隠ぺい又は仮装(40)




 本日は課税庁側の主張を検討します。







 原告会社は、更正のあるべきことを予知して修正申告書を提出したものである。



 すなわち、更正があるべきことを予知してなされたというのは、納税義務者が申告をそのまま放置すれば、将来課税庁に隠ぺい又は仮装の事実を発見されて更正されるであろうということを予見して修正申告書を提出することをいうのであつて、



 純然たる納税義務者の主観に係る問題であり課税庁が修正申告書の提出前に調査に着手するとか、又修正申告の慫慂をすることなどを要件とするものではない。




 なぜならば、本来更正又は決定は、直接又は間接に法人に関する政府の調査によりなされるのであるから(法第二九条ないし第三一条)、法第四三条の二第三項に引用される法第四三条第三項に規定する「法人に係る政府の調査に因り」という用語は、更正又は決定の修飾語的な意味で用いたにすぎないのであつて、修正申告書の提出前に政府の調査が開始されたと否とによつてその適用の有無を区別する根拠はない。



 仮に修正申告書の提出前に政府の調査が開始している場合でなければ、重加算税額を徴収できないと解するとしても、右重加算税額を賦課した被告の処分は違法でない。




 すなわち、大阪国税局はパチンコ球製造業者一般が多額の脱税をしているという情報を探聞して、


 昭和二七年八月初頃からこれらの業者につき調査を開始し、原告会社については同月四日から同月八日までの間にその所有機械及び製造能力を調査し、関西電力株式会社において原告会社の使用電力量を、又主な取引先である梅鉢鋼業株式会社よりの仕入材料を調査したり等したのであり、


 また右同様の調査により法人税法違反の嫌疑濃厚となつた同業者天一鋼球株式会社に対しては同年八月一一日捜索差押を行い、この事実はその頃新聞ラジオ等により報道され、脱税を企図した同業者を動揺させたが、


 これを知つた原告会社代表取締役津田義光は、その直後原告会社が確定申告において隠ぺいした資産である大阪銀行布施支店に有する架空名義の普通預金を全額払出しその預金証書を焼却するなど資料の整理をした上、同年九月二日修正申告書を提出したのである。


 しかしこの頃既に原告会社に対する前記調査の結果、法人税法違反の嫌疑が濃厚となつたので、捜索差押に着手すべき段階に至つていたのであり、翌三日捜索差押許可状が発布され、ついで同月四日これに基づき原告会社に対し捜索差押をしたのである。


 以上の事実を総合して考えれば、原告会社は、同業者に対する調査と共に原告会社についても調査が開始され、このまま従前の申告を放置するときは当然更正があるべきことを予知したため、右修正確定申告書を提出したことを確認できるのである。



 つぎに、原告は、国税庁官の通達を引用して、本件修正申告書は更正があるべきことを予知して提出した場合に当らないと主張するが、本件において修正申告書が提出されたのは、前記により明かな通り原告会社についての政府の調査が現に開始された後であるから、この点において既に通達違反の問題はないのであるが右通達は、その冒頭に「法人税法第四三条の二の規定による重加算税を徴収する場合の取扱をつぎのように定めたからこれにより取り扱われたい」と明言していることにより明かな通り、法律の解釈を示したものでなく、重加算税額を徴収する場合の取扱を定めたものであるから、右通達を根拠として法第四三条の二第三項の規定の解釈を決めることはできない。




 すなわち、この通達の趣旨は、重加算税は文字通り重税であるから、課税権発生の障害となる事実の存否につき十分考察することが望ましいという考慮から、右通達に掲げるような事実がある場合には、更正のあるべきことを予知したものとして取扱つて大過ないであろうとするものであり、更正の予知というような主観的事実を直接証拠によつて認定することは極めて困難であるから、通達に例示するような客観的事実が存する場合は、その事実から更正のあるべきことを予知したという法人の意思が推認されるという指針を示して、課税庁の行政措置に過誤なきを期したものにほかならない。




 そして通達自体「更正があるべきことを予知してなされたものである場合とは次の各号の一に該当するような場合をいうものとする」として通達に掲げる事実は、あくまで例示に過ぎないことを明言しているのであり、右のような事実が存在しても法人が現に更正のあるべきことを予知しないで修正申告書を提出した場合であれば、重加算税額を徴収することは違法であるし、又そのような事実が存在しないとしても法人が現に更正のあるべきことを予知して修正申告書を提出して場合は、その限りにおいては違法でない。







