隠ぺい又は仮装(36)

 

 

 

 大阪高等裁判所(控訴審)で、判決がひっくり返りました。 平成 5年 4月27日判決 、 税務訴訟資料195号169頁

 

 

 

 

 

 

 

裁判所の判断

 

(一) 重加算税は、納税者が隠ぺい、仮装という重大な不正手段を用いた場合に、これに特別に重い負担を課することによって隠ぺい、仮装したところに基づく過少申告等による納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度の信用又は源泉徴収制度を維持し、徴税の実を挙げる趣旨にでた行政上の秩序罰であり、故意に納税義務違反を犯した者に対する制裁ではない。

 

(二) 重加算税を課すためには、納税者が故意に課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺい、仮装し、右行為に基づいて過少申告の結果が発生することが必要であり、事実としての隠ぺい、仮装行為と過少の納税申告書の提出行為とは別々であることが必要であるとともに、隠ぺい、仮装行為と過少申告行為が存在しているだけで重加算税の要件を充足するものではなく、右両者の間に因果関係が存在することが必要である。

 

 被控訴人は、正しい総所得金額と申告者の申告額との間の比較が極めて大きく、「詐欺その他不正行為」に該当して処罰されるほど可罰的違法性の大なるものであれば、「ことさら過少申告」の行為として、隠ぺい、仮装行為に該当すると主張する。

 

 しかし、いわゆる「つまみ申告」の中でも、正しい総所得金額と申告者の申告額との較差がどの程度に大きい場合に可罰的違法性が大となるのかの基準は明らかではなく

 

 また、重加算税賦課の主観的要件としては申告に際し、納税者において過少申告を行うことの認識を有していることは不要であり、

 

 申告書が錯誤等による書き誤りによって右較差が大きくなる場合もあり得るから、右較差のみによって「ことさらの過少申告」の行為に該当するということはできず、

 

 その他に申告者の過少申告に至った経緯等の事情を総合判断して、その該当性を判断すべきである。  

 

 

 以上のように解さないと、過少申告加算税に加えて重加算税の制度を設けている趣旨が不明確になり、また、後者は、前者の額の基礎となるべき税額(申告不足税額等)に対し三五パーセント(本件各係争年度当時は、三〇パーセント)相当額という重い負担を課しているのであるから、その賦課要件も明確でなければならない。

 

 

 

 

 亡勝男の過少申告行為と加重事由

 

 

1 前記一のとおり、亡勝男が、原判決添付別表甲1記載の本件各係争年度の期限内確定申告書を提出し、さらに同表記載の各修正申告書を提出したことは当事者間に争いがないが、証拠(甲一〇、一一号証、一四ないし一八号証、二一、二二号証、二七ないし三一号証、乙七ないし一〇号証、一一、一二号証の各一ないし一四、一三号証の一ないし五、一七ないし二三号証、二四ないし二六号証、原審証人紀平泰久、当審証人張成道、弁論の全趣旨)を総合すると、次の各事実を認めることができる。

 

 

 

(一) 亡勝男は、本件各係争年度の営業につき正常な会計帳簿類を作成記載しており、その収益・資産を帳簿から除外したり、経費・負債を過大に計上したりすることはなく、取引記録、各期間の貸付金・利息の入手金を集計した記録はそろっていた。

 

 

(二) 被控訴人の職員は、昭和五六年六、七月ころ亡勝男方を訪れ、税務調査をした。亡勝男の担当者であった紀平泰久は、亡勝男の事業内容・規模につき質問し、亡勝男らは、右職員の調査にごく普通に協力した。

 

 

(三) 亡勝男は、被控訴人に対し、昭和五六年六、七月ころ資料(乙九、一〇号証、一一、一二号証の各一ないし一四、一三号証の一ないし五、以下「本件資料」という。)を提出した。

 

 

(四) 紀平泰久は、本件資料に基づき、亡勝男の収入・支出を検討したが、その収入については、貸付残高に対する利息収入の割合が妥当であると判断し、経費については、減価償却等に誤りがあると判断した。そして、被控訴人は、本件資料について反面調査をしたことはなく、亡勝男は、被控訴人がしょうようした金額に基づいて修正申告をした。

 

 

(五) 亡勝男のした昭和五三年分の確定申告、修正申告(昭和五四年六月一八日付)及び修正申告(昭和五六年七月七日付)の各総所得金額は相互に約二〇〇〇万円以上の差があり、昭和五四年分・同五五年分の各確定申告、修正申告(昭和五六年六月二三日付)及び修正申告(昭和五六年七月七日付)相互間についても同様である。

 

 

(六) 本件資料は、昭和五四年及び同五五年分の営業に関するものであり、昭和五三年分の資料が全くなく、また、本件資料中には、昭和五四年分の利息収入金額を記載した資料が欠けている。

 

 また、本件資料によると昭和五五年分の所得金額は、二億九三〇〇万〇〇一五円となり、

 

