隠ぺい又は仮装(48)



 本日からは札幌地方裁判所、昭和53年12月26日判決、税務訴訟資料103号976頁について検討します。







(請求原因)



一 原告は被告に対し、昭和三八年度ないし四〇年度(以下本件各係争年度という)の各所得税につき別表確定申告欄及び修正申告欄記載のとおりの内容の確定申告書及び修正申告書を提出したところ、被告から昭和四三年四月二日付で別表賦課決定欄記載のとおりの内容の各重加算税賦課決定を受けた。


二 原告は、右処分を不服として被告に対して異議申立をしたが、被告は右申立を棄却したので、原告は昭和四三年八月九日札幌国税局長に対して審査請求をしたが、同局長は昭和四五年四月二八日付で、昭和三八年度分の重加算税賦課決定につき別表審査裁決欄記載のとおりその一部を取消し、その余の原告の請求を棄却する裁決をした。


三 しかしながら、原告は、前記確定申告をするについて、本件各係争年度の所得金額等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいし、又は仮装したことはなく、被告のした前記各重加算税賦課決定(右裁決により取消された部分を除く。以下本件各決定という)は違法である。


四 よつて、本件各決定の取消を求める。








(請求原因に対する認否)



一 請求原因第一項、第二項の各事実はすべて認める。

二 同第三項、第四項はいずれも争う。



(抗弁)



一 (本件各決定の根拠)

 原告のした本件各係争年度の所得税の確定申告において、別表の所得金額の差額欄記載の各金額について申告もれ(脱ろう)があつた。原告は、以下に述べるように、右脱ろう分について計算の基礎となるべき事実を故意に隠ぺいし又は仮装し、その隠ぺいし又は仮装したところに基づき確定申告書を提出していたので、原告は国税通則法六八条一項に従つて本件各決定を行なつたものである。



二 (隠ぺい・仮装の事実)


原告の故意による隠ぺい・仮装の事実があつたとする理由は次のとおりである。


1 原告の本件各係争年度の確定申告所得額と修正申告所得額は別表に示すとおりであるが、両者の間には、昭和三八年度については約二八倍、同三九年度については約一〇倍、同四〇年度についても約六倍の開差があり、このような著しく多額の開差が単なる申告もれないしは計算違いから生じたものとは到底考えられず、原告は故意に事実を隠ぺい・仮装して確定申告をしたものと推認される。



2 (飲食業における隠ぺい・仮装行為)

 原告は、自己の経営する「宮の森ガ-デン」、「えぞ鹿」、「レストラン金本」の売上金額を圧縮して収入金額を過少に見せかけるために、売上金額に直接比例する仕入金額の圧縮をはかり、酒類、肉類、あるいは青果物の仕入先である鍵谷高橋商店、株式会社北邦(吉田商店)、大丸産業株式会社等に対して、仕入額の記帳を圧縮することを要請し、仮装名義の売掛金口座を設けさせる等の方法により右仕入先の帳簿に虚偽の記帳をさせあるいは正規の記帳をさせなかつた。その反面、原告は、真実の仕入額と圧縮仕入額との差額の決済にあたつては、圧縮仕入額の決済の場合とは異なる銀行を利用し、また決済年月日をずらす等の作為を施していた。



3 (金融業における隠ぺい・仮装行為)

 原告は、特定の中間金融業者や末端の需要者を相手に金融業を営んでいたが、貸付先である平沼栄司、北出春雄、土屋木材株式会社等に対し、借入先である原告の名前を表面に出さないようにと要請し、他人名義の銀行口座を利用して原告からの借入金の処理をさせる等の方法により、右貸付先の帳簿に虚偽の記帳をさせあるいは正規の記帳をさせなかつた。そして原告は、貸付の痕跡を止めないために、すべて現金で貸付をし、例外として小切手で貸付ける場合にも事務員等をして一旦これを現金化させてから貸付をし、また、貸付金の返済もすべて現金によることを相手方に要請していた。



4 (「光トルコ」の収入金額の除外)

 原告は、「光トルコ」を訴外竹腰相三らと共同経営し、その利益分配金を事業所得としていたのにもかかわらず、これを弘前銀行札幌支店の「木下栄作」なる架空名義の口座に預入れる方法で隠ぺいした。



5 (銀行口座の分散、架空名義の使用)

 原告は、約一九もの多数の銀行との間に自己名義の取引口座を設けたほか、妻「清子」、弟「盛」名義の口座を設け、更に「木下正一」、「木下良夫」、「金本正一」、「金本一郎」ないし「十郎」等の架空名義の口座を設定し、これらの口座に預金をする方法で自己の所得を隠ぺいした。



6 (虚偽答弁、調査不協力)

(一) 原告は、被告調査者による調査に際して、当初、所得計算の基礎となる関係書類を全く提出せず、また、調査者の質問に対して業績不振であると主張するのみで取引内容についてなんらの具体的答弁もしなかつた。

(二) その後、飲食業については給料明細表、収支計算書、売上高推計表、営業損益計画表等を、また、金融業については未回収債権に関する貸金台帳類をそれぞれ提出したものの他にも関係書類の存在が推認されたのに、これを提出しなかつた。

(三) 金融について、原告は、当初、昭和四〇年度分の貸付金はないと申し立て、その後昭和四一年一〇月一一日に至つて、昭和四〇年度には若干の未回収貸付債権を残すほかには訴外百原及び同島に対して貸付けたことがあるだけであると答弁を変更したが、被告の調査の結果、原告の明らかにした債務者以外の者に対しても右年度に金員を貸付け利息を取得していたことが判明した。