隠ぺい又は仮装(46)


 



先日に引続き原告、被告の主張を検討します。









被告の主張に対する原告の認否及び反論



(昭和三八年分)

一 所得の内訳中、不動産所得及び給与所得の各金額は認め、事業所得金額は争う。

事業所得の金額は、三、八七〇、七二九円である。

二 事業所得金額中、売上原価及び必要経費のうち旅費通信費を除く部分を認め、その余は争う。

売上高は、三〇、九四六、八〇〇円、受取仲介手数料は一、二八〇、五〇六円、旅費通信費は六〇六、〇六七円である。

三 (事業所得金額の内訳)

1 被告主張の売上高明細のうち左記一覧表記載の売上先に対する売上高は争うが、その余は認める。

 なお、原告は、24藤木弘に対する売上高について、はじめ被告の主張を認めたが、それは真実に反する陳述で錯誤に基づいてしたものであるから、その自白を撤回する。

(原告の争う売上先及び売上金額一覧表。ただし土地の所在地・坪数は被告主張のとおり。

単位円 )

(図十七)

(一) 売上先符号4山下靖生、5塩沢春茂、6深谷一雄、7鈴木勇、9荒木節夫、20竹村竹一、22小池昭一に対する各売上金額が被告主張の金額と相違するのは、右各買主において東京都等から融資を受けられる金額は売買価額の七〇パーセントに留まるということであるので、契約価額の水増しをしたことによるものであつて、実際の売買価額はその七〇パーセントに相当するものである。

(二) 売上先符号20竹村竹一との売買契約は昭和三八年一一月六日に売買価額五〇二、四四〇円で締結され、同日原告は手付金として一〇〇、〇〇〇円受領したが、残代金四〇二、四四〇円は昭和三九年三月末日土地所有権移転登記と同時に支払をうける約定であつた。

 ところで、国税庁通達一九八によれば、事業所得については、「権利の確定する時期は原則として収入すべき金額の基礎となつた契約の効力発生の時」とされているところ、竹村との売買契約においては、昭和三八年中は所有権移転登記は未履行であり、代金債権は不確定であるから土地売買による利益を得たということにはならず、従つて、残代金四〇二、四四〇円は昭和三九年分の収入に帰属するものというべきである。

2 被告主張の受取仲介手数料のうち、峯岸寅松外五件九八七、八〇〇円は認め、その余は争う。

福和商事から手数料を受領したことはないし、東京コンクリートから受領した手数料は二九二、七〇六円である。

3 被告主張の売上原価は認める。

4 被告主張の必要経費の金額六、六一四、三二七円のほかに、旅費通信費三四八、五〇〇円がある。

右費用は,原告が事業遂行の必要上東南アジアに旅行した際の所要経費であり、個人的な観光渡航費用ではない。 




(昭和三九年分)

一 所得の内訳中、不動産所得及び給与所得の各金額は認め事業所得金額は争う。

事業所得の金額は、五、八一〇、一二九円である。

二 事業所得金額中、必要経費のうち接待交際費を除く部分のみを認め、その余は争う。

売上高は二一、二八〇、五四〇円、受取仲介手数料は七、二五七、二八五円、売上原価は一三、六四〇、三四五円、接待交際費は三、〇二八、一三八円である。

三 (事業所得金額の内訳)

1 被告主張の売上高明細のうち左記一覧表記載の売上先に対する売上高は争うが、その余は認める。

なお、原告は、1新藤千恵に対する売上高、坪数について、はじめ被告の主張を認めたが、それは真実に反する陳述で錯誤に基づいてしたものであるから、その自白を撤回する。

(原告の争う売上先及び売上金額一覧表。ただし、土地の所在地・坪数《1新藤千恵を除く》は被告主張のとおり。単位円)

(図十八)

(一) 売上先1新藤千恵に対する売却坪数は五六坪である。

(二) 売上先2真島栄との売買契約は昭和三八年九月一〇日代金六五〇、〇〇〇円で締結されたが、右代金は同年一二月二五日所有権移転登記と同時に支払う約定であつた。従つて、右売上は昭和三八年分に帰属すべきものである。

(三) 売上先12本田博、13小堀澄子に対する各売上金額が被告主張額と相違するのは、両買主とも日本電建株式会社から融資を受けるため代金額の水増しをしたからである。

