隠ぺい又は仮装(38)

 

 

 

 

 本日からは、大阪地方裁判所 昭和29年12月24日判決 税務訴訟資料16号490頁 について検討します。

 

 

 

 

 

請求の原因

 

 

(一) 原告会社は、昭和二五年一二月二七日設立した鋼球(パチンコ球)等の製造販売事業を営む法人であるが、

 

同日から翌二六年一一月三〇日までの事業年度分法人税に関し昭和二六年七月二〇日所得金額を一二一、六〇〇円、法人税額を四二、五六〇円とする中間申告書、

 

翌二七年一月三一日所得金額を三三五、〇〇〇円、法人税額を一一七、二五〇円とする確定申告書をそれぞれ被告に提出したところ、

 

被告は、右確定申告に対し同年三月二五日所得金額を三六一、一〇〇円、法人税額を一二六、三八〇円と更正したが、

 

(以下これを第一次更正とよぶ)その後原告会社は、

 

同年九月二日所得金額を三、一〇八、七〇〇円、法人税額を一、〇八八、〇四五円として修正確定申告したのに対し、

 

なお被告は、同年一一月三〇日付決定を以て右中間申告分に対し、

 

所得金額一、五三七、八〇〇円、法人税額五三六、一三〇円、重加算税額二四六、五〇〇円、

 

確定申告分に対し、所得金額四、八九九、〇〇〇円、法人税額一、七一四、六五〇円、重加算税額五四七、〇〇〇円とする更正(以下これを第二次更正とよぶ)をした。

 

 そこで原告会社はこれを不服として昭和二八年一月九日大阪国税局長に審査の請求をしたが、同年五月二七日付でこれを棄却せられた。

 

 

 

 

 

(二) しかし、被告の右各重加算税額賦課処分は、つぎの理由により違法であるから取消さるべきである。すなわち

 

 

(イ) 被告は右第二次更正において修正申告の所得金額に対し全面的に重加算税を賦課しているが、右更正は修正申告書提出後大阪国税局が原告会社を調査した結果なされたのであり、

 

右修正申告は、原告会社が右調査に着手せられる前に、従前申告の所得金額に誤りがあることを発見し、一切を是正するためにみずから進んで誠意をもつてしたものであつて、

 

 原告会社についての政府の調査に因り更正があるべきことを予知していたものでないことは勿論、

 

 全然その更正を予想せず自発的にこれを申告したものであるから右修正申告の所得金額に対し全面的に重加算税額を賦課することは、根拠のないことであり、また修理にも反し違法である。

 

 

 このことは、修正申告制度の立法目的ないし立法精神に照してみても、自発的にみずから進んでする修正申告は、これを歓迎或いは賞揚すべきであつて、

 

 その誠意をくんで刑一等も二等も減ずる処置をとることが、課税のうえに公正妥当なものと考える、

 

 また法人税法(昭和二八年法律第一七四号による改正前、以下単に法とよぶ)には、重加算税額に関する法第四三条の二のほかに過少申告加算税額に関する法第四三条が存するのであつて、右両規定を比較対照すれば、右に述べたような修正申告があつた場合は、運用上、重加算税額を賦課すべきでないこと明かである。

 

 

(ロ) また、法第四三条の二第一項によれば、「過少申告加算税額計算の基礎となるべき第三三条第一項の追徴税額………に百分の五十の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税額を徴収する」と規定され、右にいう追徴税額とは、修正申告に因る法人税額と更正に因る法人税額との差額を指すのであるから、修正申告による法人税額は右にいう追徴税額に当らない。従つて修正申告の所得金額に対し全面的に重加算税額を賦課した前記処分は、右法律の解釈を誤つて適用したものであつて違法である。

 

 

(ハ) また、被告は、右更正において、修正申告に因る法人税額と更正に因る法人額との差額につき重加算税額を賦課しているが、上述の通り右修正申告は、自発的誠意に基いてしたもので、当時において原告会社には故意に事実を隠ぺいし又は仮装する等の気持は全然なかつたものであつて、

 

 

 修正申告の所得金額と第二次更正の所得金額との差額の基礎となる資産は、修正申告当時においては既に不存在となつていたため期間計算を単に誤つただけであり、またそれらの資産は経過的資産にすぎなかつたため見落したに過ぎないのであるから、これらにつき重加算税額を賦課した前記処分は違法である。

 

 

 

 

(ニ) また、右修正申告書は、上述の通り原告会社についての政府の調査に因り更正があるべきことを予知して提出したものでないから、法第四三条の二第三項により「修正申告書の提出に因り第二六条の二の規定により納付すべき法人税額に係る重加算税額」はこれを徴収すべきでない。

 

 に右税額に係る重加算税額を賦課した前記処分は違法である。

 

(ホ) 仮に以上の主張が容認されないとしても、昭和二六年三月三一日国税庁長官より各国税局長苑「法人税の過少申告加算税等の取扱に関する件」と題する通達によれば、法第四三条の二第一項に該当する場合において課税標準の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいし又は仮装してその隠ぺい又は仮装して除外した金額が更正又は決定に係る所得金額若しくは修正申告書に記載した所得金額に対して四割未満であるときは、重加算税額を徴収せずに過少申告加算税額を徴収すべきものとする旨示達されている。本件の場合(A)更正による所得金額四、八九九、〇〇〇円、(B)修正申告に因る所得金額三、一〇八、七〇〇円、(C)差額一、七九〇、三〇〇円であり、仮に(C)が隠ぺい又は仮装に基く除外金であるとしても、(C)は(A)に対し四割未満であるから、右差額に係る重加算税額賦課処分は違法である。

 

 

以上いずれの理由からしても、被告の前記重加算税額賦課処分は違法であつて取消さるべきである。