 そして、原告会社は、中間申告及び確定申告において課税標準の計算の基礎となるべき事実を隠ぺい又は仮装して、その事実に基づいて申告書を提出していたのであるが修正確定申告においても、課税標準の計算の基礎となる同会社の昭和二六年一一月三〇日(本件事業年度末)現在の貸借対照表中、


(a)売掛金一七二、九八〇円を九七、六一〇円に過少計上し、


(b)前渡金八七三、三四〇円、


(c)未収利息金三〇、〇五〇円、


(d)普通預金七〇〇、九九九円をいずれも計上せず、


(e)当座預金八一八、九六三円を七八六、二五〇円に過少計上して修正申告書を提出しており、



 右は原告会社が、当初より資産の隠ぺい又は租税逋脱の意図を有し、完全なる二重帳簿を作成し、表帳簿により中間申告及び確定申告をしていたこと、又原始証憑書類は取引の都度これを処分して、課税庁の調査を著しく困難ならしめ、なお銀行預金又は他店との取引には仮装名義を用いてこれを隠ぺいする等している事実


 例えば、前記


(d)前渡金八七三、三四〇円については、原告会社は、株式会社青木商店との取引において大阪鋼球株式会社又はサクラ商会なる仮装名義を用い、サクラ商会の名義で右八七三、三四〇円の前渡金を有していたのにかかわらず、これを資産として計上せず、


前記(b)普通預金については、大阪銀行布施支店に安田源十郎名義で二〇〇、〇九六円、安田肇名義で五〇〇、九〇三円の普通預金を有していたにもかかわらず、いずれもこれを資産として計上せず、


(e)当座預金については、同銀行同支店に光川義夫名義で当座預金八一八、九六三円を有していたのにかかわらず、これを七八六、二五〇円として過少に計上していること等からみて、



 原告会社は課税標準の計算の基礎となるべき事実を隠ぺい又は仮装してこれに基づいて修正申告書を提出したものというべきである。




 よつて被告は、法第四三条の二第一項に基づき、




(イ) 法第二〇条の規定による中間申告書提出に係る分につき、過少申告加算税額に代え、右税額計算の基礎となるべき法第三三条第一項の追徴税額即ち中間申告に因る法人税額四二、五六〇円と中間申告に対する更正に因る法人税額五三六、一三〇円との差額四九三、〇〇〇円(但し一〇、〇〇〇円未満切捨)の五〇%に相当する二四六、五〇〇円を重加算税額として徴収することとし、



(ロ) 法第二一条第一項の規定による確定申告書提出に係る分につき、第一次更正においては重加算税額を賦課せずに、右更正に係る法人税額一二六、三八〇円を確定申告したと同様に取扱い(この点原告会社に有利な取扱をした)これを基準として重加算税を算定し、



1 まず修正申告により申告済の部分につき過少申告加算税額計算の基礎となるべき、法第二六条の二第二項の規定により納付すべき法人税額即ち確定申告に因る法人税額一二六、三八〇円と修正申告に因る法人税額一、〇八八、〇四五円との差額九六一、〇〇〇円(但し一、〇〇〇円未満切捨)の五〇%に相当する四八〇、五〇〇円と、



2 つぎに、修正申告にも洩れている部分について過少申告加算税額計算の基礎となるべき法第三三条第一項の追徴税額即ち第二次更正に因る法人税額一、七一四、六五〇円から修正申告に係る法人税額一、〇八八、〇四五円と中間申告に対する更正に因り追徴すべき法人税額四九三、五七〇円とを控除した残額一三三、〇〇〇円(但し一、〇〇〇円未満切捨)の五〇%に相当する六六、五〇〇円との合計五四七、〇〇〇円を確定申告分に対する重加算税額として徴収することとしたのである。





 なお本件において原告が隠ぺい又は仮装により除外した所得金額は前記により明かな通り更正所得金額の四割を遥かに超過するものであるから、この点において既に原告主張の通達違反の問題はないのであるが、右通達は国税庁長官が下級行政庁たる課税庁に徴税の方針を指示したに止まり、それ自体法的拘束力を有するものではない。しかも右通達に掲げる事項は例示にすぎずその末尾には「但し特に悪質と認められるときは、この限りではない」とし原告主張の計算が該当する場合にも、重加算税額を徴収し得る余地を認めているのである。