隠ぺい又は仮装(47)




裁判所の判断を検討します。









加算税賦課決定の当否




一 原告の本件各係争年分における総所得金額は前記認定のとおりであり、原告はこれを過少に申告したものであるところ、被告が別表四ないし六において主張する重加算税計算の対象となるべき所得金額のうち後記以外の土地の売買等による所得は、それぞれ右各表において挙示した各証拠並びに弁論の全趣旨によれば、原告において故意にこれを隠ぺい又は仮装したところに基づいて各年分の確定申告を提出したものと推認することができる。




 原告は、前記売上先20竹村竹一との取引による売上金額のうち、昭和三八年分の収入に帰属すべきものは、同年中に支払を受けた金額のみであつて、翌年に支払を受けるべきその余の約定残代金については翌昭和三九年分の収入に属すると主張する。(なお、この帰属収入年分に関する主張は、後記の昭和三九年分の売上先19仁木功、昭和四〇年分の売上先10岩渕文男、12浜勝子、17神岡定雄についても同様である。)


 ところで、当該年分において所得金額の計算上収入金額とすべき金額は、原則としてその年において収入すべき金額であることは所得税法(昭和四〇年法律三三号による改正前のもの)一〇条により明定されているところであつて,右収入すべき金額とは収入すべき権利の確定した金額をいうと解すべきところ、


 本件において、その権利確定の時期を検討するに、証人坂田義一の証言及び弁論の全趣旨によると、原告が土地の売買をなすにあたつては、


 土地の仕入につきその購入代金の一、二割の手附金を先ず地主に支払い、買主たる地位を確保し、その後半年ないし一年間位の期間内に転売先(すなわち顧客)を探し求め、買主が見つかると、これとの間に売買契約を締結し(その際、手附金の授受を伴う)、



 その後、数か月経て最終的に残代金の支払を受けるとともに、旧地主から自己の顧客である買主に中間省略による所有権移転登記手続を履行するというのが原告方における大半の営業方法であること、



 そして前記売上先竹村竹一外四名との取引も右の例にあたるものであることが認められ、右認定に反する証拠はない。


 右認定のような原告方での土地の仕入から販売に至るまでの通例の業態からすれば、原告と顧客との間に締結された土地売買契約において特段の事情のない限り、本件において原告の顧客に対する代金につき収入すべき権利が確定した時期は、顧客の最終残代金の支払と同時に所有権移転登記手続の履行が完了したときと解するのが相当である。 







1 別表四ないし六において被告主張の昭和三八年分売上先竹村竹一(売上額九〇〇、〇〇〇円)、昭和三九年分売上先仁木功(売上額八八二、〇〇〇円)、昭和四〇年分売上先岩渕文男(売上額一、〇一五、二九〇円)、同浜勝子(同二、〇〇〇、〇〇〇円)については、すでに説示したように、右各売上額はいずれも翌年分の売上に帰属すべきものであるから、これらを当該年分の売上に属するものとして原告においてその所得につき申告すべきであるとした被告の主張は失当というべきである。


 従つて右各売上先について被告の主張にかかる金額と原告の当初申告額との差額に関してはこれを各重加算税計算の対象となるべき所得金額から控除されなければならない。


2 昭和四〇年分売上先神座康夫については、証人坂田義一の証言により真正に成立したものと認められる甲第三五号証の三(売上明細帳)には同売上先に対する売上の記帳のないことが認められるけれども前掲乙第二八号証及び、証人小沢才介の証言によると、原告は右取引について売上額を九〇〇、五四〇円と主張していることも認められるのであつて、取引額の一部について故意による隠ぺいがあつたということはできても、取引額全部について故意による隠ぺいがあつたと認めるのは速断のそしりを免れないといわざるをえない。してみれば、右売上先に対する売上金額と原告の主張額との差額は一二五、〇七五円であり、右差額以上の金額は被告主張の昭和四〇年分重加算税計算の対象となるべき所得金額から控除されなければならない。



二 原告は、本件各係争年分の取引はすべて夫坂田義一に一任してあつたこと、さらに右義一は竹井京に経理や納税申告も全部委せてあつたことを理由に、土地の売上金額等を過少に計上し、又は全く計上しなかつたことについて故意はなかつたと主張するのであるが、証人坂田義一の証言によれば、原告は夫義一とともに本件各取引に関与し、納税事務にも従事していたことが認められるだけでなく、前掲乙第一五号証の一によると昭和四〇年分売上先山田実に対し売買取引の単価は原告の主張額どおりにしてほしいと頼んだり、或いはまた前掲乙第四六号証によれば、同年分売上先岩渕文男に対して原告主張の売買金額どおりに取引がなされた旨証明してほしいと依頼していること(甲第二一号証の二参照)が認められるのであつて、このような点からすれば、原告の主張は到底支持しがたいといわねばならない。



三 以上によれば、各係争年分についての過少申告加算税賦課決定はもとより、重加算税賦課決定についても何らの瑕疵もないといわなければならない(もつとも、すでに述べたところにより、被告主張にかかる各係争年分における重加算税計算の対象となるべき所得金額から被告において誤つて加算した前記各金額を控除すべきことはいうまでもないが、これらを控除したとしても、なお、本件各重加算税賦課決定がその加算税計算の対象となるべきものとした所得金額を遥かに上廻ることは計数上明らかであるから、同各決定が適法であることには変りはない。)。



結論



 以上の次第で、本件各更正及び本件各賦課決定はいずれも適法であるから、これらの取消を求める本訴請求はいずれも理由がなく棄却されるべきである。