(四) 売上先19仁木功との売買契約は、昭和三九年一二月四日代金六三四、八六〇円で締結され、内金一〇〇、〇〇〇円は手附金として同日受領したが、残代金五三四、八六〇円は昭和四〇年一月七日所有権移転登記と同時に支払う約定であつた。従つて、右残代金による売上は昭和四〇年分の収入に帰属すべきものである。

2 被告主張の受取仲介手数料のうち、名島タカ外二四件一、二五七、二八五円は認め、その余は争う。

 丸善建設株式会社から受領した手数料は六、〇〇〇、〇〇〇円である。

3 被告主張の売上原価のうち、

1期首棚卸高は認める。

2 仕入高中、中武土地(株)からの仕入高二、五〇〇、〇〇〇円は認める。松村モヨ子からの仕入高は一一、七八〇、〇〇〇円である。

3 期末棚卸高は一八、八四二、五八五円である。

4 被告主張の必要経費のうち、接待交際費を除く必要経費の金額は認める。

接待交際費は被告主張の金額のほかに、二、二七〇、〇〇〇円の支出がある。




(昭和四〇年分)

一 所得の内訳中、不動産所得の金額は認め、事業所得金額は争う。同所得金額は二、六三一、一七四円である。

二 事業所得金額の内訳はいずれも争う。

三 (事業所得金額の内訳)

1 被告主張の売上高明細のうち左記一覧表記載の売上先に対する売上高は争うが、その余は認める。

(原告の争う売上先及び売上金額一覧表。ただし、土地の所在地・坪数は被告主張のとおり。単位円)

(図十九)

(一) 売上先10岩渕文男との売買契約は、昭和四〇年八月三〇日代金八七五、二五〇円で締結されたが、内金三〇〇、〇〇〇円は同日手附金として支払われ、残代金五七五、二五〇円は昭和四一年七月末日所有権移転登記と同時に支払うとの約定であつた。従つて、昭和四〇年分の売上高は三〇〇、〇〇〇円であり、五七五、二五〇円は昭和四一年分の収入に帰属すべきものである。

(二) 売上先12浜勝子との売買契約は、昭和四〇年九月九日代金二、〇〇〇、〇〇〇円で締結されたが、内金五〇〇、〇〇〇円は同日、五〇〇、〇〇〇円は同年一一月二八日、内金五〇〇、〇〇〇円は昭和四一年一月三〇日、五〇〇、〇〇〇円は同年四月二八日所有権移転登記と同時にそれぞれ分割して支払う約定であつた。従つて、昭和四〇年分の売上高は一、〇〇〇、〇〇〇円であり、残余の一、〇〇〇、〇〇〇円は昭和四一年分の収入に帰属すべきものである。

(三) 売上先10岩渕文男、13三野栄治に対する売上金額が被告主張額と相違するのは、同人らが東京都より融資をうける必要上契約金額の水増しをしたためである。なお、被告が13三野栄治に対する売上金額の主張を訂正することについては異議がある。

(四) 売上先17神岡定雄との売買契約は昭和三九年一〇月二二日代金八六八、五〇〇円で締結され、内金一〇〇、〇〇〇円は同日手附金として支払われ、残代金七六八、五〇〇円は昭和四〇年二月末日所有権移転登記と同時に支払う約定であり、かつ、右のとおり履行されたものである。従つて、昭和四〇年分の売上金額は七六八、五〇〇円であり、一〇〇、〇〇〇円は昭和三九年分の収入に帰属すべきものである。

2 被告主張の受取仲介手数料のうち、青木勇外一八件三八九、七五〇円は認め、その余は争う。

3 被告主張の売上原価のうち、

(一) 仕入高中、仕入先栗原松吉の分以外は認める。仕入先栗原松吉からの仕入高は五、

一一九、六〇〇円である。被告主張額との差額四一九、六〇〇円は造成費用である。

(二) 期末棚卸高中、所沢市山口外一〇件の土地三一、九四三、五九五円は認めるが、その余は争う。




(加算税賦課決定について)




一 原告は、夫の坂田義一とともに丸三商事株式会社の代表取締役ではあつたが、不動産取引の一切を義一に委せていたし、


右義一は経理事務、納税申告等については同人が依頼した訴外竹井京にすべてをとり行わせていた。従つて、原告ら夫婦が本件各所得金額の基礎たる事実を故意に隠ぺい又は仮装したことはない。



