正と認められる一切の行為を包含するものと解すべきところ、


 原告は、要するに、愛知ヤクルトおよび平野己之助との前記(一)の6記載の合意に基づき、愛知ヤクルトをして前記(一)の7記載の経理上の処理をさせた上、自らは右両者より受領した計金五〇〇万円の一時交付金の所得申告を故意にせず、かえつて、右五〇〇万円を隠ぺいするための形式的手段である愛知ヤクルトからの金七〇万円の給与所得の申告をし、また税務署員の質問に対し、右五〇〇万円は借受金であつて、愛知ヤクルトから支給される月額金七万円の顧問料で月々返済している旨の主張をして、右五〇〇万円についての所得税を免れていた、というのであるから、これら一連の原告の所為が右にいう「偽りその他不正の行為」により所得税を免れた場合に該当することは明らかであると言わなければならない。



 なお原告は、裁決により「原告が事実の一部を偽装したとは認めがたい」と判断されているから、被告は右判断に拘束され原告が偽りその他不正の行為をしたとの理由で法定申告期限より三年を経過した日以後に更正処分をすることはできないと反論するが、


 一般に、裁決により原処分が取消された場合の拘束力とは、原処分が当初よりなかつたものとみなされ、関係行政庁はこれに拘束されるという意味でしかないところ、


 成立について争いのない甲第一号証によれば、裁決により「原告が事実の一部を偽装したとは認めがたいから重加算税賦課決定した原処分は相当でない」として重加算税賦課決定が取消されているのであるから、被告は、再び重加算税賦課決定をし得ないという拘束を受けるにすぎず



 更正期間制限についての観点からは何らの拘束を受けるものではない。



 従つて、原告の右反論は被告の再反論二について検討するまでもなく失当である。



(五) 以上のとおり、原告は、昭和三七年分所得税に関し、偽りその他不正の行為によりその一部の税額を免れたものと認められるから、被告は原告の納税申告につき、法定申告期限である昭和三八年三月一五日(所得税法第一二〇条一項)から五年を経過する日まで更正することができる(法第七〇条二項四号)ところ、本件処分が右期限内である昭和四一年一〇月二八日付でなされたことは当事者間に争いがないから本件処分は適法である。


三、よつて、原告の請求は理由がないからこれを棄却する。