 右金額は、控訴人の昭和五六年六月二三日の修正申告における所得金額一億五七五五万四〇〇〇円

 

 及び同年七月七日の修正申告における所得金額一億八六二二万五〇〇〇円

 

 とは直接の関連性がない(ただし、資産取得のための支出、経費の一部は、本件資料の扱いどおりとして計算する。)。

 

 

(七) 亡勝男は、所得税法違反事件で起訴され,国税局査察部は、亡勝男の会計帳簿類のすべてを押収し、さらに検察庁でこれらを検討し、亡勝男の取調べも行った。その後、右帳簿類は、亡勝男に還付され、亡勝男はこれを廃棄した。

 

 

2 過少申告があっても、これだけでは重加算税賦課の要件を充足しないことは前記二のとおりである。

 

 

 そして、右1の認定事実によれば、亡勝男は、正常な会計帳簿を作成しており、亡勝男が会計帳簿類を破棄したのは、被控訴人側において亡勝男の本件各係争年度の収入・支出の数額を把握したと亡勝男が推測できた後である。

 

 

 その他、右1認定の事実に後記3の指摘の点を併せ考慮すると、亡勝男が、

 

 各確定申告及び各修正申告において過少な総所得金額(事業所得の金額)を申告した行為がことさらな過少申告であるということもできない。

 

 さらに右過少な申告が、隠ぺい、仮装の行為による不正な経理に基づくものと認めるに足りる証拠もない。 

 

 

3 昭和五六、七月ころ亡勝男が提出した本件資料等について

 

 

(一) 前記1(四)のとおり、亡勝男は本件資料を提出したが、証拠(乙九、一〇号証、一一、一二号証の各一ないし一四、一三号証の一ないし五、弁論の全趣旨)によれば、利息収入明細書に過少の金額が記載され、また、事実よりも少ない店舗数が記載されていたことが認められる。(しかし、亡勝男が昭和五六年六、七月ころの税務調査時に、虚偽の陳述をしたことを認めるに足りる証拠はない。)

 

 

(二) 修正申告(昭和五六年七月七日付)が本件資料に基づいてなされた場合、本件資料は、虚偽の内容が含まれる文書であるから、国税通則法六八条一項の「納税申告書」に右修正申告書も含まれると解すると、重加算税の賦課要件が充足される可能性はある。

 

 

(三) 前記1(六)のとおり、本件資料と右修正申告書の記載内容とは直接の関連性はなく、また、前記1(四)(五)のとおり、紀平泰久の記憶では、収入については本件資料上の亡勝男の計算を妥当と判断していたにもかかわらず、各年度の確定申告書、各修正申告書の間には相互に二〇〇〇万円以上の金額の差があり、本件資料に基づいて提出したのが右各修正申告書のうちのいずれであるかは不明である。

 

 

 右各修正申告書のいずれかの総所得額が本件資料に記載の総所得金額と一致する必然性はないが、紀平泰久による検討の結果、本件資料の収入、支出の扱いに不相当な点があれば、これを除外すあるいは加算した金額と右各申告書のいずれかの総所得額とがつながりがあるはずであり、また、前記1(四)のとおり被控訴人が亡勝男に修正申告を求めた金額がどのような計算過程を経て算出されたのか、右各点について被控訴人からの主張立証はなく、結局、本件資料に真実に反する記載があるとしても、亡勝男がこれに基づいて修正申告書を提出したということはできない。

 右の理由から本件資料の提出は、重加算税の賦課要件を充たすことにはならない。

 

 

 

(四) また、重加算税の納税義務の成立時期は、法定申告期限の経過の時である(国税通則法一五条二項一五)から、隠ぺい、仮装行為は、この期限が到来する前の行為だけが加算税の対象になるのが原則である(修正申告書の提出が法律で義務付けられている場合のみ、右期限後の隠ぺい、仮装行為も重加算税賦課の要件を充たすことになると解する。)。したがって、隠ぺい、仮装行為の存否は、確定申告書提出時を中心に判断すべきであって、右期限後の隠ぺい、仮装行為は、法定申告時における隠ぺい、仮装行為の在否を推認させる一間接事実となりうるにすぎない。

 

 

 そして、前記(一)に認定事実に関し、本件各係争年度の確定申告時に、具体的な隠ぺい、仮装行為が存在し、これに基づいて右確定申告がなされたことの主張立証はなく、右認定事実は、右各時点における具体的な隠ぺい、仮装行為の存在を認める間接事実ともならない。

 

 右の理由からも本件資料の提出は、重加算税の賦課要件を充たすことにはならない。

 

 

4 被控訴人の主張2(四)のうち、重加算税及び過少申告加算税の計算の基礎となる税額の計算が原判決添付別表乙1ないし8のとおりであり、これが正確であることは計数上明らかであり、控訴人もこれを争ってはいない。

 

 

 

 

 

 

 以上によれば、控訴人の請求は過少申告加算税相当分を超える部分につき理由があるから、主文のとおり判決する。