隠ぺい又は仮装(42)



 本日は、東京高等裁判所(控訴審)、昭和54年12月21日判決、税務訴訟資料124号483頁、を検討します。本件は東京地方裁判所(第一審)、昭和52年 7月25日 判決、所得税法違反被告事件の控訴審です。






 裁判所の判示です。





 原判決は、原判決添付の別紙(一)ないし(三)各修正損益計算書中の雑所得のうち


「販売超過利益配分金」


「技術員派遣提供報奨」


および同別紙(二)修正損益計算書中の配当所得のうち


「配当収入」


 の各勘定科目において、当該年度に所得として発生したものではないものや、そもそも被告人の所得ではないものなどを計上しており、その結果、原判示第一ないし第三の各罪中の実際総所得金額、正規の所得税額、逋脱税額の認定を誤つており、右誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかである、というのであり、以下において順次検討することにする。




(一)販売超過利益配分金について




 所論は、要するに、販売超過利益配分金(以下単に利益配分金という。)を被告人の所得として計上すべき時期は、インドネシア国アンボン市所在のP・T・マルクパール・デイベロツプメント(以下単にM・P・Dという。)とわが国のアラフラ真珠株式会社(以下単にアラフラ真珠という。)との取引の形態、利益配分金の分配の方法、送金の状況などからすると、M・P・Dがアラフラ真珠から送金を受けて現実に利益配分金を取得した後、被告人がM・P・Dから被告人自身の銀行口座(主として東京銀行赤坂支店)へ送金を受けた時点であると解すべきであるのに、原判決が、いまだアラフラ真珠からM・P・Dへの送金もなされておらず、したがつて本来為替差損益なるものも生ずるはずがない共同評価額の決定の時点などにおいて、すでに被告人の利益配分金が所得として発生したとして各年の利益配分金を算出計上したことは事実誤認である、というのである。



 よつて検討するに、関係証拠によれば、インドネシア国アンボン市所在のM・P・Dが生産した養殖真珠はすべてわが国に輸入され、アラフラ真珠の手により販売されていたこと、右養殖真珠がアラフラ真珠によつて販売される際の価格は、輸入の際の通関にあたりわが国の海外真珠輸出水産業組合によつて定められる価格すなわち共同評価額をはるかに上回るものであるところ、M・P・Dの帳簿上は共同評価額をもとに整理され、実際の売上額と共同評価額との差額を販売超過利益と称して、これをM・P・D側とアラフラ真珠とで分け、M・P・Dが取得する分についてはインドネシアの慣習などに従い同社の創業者である被告人と現地のヘルマン・ピーター(M・P・Dの代表者)が個人的に取得するという方法をとつており、この被告人の取得分が本件にいう利益配分金であり、その算出方法は、結局、昭和四八年一月一日から同年八月一九日までは実際売上金額から中間売上金額を控除した金額の二分の一とされ、昭和四八年八月二〇日以降改訂されてからは、共同評価額の一〇〇分の一〇となったこと、しかしながら、昭和四八年八月二〇日から同年一二月末日までに輸入した分(インボイスNo.R6~R8)については、実際には共同評価額の一二〇パーセントを超える金額をピーターに通知し、これと共同評価額との差額の二分の一をピーターの取得分としたため、ピーターの取得分は前記の算出方法によるより多額となり、したがつて、その結果被告人の取得分は、共同評価額の一〇〇分の二〇からピーターの取得額を控除した金額となり、前記計算方法によるより少額となつたこと、がそれぞれ認められる。



 ところで、原判決は、利益配分金の被告人の所得としての計上年度をつぎのように認定していることが明らかである。すなわち、昭和四八年中にM・P・Dから輸入した分(インボイスR1~R8)の利益配分金については、ピーターへの中間売上金額およびピーターの取得分の通知のための書面である「STATEMENT OF SHARING PROFIT」と題する書面(被告人の大蔵事務官に対する昭和五一年一一月一二日付質問てん末書添付のもの)の作成日付である一九七三年(昭和四八年)一二月一五日に収入すべき金額が確定したものとして同年中の所得として計上し、昭和四九年中にM・P・Dから輸入した分(インボイスNo.R1~R5)の利益配分金については、各インボイスごとの評価結果報告書(共同評価額を定めたもの)の日付の日に収入すべき金額が確定したものとし、その日付がいずれも同年中であるためすべて同年中の所得として計上し、また、