二 本件不動産取引において売上金額につき双方の主張に差額が生ずるのは、右取引に第三者が介在し、これに対し指値売買またはリベートの支払などがなされたことによるものである。

 また、買主が売買代金の水増しをすることにより、実際の買入資金相当額を他から借入れることは、不動産取引においては世上屡々行われているところであつて、被告においてこの事実の有無を調査することもなく、否定し去るのは不当である。











原告の反論に対する被告の再反論




一 原告は、本件口頭弁論期日において一度は昭和三八年分の売上先24藤木弘及び昭和三九年分の売上先1新藤千恵に対する各売上高を認めながら、その後右自白を撤回しているが、これについては異議がある。

二 売上金額の帰属課税年分について

 原告は、左記各売上先についての売上金額はいずれも全部又は一部において被告主張の帰属課税年分と異なると主張するのである。

(図二十)

 原告の主張するところは、要するに、収入金額に計上すべき時期は代金の弁済期として約定された日であり、分割弁済のときは弁済期ごとに収入金額として計上すべきであるというのである。しかし、このような現金主義的な考え方が原告の引用する通達の趣旨に反することは明らかである。

三 売買契約書記載の金額が水増しをされた金額であるとの主張について

 原告は、売上先との間に交した売買契約書記載の金額と実際の契約金額と相違するものがあるのは、買主が東京都その他から融資をうける際に提出した売買契約書に水増しをした契約金額を記載したからであると主張するが、以下のとおり失当である。

1 昭和三八年分売上先9荒木節夫に対し、一、一〇二、四〇〇円で売却したことは、丸三商事株式会社又は坂田義一名義の領収証(乙第三号証の三乃至五)に照らし明らかであるところ、右訴外人が東京都庁へ提出した売買契約書(乙第三九号証)の代金額は、右金額と同額であり、従つて、右売買契約書は真実の取引金額を記載したものであると認められる。

 昭和三八年分売上先7鈴木勇、20竹村竹一及び昭和四〇年分売上先13三野栄治に対する売上金額は、すでに主張したとおり、八三九、三〇〇円、九〇〇、〇〇〇円、二、〇〇一、〇〇〇円であるが、右主張金額は乙第二号証、乙第六号証、乙第一七号証に照らし正当である。従つて、同人らとの売買契約書(乙第三五号証、乙第四〇号証及び乙第四五号証)は、真実の契約金額を記載したものであり、水増し金額を記載したものとは認められない。

 右のような状況からすれば、昭和三八年分売上先4山下靖生、5塩沢春茂、22小池昭一がそれぞれ東京都へ提出した売買契約書も真実の売買金額を記載したものと認められる。

2 昭和三九年分売上先12本田博、13小堀澄子らについては、日本電建から融資をうける必要上売買契約金額の水増しをして契約書に記載したと原告は主張するけれども、日本電建の場合においても買主らが融資をうけるため金額を水増ししなければならない必要性は全く存しないのであつて、原告の右主張は失当である。




重加算税賦課決定について



 原告は、本件取引(契約締結、代金受領の一切)のすべては坂田義一が取り仕切つていたものであり、経理及び納税申告も義一が依頼した竹井京に全部を任せていたから、被告の行つた重加算税の賦課決定処分は違法である旨主張する。


 しかしながら次に述べるとおり原告の右主張は失当である。


 原告は、事業の取引及び経理等を坂田義一及び竹井京に一任していた旨主張するが、原告及び原告の夫である坂田義一も認めているとおり、不動産業は原告ら夫婦の共同で営まれ、その主体が原告であつたことは、原告名義で申告していること、実質的な対外的交渉及び取引における判断等は原告がなしていたことなどからも明らかで、不動産業の主導権は原告がにぎつており、仮装隠ぺいの事実を原告が知らなかつたなどということはあり得べきことではない。



 なお、仮に原告が、原告主張のように隠ぺい又は仮装の事実を知らなかつたとしても、重加算税制度の趣旨に鑑みれば、従事員等による隠ぺい又は仮装行為について本人がそれを知らなかつたことを理由に重加算税の賦課を免れえないことは判例の示すところである。