隠ぺい又は仮装(35)

 

 

 

 

 裁判所の判断を検討します。

 

 

 

 

 

 

 

 

まず、重加算税と過少申告加算税の関係を検討する。

 

 

(一) 国税通則法六五条の過少申告加算税と国税通則法六八条一項重加算税は、いずれも、申告納税方式による国税について過少な申告を行なった納税者に対する行政上の制裁として賦課されるものである。したがって、同一の期限内申告とこれに対する修正申告又は更正にかかるものである限り、両者は、その賦課及び税額の計算の基礎を同じくする。ただ、重加算税は、過少申告加算税の賦課要件に該当することに加えて、当該納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書(期限内申告書を指すー同法六五条一項、六八条一項)を提出するという不正手段を用いたとの特別な事由が存在することが必要である。この場合に、当該基礎となる税額に対し、過少申告加算税におけるよりも重い一定比率を乗じて得られる金額の制裁を課すことにしたのが重加算税である。要するに、重加算税の賦課要件は、過少申告加算税の賦課要件の他に、右の加重事由としての特別の事由があることが必要である(最判昭和五八・一〇・二七民集三七巻八号一一九六頁参照)。

 

 

(二) 重加算税の加重事由

 重加算税の加重事由として、同法六八条一項は、「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していた」と規定する。ここにいう「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実」は、各税法の申告規定との対比によって明らかにされる。所得税に関しては、所得税法二二条、一二〇条一項にいう課税標準である総所得金額、退職金額及び山林所得金額の計算の基礎となった各種所得の金額、所得控除額並びに税額控除額等、同法二一条所定の所得税額の計算の基礎となる事実を指す(同法一二〇条一項五号、九号、一一号参照)。

 

 これに対し、原告は、その反論三2(一)(1)において、右条項にいう「税額等の計算の基礎となるべき事実」とは、同条項の沿革から、税額控除項目のみを指す、と主張する。

 

 なるほど、同条項は、前示旧法人税法四三条の二等の各税法に個別に規定された重加算税を統合して規定された、という沿革はある。しかし、旧法とは文言を異にする。

 

 しかも、前示のとおり、その性質を過少申告加算税とは別個の独立処分とはせず、これに加重事由がある場合の同一処分であるとしている。国税通則法六八条一項は、このように従前の重加算税とは異質なものとした新規定である。だから、旧法と全く同一に解釈すべきではない。

 

 

 

訴外亡勝男の過少申告行為と加重事由

 

 

1 当事者間に争いがない請求原因一1の各事実、証人紀平泰久の証言、同証言によりいずれも真正な成立が認められる乙第九ないし第一三号証、いずれも成立に争いがない甲一六ないし第一八、乙第七、第八、第一七ないし第二三号証、及び弁論の全趣旨によれば、以下の各事実を認めることができ、この認定を覆すに足る証拠がない。

(一) 訴外亡勝男は、本件係争各年分の確定申告において、総所得金額の基礎となる営業所得金額を、故意に、順次、前年の過少申告額を基準にして、若干の率の増額をするという方法で計画的に計算して過少に記載した確定申告書を提出した(乙七ー特に問七の問答、及び同号証添付の各確定申告書)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(二) 訴外亡勝男による本件係争各年分の総所得金額に関する最終修正申告(昭和五三年分及び同五四年分は第三次修正申告、同五五年分は第四次修正申告)と他の納税申告相互間の較差は、次のとおりである。

 

 

(1) 昭和五三年分の較差

イ 本件確定申告 八億一、四二六万九、四六八円

ロ 第一次修正申告 八億〇、六一九万一、八八三円

ハ 第二次修正申告 七億七、六二五万四、八八三円

(2) 昭和五四年分の較差

イ 本件確定申告 九億八、四九三万六、七七一円

ロ 第一次修正申告 九億一、四九三万四、二四九円

ハ 第二次修正申告 八億八、五五七万八、二四九円

(3) 昭和五五年分の較差

イ 本件確定申告 一六億三、九四〇万八、〇二八円

ロ 第一次修正申告 一五億四、九四〇万八、〇二八円

ハ 第二次修正申告 一五億二、〇七三万七、〇二八円

ニ 第三次修正申告 一二億五、四〇七万〇、〇二八円

(4) 最終修正申告の確定申告に対する倍率

イ 昭和五三年分 約四〇倍

ロ 昭和五四年分 約三二倍

ハ 昭和五五年分 約二五倍

 

