隠ぺい又は仮装(41)




 裁判所の判断を検討します。







 原告会社は、確定申告をした後に修正申告書を提出しているのであり、しかも右修正申告は原告会社に対する政府の調査により更正のあるべきことを予知してしたものではないから重加算税額を徴収すべきでないとする原告の主張について判断する。




 被告は右法第四三条の二第三項に引用される法第四三条第三項に規定する「法人に係る政府の調査に因り」というのは,更正又は決定の修飾語的な意味での用法にすぎず、修正申告書の提出前に政府の調査が開始されたかどうかは問題ではないと主張する。 



 しかし右法第四三条第三項(第四三条の二第三項で引用する場合を含む)の規定は、被告主張の通りとすれば特に「法人に係る政府の調査により」なる辞句を加える必要はないように考えられるし、また法人税法が基本的に申告納税主義を採つており、なお脱税の報告者に対する報償金の制度を採用しているところなどから考え、当該法人に対する政府の調査により更正又は決定のあるべきことを予知したものでなく、その調査の前に、即ち政府に手数をかけることなくして自ら修正又は申告をした者に対しては、過少申告加算税額、無申告加算税額、重加算税額の如きもこれを徴収せず、政府の調査前における自発的申告又は修正を歓迎し、これを慫慂せんとして右の如き規定となつたものと解するのが相当であるから、



 右被告の主張はこれを採用することはできない。



 しかし成立に争のない乙第一ないし第四号証、証人橋爪信一の証言により成立を認める乙第一〇号証の一、二並に同証人、証人山中茂弘、津田義光及び原告会社代表者本人の各供述を総合すれば、



 大阪国税局は、パチンコ球製造業者一般が多額の脱税をしているという情報を探聞し、昭和二七年八月初頃からこれらの業者につき調査を開始し、原告会社については同月四日から同月八日までの間にその所有機械及び製造能力を調査し、関西電力株式会社において原告会社の使用電力量を、また取引先たる梅鉢鋼業株式会社よりの仕入材料高を調査し、


 同月五日頃には原告会社の第二会社である大阪鋼球株式会社についても調査を実施したこと、


 また原告会社においては、その頃大阪国税局より右大阪鋼球株式会社の営業所の所在につき電話で尋ねられ、社員服部麟哉がその応待に当り、なお右大阪鋼球に対する調査についてもその当日直ちに通報を受けていること、


 大阪国税局が同業者天一鋼球株式会社に対し法人税法違反の嫌疑により同月一一日強制捜査を行い、このことが新聞ラジオ等により報道され原告会社においてこれを知り


 なおその翌日である同月一二日には原告会社代表者取締役津田義光は原告会社が安田源十郎及び安田肇の架空名義で大阪銀行布施支店に有していた普通預金残額全部を払出し、その預金通帳を焼却したことを認めることができるのであり、


 以上の認定した事実を綜合して考えると、同年九月二日原告会社が修正申告書を提出したのは同会社に対する政府(大阪国税局)の調査に因り更正があるべきことを予知してしたものであると認めるのが相当であり、証人山中茂弘、津田義光の各証言及び原告会社代表者本人の供述中には右認定に反する部分もあるがこれは信用することはできず、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。そうすれば右修正申告書の提出は法第四三条第三項の要件を充すものでないから、被告が法第四三条の二第三項を適用しないこと当然でありこの点に関する原告の主張は理由がない。




 つぎに、原告会社がその修正申告において、本件事業年度末たる昭和二六年一一月三〇日現在の貸借対照表中、


(a)売掛金の差額七五、三七〇円、

(b)前渡金八七三、三四〇円、

(c)未収利息三〇、〇五〇円、

(d)普通預金七〇〇、九九九円、

(e)当座預金の差額三二、七一三円を計上しなかつたことは当事者間に争がない、


 原告は右修正申告において右五項目につき隠ぺい又は仮装の意思はなかつたと主張する。しかし、たとえ修正申告において隠ぺい又は仮装の意思なく過少申告した場合であつても、もし確定申告においてこの部分を隠ぺい又は仮装していたとすれば、この部分に対する重加算税額の賦課はこれを免れないのであるから、修正申告に隠ぺい又は仮装がないという原告の主張はこれだけでは意味がないというべきである。


