前回までフォローした裁判例ですが、第1審主文では、被告人を懲役一年および罰金三、五〇〇万円に処する。右罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。ただし、この裁判の確定した日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。
とされました。弁護人は控訴棄却後、上告しましたが、
弁護人富永赳夫の上告趣意第一は、憲法八四条違反をいう点を含め、その実質は株式配当金の実質的な帰属者が被告人であるとした原判断を論難する事実誤認、単なる法令違反の主張に帰し、同第二のうち、判例違反をいう点は、原判決が所得の計上時期としての権利確定の時期の認定につき権利行使の可能性の存否の検討を怠つたことを前提とするが、原判決が権利行使の可能性の存否につき検討していることは原判文上明らかであるから、所論は前提を欠き、その余は事実誤認の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。
よつて、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、棄却されました。
もう一つ裁判例を検討します。
東京地方裁判所(第一審)、昭和53年 8月24日 判決、事業所得等不存在確認等請求事件、税務訴訟資料102号165頁です。
(請求原因)
一 原告は、久留米市において有限会社パリー美容院の代表取締役として右会社を経営するかたわら、不動産仲介、アパート経営等を営む者であるが、昭和三八年ないし昭和四〇年分の所得税について別表一記載のとおり各確定申告をしたところ、それに対して同表記載の経緯でそれぞれ更正(いずれも裁決による一部取消後のもの。以下「本件各更正」という。)並びに過少申告加算税及び重加算税の賦課決定(以下「本件各賦課決定」という。)を受け、これに対する行政不服申立手続を経由した。
二 しかしながら、本件各係争年分における所得が原告に帰属することは認めるが、右各年分の所得を原告名義で申告したのは被告所部の担当官長松某及び小原某から強要されたためであり、しかも本件各更正は、原告の所得を過大に認定したものであるから違法であり、かつ、これを前提としてなされた本件各賦課決定も違法である。
よつて、原告は本件各更正及び各賦課決定の取消しを求める。
被告の主張
各係争年分の所得金額及びその算出根拠並びに加算税賦課決定の根拠は以下のとおりである。
(昭和三八年分)
一 所得の内訳は次のとおりである。
(図一)
二 事業所得金額の内訳は次のとおりである。
(図二)
三 事業所得金額の明細は以下のとおりである。
1 売上高
(図三)
2 受取仲介手数料
(図四)
(一) 福和商事分
右福和商事は福和商事株式会社の前身というべきもので、西村信夫の父西村八郎及び遠藤正経が営んでいた不動産業の屋号である。右福和商事は昭和三八年一月ころ東久留米市神宝町一丁目(旧地名神山字向台)一番地から七番地の農地約三千坪をその所有者であつた土屋方雄外六名から買受けた。その際地主等から信頼があつた原告が右取引の仲介をしたものであり、その仲介に対して福和商事が原告に対して仲介手数料として二、〇〇〇、〇〇〇円を支払つたものである。
(二) 東京コンクリート分
原告は、東京コンクリート株式会社の工場用地買収にあたりその取引を仲介し、東京コンクリート株式会社より仲介手数料として五七二、七〇六円を全額徴収している。
3 売上原価
(図五)
4 必要経費(旅費通信費)
原告は、夫坂田義一が東南アジアに旅行した費用は事業の遂行上のものであるから必要経費となると主張するが、もつぱら小規模な土地分譲や土地売買の仲介を業とする原告の場合にあつては、国内旅行ならともかく、経済的後進国で土地の事情も相違する東南アジアに旅行することは常識的に考えても事業に関連するところがなく、右の旅行は単に個人的見聞を広めるためのものにすぎないと思われる。
また、旅費通信費が事業所得の金額の計算上必要経費と認められるためには、その支出時期、支出先、目的、金額等が明らかにされ、事業との関連性が客観的に証明されなければならないが、原告はただ必要経費となると主張するのみで具体的な説明を原処分の調査時以降明らかにしておらず、とうてい必要経費として認められるものではない。
(昭和三九年分)
一 所得の内訳は次のとおりである。
(図六)
二 事業所得金額の内訳は次のとおりである。
(図七)
三 事業所得金額の明細は以下のとおりである。
1 売上高
(図八)
(一) 新藤千恵分
原告は本訴においていつたん被告主張額を認めながら、土地の測量誤りがあつたとして譲渡金額六一六、〇〇〇円と訂正して主張する。しかし登記簿によると新藤千恵が取得後一年以上経て分筆した上、隣家の薄井武司等に昭和四〇年の七月頃原告等の仲介によつて、転売していることが明らかであり、原告主張の坪数は分筆後のそれであつて測量を誤つた事実はない。
(二) 臼井昭志分
臼井昭志に対しては少なくとも坪当り単価二五、〇〇〇円、総額九六四、二五〇円で譲渡されたものである。
右認定額の妥当なことは、同時期に原告が分譲した隣接地の坪当り単価が本田博分二六、〇〇〇円、小堀澄子分二五、〇〇〇円、鈴木常弘分二五、〇〇〇円、黒田道雄分二五、〇〇〇円、仁木功分二五、〇〇〇円であつたことからも明らかである。
