隠ぺい又は仮装(39)

 

 

 

 

 引き続き原告の主張を検討します。

 

 

 

 

 

 

被告の答弁に対する主張

 

 

 

 被告は、修正申告においてもなお且原告会社が課税標準の計算の基礎となるべき事実を隠ぺい又は仮装していると主張するが、右修正申告と更正との間に、その所得金額に差額が生じたのは、修正申告において、原告会社が所得金額計算の基礎となつた昭和二六年一一月三〇日(本件事業年度末)現在の貸借対照表中、左記項目につき見落しがあつたためであり、決して右事実を隠ぺい又は仮装したものではない。

すなわち

 

 

(a) 売掛金の差額七五、三七〇円は、修正申告書提出後大阪国税局調査の際、名古屋大成商会より同商会に対する原告会社の売掛数量及び金額の証明書の取寄をした結果原告会社の帳簿に記入洩れしていたことが判明したものであり、

 

 

(b) 前渡金八七三、三四〇円を計上しなかつたのは、

 

 昭和二六年一一月二〇日頃原告会社より大阪市の青木商店に銑材買付代金として前渡した一、〇〇〇、〇〇〇円につき、本件事業年度末たる同年一一月三〇日現在においては一二六、六六〇円分のみ納品され残額八七三、三四〇円は前渡金として存在していたのであるが、

 

 残額分も同年一二月一〇日頃迄に完納されたので、右前渡金の決算が両事業年度にまたがつていたことと、それから約九カ月を経た修正申告書提出時には右前渡金は全然消滅していたため、右前渡金残額が存在していた事実を見落したにすぎず、

 

 

(c) 未収利息金三〇、〇五〇円を計上しなかつたのは、津田義光に対する原告会社の仮払金につき、その利息を計算してこれを利益金に計上すべきことを、大阪国税局の調査の際係官より命ぜられるまで原告会社としては全然考えなかつたためであつて、しかも右計算は被告の認定によるものであり、

 

 

(d) 普通預金七〇〇、九九九円を計上しなかつたのは、修正申告書提出当時既に解約済であり、預金残額も存在していなかつたために、忘却見落したものであり、

 

 

(e) 当座預金につき、三二、七一三円を過少計上したのは、大阪国税局の調査の際銀行より帳簿の写を取寄せて厳密な調査をすることになり、これを取寄せた結果、本件事業年度末たる昭和二六年一一月三〇日現在においては、原告会社振出の小切手が一、二枚現実に取立に廻つていないものがあることが判明したために計算上右の誤差が生じたにすぎない。

 

 

 つぎに、被告は、修正申告書の提出が更正のあるべきことを予知してなされたということは、納税義務者が申告をそのまま放置すれば将来課税庁に隠ぺい又は仮装の事実を発見されて更正されるであろうということを予見して修正申告書を提出することをいうのであつて純然たる納税義務者の主観に係る問題であると主張するけれども、

 

 これは、例へば修正申告書が

 

1当該法人の備えつけ帳簿書類等について政府が現実且具体的な調査を開始した後に提出された場合とか、

 

2当該法人の調査の必要上その法人の取引先についてこれを調査した結果当該法人の所得金額の計算について不正の事実があることを発見されたことを知つて提出された場合等のように、当該法人に対して実際調査に着手された後客観的に更正が必至であることを予見して提出された場合を指すものであつて、

 

 単に他の同業者に対して調査が行われたことを新聞、ラジオ等で知つたとか或いは又当該法人に対して秘かに内偵が行われていたというような課税庁の一方的隠密行動がとられた場合にも適用することは不当な拡張解釈であり、前記国税庁長官の通達の趣旨にも反する。