隠ぺい又は仮装(49)


 



引き続き原告と被告の主張を検討します。





 

 

 

(抗弁に対する認否)(原告)

 

 

 

一 抗弁第一項のうち、被告主張のとおりの申告もれ(脱ろう)があつた事実は認めるが、その余は否認する。

 

 なお、原告には、次の理由から、本件各係争年度の所得金額等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺい・仮装する必要がなかつたし、また、その意思もなかつた。すなわち、原告は韓国籍を有するものであるが、第二次大戦敗戦後の日本の特殊な状況を背景として、在日韓国人に対する所得税課税については事実上日本人と異なつた取扱いがなされ、いわゆる協定総額主義の名のもとに、税務署は個々人から申告納税を受けず、韓国人に納税組合を結成させその代表者と交渉して韓国人全体の納税額を決定し、個々人がそのうちのいくらを負担するかは専ら韓国人間の自主的決定に委せる方法で申告徴収を行なつていたもので、この方針は全国的に昭和四〇年ころまで行なわれていた。

 

 原告としては、納税組合から割当てられた負担額を納めればそれでよかつたのであり、本件各係争年度においてそもそも所得税を逋脱する意思などなかつたのであるから、所得金額等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺい・仮装する必要もまたその意思もなかつたのである。

 

二 1 抗弁第二項1のうち、被告主張のような開差があることは認めるが、その余は争う。

 

2 同項2ないし6の各事実はすべて否認する。

 

三 抗弁第三項は認める。

 

 

 

 

 

 

(再抗弁)(原告)

 

 

一 本件各修正申告は原告の所得税について更正があるべきことを予知してなされたものではない。

 

二 原告は被告の要請に応じて昭和四三年三月一五日前記修正申告書を任意に提出し、これに基づいて誠実に納税義務を履行した。このような場合には重加算税を賦課しない取扱いが一般になつており、これに反する本件各決定は違法である。

 

三 右同日、原告と被告の大蔵事務官古田二郎、同坂下弘志との間で、本件各係争年度分の重加算税を賦課しない旨の合意がなされたのであるから、右合意に反してなされた本件各決定は違法である。

 

四 抗弁に対する認否第一項で述べたように、昭和四〇年ころまで在日韓国人に対しては事実上ゆるやかな申告徴税の方針がとられていたところ、昭和四〇年代になり国際情勢及び国内事情の変化から在日韓国人に対する課税方針も日本人並みになつたため、原告の所得についても昭和四一年二月ころから五年間に遡つて調査が行なわれるに至つたもので、変更された方針によつて過去の所得を計算し、算出の結果を原告に帰せしめるのは著しく不当であり、本件各決定は違法である。

 

 

 

 

 

 

(再抗弁に対する認否)(課税庁)

 

 

一 再抗弁第一項は否認する。

 

二 同第二項のうち、修正申告書の提出及び税の納付の事実は認めるが、その余は否認する。

 

三 同第三項の事実は否認する。

 

四 同第四項のうち、原告に対する調査が昭和四一年二月ころから開始されたことは認めるが、その余は否認する。原告に対する調査がそれまでなかつたのは事務効率上調査の対象とされなかつただけのことである。

 

 

 

 

 

第二 証拠

 

 

 

(原告)

一 甲第一ないし第三号証。

二 証人牛嶋俊行、同金重輝、原告本人。

三 乙第一ないし第三号証の各1、2、第四ないし第六、第三五、第三六号証、第四二号証の1、2、第四三号証の1ないし3、第四六号証の1ないし4の成立を認める。その余の乙号各証の成立は不知。

 

 

(被告)

一 乙第一ないし第三号証の各1、2、第四ないし第三八号証、第三九号証の1ないし3、

第四〇、第四一号証、第四二号証の1、2、第四三号証の1ないし3、第四四号証、第四五号証の1ないし3、第四六号証の1ないし4。

二 証人古田二郎、同岩城秀晴、同坂下弘志。

三 甲第一ないし第三号証の成立は不知。