 これに、前年八月二〇日に改訂された算出方法を、改訂前に輸入した昭和四八年インボイスNo.R5の分にも適用することが昭和四九年三月に正式に決定されたことに伴い同月三〇日に被告人の預金口座に入金された精算金を加えていること、昭和五〇年中にM・P・Dから輸入した分(インボイスNo.R1~R6)の利益配分金については、昭和四九年と同様、各インボイスごとの評価結果報告書の日付の日に収入すべき金額が確定したものとし、右日付がいずれも同年中であるところから、同年中の所得として計上しているのである。



 そこで原判決の右のような認定の当否について検討するに、



1前記認定のような利益配分金の算出方法において必要な数額である実際売上金額(昭和四八年インボイスNo.R1~R5の関係で)、中間売上金額(前同)、ピーター取得額(同年インボイスNo.R6~R8の関係で)、共同評価額は、原判決が採用する計上時期においていずれも具体的に明らかになつており、所論のいうような、その時点で計算の基礎となる数額が不確定であるというわけではなく、したがつて、右時期において利益配分金を具体的な金額として特定することができること、



2輸入された養殖真珠はいずれも輸入後数ケ月の間に、共同評価額より相当高値で販売されており、被告人が確定額どおりの金額を現実に取得することが事後において困難となる事態はほとんど考えられないこと、



M・P・Dとアラフラ真珠との取引関係は委託販売類似のものであつて、アラフラ真珠がM・P・Dから輸入した真珠はわが国内に引取後もいぜんとしてM・P・Dの所有であり、したがつてその販売代金も当初からM・P・Dに帰属するのであり、所論のいうようなシンガポールのP・T・コラコラ松沢口座やM・P・Dの口座に送金してはじめてM・P・Dが取得するという性質のものではないこと、



4被告人はアラフラ真珠およびM・P・Dの創業者であり、M・P・Dにおける立場は形式的には副社長であるけれども、実質は被告人が一切の権限を掌握しており、利益配分金の送金や処分などは社長であるピーターの事務上の決裁を得るまでもなくもつぱら被告人および現地において被告人の意を体して活動していた松沢において処理が可能であつたこと、



5前記認定の昭和四九年に受けた昭和四八年インボイスNo.R5の精算金は被告人がアラフラ真珠の口座から直接支払を受けているものであるところ、このようにいつたん国外へ送金するという方法をとらなくても被告人が利益配分金として取得することも、手続上可能であつたこと、



6P・T・コラコラ松沢の口座ないしはM・P・Dの口座へ送金された後、わが国の被告人の口座へ送金するという処理をする前に、被告人の利益配分金として現地において使用することも可能であり、また、現実にも使用していること、などがそれぞれ関係証拠によつて認められるのであり、先にみた本件利益配分金の性質に加えてM・P・Dとアラフラ真珠の取引の形態、M・P・Dにおける被告人の地位をはじめとする右のような諸事情などを総合考慮すると、本件利益配分金は、所論のいうような国外に送金されてはじめてM・P・Dに帰属し、さらにそれがわが国の被告人の口座に入金されてはじめて被告人の所得として計上しうるというような性質のものではなく、原判決の採用する時点で被告人の所得として計上認定することが相当であると考えられるのである。



 なお、被告人は当審公判廷において、本件逋脱年度以降は税務当局においても被告人の口座へ入金された時点において所得として計上するという処理方法がとられている旨供述しているが、そのことから直ちに本件のような処理方法をとることが誤りであつたということにはならず、もし処理方法の変更により重複計上という事態が生じたとしても、後年度において修正処理すれば足りることであるから、右認定を左右するものではない。以上のとおりであつて、利益配分金の被告人の所得としての計上時期につき、原判決には所論のような事実誤認はなく、論旨は理由がない。