隠ぺい又は仮装(52)




 前日までの控訴審を検討します。札幌高等裁判所(控訴審) 、 昭和56年 5月28日判決、 税務訴訟資料117号492頁







 課税庁の主張補充


 



(被控訴人)


 控訴人のいわゆる協定総額主義なる主張(原判決五枚目表一三行目から同裏一四行目まで)につき、次の通り被控訴人の主張を補足する。


1 控訴人主張の「協定総額」又は「総額協定」とは一種の賦課課税方式を意味していると解されるが、この賦課課税方式は昭和二二年四月一日施行された所得税法によって導入された申告納税制度により法制度上から放逐され、税制度は昭和二二年四月一日以降自主申告制度に移行した。従って、それから二〇年近く経た本件係争年分のころにおいて、なお賦課課税方式的行政が行われることなど到底あり得ないことである。ちなみに、昭和三一年当時において、既に北海道における営・庶業納税者の青色申告の普及率は五〇パーセントを超えていたものであるから本件係争年ころにおいて自主申告制度は一般にほぼ定着していたと言える。



2 税務署では,納税組合ないし組合員が、税申告をどのように考え、どのように処理しているかにかかわらず、法の趣旨にのっとり、その申告を課税単位たる個人の自主申告であるとして取り扱ってきたものである。従って、個別の申告額が過少であると認めるときは、法の定めに従って必要な調査その他の手続を採るのであって、被控訴人は、控訴人に対しても、その自主申告額が過少と認められたので所得税法の定めるところにより一般納税者と同様税務調査を行ない、また控訴人自身もこの調査の結果を容認し、適法な修正申告書(賦課課税方式には修正申告という制度はない)を提出しているのである。


 

3 右の通りであるから、控訴人の本件係争各年分の確定申告は自主申告でなく、一種の賦課課税方式による税務署の指示額であるが如き主張は、事実に反することが明らかであり、かえって、控訴人ら納税組合の幹部実力者が自らの利益を図って内部的に申告額の分配をしていたことをうかがわせるものですらある。



4 従って、係争各年分の確定申告書は所得税法一二〇条の規定による控訴人の自主的判断に基づく計算による自主申告であり、これが修正申告による正当な各計数(売上高、仕入額等)を隠ぺいし又は仮装した過少な申告であることは明らかである。





裁判所の判断



 理   由




 当裁判所は、当審における新たな証拠調の結果を斟酌しても、控訴人の請求は理由がないと判断するものであるが、その理由は原判決がその理由において説示するところと同一であるからこれを引用する。



 当審における証人米沢政男の証言、控訴本人の供述中には、控訴人は同人を中心とする金本正友会、牛馬会、園遊会などいくつかの親睦団体をつくり控訴人の経営する「宮の森ガーデン」で右団体の会員がしばしば会合して飲食したが、昭和四〇年当時で右飲食の実費は会員から徴収する会費五〇〇円ないし一〇〇〇円の三倍ないし六倍であったところ、その差額分は控訴人個人が負担し、右飲食に使用する酒類、肉類等の仕入については、酒類は金本商会名義をもって鍵谷商店から購入し、肉類等は「宮の森ガーデン」仕入分を使用していた趣旨の各供述があり、当審において成立に争いない甲第四ないし第八号証(前記親睦団体の会員名簿)が提出されているが、原判決の援用する乙第一一、第一二、第一七号証、第四五号証の一ないし三、原審証人坂下弘志、同岩城秀晴の各証言によれば、控訴人は、同人に対する税務調査の段階において、右のような説明を全くしていないのみならず、むしろ、昭和四〇年に「金本商会」名義による仕入額が急増していることについては控訴人又は従業員がそれに関係していないとの趣旨を述べていることが認められること、また当審証人畑中勇吉の証言及び右証言によって真正に成立したものと認められる乙第四七号証の一、二に照らすと、前記親睦団体の会費が当時原価割れであったものとたやすく認めることは出来ず、従って前記の点に関する米沢証人の証言及び控訴本人の供述部分はいずれも信用出来ない。またその余の同証人の証言及び控訴本人の供述中原判決認定事実に反する部分は原判決援用の各証拠に照らし採用できず、他に控訴人主張の事実を認めるに足りる証拠はない。



 よって、原判決は相当で本件控訴は理由がないから民事訴訟法三八四条一項によりこれを棄却する。