2 受取仲介手数料
(図九)
丸善建設(株)分
原告は、久留米市門前落合の農地三、〇〇〇坪の取引を仲介し丸善建設(株)より昭和三九年中に前後二回にわたつて六、七五四、〇〇〇円を受領している。
3 売上原価
(図十)
(一) 東村山町南秋津中沢地域の昭和三九年期末棚卸高の計算根拠は次のとおりである。
すなわち、同地域の同三九年一月一日現在の期首棚卸面積は一九〇・六二坪(別表二イ欄11番参照)で、同年中の仕入は七六〇坪(別表二ロ欄12番「松村モヨ子」分)であり、同年中における同地域の土地の売上坪数は一四件合計六四四・〇九坪である(別表二ハ欄11、12番)。従つて、右期首棚卸面積一九〇・六二坪と右仕入面積七六〇坪の合計九五〇・六二坪から右売上面積六四四・〇九坪を差し引いた三〇六・五三坪が同三九年一二月三一日現在の期末棚卸面積(すなわち、同四〇年一月一日現在の期首棚卸面積)となる。
(二) 被告は、右南秋津中沢地域の右昭和三九年一二月三一日現在の期末棚卸面積三〇六・五三坪の土地の評価をするに当たり、
1 右土地は、いずれも同一造成地域内にあつて、原処分の調査の際取引についての記帳が十分でなく、かつ、原告から売買契約書等の提示がなかつたことから明確に区分できなかつたこと、
2 原告は資金繰りの関係上仕入れた土地は早期に売却していたこと、及び
3 原告の昭和四〇年分の青色申告書提出承認申請書(なお、昭和四二年三月三日付けで原告の青色申告承認は取消されている。)によると棚卸資産の評価方法として最終仕入原価法を採用していたことなど総合的にみて、右三〇六・五三坪の単価として同地域で同年中に仕入れた松村モヨ子分の仕入単価一二、〇〇〇円を採用し、同年期末棚卸高を三〇六・五三坪に右単価一二、〇〇〇円を乗じて三、六七八、三六〇円と算定したものである。
4 必要経費(接待交際費)
接待交際費が事業所得の金額の計算上必要経費と認められるためには、その支出時期、支出先、目的、金額等が明らかにされ、事業との関連性が客観的に証明されなければならないが、原告はただ必要経費となると主張するのみで具体的な説明を原処分の調査時以降明らかにしておらず、とうてい必要経費として認められるものではない。
(昭和四〇年分)
一 所得の内訳は次のとおりである。
(図十一)
二 事業所得金額の内訳は次のとおりである。
(図十二)
三 事業所得金額の明細は以下のとおりである。
1 売上高
(図十三)
(一) 13三野栄治分
原告の同人に対する売却土地は正式測量の結果六九坪であることが判明したので、これに坪単価を乗じ、二、〇〇一、〇〇〇円となつたものである。なお、被告は、本訴において、いつたん、第一回契約における地積を概算で約六五坪と見積り、これに坪単価二九、〇〇〇円を乗じて得た額一、八八五、〇〇〇円を契約金額として主張したことがあるが、前記のとおり訂正する。
(二) 15佐藤義雄分
本件土地については坪当り単価二五、〇〇〇円により売上高を計算したものである。
右坪当り単価が正当なことは、原告が同一時期に売却した本件土地の隣接地の真実の売買坪単価が神岡定雄二七、〇〇〇円、富所常好二七、〇〇〇円の売買実例からみてもいい得るところであり、本件土地が少なくとも坪単価二五、〇〇〇円、総額一、二五六、〇〇〇円で取引されたことは疑いない。
2 受取仲介手数料
(図十四)
株式会社小沢商事分
原告は埼玉県川越市の土地譲渡の取引において株式会社小沢商事から手数料として五〇〇、〇〇〇円受領している。
3 売上原価
(図十五)
(一) 東村山町南秋津中沢地域の昭和四〇年期末棚卸高の計算根拠は次のとおりである。
すなわち、同地域の同年一月一日現在の期首棚卸面積は三〇六・五三坪(別表三イ欄8・9番参照)で、同年中仕入は二三五坪(別表三ロ欄16番「栗原松吉」分)であり、同年中における同地域の土地の売上坪数は八件合計四三一・九一坪である(別表三ハ欄8・9・16番)。従つて、右期首棚卸面積三〇六・五三坪と右仕入面積二三五坪の合計五四一・五三坪から右売上面積四三一・九一坪を差し引いた一〇九・六二坪(被告主張額は一〇九・六五坪であるが、右差額〇・〇三坪は分譲実測による誤差と思われる。)が同四〇年一二月三一日現在の期末棚卸面積となる。
(二) しかして、東村山町南秋津中沢地域の土地について、昭和四〇年中に栗原松吉から仕入れた二三五坪は、同年中に全部売却されていることが確認されたため、同地域の同四〇年一二月三一日現在の期末棚卸面積一〇九・六五坪は同年期首棚卸面積三〇六・五三坪の一部が残つたものであることは明らかであることから、被告は前記昭和三九年分三の3の(二)で述べたところと同様の理由により単価一二、〇〇〇円で評価して、同年期末棚卸高を一、三一五、八〇〇円と算定したものである。
(加算税賦課決定の適法性)
原告は、本件訴訟の係争年分の昭和三八年分、同三九年分の所得税について給与所得があるにかかわらず給与所得金額を申告せず、
また、事業所得についてもすでに主張したとおり申告すべき所得金額を過少に申告するとともに別表四ないし六のとおりその所得金額の計算に当り、その基礎となる事実をいんぺい又は仮装して不当に所得税を免れていた。
よつて、国税通則法六五条一項及び六八条一項の規定に基づき次表の計算によつて過少申告加算税及び重加算税を賦課決定したものであり、何らの違法はない。
(図十六)