 しかし本件は確定申告分に対する重加算税額賦課処分の取消を主張するものであるから、修正申告において右五項目を隠ぺい又は仮装したものでないという右主張は、前記五項目については、確定申告においても同様隠ぺい又は仮装がないとの主張を含むものと解するが相当であろう。そこでつぎに確定申告において右五項目の金額を隠ぺい又は仮装したかどうかを判断する。



 前掲各証拠及び成立に争のない乙第五号証を総合すれば、原告会社は、従来資産の隠ぺいないし脱税を企図し、税務署関係専用の表帳簿を作成しこれに基いて中間申告及び確定申告をし別勘定の取引においては、証拠となるべき書類をその都度廃棄し、銀行その他に対する取引には仮装名義を用いて課税庁の調査を困難にさせていたことを認めることができるのであり、


(b)普通預金七〇〇、九九九円は、原告会社が昭和二六年一一月三〇日現在安田源十郎及び安田肇の仮装名義で大阪銀行布施支店に有していた普通預金二〇〇、〇九六円及び五〇〇、九〇三円の合計額である(このことは前記乙第四号証によつて認められる)が原告会社代表取締役津田義光は、さきに認定した通り同業者天一鋼球株式会社に対する強制捜査があつたことを知つた直後である昭和二七年八月一二日右預金残額全部を払出してその通帳を焼却した事実から考え、原告会社は右普通預金七〇〇、九九九円については、修正申告の当時においても、また確定申告の当時においても、これを隠ぺい又は仮装する意思を有していたものと認めるのが相当であるが、



 他の四項目についてはこれを確定申告において申告しなかつたことが原告会社の故意によるかどうかは問題であつて、以上の各証拠をすれば


(a)売掛金の差額七五、三七〇円は、原告会社と多額の取引をしていた名古屋大成商会に対する売掛金の一部であるが、これは同商会の支払が一週間毎になされていたため、本件事業年度末たる昭和二六年一一月三〇日前に発送した商品の代金が翌一二月初頃に支払われたことによる原告会社の経過的資産にすぎず、


(b)金八七三、三四〇円は、サクラ商会という仮装名義を用いてはいるが、昭和二六年一一月二〇日原告会社より大阪市の青木商店に材料仕入代金として前渡した一、〇〇〇、〇〇〇円につき、同年一一月三〇日現在一二六、六六〇円分のみ納品され残額八七三、三四〇円は前渡金として存在していたが、その後間もなく納品されて右前渡金は消滅したものであり、従つて右金額も前同様原告会社の経過的資産にすぎず


(c)未収利息三〇、〇五〇円は、津田義光に対する原告会社の仮払金について被告が第二次更正において認定した利息であり、


(e)当座預金についても、光川義夫という仮装名義を用いてはいるが、その差額三二、七一三円は、昭和二六年一一月三〇日現在においては、原告会社振出の小切手で銀行へ現実に取立に廻つていなかつた部分があり、この部分に該当するものであつて大阪国税局の前期調査の際銀行の帳簿を調べた結果判明した原告会社の経過的資産であり、いづれも原告会社において修正申告に際してはこれを見落したものであることを認めることができるのであつて、右四項目の金額合計一、〇一一、四七三円は、いづれも期末頃のものであり、中間申告には関係のないものであるがその性質上確定申告に際しても、これを見落したものと認めるのが相当であり、原告会社において、これを故意に隠ぺい又は仮装したものと認めることはできない。そうすれば確定申告分に対する重加算税額五四七、〇〇〇円のうち右の部分を隠ぺい又は仮装したものとして重加算税額を賦課することは違法であつて取消を免れない。



 なお原告は請求原因(二)の(ホ)において、国税庁長官の通達に違反することを理由に、本件重加算税額の賦課処分が違法であると主張するが、原告主張の通達は、被告が主張するように法的拘束力を有するものではないこと明かであるからこの点に関する原告の主張はこの意味において既に理由がなく、また被告は第二次更正において、前に認定した方法で重加算税額を算定しこれを賦課したのであり,右は法第四三条の二の規定の解釈を誤つて適用したものとはいえないから請求原因(二)の(ロ)に於ける原告の主張もまた理由がない。


 そうすれば、原告が本訴において取消を求める被告の重加算税額賦課処分は、確定申告に対する重加算税額五四七、〇〇〇円のうち、所得金額一、〇一一、四七三円に対する追徴税額についての部分は違法であるからこれを取消し、その限度において原告の請求を認容し、その余の請求はすべて理由がなく失当であるからこれを棄却する。