 

(三) 訴外亡勝男は、昭和五六年七月七日付け修正申告にかかる被告部下職員の税務調査において、同人から申告の基になる帳簿書類の提出を求められた。それにもかかわらず、昭和五四年分及び同五五年分の一三店舗の経費明細書、同五五年分の利息収入明細書のみを提出した。この他にも会計帳簿類があるのに、これを秘匿して提出しなかった。しかも、右利息収入明細書は、過少に記載されていた。

 

(四) 訴外亡勝男は、本件係争各年分の所得税について各確定申告書を提出したが、その後、以下のような経緯で修正申告を行なった。

 

(1) 被告の部下職員は、訴外亡勝男の昭和五三年分の所得税に関する税務調査を行ない、その結果、訴外亡勝男は同年分の第一次修正申告書を提出した。

 

(2) 被告の部下職員は、訴外亡勝男の本件係争各年分の所得税に関する税務調査を行ない、その結果、訴外亡勝男は本件係争各年分の各第二次修正申告書を提出した。

 

(3) 訴外亡勝男は、昭和五五年分の所得税について、所得税法違反の嫌疑により大阪国税局査察部の調査を受けた。その調査の着手の後、訴外亡勝男は、同年分の第三次修正申告書を提出した。

 

(4) 訴外亡勝男は、右査察部の調査に基づき、昭和五三年分及び同五四年分の各第三次修正申告書、同五五年分の第四次修正申告書を提出した。

 

 

 

 

(五) 訴外亡勝男は、昭和三八年ころから貸金業を営み始めた。同四〇年ころからは、ローンズマンセイ、ラッキーリース等の商号で支店網を拡充した。本件各納税申告書提出時には、全国各地に約二〇店舗(前示(三)の一三店舗より多い)を有するようになり、相当な経済活動を行なっていた。

 

 

 

 

 

 

2 原告は、訴外亡勝男が正常に会計帳簿を記録していたと主張しながら、右会計帳簿類を書証として提出せず、この点につき不自然な弁解をする。

 

 即ち、所得税法違反被告事件のいやな思い出を消すためすべて処分したと主張する。しかし、既に同被告事件が発覚して、その後重加算税の問題が生じることがたやすく予想できるのに、その証拠書類を廃棄するというのは不自然である。

 

 

 このことと、前認定1の各事実及び弁論の全趣旨を総合すれば、訴外亡勝男は、本件係争各年分の確定申告(期限内申告)にあたり、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき営業所得金額の一部を隠ぺいし、又はその計算の基礎事実である会計帳簿書類、営業店舗数等の営業規模の一部を隠ぺいし、これに基づき確定申告書(期限内申告書)を提出していたことを認めることができる。

 

 即ち、前認定1(一)の事実によれば、右営業所得金額の一部を隠ぺいして確定申告書を提出したことは明らかである。同(二)ないし(五)の各事実によると、訴外勝男は、計画的な意図の下に、総所得金額を過少にした本件各確定申告を行なったものであって、その後の最終修正申告との較差は極めて大きい。

 

 確定申告後の調査において会計帳簿類の一部を秘匿して提出せず、提出した利息収入明細書は、その収入の一部を隠ぺいし過少に記載されていた。

 

 以上の事実が認められる。これらの事実及び弁論の全趣旨を併せ考えると、訴外亡勝男は本件各確定申告書の提出前に会計帳簿書類等に工作を加える等して課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の一部を隠ぺいし、これに基づき過少な本件各確定申告書を提出した事実を推認することができる。他にこれを覆すに足る証拠がない。

 

 

 したがって、訴外亡勝男は、国税通則法六八条一項所定の「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき」本件各確定申告書を提出していたものというべきである。